毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
ぶつかり合う青の
砕けたのは剣の方だった。
物質化した魔炎が破片となって散らばり、炎の剣に大きな刃こぼれが出来る。
落ちてきた破片の直撃を受けた両軍の兵士が、具現化術式や魔導甲冑ごと瞬時に蒸発する。
石畳に落ちた場所には直径2mほどの溶岩だまり。
追撃をかけようとする青い鎧に、
青い鎧からすれば片腕で止められるほどの攻撃ではあるが、それでも剣とのぶつかり合いとで最初の勢いは殺された。
しかし青い疾風は止まらない。
巨大な手を払いのけ、すれ違うように巨人の胸元へ突貫する。
「オオッ!」
『っ!』
全力の拳が炎の巨人の胸中央に炸裂する。
巨大な鐘を全力で突いたような、腹に響く重い音。
周囲の兵士達が思わず耳を押さえてうずくまる。
巨人がたたらを踏んで二、三歩後ずさった。
その後には足の形に溶解した石畳。
だが青い鎧が注視するのは地上ではない。巨人の胸元。
勢いを殺されていたとは言え、全力の一撃。
にもかかわらず騎士甲冑の胸甲にも似た巨人の胸にはへこみ一つなかった。
ザイフリート。
ドイツの英雄ジークフリートの元となった伝承の一つ。
中世吟遊詩人の演目の一つ、「不死身のザイフリートの歌」がその由来だ。
広く知られるジークフリートの伝説と同じく、彼もまた不死身の肉体を得る。火に焼かれた竜の流す体液を浴びて硬化・角質化したその表皮はあらゆる武器を弾き返したのだという。
(つまりこいつは
一旦距離をとり、周囲の状況を確認して顔をしかめる。
ザイフリートもそれを追わず、剣を構え直す。
剣に出来た大きな刃こぼれは既に修復されていた。
その周囲にはいくつかの溶岩だまり。
(剣だけであれだ、こいつをここで倒して爆発でもしたら・・・)
最悪、周囲1kmほどが溶岩のるつぼになる可能性もある。
僅かに考え込んだ瞬間、今度は炎の巨人が動いた。
『かっ!』
「!」
燃える老爺の口から吐き出された一直線の光芒が青い鎧を打ちすえる。
とっさに両腕を交差させて防ぐ。光芒は青い鎧に当たって傷つけることなく四散したが、弾けた光の粒が離宮の魔力障壁に当たって炸裂し、障壁と離宮を揺らした。
先ほど離宮の建物を一棟吹き飛ばした魔の光芒。威力自体はそれほど変わらないが、その分素早く出せるようになっているようだった。
交差させた腕を開き、現在の位置よりやや上にある巨人の頭部を睨み付ける。
「ぬう、存外無粋な手を使うではないか、黒騎士殿」
『卑怯未練は敗者のざれ言よ。ましてや
今放たれた魔の光芒、黒騎士言うところの「
青い鎧の非難に、「鉄腕」ローターと呼ばれた男は悪びれた様子もない。
『離宮を吹き飛ばせば我々の勝ち! 貴公を足止めできればやはり我々の勝ち! どちらに転んでも負けはないわ! 好きな方を選べ、王国の勇者!』
言葉と共に次が来た。
先ほどより更に太い、全力を込めた
それをやはり両腕を交差させて防ぐ青い鎧。
先ほどまでのような数秒間だけの照射と違い、口から途切れずに膨大なエネルギーの束を吐き出し続ける炎の魔神。
光芒は青い鎧の装甲表面でむなしく弾け、周囲に光の破片をまき散らすだけだが、その破片ですら離宮の魔力障壁を揺らすだけの威力。
動けばそれが離宮を直撃する。恐らくは離宮の主殿を丸ごと吹き飛ばすだけの威力。
それがわかっているからこそ、青い鎧は動けない。
ただ、一つ疑問があった。
(「離宮を吹き飛ばせば」勝ち? 何故だ? 王族や重要人物を殺害する事が目的ではないのか?)
そもそもの疑問はあった。
王族や各国の大使を殺してどうするのか。
そして戦闘開始からこれだけ時間が経過して、VIPたちが抜け穴や後方から脱出する可能性を考慮していないなどと言うことがあり得るのか。
(最初から離宮の破壊が目的だった・・・? 何のために? 離宮に何があるというんだ?)
更に強まる光芒の圧力。
思考を打ち切って、全身の魔力を更に高める。
エネルギーの奔流に逆らい、少しずつ前進する。
速度は人間が普通に歩く程度。
だが確実に距離を詰める。
『・・・・!』
一方でそれに脂汗を流すのは
掛け値なし全力の
(化け物め)
自らも超人騎士と呼ばれ、今や古代の遺産と一体化して無敵の巨人、炎の魔神となったはずの自分。だが目の前の青い騎士はその自分ですら遠く及ばない。
離宮を、そして離宮に残る人々を人質に取っていなければ、既に打ち倒されていたかも知れない。
(だが負けるわけにはいかん。復古軍の悲願を、いにしえの理想社会を諦める事は――できん!)
「!」
エネルギーの密度がさらに高まり、怨敵青い鎧を灼きつくさんと猛る。
それでもなお、少しずつ、少しずつ。一歩一歩距離を詰める青い騎士甲冑。
『ぬう・・・ぬうううううううううう!』
更に威力を強める
既に体に埋め込まれたヤスカの宝珠は十機全てが限界を超えて稼働している。
(元より終わりの定まった我が命! ここで使い切らぬでどうする! 吼えよ、ザイフリート!)
『『オオオオオオオオオオオ!』』
歴戦の老騎士が吼える。
炎の魔神が吼える。
完全に同期した二つの命が咆哮を重ねる。
その咆哮の中で限界を超えてエネルギーの吐息を吐き出し続ける。
既に魔神に余力などない。
巨人が命を削って放ち続ける光芒。
正面から立ち向かい、前進を続ける青い鎧。
それをいつしか、王国兵もレスタラの兵も、戦いの手を止めて見上げていた。
「・・・がっ・・・頑張れ! 頑張れぇ! ローター様!」
我慢が限界を迎えたかのように、レスタラ兵が声をふり絞って叫んだ。
「負けるな! 青い鎧!」
即座に王国兵から上がるのは青い鎧への声援。
「『鉄人』!『鉄人』!」
「
双方から放たれる、
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
「・・・」
吼えるローター。
無言のまま青い鎧が距離を詰める。
一歩。また一歩。
そう表現するのが似つかわしいペースで、ジリジリと距離を詰める。
(さ・・・せ・・・・ん・・・絶対に・・・ぜ・・・た・・・い・・・)
暴走。
限界以上の力を絞り出すためにあらゆるリミッターを外して
そのエネルギーと情報の奔流の中に老兵の魂は溶け崩れてゆく。
(我が魂・・・我が命の全てを賭けて・・・!)
ついに青い鎧と魔神との距離が3mを切った。
次の瞬間、青い鎧の拳を叩き込める距離。
「・・・・っ!」
「ローター様ーっ!」
青い鎧が拳を振り上げ、レスタラ兵達から絶望の呻きと悲鳴が上がる。
反対に、王国側からは歓声が。
「・・・」
「・・・?」
だがその瞬間、全てが止まった。
炎の魔神が吐き続けていた魔の光芒が止まり、青の鎧が振り上げた拳を静かに下ろす。
「え・・・」
「嘘だろ・・・」
炎の魔神が止まっていた。
炎の腕は萎え、炎の脚は力を失い、色を失った剣は二度と振るわれる事はない。
限界を超えたエネルギーの制御と焼け付いたエネルギー放出機構を無理矢理稼働させ続けた反動。
それは英雄レベルとはいえ人間の範疇でしかないローターの魂の処理能力を超えていた。
文字通りその全てを使い尽くして、鉄の騎士は死んだのだ。