毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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エピローグ「メットーのヒーロー」

「【ヒーロー】(名詞)

 (一)英雄 (二)悪と戦う者。特にクライムファイターの中で広く知られている者をそう呼ぶ」

 

     ――冒険者族語の基本知識――

 

 

 

「取りあえずは大きな被害もなく勝ったか」

 

 溜息をつくのはディテク国王マイア・ジェイ・ボッツ・ドネ。弟の大将軍ジョエリーと、宰相のワイリー侯爵、王太子であるアレックスも一緒だ。

 

「場所は王宮に移しましたが、貿易協定の交渉も引き続き継続しております。

 市街の被害も・・・まあ、あれだけの戦闘があったにしては軽微と言うべきでしょうな。現在焼け出された住民に避難所の提供と、破壊された家屋の修復を急がせております」

「軍のほうは軽微どころではないな。精鋭である魔導化部隊に大きな損害が出た。

 人員もそうだが強化具現化術式はすぐに補充するというわけにはいかん。遺失兵器である魔導砲は尚更だ」

「我が国の軍事力を白日の下にさらしてしまったわけでもあるしな」

 

 弟の言にマイアが再度溜息をついた。

 固い顔のアレックスが手の書類に目を落とす。

 

「冒険者たちにも軽くない被害が出たそうです。黒等級冒険者が一人死亡、緑等級冒険者が同じく二人死亡、五人が負傷で一線を退くと」

「黒等級もか・・・痛いな」

 

 この世界、冒険者は正規軍ではないものの、事実上国家戦力の一部として扱われている。

 長らくライタイムがディテクを差し置いて大陸最強の国家として扱われてきたのも、星の騎士とその仲間達をはじめ、複数の金等級冒険者を抱えている事が大きい。

 一方で現在は青い鎧の出現により、天秤が大きくディテク側に傾きつつある。

 今までは「メットーに有能なクライムファイターがいる」程度の認識だったが、恐らく今回の一件で各国にその実体が知れ渡るだろう。

 そうなれば大陸の軍事バランスも大きく変動するはずだ。

 

「とはいえ彼は冒険者ですらないからなあ・・・戦力として頼りにするには余りに不確定すぎる」

「カレンのほうで連絡手段は確立したと聞いたが、兄者?」

「あくまで連絡手段だ。命令できるわけではない」

「まあ見せ札に使うのがせいぜいでしょうな。

 少なくとも我が国の民を守ってくれているのは確かです。

 抑止力としては絶対的な存在と言っていいでしょう」

「再軍備の時間は十分稼いでくれるというわけだね、フィル爺」

「左様で」

 

 ワイリーが頷いた。

 

「まあ我が国の利益になってくれているのは確かだ。高望みはすまい。

 再編はジョエリーに任せよう。フィル爺は交渉のほうに注力してくれ。無論市街の再建と避難者への対応を軽視するわけではないが」

「心得ております」

 

 老宰相が頭を下げる。

 そこから話は将来の展望に移った。国を動かす彼らだ、やる事はいくらでもある。

 

 

 

「こわくはありませんでしたか、カーラ」

「全然! お兄様とお姉様、青い鎧が守ってくれるって信じていたもの!」

 

 一点のくもりもないカーラの笑顔に、ヒョウエとカレンもまた笑顔で視線を交わした。

 あれだけの大ごとの後でカーラが大丈夫かどうか様子を見に来たヒョウエだったが、この分では心配はなさそうだった。

 

「そうですね。僕とカレン姉上があなたをきっと守りますよ。伯父上や父やレクス兄も」

「えへへ・・・」

 

 額に口づけされたカーラがはにかむ。

 そう言えば、とカレンがヒョウエの顔に視線を動かす。

 

「東の方にゴブリンの大群が出て、あなたがそれに対応したそうだけど、実際の所何があったの? 草原が広い範囲にわたってガラス化してたと報告にあったけど」

「まあ実際そんなものですよ。炎の術で焼き尽くしました」

 

 もちろん嘘である。出来なくはないがゴブリンが本当にいたなら窒息させるか地面に埋めた方が早い。

 

「ガラス? 地面がガラスになるの?」

 

 首をかしげる妹に、ヒョウエが優しく教えてやる。

 

「強い炎の呪文を使うとですね、地面が溶けてガラスになるんですよ」

「すごい! きれい!」

 

 目を輝かせるカーラ。

 多分彼女の頭の中ではガラスづくりの草や花がキラキラ輝くメルヘンな光景が展開されているのだろう。

 兄と姉が今度は苦笑をかわす。

 少なくとも今、この場所は平和であった。

 

 

 

 ふうっ、と職人姿の"狩人"が紫煙を吐き出した。

 メットーの路地裏である。

 葉巻をもう一度口元に運ぼうとして、その視線が路地の奥に向けられた。

 

「遅かったじゃないか」

「マネージメントというのは意外と忙しいものでして」

 

 現れたのは杖を突いた仏頂面の男。

 サフィアの「マネージャー」、QBだ。

 

「すっかり冒険者稼業が板に付いたようだな」

「これはこれで中々楽しいものですよ。閣下も一度どうです」

「よせ」

 

 "狩人"、かつての金等級冒険者ジェットが思わず苦笑する。

 少し沈黙があいた。

 

「戻ってくるつもりはないか」

「まだしばらくは無理ですね。サフィアのサポートをしなきゃなりません」

「そうか。正直お前には期待していたんだがな」

 

 QBが片眉を僅かに上げた。

 

「そこまで評価して頂いていたとは知りませんでしたよ」

「昔から評価はしてたさ。だがこの十年で随分跳ね上がったのも事実だ。小娘のお守りが随分と性にあったと見える」

「色々と学ぶことがあったのは間違いないですね。それに・・・」

「それに?」

「何と言うか、面白いんですよ。あいつと組んでるのは」

 

 わずかな、極々僅かな苦笑とはにかみの混じった笑み。

 それをしばらく見つめた後、"狩人"が紫煙を吐き出した。

 

「面白い、か。本当にお前は変わったな」

「そのようですね。自分ではよくわかりませんが」

「・・・」

「閣下?」

「いや、何でもない。そう言えば東南の街区で頻発している詐欺の話を?」

「いえ」

「それがだな・・・」

 

 そうして"狩人"は、情報を掴みはしたが対処する余裕がない案件をかつての部下にリークする。

 

(俺が引退できる日はもう少し先になりそうだ)

 

 爆発でさっさと引退できた先代はまだしも楽だったかも知れないなと益体もないことを考えつつ、顔のないスパイは煙を吸い込んだ。

 

 

 

 カラン、と氷が鳴った。

 透明なグラスに注がれた琥珀色の液体に、砕かれた氷の破片が浮かんでいる。

 カウンターに座り、蒸留酒を舐めるのは銀髪の麗人。

 

 今日はその隣に長い黒髪を下ろした二十代半ばの女性がいる。

 珍しく私服に着替えたサナだ。

 手にはサフィアのそれと同じ、蒸留酒のロック。

 カウンターの中の女性がおつまみの皿をそっと両者の間に置く。

 

「今回サフィアちゃんが大活躍したんだって? サナちゃんの王子様も。凄いじゃない!」

「いやあ、どうかなあ。ヒョウエくんはともかくボクはそこまで活躍したわけじゃないし。頑張ったのは青い鎧とあの場にいたみんなさ」

 

 謙遜しながらも、サフィアの顔は笑みを隠し切れていない。

 「キミの勝利」とサフィアが言ったのに対して、「我々の勝利」と返した青い鎧。

 その一言だけで何もかもが報われた気がした。

 最高のヒーローに、同格として扱って貰えたならば、それ以外は全て些事。

 後は、その言葉に恥ずかしくないように精進するだけだ。

 サナと、カウンターの女性はそっと笑みを交わす。

 

「まあそう言う事にしておきましょうか」

「そうだね。サフィアちゃん照れ屋だし」

「サナもニカも、それ以上言うとひどいよ?」

「はいはい」

「はぁい」

 

 くすくすと笑う二人。

 カウンターの中の女性――かつて誘拐された、サナとサフィアの幼友達ニカ――が成長しても変わらない笑顔でにぱっと笑う。

 

「でも新しい二つ名も出来たね。『白の翼(ヴァイスフリューゲル)』だっけ」

「『翼の騎士(フリューゲルリッター)』だよ。さすがに『白の翼』の二代目を名乗るのは荷が重いさ」

 

 先だっての事件のあと、サフィアは引き続き銀の翼を貸与されることになった。

 功績に対する報償という意味合いもあるが、おおっぴらに存在が広まってしまった以上、「王国が使用する汎用装備」ではなく「有名冒険者が使うオンリーワンのアーティファクト」としておいたほうが都合が良いのもある。

 髑髏王の替え玉から奪ってきた腕輪もある。こちらはサフィア個人の所有物になったが、"狩人"からは使わなくなったら研究のために譲ってくれと頼まれていた。

 

「でもサフィアちゃんはそれだけじゃないよね――好きな人でも出来た? ひょっとしてヒョウエくん?」

「サフィア?!」

 

 愕然とした顔でサナが振り向く。

 サフィアが両手をぶんぶんと振り、慌てて否定する。

 

「違う違う違う! 前にも言ったけどヒョウエくんは弟みたいなものだって!」

「そ、そうですか・・・」

 

 どうやら嘘ではないようだと直感し、ほっと胸をなで下ろすサナ。

 

「――まあ、好きな人が出来たって言うのは当たりだけどね」

「あ、やっぱり! 誰々?」

 

 いたずらっぽい笑みを浮かべるサフィアに身を乗り出して食いつくニカ。

 

「どうでしょうね、サフィアのことですし――」

「『青い鎧』さ。ああ、あの屈強な鎧の中にはどのような素顔があるものか!」

「ブフォォォォッッ!?」

「サナ?!」

「サナちゃん!?」

 

 サナが口中の酒を盛大に吹き出した。

 

 

 

「へくちっ!」

「ヒョウエくん、風邪? 頑張った後なんだから、ちゃんと体を休めないとだよ」

「はーい」

 

 ヒョウエがいささか古めかしい反応を見せたのは、屋敷での夕食の席でだった。

 サナが休みを取って外出しているので、リーザとカスミの合作である。

 なおそれなりの腕はあるのだがリーザが拒否するのでヒョウエは手伝えない。

 残りの二人は当然戦力外である。

 

「まあ今回はいつもにも増して大変だったよな。

 あのでかい石ころ、宮殿くらいあったんだろう?」

「もうちょっと大きいですよ。そうですね・・・メットーの街区で縦横三つ分くらいです」

「ひえっ」

 

 メットーがこの世界で最大級、規格外の大都市であるから感覚が麻痺しているが、街区三つ差し渡し1.5kmといえば人口二万、この世界では十分大都市のサイズだ。

 

「空中要塞に流れ星に炎の魔神に魔神の自爆、本当に随分とせわしない・・・リアス様?」

 

 何やら考えている様子の主人をカスミが見上げる。

 

「え? ああ、すいません。考え事をしておりましたわ」

「髑髏王の目的のことですか」

「はい」

 

 あの時離宮を吹き飛ばせば復古軍の勝利だと、「鉄人」ローターが言っていたのをリアスも聞いていた。

 戦の前に覚えた疑問が、それによってまた首をもたげてくる。

 

「先だっても申し上げましたが、ディテク一国ならともかく大陸のほとんど全ての国に同時に宣戦布告する意味がありません。

 つまり彼らの目的は会議の参加者やディテク王国ですらなく――」

「離宮の破壊」

「はい」

 

 訳がわからないとは思うが、彼らの言動を付き合わせていくとそうとしか思えなくなるのだ。

 いつの間にか、他の三人も二人の話に耳を傾けている。

 

「――それで?」

「いえ、これでおしまいですよ。離宮に何があるのか、今は何もわからないわけですし」

「なんだぁ」

 

 少し緊張していたリーザが一気にだれた。

 

「しょうがないじゃないですか、わからないんだから。

 まあ姉上には伝えてありますし、良い具合に報告は上げてくれるでしょう」

 

 肩をすくめて、ヒョウエが食事を再開した。

 訳のわからないことをいつまで考えていても仕方がない。

 苦手なことはそれが得意な他人に押しつけるのが社会をうまく回すコツだ――などとうそぶきつつ。

 思いは既に、明日受けるべき冒険依頼の内容に飛んでいた。

 

 毎日戦隊は毎日が毎日日和。

 雨の日も風の日も、それはそれで毎日日和。

 かたつむり枝に這い、神空にしろしめす。

 全て世はこともなし。

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