毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
01-19 雷光銃
「ヒーローはね、みんなが望んだときに現れるんだよ」
――青い鎧の追っかけ――
六虎亭で依頼成功の報告をした後(なお追加報酬の件は意外にも一発OKをもらった)、モリィはヒョウエ宅の夕食に招かれていた。
普通使用人は給仕に徹するものだろうが、そう言う事を気にしないのかヒョウエとリーザに加えてサナも席に着いている。
(うめえ・・・!)
スープを一さじ口にしてうめく。
一見した限りでは特に贅沢な材料を使っているというわけでもなかったが、17年生きてきてこれよりおいしいスープを口にした記憶は――子供の頃ですら――無かった。
くすりとリーザが笑みを漏らす。
「ヒョウエくん食いしん坊ですから。魔術の兄弟子さんが料理上手で余計に口がおごっちゃって、サナ姉さん随分苦労したんですよ」
「何ですかリーザ。それじゃ僕がいやしんぼうの子供みたいじゃないですか」
ヒョウエがむっとして抗議するが、リーザはつんと含み笑いのすまし顔。
「あら、違ったの?」
「サナ姉の料理とてもおいしいです」
「よろしい」
俎上に上げられた当人は我関せずとばかりに完璧なマナーでスープを口に運んでいたが、その唇の端に笑みが浮かんでいるのをモリィは見逃さなかった。
食後。
片付けはサナとリーザに任せ、ヒョウエたちはテーブルでまったりしていた。
「なんだお前リーザに片付けやらせて自分はやらないのかよ。ダメ亭主だな」
にっひっひ、とモリィが笑う。ヒョウエがちょっと渋い顔になった。
「サナ姉もリーザも絶対ダメって言うんだからしょうがないでしょう。サナ姉もリーザの手伝いは認めるのに僕にはやらせないんだから・・・まったくもう」
「ふーん。そういやリーザは何で手伝ってるんだ? 使用人って訳じゃねえんだろ?」
「本人がやりたがってるんですよ。別にいいって言ってるんですけどね・・・そうだ! 前々から思ってたんですけど、その雷光銃ちょっとじっくり見せて貰えません?」
「・・・・」
きらきらした眼で聞いてくるヒョウエに即答を避ける。微妙にいやな予感がした。
とはいえ盗まれるわけでもなし、それで断るのもいささか気が引ける。
「・・・壊すなよ?」
「壊しませんよ失礼な」
手をワキワキさせる
新しいおもちゃを前にした子供のように、いやむしろそれ以外の何物でもない表情で、ヒョウエはうやうやしげにそれを受け取った。
「~♪」
「・・・・・・・・・・・」
楽しげに鼻歌を歌いながら雷光銃をいじり回すヒョウエ。モリィがそれを不安そうに見ているがヒョウエの手つきはどこか手慣れた玄人のもので、子供がおもちゃを振り回すという感じではない。
「・・・」
「・・・?」
やがて、ヒョウエの表情がだんだんと変わってくる。上機嫌だったのが無表情に。それが渋い顔になり、さらに明らかに不機嫌な顔に。
ついにはじろり、と睨んでくるその目にモリィが体をびくっと震わせた。
意外なほどに気圧される。そう長い付き合いでもないが、普段は常ににこやかな少年が直接負の感情をぶつけてきたのはモリィの記憶にある限り初めてだった。
椅子に座り直し、ヒョウエがモリィと正面から向き合う。
「さて、モリィ。僕は今結構怒ってます」
「あ、ああ」
そりゃ見ればわかるよ、などと茶々を入れる余裕もない。
「理由は判りますか?」
「いやわかんねえよ。何でいきなり怒ってるんだよ」
「・・・・・・・・」
自分を落ち着かせるように、ヒョウエが目を閉じて深呼吸をした。
開いた目がぎろり、と再びモリィを睨む。
「なら教えて上げますよ! 何ですかこの雷光銃は! 全然手入れをしてないじゃないですか! 貴重な遺失武器に申し訳ないとは思わないんですか!」
「そこかよ!?」
「そこですよ!」
モリィが反射的に返したツッコミを正面から切り捨てるヒョウエ。
(ダメだ、冗談も通じねぇ状態だこれ)
まあ確かに素人には整備なんてできないし頼める相手も・・・などとブツブツ言っていたヒョウエが、戦慄するモリィをじろりと睨んだ。
「一晩預けて下さい。明日の朝にはぴかぴかにして返してあげます。いいですね?」
「あ、はい」
もちろん、モリィに首肯する以外の選択肢は残されていなかった。
「ん・・・」
懐かしい夢を見ていた。
内容は思い出せないが、父がいて、母がいて、祖父がいた。
そんな暖かいゆめ。
カーテンの隙間から洩れる朝日とヒバリの鳴き声。
目を開いて、色あせてはいるが高級そうな壁紙と装飾の施された柱を見る。
そこでぼんやりと、ヒョウエの家に泊まったことを思い出した。
無意識に枕元の雷光銃に伸ばした手が空を切る。
そこで急速に目が覚めた。
「・・・」
少し迷った後、手早く服を身につけて部屋を出た。
「えーと、確かあいつの部屋は・・・」
昨日の記憶を引っ張り出して廊下を歩いていく。左翼二階の客間から、右翼二階のヒョウエの部屋へ。
夜が明けたばかりだしさすがにまだ起きてないかなと思いつつノックを三度。
「モリィですか? どうぞ」
「お、おう」
返事が返ってきたことに少し驚きつつ部屋に入る。
大きな机の上にうずたかく積まれていた本が消えており、その周囲の本がその分高くなっていた。ジャンルも積み方も雑な本の山脈は今にも崩れそうで、リーザが顔をしかめる様子が容易に想像できる。
「懲りねえやつだな・・・」
「え、なんです? ともかくちょうどもうすぐできるところですよ」
「!?」
モリィがぎょっとした。
机の上が綺麗に片付けられていて、モリィには使い方もわからないような様々な道具が並べられている。
そして彼女の雷光銃もバラバラにされて乱雑に並べられていた。
思わずうわずった声が喉から出る。
「おおおおおまえーっ!」
「ちょ、落ち着いて!? 修理してるんだからバラすくらいは普通でしょう!」
「・・・あー、うん、そうだよな。悪い」
努力してモリィが動揺を抑え込む。
比較的感情の振れ幅が広い彼女ではあったが、今のは少し極端だった。
(よほど大事なものなんでしょうね)
溜息をついて机の上の部品に手をかざす。
数個の部品がふわりと浮き、カチャカチャと音を立てて組み上がる。
組み上がった部品を回転させて検分。
それを繰り返して最後に残った9つのパーツが精密な動きで組み合わさり、雷光銃の形を取り戻した。ぱちんと音が響き、ヒョウエが手慣れた手つきで動作を確認する。
最後にグリップを握って魔力を充填。モリィがホッと息をつくのがわかった。
「はい、これで完璧・・・うわたっ!?」
「おわっ!?」
ガンスピン(拳銃のトリガーガードに指を突っ込んでくるくる回すあれだ)をやろうとして雷光銃がヒョウエの手からすっぽ抜けた。反射的に発動した念動の術で雷光銃は空中でぴたりと止まり、ヒョウエの手に戻る。
それをやや乱暴にモリィがひったくった。
「返せ、へたくそ! 慣れないことやってんじゃねえよ!」
「いやあ、いっぺんやってみたくなるもんでして・・・」
あはははと愛想笑いを浮かべるヒョウエ。
次の瞬間、その目が丸くなった。
クルクルと、ヒョウエの素人丸出しのそれとはまるで違う綺麗なガンスピン。
回転させながら胸元から頭の横に持ち上げて、そのまますとんと腰のホルスターに落とす。
「おおー」
思わずヒョウエが拍手する。
へへっ、とモリィが得意げに笑った。
「まあなんだな、人前で披露したきゃこれくらいはできるようになってからやるんだな」
「おっしゃるとおりで。しかしそんなのどこで身につけたんです?」
「・・・あーまあ、これくれた奴がやってるのを見てな」
「ふーん?」
首をかしげるヒョウエ。モリィがやや強引に話を変える。
「あー、そう言えばこんなに早くから起きてたけど、まさかお前寝てないのか?」
「それはもう! さすがに"真なる魔法の時代"の技術は素晴らしいですね!
いじらせてくれるなら後二日は食事も睡眠もトイレも必要ありませんよ!」
「いやトイレはいけよ!」
思わず突っ込んだモリィではあるが、徹夜明けのテンションで語り続けるヒョウエは気にも止めない。
「かなり使い込んでる感じですけど、その間ちゃんと整備してなかったみたいですね。
特にコンデンサーがへたってましたので素材から変性しておきました。新品同様ですよ」
「こん・・・なんだって?」
「雷光を蓄えるところです」
よくわからんという顔のモリィ。更なる詳細な説明を始めるヒョウエ。
「つまりですね電池とは魔力を貯めるところコンデンサーは魔力から変換した雷光を発射までの間蓄えるところです魔力コンバーターもそうなんですが歴代の持ち主がチャージ攻撃を多用していたようでかなり劣化を起こしてまして再精製と変性するのに随分苦労しましたよこれで威力が一割ほど上昇チャージ攻撃の際のチャージ速度がフルで一秒強は短縮できるはずです加えて各部のエネルギー伝達や整流化機構についても・・・」
「わかった! わかったから! もう説明はいいから!」
「いいえ、雷光銃を使うならこれくらいは理解が必要です! いいですかそもそも雷光銃の基本原理は共振によって魔力を励起させ雷光つまり魔力ビームとも言える状態に・・・」
モリィの制止を振り切り早口の説明は続く。自制というタガの外れたマニアのうんちくは、結局リーザが朝食に呼びに来るまで止まらなかった。
「勘弁してくれ・・・」