毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
カスミの光球に照らされ、六人が金属パイプの中を移動していく。
高速で流れていくパイプの継ぎ目。
もちろん水流もあるが、明らかにそれより早い。
はっきりとはわからないが、恐らく馬以上だろう。
自分で泳ぐこともなく、周囲の水に動かされているような感じだ。
「便利ですねえ」
「へっ、こんなのはお茶の子さいさいよ」
思わず漏れたヒョウエの言葉にバーリーが胸を張る。これもバーリーの仕業なのか、水に阻まれていても普通に会話はできた。
「やっぱり姉さんがしょっちゅう使ってたんですか?」
「おう、姫は修行でよく工房に押し込められててな。それに飽きると俺に連絡して・・・」
「バーリー」
後ろからメディの声がかかる。くるりと一回転したバーリーのにやにや顔。
「おう、なんだい姫」
「あまり弟たちに余計なことを吹き込まないで下さい」
「いいじゃねえか、おめえ昔から表情が固くて避けられてたんだからよ、こうして少しは愛嬌のあるエピソードを話してやって親近感をだな・・・」
「バーリー!」
語気を強めたメディの声。僅かに顔が赤い。
けっけっけと笑ってバーリーが口を閉じた。
「そう言うわけだ、話の続きは姫のいないところでな」
「続けなくて結構!」
更にいらだたしさをにじませた声に、バーリーは今度は大口を開けて笑った。
三十分ほど経った頃、バーリーが速度をゆるめた。
「このあたりだったか?」
「ええ、そろそろ・・・ありました」
メディが指さしたのはパイプの脇にはまる丸い鉄格子。格子の隙間を通り、水が流れていくのがわかる。
バーリーが指を動かして全員をその場に止め、メディが体を入れ替えて懐から取り出した
息のあった様子に、思わずヒョウエの口元に笑みが浮かぶ。
「・・・何か?」
「いえ、なんでも?」
笑みを浮かべたまま、ヒョウエはすっとぼけた。
少し行ったところでパイプが上向きになる。途中二度、更に鉄格子を通りすぎて浮かび上がったのは屋内のため池のような場所だった。
石造りの四角い池に水が満たされ、そこから更にいくつかのパイプが壁を伝って上に延びている。
明かりがなく殺風景なのを除けば浴室のようにも見えた。
そのため池の水面に六人が浮かび上がる。
固い地面であるかのように水面に立ち、モリィなどは興味深そうに足踏みして足元を確かめていた。
アンドロメダが無造作に足を踏み出し、歩き始める。
その顔はいつの間にかスカーフで隠されていた。
「さ、ついてきて下さい。まずは鋳型です。私のいたときと変わらないままなら、
頷いてヒョウエたちは歩き始めた。
オープンリールデッキの鋳型はあっさり見つかった。
アンドロメダが言った通り「木星の大工房」に設置されたままだったのである。
「こりゃでけえな。動かしたくねえのもわかるぜ」
モリィが軽口を叩く。彼女の言葉の通り「鋳型」は大きかった。
さしわたし縦横高さが3mほどはあり、周囲の床には銀色のろうで様々な紋様が描かれている。
「これは・・・魔力を効率よく伝達して蓄積するためのものですね。この大きな外装、ほとんどそれじゃないですか?」
「ええ。前にも言ったように、デッキを具現化するには膨大な量の魔力を、それもある程度一気に注ぎ込まないといけませんからね。
あなたみたいな反則級の《加護》でもなければ、術師を何千人も集めるか、こうした補助が必要になります」
ふむふむとヒョウエが頷く。
「まあ、でしょうね――あんまり貯まってませんね。中の鋳型に直接魔力を注ぐよりは、これを介して鋳型を起動させた後、改めて適当に魔力を注いだ方がいいかな?」
「ですね。操作や魔力目盛の見方はわかりますね?」
「ええ。姉さんたちに教えて貰った形式のままですし。では始めますよ?」
「よろしく。私たちはその間にここを少し探してみます」
「麻薬関係ですか」
リアスの確認にアンドロメダが頷く。
「正直こちらで何がわかるものでもないでしょうが、市の中心から離れているのでひょっとしたらという可能性もあります」
「オーケイ。あたしらに任せときな、姐さん。カスミも頼むぜ」
「微力を尽くします」
再度アンドロメダが頷いた。
「そう言うわけでヒョウエ、行ってきます。管理棟の二階から探していきますので、万一の時はそちらに」
「わかりました」
ヒョウエが頷いたのを確認して、アンドロメダたちは部屋を出た。
勝手知ったる自分の家、すいすい歩くアンドロメダの後をついていく。
先頭に立つ彼女の横にはモリィ。中央にリアスとバーリー、最後尾にカスミだ。
「姐さん、あのドアに魔法がかかってるぜ」
しばらく歩いた後、モリィが廊下の突き当たりにあるドアを指す。
「ええ。管理棟との連絡通路ですのでそれなりのセキュリティがかかってます。まあ多分問題ないとは思いますが」
言いながら懐から
「さっきも出してたけどなんだいそれ?」
「リムジー家の一員であると証明する、まあ冒険者の認識票みたいなものです。これがあれば大体の鍵や扉は開けられますよ」
口笛を吹こうとして自重する。
「どうしました?」
「いや、なんでもねえよ」
流石に人様の家に忍び込むのは久しぶりだし、盗賊としては随分なまってるなあと思いつつ、ふと疑問が浮かぶ。
「そんなすごいもんよく持ち出せたよな。姐さんが持ち出したって一発でわかんじゃねえのか?」
「普通ならそうでしょうが、私には世界一の贋作師がついていましたので」
「ああ」
微笑むメディ。イサミのことを思いだして、三人娘が頷いた。
メディの足音と、リアスの鎧がこすれる僅かな音が廊下に響く。
他の三人は音を立てていない。
そこから何度かチェックのある扉をメディの護符で通り抜け、工房に併設された管理棟の二階に到着する。
モリィとカスミが交互にドアに耳を当て、メディに頷いた。
護符を当てると、カチリと音がして鍵が解除される。五人が素早く滑り込むと扉は閉じられた。
中はかなり質の高い調度の整えられた執務室だった。
モリィが周囲を見渡して、今度こそ口笛を吹く。
「すげえな。壁の絵から小物から棚から本から、全部魔法がかかってるぜ。調度品も含めるとこの部屋だけでリアスの屋敷くらいは買えんじゃねえの?」
「・・・本当ですの?」
「マジマジ。そこのソファの背にかかった織物とか、なんとか山羊って特殊な品種の毛でさ。ディテクだと同じ重さの黄金と取引されるってよ」
「・・・」
唖然としつつも籠手を外して白い毛織物に手を伸ばすリアス。
(あ、気持ちいい)
伯爵家令嬢であるリアスをして、今までに感じたことのない絶妙な手触り。
そのまま夢中になって毛織物をさするリアスに、メディが笑みをこぼした。
「まあ多分そこまでではないと思いますけどね。
カルノー山羊はゲマイの北の"
リムジーは魔道具の製作を得意とする家柄ですから尚更ですね」
「なるほど」
説明しながらもメディは執務机の奥の棚をいじっている。
カチリと音がして、棚の一部がスライドした。
そこには鍵穴のついた、小さな鉄の扉。
短く呪文を口ずさんでメディが頷いた。
「やはりここは護符だけでは開きませんね。モリィさん、鍵開けをお願いできますか」
「おうよ、任せてくれ。このままじゃやる事がなくて体がたるんじまうってもんだ」
モリィが懐から巻いた皮を取り出す。様々な道具が並ぶそれを開いて細長いピックを取り出し、一つ深呼吸をした。