毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
数曲歌ったところで用足しと言ってヒョウエが姿を消した。
その姿が角を曲がって消えた途端、モリィの周囲にわっと人が集まる。
「すげー! ねーちゃんすげー!」
「私感動しちゃった!」
「いやあ、凄いな嬢ちゃん! 格好からすると冒険者みたいだが」
「俺知ってる! この人ヒョウエ様の冒険仲間なんだぜ!」
「冒険者かあ。赤板みたいだけど歌い手の方が稼げるんじゃない?」
「わかる。凄かったよな」
「なあなあ、俺マーシャン劇場へのコネがあるんだけどさ、ちょっと歌ってみない?」
「あーうるせーうるせー! 散れよ!」
モリィが両手を振り回してそうした者達を散らす。顔が赤い。
「あー、おねーちゃん照れてるー」
「てれてるー」
「黙れガキども!」
きゃー、と虫の子を散らすように子供達も散っていく。
少し離れた所で再び寄り集まると、何事か話してはくすくす笑っていた。
数分後、モリィは何故か子供達に屋台の菓子をおごっていた。
へこんだ鉄板に小麦粉を流し込んで焼く、餡の入ってない人形焼きのような菓子だ。
「クソッタレめ、なんでこんなガキどもに・・・」
「ねーちゃん押されると弱いタイプだよな」
「"れんあいじゃくしゃ"ってやつだ」
「悪い男にだまされそう!」
「ブッ殺すぞてめえら!?」
モリィの脅しに最早逃げもせず、きゃっきゃと笑う子供達。
完全に性根を見透かされている。
「ちくしょうめ・・・」
人形焼きの残りをほおばって、怒りにまかせて咀嚼する。
それを飲み込んだところで違和感に気付いた。
「!?」
反射的に雷光銃を抜き、周囲を警戒する。
《目の加護》を持つ自分がどうして気付かなかったのか。
周囲の風景がおぼろげになっていた。
霧でぼやけるとかそう言うことではなく、風景自体は変わりないのだが舞台の書き割りのように現実感のないものになっている。
周囲の声も聞こえるが、そのどれもが意味の通った言葉として聞こえない。
街路のざわめきのように聞こえるだけの、ただの音。
「なー、ねーちゃんどうしたんだ?」
「喋るな! 動かないで固まってろ!」
「・・・!?」
訳がわからないながらも、モリィの本気に押されて子供達がコクコクと頷く。
じっとりと、脇に汗がにじんできた。
「・・・・・・・・!」
気がつくと、目の前に男がいた。
瞬時に移動してきたとかではなく、ずっとそこにいたのに今気がついたような案配だ。
いかにも魔法使いらしい濃緑色のフード付きローブ。ヴェールで顔は見えない。
先ほどの広場で幻術を見せていた芸人術師だとモリィは気付いた。
(つまり、今見えてる景色は僕たちの心に送り込まれた幻かも知れないと言う事ですよ)
ダンジョン・コアの中で聞いたヒョウエの声が甦った。
躊躇せずに雷光銃のセーフティを外し、銃口を向ける。
「つまり、てめえがこの状況の黒幕って訳だ」
「ひひひ・・・鋭いね。それとも《目の加護》のおかげかな?」
劇に出てくる「悪の魔術師」そのものの笑い声を上げて、幻術師が肩を震わせる。
モリィは無言のまま。手にした雷光銃が雷光を撃ち出すことはない。
「そうそう、それでいい。軽々しく引き金を引けば、回りの何の罪もない人々に当たるかもしれないからねえ?」
「・・・チッ」
含み笑いをする幻術師。モリィが舌打ちをして銃口を下ろした。
「で、何をしたいんだてめえは」
「君についてきて欲しいんだよ、ひひひ・・・」
「何のためにだ」
「それはもう、ヒョウエくんだよ。さすがにね、まともにやり合ったら不利だからね。君に人質になって欲しいのさ、ひひひ・・・」
それを聞いた瞬間、モリィが腰を落として跳び下がろうとする。
が、そこで動きがぴたりと止まった。
体が動かない。動かそうとしても首から下の筋肉がピクリとも動いてくれない。
「なんだ・・・てめぇ、何しやがった!?」
「魔法だよ。それ以外にあるかい? まあ君程度なら無理矢理連れていくこともできるんだが、逆らわれると操るのも面倒でね。『私の言うことに従います』とはっきり言ってくれるとありがたいんだけどな」
「ざっけんなこの・・・」
モリィが罵り言葉を言い終わる前に男が消えた。
「!?」
動かない体で首だけを動かす。
いつの間にかそこにいた男は、子供の一人の首に後ろから短剣を当てていた。
子供達も体の自由を奪われているようで、刃を当てられた女の子は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「ガキどもに手を出してみろ! ブッ殺すぞ!」
「はいどうぞ、お出来になるなら。ひひひ・・・」
歯がみはするものの、体はピクリとも動かない。
加えて相手が幻の使い手である以上、相手が今見える位置にいるとも限らない。
泣きそうな顔。顔。顔。既に涙をこぼしている子供もいる。
(きついんだよなあ、こういうの・・・)
弱り切った顔で溜息をつく。
「それで、どうするかね? まあ答えても答えなくても君は連れて行くけど、子供の死体が転がるかどうかは随分違うんじゃないかね、ひひひ・・・」
「あーあー、わかったよわかりましたよ! 『あなたに従います』! これでいいかチクショウめ!」
「けっこう、ひひひひ・・・。~~~~」
男の呪文を唱える声と共に、モリィの意識はぶつりと途切れた。