毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「第二陣地を放棄! 第三まで後退しろ!」
「これで最後の陣地ね」
「敵の衝力――突破力はほぼ消失しております。このままなら粘り勝ちが狙えるでしょう。正規軍の援軍も間もなく参ります」
離宮内の指揮所。"
「そうね。王族と国賓の方々もほぼ脱出は終了しているし」
「はい。現状では我々の戦術的勝利は既に確定したと言えるでしょう・・・何か気になる事でも?」
扇をぱちりと閉じてカレンが溜息をつく。
「そうね。そのはずなんだけど・・・何か気になるのよね。あなたはそう言う何かを感じない?」
「・・・」
無言の"狩人"。その沈黙が言葉よりも雄弁に彼の内心を語っていた。
広く薄暗い室内。
玉座に座るのは
その姿は、先ほどサフィアと殴り合っていたそれと寸分たがわない。
「戦況はどうか」
「はっ。展開しておりました敵魔導砲戦力は半減、具現化強化術式部隊も同じく。
アイズナー離宮前の陸橋の陣地も三つのうち二つまでは抜きましたが・・・」
「残りの一つが落とせずに膠着状態、か」
「御意。当方も向こう側と同程度の損害をこうむっており、『
我が方の衝力は既に消失したと言っていいでしょう。
このまま消耗戦に持ち込めば恐らくは勝てるでしょうが・・・」
「向こうに増援が来なければな」
「仰せの通りです」
髑髏王の言葉に参謀が頷いた。
「王族と外交会談の出席者は?」
「『予定通り』地下から脱出した模様です」
カレンと"狩人"が聞けば顔をこわばらせそうな報告をさらりと流す。
「よし、それでは『あれ』を発動させる」
「はっ」
「出来ればあれは温存しておきたかったが・・・最終段階発動、急げ。何としても離宮を確保する。ここからは時間との勝負だ!」
「了解しました!」
参謀が通信オペレーターに何事かを指示する。
髑髏王は玉座に体を沈め、戦況の映るモニターを凝視した。
銀の翼のサフィアと黒の騎士ローター、二人の舞踏は続いている。
一瞬一手でも気を抜けば即座に体を両断される、刃の上の綱渡り。
それが突然、ふっとやんだ。
「・・・?」
圧倒的優勢にもかかわらず剣を止め、間合いを離す黒騎士ローター。
警戒を緩めはしないが、それでも怪訝そうに相手を伺う。
ローターが溜息をつくのがわかった。
「すまんな、白百合の騎士。決着をつけたかったがこれも主命、許せよ」
「キミはいったい何を・・・」
それには答えず、ローターが再び剣を立てて構えた。
「なんだ?」
三体目の『
他のパーティが倒したものも含めて、これで六体目、残り四体。
今倒したもの、まだ戦闘中のものを含めて全ての『番人』の動きが止まり、目から光が消える。
「!」
「うおっ!?」
あちこちから驚愕の声が上がった。
『番人』の盾に据え付けられていた宝玉。
それが赤く変色し、炎を引いて一斉に飛び上がった。
「!」
火の玉が尾を引いて集結していく先は宙に浮かぶ黒騎士、「鉄人」ローター・フォン・ベルヒリンゲン。
10の火の玉が螺旋を描いて「鉄人」に集中した瞬間、巨大な火柱が立った。
「おお・・・」
「なんだと・・・」
何度目だろうか、兵士達が空を見上げた。
炎の巨人。
岩をも燃やす魔の炎が半ば実体を持って身長20mほどの大雑把な人体を形作る。
時折透けて見えるのは体の各部に浮かぶ宝珠と、骨のようにそれを繋ぐ光の線。
宝珠という点を光のワイヤーフレームで繋いだ骨格に魔炎の肉体をかぶせた巨人。
大きく裂けた口とまなじり鋭い鬼神の顔の中、それを操るのは復古軍最強の黒騎士ローター・フォン・ベルヒリンゲン。
『吼えよ"
「!」
魔神の口からまばゆい光芒が飛び出した。
「!?」
「きゃあっ!」
一直線に突き進んだそれは離宮の周囲を覆う魔導障壁を薄紙のように貫通し、離宮の建物の一つを消し飛ばした。
「・・・!」
戦慄が走る。
先ほどまで『番人』を何とか攻略してきた冒険者たちも、魔導砲部隊も、強化術式部隊も。
その彼らの視界の端にきらめく、一筋の銀の流星。
「白百合の騎士・・・」
「白百合の騎士!」
躊躇していたのは一瞬だった。
その後は体が勝手に動いた。
「銀の翼」の出力をフルスロットルに叩き込み、突貫する。
回避機動も何もない、一直線の全力飛行。
(あれは・・・二発目を撃たせちゃいけない!)
まだ離宮の中には人が残っているのが見える。
お偉いさんは逃げたかも知れないが、召使いや従者はまだ多くが残っているだろう。
あの頭の切れるお姫様や"狩人"、銀の翼の使い方を教えてくれた若い局員もだ。
(それだけは、させられない!)
じろりと、炎の巨人が首を巡らせてサフィアを見る。
その奥の、黒い魔導甲冑と目が合った気がした。
先ほどまでは伝わって来ていたローターの感情が、今は全く伝わってこない。
ただ邪魔者を排除するという意志だけを乗せて、燃える拳が振るわれる。
全力の「銀の翼」と同じくらいの拳速。それを奇跡的にかわして頭部に肉薄する。
「やあっ!」
通りざまに振った力場の剣の一太刀。
それが
王国軍から歓声が上がった。
巨人の頭部をかすめて過ぎた銀の流星が反転する。
二度、三度。頭部の操者を狙った攻撃が繰り返される。
だが浅い。内部のローターには届かない。
加えて切り裂いた炎の肉体も、すぐに隙間を埋めて元通りになってしまう。
「撃て撃て撃てーっ! 白百合の騎士を援護するんだ!」
サフィアの攻撃に力を得て砲撃を再開する魔導砲部隊や強化術式部隊。
だがその攻撃も直撃すれど牽制以上のものにはなっていない。
「・・・それでもっ!」
四度目の突貫。
少なくともこれを繰り返している間は魔神はあの光芒を放てない。
離宮の人々が逃げる時間を稼げる。
だがサフィアもわかっている。
幼い頃、友人を助けるときに思い知ったこの世の真理――幸運はいつまでも続かない。
今回の幸運は七回目までで終わった。
(っ!)
八度目の突貫で「終わった」と思った。
軌道を変えて何度も攻撃したが、今回は完全にタイミングを合わせられた。
元より魔神の操者は歴戦の勇士。巨体を操ることにまだ慣れていないとはいえ、積んできた経験がそれを補う。
即座に回避軌道を取るが、それでもサフィア本体への直撃は免れない。
「ああっ!?」
「白百合ーっ!」
絶叫や悲鳴が上がる。
スローモーションで近づいてくるそれを見ながら、サフィアは目を閉じなかった。
近づいてくる絶対確実な死。意地でもそれに屈するものかと思った。
後一秒。
無限に引き延ばされたその一瞬、空気が渦を巻いた。
まるで魔法のように忽然と、その「何か」はそこに存在していた。
翻る紅いケープ。
炎の拳が止まっていた。
青い騎士甲冑の鉄籠手によって。
「青い――鎧!」
ファンファーレが鳴った。
少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。
奏でるものなどいなくとも。
そこがたとえ荒野のただ中であっても。
ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。
「ザイフリート」はジークフリートのこと(あるいはその元ネタ)。
作中ではイフリートと引っかけてますが、炎の魔神という意味は本来ありません。