毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
メットーの中央。離宮前の広場に老騎士「鉄人」ローターの姿をした炎の巨人が立ちすくんでいる。
その巨体を包んでいた炎は消え、魔炎が具象化した肉体は焼けた鉄のような光を放ち続けてはいるものの、先ほどまでのような触れただけで石をも溶かす熱は感じられない。
何より、強い意志を感じさせていた双眸から光が消えていた。
口から
誰の目にも明らかなそれは、壮絶な立ち往生の姿だった。
「ローター様・・・」
生き残っていたレスタラの兵達ががくりと膝を落とした。
すすり泣く声があちこちから聞こえる。
銃を放り出し、既に戦意はない。
王国兵達も、それを攻撃はしなかった。
『役立たずめ』
その時、憎々しげな声が響いた。
「この声は!」
「髑髏王様?!」
戸惑う声を圧して、髑髏王の憎悪に満ちた声が響く。
『最終兵器を起動させながらしくじりおって。"鉄人"だの精鋭だのが聞いて呆れる。とんだ見かけ倒しよ。もう"番人"も貴様らもいらぬ。離宮もろともに吹き飛ぶがよい。さらばだ』
「・・・」
「・・・?」
そのままぶつりと消える声。
しばらくの沈黙を挟んで、それに最初に気付いたのは青い鎧と"探偵"の仮面をつけたサフィアだった。
「青い鎧っ! ヤスカの宝珠が再起動している!」
「わかっている。恐らくは自爆させるつもりだ」
すぐにその徴候が目に見える様になった。巨人の体の各部の宝珠が、唸りを上げて最後の暴走を始める。
巨人の体の各部から漏れる、暴走の唸りと禍々しい赤い光。
「そんな!」
「我々もろともに消し飛ばそうというのですか陛下!?」
レスタラ兵達が悲鳴を上げる。
「話している暇はない。これを出来る限り上空に運んでみる!」
「青い鎧っ!」
言う間もあればこそ、魔神の巨体を持ち上げて、青い鎧が空の彼方に飛び去る。
一秒。二秒。魔神の巨体が空の彼方に見えなくなる。
五秒。六秒。何も起こらない。
八秒。空の彼方にまばゆい光。
まばゆい光は空の半分を埋め尽くす光となり、僅かに遅れて轟音が響く。
強風がメットーの街路を吹き荒れる。
一瞬のことだったが、その閃光はそれを見ていたものたちの目に永く焼きついた。
「青い鎧ーっ!」
叫んだのはサフィアではなかった。
離宮の指揮所で、バルコニーに身を乗り出してあらん限りの声で叫ぶのは"
その他の人間はサフィアやカレンを含めて声もない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
光が消えた。
"狩人"が呆然と空を見上げる。
「・・・またか。また俺を置いていくのか」
「"狩人"・・・?」
歴戦のスパイが茫然自失する。
心の中が漏れているのも気付かないほどに。
王国兵も、冒険者も、レスタラの兵達も。
ただ呆然と上空を見つめている。
どれだけの時が経ったか。
待つ人々にとっては永劫にも思える時間。
やがて、そのうちの一人――モリィが声に喜色をにじませて空の一点を指さした。
「いた! 戻って来た! 帰って来やがったぞ!」
群衆がざわめく。いくらかのものは視覚強化の術や《加護》を発動しようとする。
だがそれらが効力を発揮する前に、状況は誰の目にも明らかになった。
青い空の一点に浮かんだ、空よりなお青い青と燃えるように閃く真紅の赤。
それがあっという間に大きくなり、青い騎士甲冑と赤いケープの姿をとる。
この短い時間の間に二度ディテクを救った英雄の帰還。
「あ・・・」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
歓声が爆発した。
拳を掲げ、剣をかざし、あるいは脱ぎ捨てた兜を振って英雄の帰還を讃える。
王国兵や冒険者たちだけではない。
レスタラの兵達ですら歓喜の声を上げ、手を振っている。
「ふう」
"狩人"が肩の力を抜いた。
英雄の帰還。
五十年前は見られなかった光景。
胸中を行き交う様々なもの。
その背中を、カレンが眼を細めて見ている。
「・・・何か?」
振り返った"狩人"の目にいぶかしげな表情。
カレンが扇を広げ、口元を隠した。
「いいえ、なんでも?」
楽しそうな声でくすくすと笑う。
"狩人"が――実に珍しいことに――仏頂面で目をそらした。
「青い鎧! 青い鎧!」
「
もはや王国兵もレスタラ兵もなく、歓声を上げる群衆の中央に青い騎士甲冑がふわりと舞い降りた。
取り囲む群衆の最前列には銀色の翼を畳んだ白百合の騎士。
少し遠巻きにしてエブリンガーの三人娘。
モリィは得意げな顔で腕を組んで。
リアスは安堵の表情で胸に手を当てて。
カスミは人の波に紛れて姿が見えないが、微笑んでいる姿が容易に想像できた。
歓声を上げていた人々が静かになる。
彼らを代表するかのようにサフィアが青い鎧に歩み寄り、拳でこつんとその胸甲を叩いた。
「キミの勝ちだな、ヒーロー」
「いいや、私の勝利ではない」
青い鎧がかぶりを振る。
戸惑うサフィアの手首を優しく握り、高々と掲げる。
「
歓声が爆発する。
手を掲げる二人のヒーロー。その姿を見た全ての人々が声の限りに叫んだ。
そして彼ら全員が、死ぬまでこの時のことを忘れなかった。