毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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07-15 とんぼ返り

 眼下の光景が矢のように流れていく。

 "世界の屋根(バルプカ・ニヴァース)"と呼ばれる世界最大の山脈を軽々と跳び越えて、ヒョウエの杖は一路メットーを目指す。

 凍てつく寒さや薄い空気も、念動障壁の中には入ってこない。

 白い山々、その遥か下に浮かぶ雲。ただ絶景だけが眼下にあった。

 

「しっかし、行く時に比べてちょっと遅くないか? あたしの気のせいか?」

「気のせいじゃありませんよ。重い荷物を乗せてますからね」

 

 ちらりと後ろを見る。

 最後尾に乗っているというか、杖に乗り切らないので念動障壁にもたれかかっている大男が仏頂面でその視線を見返した。

 

「何だよ、俺が悪いとでも言いたいのか」

「実際重いんですよ。兄さんだけで重さが五割増なんだから」

「ふん、なら俺だけ転移で送ればよかったろうに」

「6000km転移させるのがどれだけ魔力使うかわかってます? ましてや150キロもある肉の塊を。向こうに着いたときに余力は残しておきたいんですよ」

「お前にも人間らしく限界があると知ってうれしいよ」

 

 イサミが肩をすくめる。

 メディがくすくすと笑った。

 

「それはそれとしてヒョウエ、メットーまではどれほどかかるかしら?」

「この速度だと多分九時間ほど、日が暮れた後になりますね」

「間に合うかね」

「間に合わせましょう」

 

 真剣な顔でメディが頷いた。

 

 

 

 日が暮れて少ししたあたりで一同はメットーに舞い戻った。

 緊急の際でもあるし、透明化の呪文で城門はスルーする。

 スラムの屋敷に降りるとサナとリーザが待っていた。

 

「お帰りなさいませ、ヒョウエ様。夕食の支度がととのっております」

「お疲れ。とにかくごはん食べよ。話はその後で」

 

 頷いてヒョウエたちは屋敷に入った。

 普通なら旅塵を落としてから・・・となるものだが、ずっと念動障壁の中にいたヒョウエたちには無縁のものである。

 それぞれの部屋に荷物を置いて、すぐに食事が始まった。

 途中で弁当を食べただけであったし、ゲマイから戻った組はクリームシチューやグレービーソースに泳ぐ牛焼肉などサナの料理を腹の中に詰めていく。

 

「うめぇっ! ゲマイの飯もうまかったけど、やっぱり食い慣れたものが一番だな」

「ですわね。とはいえゲマイの料理も中々目先が変わって美味でした。たまには口にしてみたいものですわ」

「東南の猫女(キャットフィメール)広場にゲマイ料理の屋台がある。黄色い屋根の奴だ。食いたくなったら是非行ってみるといい。

 香辛料のスープとパンのセット、それに窯焼きの鳥肉がお勧めだ。香草の揚げ物とヨーグルト飲料をつけるのも悪くない。

 たまに菓子を売っていることもあるから、見つけたら買っておくといい。香草茶に良く合う。

 珍しいメニューとしてはモツ煮込みだな。羊や牛、豚などのモツをまとめて香料スープで煮込むんだが、どういう訳か柔らかく煮込んでいるのにモツの弾力がはっきり残っていて、柔らかさと味覚のハーモニーは筆舌に尽くしがたい。

 そしてこちらは更に珍しいんだが、淡水魚のスープが絶品で――なんだ?」

 

 自分に視線が集中しているのに気付き、イサミが眉を寄せた。

 リアスが曖昧な笑顔を浮かべる。

 

「いやまあその・・・」

「いきなり饒舌に語り始めたら、大概の人は驚くんですよ、あなた」

「俺、そこまで無愛想じゃないだろう?」

「そう言う問題ではなくて」

「兄さん料理の話になると早口になるの気持ち悪いよね・・・」

「だからこの世界じゃわからねえボケかましてんじゃねえよっ!」

 

 食事を終え、サナとリーザが大急ぎで片付けを終えると、一同は作戦タイムに入った。

 テーブルに置かれたオープンリールテープを見下ろして、イサミが腕組みする。

 

「で、どうするんだ? 聞いた話じゃ、こいつは青い鎧として受け取ったもんだそうじゃないか。

 つまり、ヒョウエとして表立って活動するのは難しいだろ?」

「その辺は考えてありますよ。まず兄さんが師匠を通じて、青い鎧と知り合いな事にする」

「まあ嘘ではないわな。それで?」

「姉さんがゲマイの人だと言うことも知っているので協力を要請し、姉さんたちは僕らに協力を要請してゲマイに飛んだ。そしてあれこれあってケイフェスさんの協力も得て中身を知り、とって返した。

 そして青い鎧にそれを話し、青い鎧はそれを知って王国諜報機関にこの情報を伝える――そういう線でどうでしょう。

 むろん姉さんたちには同時並行で『本来の宛先』と接触してもらいます」

「ふむ。問題なさそうですね」

 

 メディが頷く。

 

「ではこれで」

 

 ヒョウエが頷いてテープを懐に戻した。

 

 

 

 カチリ、と音がしてデッキが止まった。

 

「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 ケイフェスの居室でそうだったように、沈黙が部屋に満ちる。

 王都北西にあるカレンの別邸、もっと言うなら王国諜報機関"片隅の垂れ幕(コーナー・ヴェール)"のセーフハウスの一つ。

 その応接室で青い鎧、カレン、"狩人(ハンター)"が顔を付き合わせていた。

 滅多に見れないような硬い表情で、カレンが青い鎧を見上げる。

 

「青い鎧様。念のため。本当に念のためにお聞きしますが、手の込んだいたずらではないのですね?」

「レディ・アンドロメダ、正確にはそのお父上であるケイフェス閣下によれば、このメッセージを送ったのはその様な事をする人物ではないとの事にござるがな・・・」

 

 自信なげに答える青い鎧。

 演技のようでもあるが、実際ヒョウエとしてもいまだに今一つ確信が持てない。

 

「麻薬と催眠術によって魔法によらない精神操作を行う――まあそこまではいいでしょう。権力を握るために邪魔な当主や、ライバル家の当主を洗脳するのもよしとしましょう」

 

 そこで一旦カレンが言葉を切って、大きく息を吸う。

 

「ですがそれを、大陸中から集まった各国貴顕に施す? それを足がかりにして、大陸の全ての国家首脳を洗脳して世界を我が物とする? 陰謀を企むにしたってやり方というものがあるでしょう! 吟遊詩人の三文叙事詩ではないのですよ!?」

「カレン様」

 

 "狩人"が口を開いた。たしなめるような響き。

 もっとも、彼も眉を寄せて目元を揉んでいるあたり、感想は似たり寄ったりらしい。

 

「長くこの仕事をやって来ましたが、陰謀を企むものが皆まっとうに行動するとは限りません。

 ウィナー伯爵の事件の時にメットーの商家を脅迫した馬鹿者どもがいたでしょう?

 ああ言うのは必ず一定数います。身の程をわきまえないのか、自分の得た力に酔っているのか、あるいは単に馬鹿なのか。

 まあ、それら全部でしょうな」

「えぇ・・・」

 

 凄く嫌そうな表情で顔をしかめるカレン。

 苦笑しながら"狩人"がデッキを持ち上げた。ためすがめつ、ひっくり返して観察する。

 

「しかしニホンの技術は素晴らしいな。青い鎧、ものは相談だが・・・」

「そのテープはともかくデッキの所有権はハーキュリーズ夫妻にある。買い取りたければそちらと交渉して頂きたい」

「わかった」

 

 頷いて"狩人"はデッキをテーブルに戻した。

 

「まあ正直あるとありがたいけど、それは後でもいいわ。問題はどうやって対処するかよ。本来なら心術師に探りを入れさせるところだけど」

「"片隅の垂れ幕(コーナー・ヴェール)"と言えど魔術ではゲマイの間諜にかなうべくもなかろうな」

「まあ魔法だけが諜報ではない。何とかやってみるしかあるまいな」

「ところでこのメッセージの本来の宛先はどこなのかしら?」

「そちらはハーキュリーズ夫妻が接触しているはずだ。どうも顔見知りらしくてな。今回の件については彼らと協力するのがよかろう」

「そうですわね。・・・」

「殿下、何か?」

「いえ、何でもありませんわ。それでは他になければ失礼します。すぐに動く必要がありそうですからね」

 

 僕を使うかどうか考えてるのかな、と思いつつ青い鎧も席を立つ。

 

「うむ。ではそれがしも失礼する。何かあったらハーキュリーズ夫妻のほうに伝えておこう」

「了解だ」

 

 "狩人"が頷くか頷かないかのうちに青い鎧の姿が消える。

 開いた窓に掛かるカーテンが揺れていた。

 

 

 

 そのころ。

 メットーの北西、富裕層の住む地区にメディとイサミの姿があった。

 名の売れた魔道具店の経営者だけにこの辺りからもしばしば仕事を受けている二人であるが、今回はそれが目的ではない。

 

「ここよ」

「ああ」

 

 二人がある屋敷の前で足を止める。

 呼び鈴を鳴らすと家令らしき男が現れ、アンドロメダに頭を下げる。

 そのまま奥に招き入れられ、応接間に通された。

 しばらくして屋敷の主人が姿を現す。

 車いすに座った、初老の貴婦人。若い頃はさぞかし美人だっただろう容貌が、二人を見てほほえみを浮かべた。

 

「久しぶりですね、アンドロメダ。イサミさんも初めまして」

 

 二人が席を立ち、会釈した。

 

「は、はあ・・・?」

「ご無沙汰しております、母上」

「えっ?」

 

 イサミがぽかんと口を開けた。




>ライバル家
ごく自然に「雷張家」と変換される私のPCは少しおかしい。
だからドリルは取れと言ったのだ・・・。
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