毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
朝食を済ませてリーザにもろもろのお小言をもらった後、二人は屋敷を出た。
「で、今日は休みって事でいいんだな?」
「さすがに徹夜明けで依頼こなすのは危険ですしね・・・ここ二週間休み無しで依頼ハシゴしてましたし、丁度良いタイミングでしょう」
あくびをしながらヒョウエ。その手には木製の巨大なトランクのようなものを持っている。一応持ち手がついてはいるが、ヒョウエやモリィなら棺桶に使えそうなサイズだ。
モリィの視線に気付いたのか、ヒョウエがにこっと笑った。
「どうせ今日は休みな訳ですし、モリィも見ていきませんか?」
「見ていく?」
「まあすぐわかりますよ」
王都メットーは南北8キロメートル、ほぼ正方形の城壁の中に建設された超大都市である。北中央に王城があり、その周辺が貴族や富裕層の区域。
そして南西の端、おおよそ東西3キロ、南北2.5キロに渡って広がるのがスラムだ。
現在ではそのほぼ全ての地域の土地利用権をヒョウエが買い取り、ここ数年経済や治安も改善していることは既に述べた。
ヒョウエの屋敷はスラムの中心からやや南西に寄ったあたり。
二人はそこから北東に位置する大市場に出た。
つまり、メットー全体から見ると四分割したうち南西のブロックの中心。最初の都市計画で南西区画の中心として設計された大きな広場だ。
本来
「おう、領主様! 今日は女連れかい? リーザの嬢ちゃんじゃないんだな! 両手に花かワハハ!」
「領主はやめてくださいって言ってるでしょう。彼女は冒険仲間ですよ」
「あらヒョウエちゃん久しぶり! ちゃんと休んでる? 危険なお仕事なんだからあんまり根を詰めるのは良くないわよ!」
「ありがとうございますミクシィ。でも大丈夫ですよ、今日はお休みですから」
「よっ、ヒョウエの旦那! これ持ってってくれよ! お連れさんも!」
「ありがとうございます。好きなんですよねこれ」
「お、おう、あんがとなおっちゃん」
「ヒョウエさまだー! ねえねえ、あれやるの?」
「ええ、やりますから暇なら見ていって下さい」
「おはよう領主様ー♪ ハグしていいかしら?」
「忙しいのでまた今度にして下さいナヴィさん」
子供達(と、数人の暇な大人たち)を引き連れて、ヒョウエたちは芸人の集まる一角にやってきた。
歌に踊り、吟遊詩人やジャグラー、火吹き、剣飲み、パントマイムに軽業。幻影を見せる幻術師や色とりどりの炎を燃やしてみせる炎術師、指先から水を噴き出す水術師。
場末とは思えない盛況ぶりである。
多くの芸人が芸を披露している中、何故か空いている一隅にヒョウエが入る。
ヒョウエが奥の壁際に棺のようなトランクケースを置くと、子供達は慣れた動きで最前列に座り込んだ。
ヒョウエが杖を振ると、手も触れずに箱が開く。
中に入っていたのは20体ほどの人形だった。高さ50センチほど、素朴な木彫りの人形で色とりどりの衣裳を着ている。
人形が宙に浮いて壁際に立てかけられると、今度は箱が変形していく。板や脚を引きだし、組み合わせて、一分ほどで幅3mほどの人形劇の舞台が完成した。
ぱちぱちぱちと拍手が飛ぶ。この頃にはついてきた子供達以外にも、かなりの子供達やそれなりの大人たちが集まってきていた。
今まで芸を演じていた芸人たちは、客を奪われて肩をすくめたり苦笑したりだ。
こちらも毎度のことらしい。
「とざいとーざーい・・・」
古めかしい口上とともにヒョウエが拍子木をチョンと鳴らす。
冒険者族のおかげでこうした時代劇じみた口上や小道具もこの世界では一般的だ。
「これなるは世界のはじめの物語、この世には何もなく虚空のみがあった・・・」
真っ暗な背景を描いた板が浮かび上がり、舞台にセットされる。
背景の裏に並べられていたうち八体の人形がふわりと浮かび、舞台の上からゆっくりと降りてくる。
観客がざわめいた。
「虚空より創造の八神生ず。
即ち『祭壇』『牝馬』『針』『牡牛』『エーテル』『足跡』『熊』『使命』なり。
『祭壇』は中心にありて他の者達の差し出すものを受け取り、捧げん。
『牝馬』は生と死を司り、その頬を悲しみの涙で濡らしたもう。『針』は常に鋭く、また数多のものを縫い合わせり。
『牡牛』は人の子らに名誉を教えたまい、『エーテル』は無限なりし。
『足跡』は火を焚いて人の子らを増やし、『熊』は飲みかつ喰らい、『使命』は誰も知らぬただ一つの使命にその身を捧げん・・・」
虚空から生まれた八柱の神が空を作り、大地を作り、海を作った。
数多の生き物や人を作った。
『祭壇』が「
やがて創造の八神がこの世界を離れるときが来た。
神々は百人の
永劫の時を越え、彼は地上の民を守り続けているという。
「それではここで一区切り。十分の幕間の後、第二幕を上演したいと存じます」
ちょん、と鳴る拍子木。
歓声と拍手が湧いた。
「ほい、おつかれさん」
「あ、これはどうも」
観客が用足しや腹に入れるものを調達しに席を離れると、モリィが木のコップに入った飲み物を手渡した。いつの間にか周囲に多数現れた屋台で調達してきたらしい。
柑橘類を搾ったジュースは適度な酸味と甘味が混じり、徹夜明けの脳に優しい。
「あー、おいしいですねー」
「中々良かったぜ。それも仕込まれたのか?」
「いえ、子供の頃語り部のおじいさんがいましてね。その語りが素晴らしかったので、一時期弟子入りしてたんですよ。人形操りは見よう見まねですね。
語りに関しては正直まだまだですよ」
その言葉に、先ほどまでの人形劇の語りを思い出す。
なるほど練達の技と言うには程遠いが、人形を抜きにしてもその辺の路上や酒場で飲み代を稼ぐ程度には十分な芸で、従ってその辺の子供達(大人たちも)を楽しませるのにも必要十分な程度の芸ではあった。
「片手間であれだけやれりゃ、まあ十分だろ。大したもんだよ」
「かもしれませんけどね・・・」
ヒョウエが肩をすくめた。
時間通りに第二幕が始まった。
創世の神々が去ってから二千年ほど後、歴史上初めて現れた冒険者族とされる一人の「サムライ」と
創造の八神が生き物を作る時に作り上げてしまった失敗作である原初の魔獣たちが、隔離場所である〈昼も夜もない谷〉からあふれ出し、人々や妖精たちを襲い始めた。
異世界のサムライは光り輝くカタナで何頭もの魔獣を屠り、また封印を助けた。
戦いの中でサムライと白き髪の乙女は惹かれあい、恋に落ちる。
だが常命であるサムライと永遠の命を持つ乙女は同じ時間を過ごすことはできない。
別れを告げて最後の戦いに赴くサムライに、白き髪の乙女が歌を歌う。
この世界の人間なら誰でも知っている歌、誰でも知っている名場面だ。
「~~~~~」
綺麗なボーイソプラノが広場に響く。
語りと同じく名人と言うほどではないが、十分に人を惹きつける歌だ。
観客たちも舞台の上の二人を注視し、あるいは目を閉じながら耳を傾ける。
「~~~~~」
「!?」
そこへ別の声が重なった。
ヒョウエの物ではない、美しいソプラノ。
ヒョウエの歌声が途切れるが、誰も気にしない。
気にしないほどに誰もが聞き惚れている。
モリィが歌っていた。
天使の歌声。
そうとしか表現できない歌声が広場に響く。
買い物途中の主婦。露店の主人。はたまた恋歌をつま弾いていた吟遊詩人までが言葉を無くし、ただ聞き惚れていた。
別れの歌の場面が終わる。
万雷の拍手と喝采。
モリィはぎょっとしたように一歩後ずさったが、やがて綺麗な動作で一礼した。
「アンコール! アンコール!」
「アンコール! アンコール!」
鳴り止まないアンコールの声。
困ったようにヒョウエを見ると、肩をすくめて銀の横笛を取りだした。
「まあ応えて上げましょうよ。この流れだと人形劇の続きをやってもですし」
「あー、なんか悪い」
「構いませんよ。いいものを聞かせて貰いましたし」
にっこりと笑うヒョウエに我知らずモリィが赤面する。
ヒョウエが楽しそうに横笛に口をつけ、古い流行歌の前奏を奏で始める。
アンコールの声が静まり、再び天使の歌声が響き始めた。
ちなみに唐の長安が東西9.7km、南北8.6kmで最大人口百万人だそうです。
しかも7世紀、ヨーロッパはガチの暗黒時代で、二万人なら大都市という時代。すげーな中国!