毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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06-33 鉄腕の黒騎士

「っ!」

 

 力場の剣(フォースソード)で右腕を落とした『番人(ワーデン)』を仕留め、三体目に飛びかかろうとしたところでサフィアは咄嗟に回避機動を取る。

 直後、首筋をかすめて光線が飛来した。

 

「なんとぉーっ!」

 

 連続して照射される魔力光を舞うように回避していく。

 数発が「銀の翼」の力場障壁にかすって火花を上げた。

 

 光線の連射がやむ。

 きっ、と空中を睨むサフィアの視線の先、黒い魔導甲冑をまとったレスタラの兵士がいた。

 両肩と両足に特徴的な盛り上がりがあり、背中に二つ並んだ流線型の筒から火を吐き出して空中に浮かんでいる。

 レスタラ側でも貴重な飛行型魔導甲冑と光線型魔導兵装を装備していることからしても、レスタラの中でも上位に位置する強者と知れる。

 

「・・・」

「・・・」

 

 僅かな時間、空中でにらみ合う。

 沈黙を破ったのはレスタラ兵の方だった。

 

「白百合の騎士だったか、まずは見事と褒めておこう」

 

 意外に歳のいった声であった。

 恐らく老人と言っていい年齢だろう。

 

(・・・? どこかで・・・)

 

 既視感を覚えて眉を寄せるサフィアをよそに、老兵士は言葉を続ける。

 

「我は復古軍(レスタウラツィオン)随一の勇者、ローター・フォン・ベルヒリンゲン! 人呼んで《鉄人》ローター!」

「・・・あっ!」

 

 サフィアが目を見開いた。

 歳を取ってはいるがこの声、そして両腕と両足の奇妙な盛り上がりに覚えがあった。

 トラル・シティ郊外で"白の翼"たちが超長距離砲ノイエ・ヨルカーを破壊したとき、ジェットの前に立ちふさがった機械化兵士。

 金等級冒険者である彼を苦もなく捉え、地面に叩き付けた男。

 両手両足を古代の魔導義肢に置き換えた超人騎士だ。

 

「貴殿に恨みはないが、これも理想社会建設のため! わしのケツを舐めろ、小娘!」

「下品っ!」

 

 《鉄人》ローターが2m近い大剣を抜き、斬りかかってくる。その刀身にはサフィアと同じ力場障壁。

 僅かに頬を染めつつ、サフィアも応じる。

 力場の刃がぶつかり合い、耳障りな音を立てた。

 

 

 

 壮絶な戦いは続く。

 魔導兵器の撃ち合いに加えて、巨人兵器とディテクトップクラスの冒険者たちが投入された戦場はますます混沌の度合いを深めていた。

 

「くそっ! たかが小娘一人が! あいつのせいで勢いを止められた!」

「うろたえるんじゃあないっ! 復古軍はうろたえないっ! あんなものは一時的な狂奔に過ぎん!

 それに今ローター様があの小娘を倒し、突破口をこじ開けてくれるっ!」

 

 自らに言い聞かせるようにレスタラ兵達が叫ぶ。

 その上空では、余人の届かない剣戟が繰り広げられていた。

 

 銀の翼を広げた白百合の騎士、サフィア。

 背中から炎を吐く、黒き鉄人ローター。

 

「やるな小娘! 本当に緑等級か、おまえは!? 昔やり合った金等級と比べても見劣りせんぞ! いや、むしろあの小僧より上か!」

「ギルドの、審査は、中々厳しくって、ね!」

 

 巨大な大剣を指揮棒か何かのように振り回すローター。

 速度と技量ではサフィアも負けていないが、パワーが、そして質量が圧倒的に違う。

 互いに力場の刃、そしていくらしなやかで頑丈な魔法強化剣と言えども針のような細剣(レイピア)に過ぎない。

 正面から当たれば、無惨に折れる事は必定。

 

 本来なら勝負にもならない。

 レイピアは軽すぎてグレートソードの一撃を受け止められない。

 グレートソードは重すぎてレイピアの攻撃を防げない。

 だがサフィアにはレイピアでグレートソードをさばくだけの超人的技量があり。

 ローターにはグレートソードでレイピアについていけるだけの速度があった。

 

 本来あり得ないはずの疾風の速剣と鉄塊の剛剣の剣戟。

 それが今、この場に限っては成立している。

 

 閃光の如き連続刺突。更にそこからの斬撃。

 最小限の無駄のない動きと、巨大武器とは思えない速度がそれを防ぎ止める。

 反撃の一太刀が振るわれる前に、銀の翼が間合いをとった。

 

 山をも断ち割る剛剣の一撃。

 細剣がその刀身にそっと添えられ、必要最小限、攻撃を避けるのに十分なだけ軌道を逸らす。

 だが間髪をおかず、黒騎士は下から切り返した。

 重力を無視して跳ね上がるそれは、脇の下からサフィアの体を切り裂かんばかりだったが、今度はローターの方が間合いを外す。

 

「ちっ、油断も隙もない」

「そっちこそ」

 

 レイピアを胸元に引き付けて刺突の構えで笑うサフィア。ローターの声にも笑いの気配がある。

 あの一瞬、サフィアはカウンターの突き返し(リポスト)を狙っていた。

 ローターが斬撃を止めていなければ、綺麗に決まっていただろう。

 剣戟は、互角。

 

「やむをえんな。こうなれば本気を出すしかあるまい」

「ハッタリをかましてくれるじゃないか。ボクの"学者(スカラー)"はキミの使ってるタイプの義肢の性能は現状がほぼ上限だと言ってるぜ」

「ほほう」

 

 感心したようなローターの声。

 

「その剣技にしてその知識、大したものよ。

 だが自分の知識だけで決めつけるのは若い者の悪い癖だ。復古軍(レスタウラツィオン)の技術陣は古代遺産の更なる力を引き出す業をものにしておる――このようになっ!」

 

 その瞬間、魔導甲冑――その様に見える古代遺物の魔導義肢――の両腕と両足の部分が大きく膨らみ、余剰魔力を肩と太ももから噴出させる。

 展開した装甲の隙間から、みなぎる魔力が流れる様が見えた。

 

「え、ちょっと、待って」

「待てんな」

 

 にやり、と笑う気配。

 同時に速度の倍加した剛剣がサフィアに襲いかかって来た。

 

 

 

 そこからは防戦一方になった。

 レイピアと同じ速度で振るわれるグレートソードを必死に、ひたすらにさばき、回避する。

 剣の帯びる力場がぶつかり合い、火花を散らす。

 銀の翼の帯びる力場障壁に何度も斬撃がかすった。

 サフィアの体にも。

 

 体と、銀の翼に少しずつ傷が増えていく。

 血しぶきが何度も舞った。

 落ちてくる血に、両軍の兵士達が上空を見上げる。

 

「白百合の騎士!」

「サフィア・ヴァーサイル!」

 

 悲鳴のような兵の声が響く中、ローターが間合いをとって大きく息をついた。

 その声に感嘆の色がある。

 

「これでも倒れぬか。その技量、意志力・・・見事なものよ」

「・・・褒めて貰ってなんだけど、ボクの意志力なんかそんなに大したものじゃないさ」

「ほう。では、その今にも倒れそうな体を支えているのはなんだ? 並の人間なら疲労と失血で気絶していてもおかしくなかろうに」

 

 フッ、とサフィアが血まみれの顔に気負いのない笑みを浮かべる。

 

「大した事じゃない・・・本当に大した事じゃないんだ。ただ・・・」

「白百合の騎士!」

「倒れるな!」

「がんばってくれ!」

 

 いつの間にか戦場全体から聞こえる応援の声。

 その声を背に笑みを大きくする。

 

「声援が有る限り・・・見ている人がいる限り・・・ボクは絶対に倒れる訳にはいかない。それだけなのさ。本当に」

「なるほど。それがヒーローであると言うことか」

「さあね。案外口だけかも知れないよ?」

 

 笑みをいたずらっぽいものに変えるサフィアに、ローターはあくまで真剣な声で頷く。

 

「謙遜する事はない。その強さ、称賛に値する。紛れもなく貴殿は敬意を払うべき強敵よ」

「そりゃどうも。悪党に言われてもいまいち嬉しくはないけどね」

「それは残念。最大級の賛辞だったのだがな。だがそういう事であれば――」

 

 黒騎士ローターが大剣を顔の前に立てて構える。

 サフィアもまた、レイピアを顔の前に立てて構える。

 尊敬すべき敵に対する礼のしるし。

 

「――剣で語るとしよう!」

「来いっ!」

 

 再び剣戟が始まった。




知ってる人も多いでしょうが、フォン・ベルヒリンゲンの元ネタは義手の騎士、盗賊騎士として有名な「鉄腕ゲッツ」ことゴトフリート・フォン・ベルヒリンゲンです。
ベルセルクのガッツのモデルでもあるのでそっちで知ってる人もいるかも。
モーツァルトが作曲し、小林源文先生の黒騎士で有名な「俺のケツを舐めろ」というセリフも、元ネタはこの人の自伝だったりします。

名前のローターはドイツの殿堂入りサッカー選手ローター・マテウスから。
この人は義手ではありませんけど、「鉄人」「戦車」などのニックネームを奉られてるあたり、まあ割とキャラは近い気がしますw
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