毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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07-08 霊猿(ヴァナラ)

 

 

 バーリーの家の中、ちゃぶ台のようなテーブルに一同は座り、奥からバーリーが井戸水を入れたカップを持ってきた。形がいびつな物や欠けた物ばかりなのが彼の生活程度を示している。

 家具はちゃぶ台と引き出しの沢山ついたタンスくらい。

 タンスにちらりとヒョウエが眼を向けていた。

 なおゲマイは湿気と泥が多いせいか、家の中では靴を脱ぐのが一般的である。

 

「きたねえ家で悪いな。香草茶なんて気の利いたものもねえが、まあ勘弁してくれや」

「大丈夫ですよ、知ってますから」

 

 あははと声を合わせて笑うバーリーとアンドロメダ。

 二人とあっけにとられる三人娘をよそに、ヒョウエがバーリーを興味深げに観察していた。

 

(これが霊猿(ヴァナラ)ですか。初めて見ました)

 

 ヴァナラ。

 妖精の一派で見たとおりの猿人間である。

 森に住む種族で、基本的にはエルフ同様人間とは余り交流がないが極めて好奇心が強く、住処の森から出て人間社会を旅する個体が少なくない。

 メットーにも何人かいるようで、サナは見かけたことがあるらしい。

 

 能力は妖精としては平均的で、身体・魔法能力ともに人間より一回り高い程度。体躯は2mくらいが普通のはずだが、この男は随分と小柄だ。

 知力も人間と同程度だが柔軟で適応力が高く、多彩な技術を身につける傾向が強い。

 優れた野伏りで、森や山で彼らと戦うのはエルフでさえ避けると言われている。

 

 性格は一言で言えば馬鹿正直で個人主義。思ったことを率直に口にして他種族といさかいになることがしばしばある。

 その反面善良で勇敢で誠実、一度友と認めれば絶対にそれを裏切らない。

 ヒョウエが今持っている知識はそのくらいだった。

 

 

 

 ずずず、と茶碗の水をバーリーが音を立ててすする。

 

「それでなんだ、姫? 帰ってくるからにはよくよくのことだろ」

「はい。リムジー家に潜入する手伝いをして欲しくて」

 

 ブフッ、と三人娘が一斉に吹いた。

 ひげに囲まれたバーリーの口元がニヤリと歪み、黄色い歯がむき出しになる。

 

「かはっ。いいねえ。どうすんだ、オヤジさんをくびり殺すのか? だったら是非とも俺にやらせてほしいもんだがな」

「今更あの男に恨みも何もありませんよ。必要な物がありまして。言葉の環(スピークリング)、覚えてますか?」

「あ? ええと・・・ああ、あのニホンのからくり仕掛けか! 声が出る奴だよな」

「はい。それの再生機が欲しいのです。それも足が付かない形で」

「あれ?」

 

 ヒョウエが首をかしげた。

 

「だったら何故兄さんを連れてこなかったんです? 兄さんの力で複製すれば完璧じゃないですか」

「そう言う手もありましたが、荷物はなるべく少なくするに越したことはありませんし」

 

 夫をさらりと荷物扱いするメディ。

 王宮に忍び込んだことをまだ怒っているのかも知れない。

 

「ではどういう? 盗み出してもバレないデッキがあるんですか?」

「いいえ? 狙うのはデッキ本体ではありません・・・デッキを作る魔法の鋳型です」

 

 にっこり、とメディが微笑んだ。

 少し考えた後、ヒョウエがぽんと手を打つ。

 

「そうか、部品を作って組み立てるんじゃなくて・・・」

「はい。物体創造(クリエイト・アイテム)の効果を持つ具現化術式です。魔力を流せば完成品が出てくるたぐいの。

 解析に成功して量産できたと言うより、先生が色々試していたら鋳型をぽんと具現化してしまったのでそこで研究が終わってしまったという感じですね」

「師匠ェ・・・」

 

 相変わらずでたらめな老人だと、ヒョウエが呆れた顔になる。

 もっとも、それを口にしたらこの場の全員から「お前程じゃない」と突っ込まれることだろうが。

 

「私のいたときと変わらなければ、鋳型は工房に安置されているはずです。

 それなりに大型ですし、リムジー家の術師たちをもってしても、十数人が数ヶ月の儀式を行って魔力を注いでようやく一個生産できる、というレベルですからね。

 余り厳重に守る必要がありません」

「なーるほど、つまり僕がいれば」

「ええ。あなたが全力で魔力を注いでくれれば恐らくは一時間もかからずに新しいのが作れるでしょう」

「マジか。オリジナル冒険者とは言え化け物じみてんなあ、おめえ。エルフやピクシーでもンな魔力は出せねえぞ?」

 

 流石に呆れるバーリーに、ヒョウエは無言で肩をすくめた。

 

 

 

 奥に引っ込んでしばらくして、メディがゲマイ風の原色の装束に着替えて出て来た。

 ロングスカートの赤いワンピースに青い長い布を巻き、頭には真紅のスカーフ。

 庶民の女性が着る服だが、着ているのが並外れた美人のアンドロメダなので実に絵になる。

 

「うわあ、新鮮ですね」

「おきれいですわ・・・!」

「あら、ありがとう」

 

 リアスの賛辞にメディがにっこりと微笑む。

 バーリーがにやにやしながらその姿を上から下までじろじろと無遠慮に眺める。

 

「へへっ、昔のまんまじゃねえか、姫よ。おめえのものを取っといてよかったぜ。

 まあ一番心配なのは結婚なんぞしてぶくぶく太ってやしないかってことだったがな。

 どうにか見れるケツは維持してるじゃねえか」

「ケッ・・・!」

 

 リアスが絶句する。カスミも同様だ。モリィは目を丸くしている。

 メディがにっこりと笑った。ただし目が笑っていない。

 

「あいにくと亭主が宿六ですのでね。苦労のしつづけで太る暇もありません」

「そうかそうか! それなら俺に任せとけ。今度こそブチ殺してやる」

 

 心底嬉しそうにバーリーが手をすり合わせた。

 メディが大仰に驚いてみせる。

 

「あらあら、そんな事を言って、五年前にボロボロになるまで殴り合って、結局負けたのを覚えていないんですか? 参りましたね、そろそろ歳ですしボケが始まったんでしょうか」

「馬鹿言え、あれはお前の男だってえから手加減してやったんだ。本気を出しゃあ、あんなウドの大木イチコロよ」

 

 そのまま笑い合う二人。リアスとカスミは呆然とし、ヒョウエとモリィは視線を交わして肩をすくめた。

 

「それで姉さん? 多分情報収集だと思いますが、その間僕たちは?」

「取りあえずここで待っていてちょうだい。お昼頃には帰ってくるから。ついでに食べる物も買ってくるわ」

「食う物なら台所に香料漬けの肉があるぜ?」

「アレは大抵の人間にとっては食べ物と言わないんですよ、バーリー」

 

 そんな事を言い合いつつ、メディとバーリーは出て行った。

 居間に取り残された四人。しばらく沈黙を保っていたが、やがて誰からともなく溜息をつく。

 

「強烈な人でしたねえ」

「それと渡り合うメディ姐さんもすげえや」

「よくもあんな・・・あんな・・・」

 

 口ごもるリアス。カスミもコクコクと頷く。

 

「まあ姉さん本人も割とアクが強いとは思ってましたけど、ああ言う人相手に鍛えられていたなら納得です・・・」

 

 ドンドンドン、と戸を叩く音がした。

 

「先生! バーリー先生! いる!?」

 

 続けて飛び込んできたのは、腰布一枚を巻いただけの肌の浅黒い少年。

 見慣れない格好のヒョウエたちを見て目を丸くしている。

 

「バーリーさんは今お出かけ中です。どうしたんですか?」

「え、ええっと・・・」

 

 口ごもる少年に、にっこりとヒョウエが微笑みかける。

 このへんの相手の緊張を解く手管は交渉の初歩だ。

 

「僕はヒョウエ。バーリーさんの客です。何かあったなら助けさせて頂きますよ?」

 

 それでも少年はしばらく迷っていたが、やがて意を決して喋り始めた。

 

「クリピーが、妹が腹が痛いって苦しんでるんだ! 何か変な物食べたのかもしれなくて・・・どうにか出来る?」

「食あたりですか。何とかしてみましょう。医療の心得はありますし、解毒の術も使えますから」

術師(ジャードゥガ)・・・!」

 

 少年が目を見開く。

 肩を叩いて落ち着かせ、案内を頼んでヒョウエはバーリーの家を飛び出した。

 

 

 

 少年――クリパという名前――の妹は、果たして食あたりであった。

 食あたりというのはつまる所食物の中の毒素で中毒を起こした状態なので、解毒の術で治療できる。

 モリィの二日酔いを治したときと同じく、特別製のヒョウエの解毒の呪文がクリピーの体を駆け巡る。

 

「あれ・・・?」

 

 今まで苦しんでいた少女が身を起こし、下腹に手を当てて目をパチパチまばたかせる。

 

「クリピー!」

 

 クリパが妹を抱きしめる。目を白黒させるその様を、ヒョウエが眼を細めて見つめていた。

 

 

 

「お帰りなさいませ、ヒョウエ様」

「おう、お帰りー」

 

 バーリーの家に戻ると、まだメディ達は帰っていなかった。

 

「あの子の妹さんは・・・?」

「もちろん快癒しましたよ。ほら、これをお礼に貰ってきました」

 

 手に持つ野菜や豆を入れた竹籠を指し示すと、リアスはほっとした顔で胸をなで下ろす。

 メディ達が帰ってきたのはそれから二時間ほどしてからだった。




ヴァナラはインドの叙事詩「ラーマーヤナ」に登場する知恵を持つ猿の一族です。
ハヌマーンとかがこれですね。
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