毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
何度目かの歓声が上がる。
「青い鎧!」
「青い鎧!」
「白の翼!」
「白百合の騎士!」
王国軍が、冒険者たちが、拳を突き上げて二人の名を呼ぶ。
炎の巨人の拳を止めたままの姿勢で、青い鎧とサフィアがちらりと視線を交わした。
「流れ星はもういいのかい?」
「ああ。星の海へお帰り願った」
半ば激突するように隕石とのランデブーを成功させた青い鎧は、全力でベクトルをずらして突入軌道を変えた。
その結果、大気圏上層をかすめるようなコースに軌道変更された巨大隕石は、この星の大気に弾かれて再び宇宙の彼方へ去っていったのである。
「こやつは任せてくれ。サフィア殿は下の援護を」
「わかった。頼むよ、『ヒーロー』」
「そちらこそだ、『ヒーロー』」
「っ・・・!」
その言葉に、思わず涙ぐみそうになった。
憧れであり、羨望であり、隔絶だった存在が自分を同格に扱ってくれる。
その喜びを抑えきれなくなりそうで。
それを隠して身を翻し、直下の戦場に飛び込む。
「さあ、白百合の騎士はここに居るぞ! 青い鎧も来てくれた! この戦い、もはやボク達の勝利だ!」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」
王国側の士気はもはや留まる事を知らない。
誰もが叫び、痛みも恐れも忘れて戦いに身を投じる。
その先頭を切ってレスタラ兵たちに斬り込んだサフィアの剣が、瞬く間に数人の魔導兵達を斬り伏せた。
「・・・」
それを横目で見やり、面頬の下でヒョウエが僅かに笑みを浮かべた。
視線を正面に戻す。
巨大な燃える拳と青い籠手が僅かに揺れた。
会話の間中もずっと、両者は力比べをしていた。
だが
巨人の目の中に垣間見える黒騎士の兜。その視線が青い鎧のそれとつかの間交差した。
「・・・化け物め」
ザイフリートの頭部で「鉄人」ローターがうめいた。
「この最終兵器をもってしても、力では勝てんのか」
五十年前に一度復古軍の理想をくじいた"
であるなら、五十年前を凌駕する戦力をもってすれば負けることはあるまいと。
「とんだ間違いだったわい」
魔導甲冑を介して炎の魔神に念を送るが、どれほど力を込めてもやはり青い鎧は動かない。
「やむをえんか」
本当に最後の奥の手と念押しされた「それ」のスイッチを入れる。
「っ・・・!」
世界が揺れるような衝撃が来た。
そして魔導甲冑を介して自分が溶けていくような、巨人の体に吸い込まれていくような感覚。
自分が希薄になり、広がってゆくのがわかる。
魔導甲冑を通して同調しているこの
ローターの精神が魔神の肉体と完全に融合する。
10の宝珠とそれの生み出す半ば物質化した魔の炎が完全にローターと同化する。
ローターの本来の肉体は魔神の一部でしかなくなり、広がった精神が元に戻ることはもうない。
復古軍の技術者たちが開発した、古代遺産と人間の意識を融合させる秘術。
操者と機体の間に生じるラグを打ち消し、古代遺産の出力自体も飛躍的に上昇させる。
だが、元よりこのザイフリート自体が古代遺産である「ヤスカの宝珠」をオーバーロードさせて無理矢理固体化して人の形にしている代物だ。長くはもたない。
そしてザイフリートが朽ちると言うことは、同一化したローターの精神も朽ちると言うこと。
たとえ青い鎧を倒そうが、復古軍が勝利を収めようが、もはや死は免れない。
『これが過剰同調か。妙な感覚だな』
「・・・!」
青い鎧が目を見張り、間合いをとる。
ローターと同一化したゆえか、魔神の外見にも変異が生じていた。
ところどころ透けていた炎の肉体はより密度が高まり、強固に実体化している。隙間からワイヤーフレームや宝珠が見えるような事ももうない。
熱量も増したのか、周辺のレスタラ兵が慌てて退避を始めている。
足元の石畳が高熱で融解し、溶岩のようになって足の周囲から溢れてきていた。
そして大雑把でいびつな人型をしていた肉体は、均整の取れた甲冑のような姿に。
裂けたまなじりと牙の生えた口と、まさしく鬼神のようだった顔はひげを蓄えた眼光鋭い老爺のそれに。
右手にはいつの間にか炎で形成された大剣が握られていた。
「ローター様」
「ローター様だ・・・」
老爺の顔が地上を見る。
その口が動き、轟くような響きはあるものの、ローターとはっきりわかる声が流れてくる。
『
貴公らはただ前に進め! 復古軍に勝利を!』
「復古軍に勝利を!」
「我らの悲願を!」
「いにしえの理想社会を!」
剣を振り上げるザイフリート=ローターに呼応してレスタラの兵士達も武器を掲げ、シュプレヒコールを叫ぶ。
白百合の騎士の復活と青い鎧の登場によって王国側に傾いた士気の天秤を、五分五分に戻す老兵の檄。
地上の戦いは再び先が読めなくなっていた。
『さて・・・と。待たせてしまったのう』
腕組みをして宙に留まる青い鎧。
それにローターの姿をした炎の魔神が改めて相対する。
「お気にめされるな。ロマンチストと呼ばれるやも知れぬが、戦場にも礼というものがあろう」
『ふっ』
青い鎧の物言いに
実際、ローターが檄を飛ばすのを黙って見ていたのは、礼儀や騎士道精神にのっとってのことではない。
しかし騎士道的価値観が色濃く残るこの世界で、特にそうした古風な意識が強いレスタラの兵士達が、自軍を代表する英雄が「卑怯な不意打ち」を受けるのをを見たらどうなるか?
今以上に爆発的な士気の上昇を招く恐れもある。
そのリスクを恐れて手出しが出来なかったのだ。
ローターが苦笑したのはそうしたあれこれを察したということでもあるだろう。
「それに貴公の口上を遮ろうが遮るまいが問題はあるまい。貴公はここで敗れる。復古軍もここで潰える。敗者に対するせめてもの情けと思われよ」
『言ってくれるわ』
更に苦笑の度合いを深める炎の魔神。
『だがわしは負けぬ! わしが生涯をかけたもののために! 倒れて屍となれい、王国の勇者よ!』
「断る!」
その言葉と共に青い鎧が閃光となって飛んだ。
炎の魔神もまた閃光の速度で剣を振り下ろす。
青い閃光と紅蓮の閃光がぶつかり合い、爆発した。