毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「只今帰りました」
「おう、大人しく待ってたかガキども・・・なんだ、患者が来たのか?」
昼前に二人が帰ってきた。バーリーが土間におかれた野菜のかごを目ざとく見つける。
「ええ、これこれしかじか」
「ほーぅ。解毒の呪文が使えるのか」
「ヒョウエは医療の知識も持っていますし、信用していいと思いますよバーリー」
「ふん、姫がそう言うなら信じてやらあ。まあ一応後で見には行くがな」
「ですね。大丈夫だとは思いますが確認はしておかないと」
ヒョウエが頷く。リアスが感心したように微笑んだ。
「それにしてもバーリー様はお医者様でいらしたのですね」
「そうは見えねえだろう?」
けけけ、と笑うバーリー。リアスが僅かに頬を朱に染めた。
ちなみにヒョウエは居間にあるのが薬たんすだと気付いた時点で、医者か薬師の心得があるのだろうと察していたりする。
「も、申し訳ありません」
「いいって事よ。どうせ聞きかじった知識で適当にやってるだけだ。そこのボウズの方がマシかもしれねえぜ?」
くすくすとメディが笑う。
「・・・なんだよ」
「いえいえ。そう謙遜しなくてもいいでしょうにと思っただけです。このへんの人々の病気や怪我をほぼ一人で何十年もまかなっているんじゃありませんか」
「ふん」
むっつり顔のバーリーがぷいと横を向く。ひげでわかりにくいが顔が少し赤い。
くすくすとまたメディが笑った。
「まあその話はおいておきましょうか。町で少し気になる話を聞いてきました――どうもリムジー家が麻薬の売買に手を染めているらしいという話があるんです」
「ええ!?」
あくまで噂のレベルである。出回っているという麻薬も、その出所がリムジー家であるという点も確認が取れてはいない。しかし・・・
「参りましたね・・・放置するわけにはいかなくなりました」
ヒョウエたち、特にヒョウエにとっては放置できる話ではない。
日本から来た転生者の多くはそうだが、彼も麻薬に対しては本能的な忌避感があった。
「
「サフィアの姐さんがいてくれりゃあよかったんだがなあ」
「サフィア様もあくまでメットーのクライムファイターでいらっしゃいますからね。ゲマイのようなアウェーではやはり苦労されるでしょう」
「なるほど、そうなのですわね・・・」
一同が考え込んだところでメディが言葉を挟む。
「取りあえず優先順位はオープンリールデッキです。麻薬についてはできればと言うところにしましょう。よろしいですか?」
全員が頷いたのを確認して話を続ける。
「目標はここから歩いて一時間ほどのところにあるリムジー家の工房です。場所が変わっていなければ、一階の大工房の一つにあるはずです」
「わたくしは透明の術が使えますが、それで?」
「いえ、このような国ですから透明術に対する対策も一般的です。単純に透明になって近づくだけでは、壁を乗り越えたところで透明化を解除されて警報が鳴るだけですね」
「さすが魔導の国ですねえ」
うーむ、とヒョウエたちが感心する。
「ではどうやって?」
「地下水道から侵入します。魔導による感知もあそこは甘くなっています。何せ金属製のパイプ一杯に水が満ちてますからね。
そして五分や十分でたどり着ける距離ではありませんから、それなり程度の術師では途中で溺れて終わりですね」
「うわ、怖ぇ」
「何か魔法の道具がおありですの?」
「・・・というか」
「アンドロメダ様がご自分で何度も使ってらしたのでは?」
ヒョウエとカスミの半目の視線。
元リムジー家のお姫様は無言で、ただにっこりと笑った。
「モリィ、周辺に人はいませんか?」
「おう。少なくともあたしの見た限りでは誰もいねえな。鳥とカエルとトカゲ、ああ、2km先に魔導門の守衛がいるが、こっちを見ちゃいねえ」
「どうも」
半日後。日が暮れる直前になって一同はクリエ・オウンド郊外の貯水池に到着していた。ここから首都の2割ほどの街区に水を供給しているが、創世八家や公的機関などいくつかの重要な施設には直接パイプを引いている。
リムジー家の工房もその一つだった。
「・・・地下に金属のパイプを埋めて、その中に水を通してるんですの!?」
リアスが目を丸くする。メットーにも水道はあるが、それでも井戸や石製の地下水路、水樋(木製水路)などを通してのもので、地中に埋めた金属管など想像の外であった。
「流石に大都市だけですけどね。ニホンにも同じような仕組みがあったのでしょう?」
「ええ。随分とお金がかかりますけどね。魔導の国とは言えよく作るものです――しかし、これからどうするんですか? 姉さんは普段着のままでいいと言いましたけど」
メディが頷く。
「はい、そのままで大丈夫です。それとリアスさん、念のために聞いておきたいのですがその白甲冑は『泳げ』ますか? つまり水に沈んだりしてしまわないかと言うことですが」
「はい。使ったことはありませんが、兜を閉じればしばらくは水の中でも息ができるとか」
「それは重畳。ではバーリー、お願いします」
「おうよ」
バーリーが水際に立った。
周囲を見渡して長い腕を持ち上げ、祈るように上に向かって広げる。
水面に、バーリーを起点として波が広がる。
「・・・」
「!?」
突然、水面に「切れ目」が入った。
液体であるはずの水が四角く成型されてゆき、水面に四角い穴が空く。
穴の中の水面が一段下がり、50センチほどの長方形を残してもう一段下がる。
それを何度も繰り返し、一分ほどで水でできた下り階段が完成した。
緩やかにカーブしたその先には、鉄格子で封鎖された穴がある。
水の階段の前に立っていたバーリーが一歩脇へ下がり、優雅な動作で完璧な一礼をした。
うやうやしく、芝居がかった口調とともにメディに手を差し出す。
「さあどうぞ、我が姫よ。どうぞ卑しきこの身のエスコートをお受け下さい」
「喜んで」
にっこりと笑ってメディがその手を取る。
「おー」
「「「・・・」」」
軽く感心しているヒョウエと、唖然としている三人娘。
「ほら、何をしているんです。ついてきなさい」
「はい、姉さん。ほら、行きましょう」
「あ、ああ・・・」
そのまま階段を下り始めるアンドロメダとバーリーに続いてヒョウエは楽しそうに、三人娘はおっかなびっくり水の階段を下り始めた。
半分ほど水没している鉄格子に、メディが懐から取り出した何かを触れさせる。
すると鉄格子が縁の一点を中心に、滑るように半回転して口が開いた。
「それじゃ沈むぞ。慌てるなよ」
「それはどういう・・・」
ヒョウエの言葉の途中で、いきなり水の階段が消失した。
元の液体に戻った水は全員を飲み込み、貯水池の水面は元通りになった。
「’%&$#’&”#”!???!?? ・・・・・・・・・・・あれ?」
もがいて咄嗟に上に浮かび上がろうとしたモリィだったが、途中で息ができる事に気付く。よく見れば、体の周囲数センチを空気が覆っており、自分を含めて全員それぞれの体に合わせた泡の中にいるのがわかった。
リアスも動揺しながら自分の周囲を確認しており、カスミもモリィ達よりはマシだがやや動揺している。ヒョウエは
「これは・・・どういうことですの?」
「バーリーの《水の加護》です。こと液体であれば、バーリーは自由自在に操れるんですよ。加えて水系統の術にも高い適性があります」
「おおー」
「ははあ・・・」
ヒョウエたちが感心するが、その中でも特にヒョウエとカスミの顔に感嘆の色が濃い。
ヒョウエはもちろんだが同じ一系統特化型の《加護》だけに、バーリーの凄さがわかるのだろう。
「さ、行くぜ。はぐれないようにお手々つないでついて来いよ」
バーリーがあごで水路の入り口を指す。
パイプの大きさは2m以上あり、(この場にはいないが)巨漢のイサミでも立って歩けるほどだ。
六人の姿が水路の中に消える。丸い鉄格子の蓋が再び回転して水路の入り口を閉じた。