毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
07-07 クリエ・オウンド
「インド人もびっくり」
――カレー屋のキャッチコピー――
幸いにも入国審査はすぐに終わり、それぞれに入国証が貸与された。
物質的にどころか内包された魔力までコピーできるイサミの複製は、事実上本物と全く変わらない。"
精神集中のきつさと魔力消費の多さに、作業が終わるなり突っ伏してしまった兄弟子を思い出してヒョウエが少し笑う。
貸与された入国証は小さなメダルに鎖が付いたもので、首にかけられるようになっていた。
「これをかけていれば各地の魔導門を通過できるようになります。どこでいつ通ったのか通行をチェックされますし、あちらがその気になれば即座に追跡できる機能もありますが」
「うへっ、おっかねえ」
そんなこんなで門をくぐり、雑踏に紛れて市街地の方へ向かう。
「明かりー! 明かり売るよー! 一週間もってたったのダコック一枚!」
「絶対に効く恋のおまじない! ホーティ銀貨一枚ぽっきり!」
「壊れ物何でも直すアルヨー。1キロあたりダコック三枚ー」
「飛行の呪文いらんかねー。一分で1ダコックだ!」
パン、串焼き、野菜、香辛料、金物や衣料・・・よその国でも見るような様々な露店に紛れて魔法を売る露店がそこかしこに店を広げている。
目を丸くするヒョウエたちをよそに、メディは懐かしそうに目を細めながら進んで行った。
様々な国の様々な民族が行き交う街であるが、同様の国際都市であるメットーに比べてもやはりここは空気が違う。
南国の熱くじっとりした大気、見慣れない街路樹、エキゾチックな建築物や石畳。
何より空気の臭いが違う。香辛料や香木、行き交う人や動物の体臭。そうしたものが鼻の奥をつんと刺激する。
普段ならそれらを率先して堪能しようとするヒョウエだが、流石に今は疲労が強いようだった。
「あー、それにしても疲れましたね・・・」
「ええ、お疲れさま」
「おんぶはいるか?」
ぴくり、とリアスが反応する。そんな主にカスミは半目。
「大丈夫ですよ。ただ今日はもう横になりたいですね。ほぼ全力で半日飛びましたし」
「そうですね。私たちも疲れていますし、今日は宿を取って早めに休みましょう。いいですか、みなさん?」
メディの問いに、四人が頷く。
「そう言やぁヒョウエさ、全力ってことはあれ以上スピードは出ないのか?」
「短時間なら出ますよ。ただ、あれ以上速度を出すと念動障壁をかなり強化しないといけませんから、さすがに消費がとんでもないことになります。
簡単に言えば空気を切り裂いて飛ぶことになるので、念動障壁の強度と形状を考えないと、切り裂かれた空気で大怪我しちゃうんですよね」
「空気を・・・切り裂く? 怪我?」
「???」
「まあわかりませんよね。僕たちの元の世界だと『音の壁』と言われるものですが」
「?????」
「つまりですね・・・」
大雑把に説明した結果、大雑把には理解して貰えたようである――リアス以外。
港湾区にほど近い、旅人向けの酒場に一行は宿を取った。
「ここは外国人向けに香辛料薄めの料理も出してくれますので、みなさんでもさほど苦にはならないと思いますよ」
手慣れた様子でメディが注文する。しばらくして出て来たのは香辛料を利かせた豚の焼肉に香草のサラダを添えたものと、同じく香辛料の利いた混ぜご飯。こちらの世界で言えばビリヤニが近いか。
「!?!??!」
「これは・・・」
ネイティブのメディと、前世でも食い道楽だったヒョウエは平然と食べているが、未経験のモリィ達は初めての味覚への衝撃に目を白黒させている。
それでもしばらくすると慣れてきたのか、普段と同じようなペースで食事を口に運び始めた。
「最初はびっくりしましたけど、慣れてくるとおいしいですわねこれ・・・」
「辛いですけどこのどろっとした牛乳みたいなのを飲むとすっと引きますね」
「この肉いいなあ。酒が進むぜ!」
片手にジョッキ、片手にフォークで料理を堪能するモリィ。
ジョッキの中身は薄い牛乳にも見えるが、ヤシのような植物の実から作った発酵酒だ。
薄いどぶろくのような味で、甘味がある。
それがまた味付けが強めの焼肉によく合った。
「モリィさん? ほどほどにしておかないと後でひどいことになりますよ」
「だーいじょうぶだって姐さん。こう見えても酒にゃ強いんだから」
そう言ってジョッキの残りを一息に飲み干すと、モリィは新しいジョッキを注文した。
「うぐがががががが」
「だから言ったでしょうに」
「頼むから黙っててくれ姐さん、頭に響く・・・」
翌朝、見事にフラグを回収したモリィはベッドの上で芋虫のようにモゾモゾとうごめいていた。
外から聞こえる雑踏の音も辛いのか、時折ビクンビクンと跳ねているのが気色悪い。
メディが溜息をついた。リアスとカスミは呆れ顔。
「おいしいお酒でしたが・・・よくあるんですの、こういうことは?」
「ええ。口当たりが良くて飲みやすいので、慣れていない人がついつい飲み過ごすんですよ」
「一応毒消しを飲んでいただきましたがどこまで効果があるか・・・」
三人揃って溜息をついたところで、ノックの音が響いた。
ゲマイは比較的男女のあれこれに厳しいので、念のためにヒョウエは別部屋だったのである。
「おはようございまーす。そろそろ食事に行きませんか?」
「うがげげげぐごががが」
ノックの音とヒョウエの声が頭に響いたか、斬新な前衛的管楽器と化したモリィがまたしても怪音を発する。
三度、溜息をついて何か言おうとしたメディが何かに気付いた様な顔になり、歩み寄って扉を開いた。
「おはようございます、ヒョウエ」
「おはようございます、姉さん・・・ああ、やっぱりああなりましたか」
ベッドの上で無様にもがくモリィ芋虫を見てヒョウエが嘆息する。
「それなのですが、あなた毒抜きの魔法は使えましたっけ?」
「ええ、数ヶ月くらい前に習得しました――まさか二日酔いの治療に使うとは思いませんでしたけど」
溜息をつきながらヒョウエが部屋に入ってきた。
「いやー、すげえな! 跡形もなくスッキリしたぜ! 魔法すげえ!」
満面の笑顔でモリィが朝食のクレープのようなパンにかじりつく。おかずは香草を混ぜた炒り卵とパンに付けるソースらしきもの、バター。それに香草茶だ。
ヒョウエが肩をすくめる。
「お役に立てて幸いですよ。
「ぐっ」
言葉をつまらせたモリィがヒョウエを睨み付けるが、言い返しはしない。
メディがそれとは少し違う、呆れたような視線をヒョウエに投げかけていた。
「なんですか、姉さん?」
「いえ、なんでも」
本来
一方でアレンジされたヒョウエの呪文は本来の効能に加えて体内の有毒物質を術者であるヒョウエが感知し、"
現実の血清程度には時間のかかる治癒をほぼ一瞬で行えるわけで、毒の治療としては革命的と言って差し支えない。
そんな術を使いこなせる人間が世界中探しても何人いるのか、という話はあるが。
メディが呆れたような目をしていたのはそう言う事だ。
「それでは行きましょうか。一応荷物は全部身につけておいて下さい」
「わかりました、姉さん。近いんですか?」
「ええ、30分もかかりませんよ」
食後、一行は宿を出た。一応三日間は取ってあるが、いつでも脱出できるようにとの無言の心構えを全員が固めている。
雑多な建物が並ぶ、入り組んだ裏道を進むこと十数分。
粗末な木製の住宅の前でメディが足を止めた。
(昭和30年代の下町の家みたいだなあ)
大体ヒョウエの感想通りの家である。一階は特に店をやっているようでもない玄関と開け放たれた窓。二階に物干し場兼任のバルコニーらしきもの。
とんとん、とメディが引き戸を叩く。
「もしもし。いらっしゃいますか」
反応は激烈なものだった。
「うるせえ! 帰れ! 金ならねえぞ!」
二階の窓から響く、モリィとカスミが思わず耳を塞いだほどの大声。
「”#$%&’)~=!」
それに続いて響いた極めて下品な悪口雑言にリアスも耳を塞ごうとして、兜で塞げないことに気付いて慌てて兜を脱ぐ。
(ミトリカを思い出しますねえ)
師匠でその手の罵詈雑言に慣れているヒョウエがそんなことを考えていると、メディが声を張り上げた。
「バーリー! 私です! アンドロメダです!」
大声がピタリとやんだ。ドタドタという足音がする。
(あ、転がり落ちた)
盛大に何かが叩き付けられる音がした。少し間が空いて引き戸が勢いよく開く。
そこにいたのは寸詰まりのゴリラの様な男だった。全身が毛むくじゃらで猫背、両腕が地面に着くほど長い。体には粗末な長い布を巻き付けているだけで、苦行者のような雰囲気もある。
猿か人間かわからないような眉の飛び出たひげ面がくしゃりと笑み崩れた。
「おおおおお! 姫! 姫じゃねえか! 久しぶりだなあ!」
「ご無沙汰しています、バーリー」
メディが懐かしそうににっこりと笑った。