毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「え? このまま帰るんですか?」
「この『でっき』を持ち帰るんじゃねえのかよ!?」
「声が大きいですよ。沈黙の結界があるとは言え、我々が隠密行動中だと言うことをお忘れなく」
「お前が言うなお前が!」
イサミがしばらくオープンリールデッキをいじくり回した後のやりとりである。
「大体持ち帰るとか何を言ってるんです。僕たちは泥棒じゃないんですよ?」
「泥棒以外のなんだってんだよ」
モリィの白い目にもヒョウエは動じない。
「まあそれは見てのお楽しみってやつだ」
ニヤリと笑ってイサミが立ち上がった。2mの身長のせいで小山が立ち上がったような錯覚を覚える。
大男はそのまま連れだってヒョウエと歩き出してしまった。
「ほら、行きますよ」
「あ、待てよ・・・どうする?」
困ったようにカスミを見下ろすモリィ。
問われたメイドの少女は、色々諦めたような顔で首を振った。
そのままヒョウエたちは本当に帰って来てしまった。
むろん床の穴やトンネル、隠し通路の痕跡や解除したトラップなどを全て元に戻して、である。
そのまま透明化して空を飛び、イサミの店に戻る。
店に入ってきた一行を見たリアスが、心底安心した表情を見せていた。
「え? 『でっき』を持ち帰ってこなかったんですの?」
「ひどいですねえ。リアスは僕が泥棒をするような人間だと思ってたんですか?」
「え? い、いえ、そんな事はつゆほども・・・」
動揺するリアス。
意地の悪い笑顔をしていたヒョウエの頭をモリィがはたいた。
「あたっ」
「誰がどう聞いたってそう思うだろ・・・で、イサミのにいさんよ。これから何をどうするんだ?」
「おう、奥でやるからちっとついてきな」
にやり、と笑み。
するすると巨体に似合わぬ滑らかな動きで奥に消えるイサミと、それに続くヒョウエ。顔を見合わせた後、三人娘はその後を追った。
入った先は作業室のような部屋だった。
ちょっとした納屋か馬小屋くらいのスペースがあり、表と直接繋がっている。
「魔道具を組み立てたりする場所です。大型の魔道具、例えば馬車などにあれこれ組み込む場合もあるので、こうして外に直接出せるようにしてるんです」
「なるほど」
「ヒョウエ、外の鍵を確かめてくれ。それから障壁頼む」
「はい」
表に続く大扉の鍵を確かめると、ヒョウエが短く呪文を呟いて大部屋全体に念動障壁を張る。
モリィが目を見張った。
「・・・何をやるんだ?」
「見てりゃわかる」
大男は笑みを浮かべると作業台の前に座り込み、表情を真剣なものに戻した。
深呼吸して作業台の上の見えない何かを包むように手を広げる。そして集中。呪文はない。
「・・・・・・・・・・・・」
他の四人も自然と無言になる。
緊張が場を支配する。
僅かに耳鳴りがするような気がした。
「!」
モリィが僅かに目を見張った。
広げた両手から、その中間点に向かって光の糸が流れていく。
最初は一本、二本と増えていたそれはあっという間に無数の光の糸の束となり、広げた手の中間で結びつき、絡まり合い、何かの形を作っていく。
毛糸で糸玉を作るように、あるいは編みぐるみを作るように。
「・・・・・・・!」
モリィとヒョウエがそれを感嘆と共に見守っていると、光がふっと消える。
作業台の上に、たった今まで存在しなかった奇妙な箱――王宮の宝物庫で見たオープンリールデッキが出現していた。
「えっ?」
「なっ!?」
リアスとカスミが驚きの声を上げた。
魔力を感知できない二人にとっては、全く前兆無しにその場に現れたように見えただろう。
「ほい、終わりっと。ヒョウエ、"
「はい」
うーん、と伸びをするイサミの背中にヒョウエが杖を当て、呪文を発動する。
術式によって指向性を与えられた魔力の流れがイサミの体に伝わり、大量の魔力を練ったイサミの体の疲労を癒す。
「OK、そのへんでいい。それで、くだんのテープの現物は?」
「ここに」
ヒョウエがかばんから例の文箱を取り出して作業台におく。
イサミはそれに両手を触れてしばらく目を閉じていたが、やがて先ほどと同じように集中して両手から光の糸を出す。今度両手の間に現れたのは、文箱の中に入っているはずの小型オープンリールテープだった。
「・・・」
もはや言葉もなく、モリィ達がテープとデッキを凝視する。
「こりゃあ・・・」
「兄さんはですね、大抵のものは生み出す事ができるんですよ。ある程度集中して物体を解析すれば、ほぼ完璧にコピーできます。ナイフとかりんごみたいなありふれたものなら解析の必要すらありません。なんだったら物体の持つ魔力も複製できますよ」
再度兄弟子の疲労を回復しながらヒョウエ。
「べらっぼうな魔力が必要になるがな。光の指輪みたいな小物ならなんとかなるが、それ以上となるとヒョウエ抜きじゃとてもとても・・・まあともかく、これが俺の
「電池は?」
「割と使ってるからな。完成したものが既にここに用意してございます」
「まあ、なんてスピーディ。ではセットしてと。何が録音されてるんでしょうね・・・ん?」
「あれ?」
テープとデッキをかちゃかちゃいじってるうちに、怪訝な顔になるヒョウエとイサミ。
「どうしました?」
「いや・・・」
「突起にテープがはまらねえ」
「ええ?」
「つまり・・・?」
「王宮に泥棒に入らせといて無駄足かよおい!?」
モリィが顔を引きつらせる。カスミも絶句。
下手をすれば裁判無しで打ち首になるような真似をして、それが全く無駄だったと言われればこうもなる。
「ま、待って下さい! リールは回りますから、物質変性の術でここの突起を細くしてはめ込めるようにすれば・・・」
「あ、そうだな。テープの太さは同じだし、無理にでもセットすれば多分聞けるだろ」
しばらくいじって、無理矢理テープをデッキにセットする。
「それではスイッチオン!」
静かに回り始めるオープンリールデッキ。
二つのリールが回転し、薄い茶色のテープがゆっくりと流れていく。
しかし、何らかの音を発するはずのスピーカーは沈黙を保ったままだ。
無言の時間が過ぎるにつれ、モリィの目つきがだんだん剣呑になっていく。
「おい」
「ま、待って下さい! セットの方向が表裏逆だったのかも・・・」
「そうか? まあやってみるが・・・」
あれこれやってはみる二人だが、やはり音は出ない。
二人は知らなかったがオープンリールテープには同じ太さ、同じ音声記録用でも複数の規格があり、それが違うと再生は出来ない。
同じ規格でも録音スピードによって違いがあり、回転速度をちゃんと合わせないとまともに音が出ない。
カセットテープと違って磁気テープ黎明期の代物なので、やたらに大量の規格があるのを知らなかったのが敗因であった。
「・・・」
ぽきぽき、と指の骨を鳴らしながらモリィが二人に迫る。
顔を引きつらせて思わず下がるヒョウエとイサミ。
そのとき、真冬の北風のような声が作業場に響き、二人の動きを凍りつかせた。
「面白いことをやっているじゃない。私も混ぜて貰えるかしら?」
「「・・・」」
ぎぎぎぎぎ、とそっくりな動きで声のした方を見る兄弟弟子二人。
そこに立っていたのは水色の髪をまとめ、メガネをかけた麗人だった。
前世の日本でなら、スーツを着てオフィスに立っていれば、さぞやり手のビジネスウーマンに見えるだろう。
「め、メディ、これはだな・・・」
「あのね、姉さんこれはですね・・・」
「言い訳は結構です」
「「アッハイ」」
一言だけで馬鹿二人が沈黙した。
「説明を要求します。嘘も、誇張もなしで」
「「イエス・マム」」
むろん、イサミとヒョウエに逆らうという選択肢はなかった。