毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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07-16 シェダル・リムジー

「お母さん? お前の!?」

「そうですよ」

「聞いてないぞ!」

「まあ、言ってませんでしたから・・・そのうち言おうとは思ってたんですが」

「一緒になったのですから、それ位は教えておきなさい。そうでないとそのうち私たちみたいになってしまいますよ、アンドロメダ」

「はい、すいません」

 

 婦人がアンドロメダをしかると、娘は神妙に頭を垂れた。

 

「謝る相手が違うでしょう」

「ごめんなさい、あなた」

「ああ・・・まあ何か訳ありらしいしそれはいいけど、一体?」

「それではそこからお話ししましょうか。取りあえずは座って下さい、婿殿、アンドロメダ」

「はい」

 

 二人が長椅子に腰を下ろし、老婦人の車いすが長テーブルの端につく。

 車いすを押していた年配の侍女が、一礼して部屋から下がった。

 

「さて、あらためて初めまして。私はシェダル。アンドロメダの母です。よろしくね、イサミさん」

「は、はい・・・その、ご主人とは?」

「あの人に会ったことがおありかしら?」

「ええ、何度か」

「でしたら、何となく察せられるのではないかしら」

 

 数年前、妻と初めて会った頃に何度か、つい先日も見たケイフェスを思い出す。

 有能だが傲岸不遜で、他人は自分に従って当然という顔をしていた男。

 数年越しに再び相まみえても、その印象はほとんど変わらなかった。

 

「なるほど」

 

 頷いたイサミにシェダルが笑みを浮かべた。

 

「まあそれはおいておきましょう。それで、用は何かしら?

 イサミさんを紹介しに来てくれたのなら嬉しいのだけれど、そうではないようね」

「はい、母上。取りあえずはこれをお聞き下さい。ネムバスから母上あてのメッセージです」

 

 イサミがヒョウエのそれとよく似たかばんから取り出したデッキを卓の上に置き、テープをセットする。

 

「まあ、言葉の環(スピークリング)。よほどのことのようね」

「はい」

 

 デッキから音声が流れ始めた。

 

 

 

 再生が終わると、シェダルは深々と溜息をついた。深刻そうな表情と呆れたような表情が半々くらい。

 

「何を荒唐無稽な、と言いたいところですがサヌバヌールならやりかねませんね。それだけの力を持っているという意味でも、常軌を逸しているという意味でも」

「――サヌバヌール卿には、思えば物心ついて以来敵のように睨まれていた記憶しかありません。ろくに話したこともないのですが、どういう方なのです?」

 

 娘の質問に、もう一つ溜息。

 何かを思い出すように遠くを見る。

 

「そうですね。ほんの小さな頃からどこか異常なところのある子でした。

 『優秀かどうか』にひどくこだわり、生まれにかかわらず魔力の強いもの、武芸の達者なもの、学問に通じたものなどで自分の周りを固めていました」

「まあ人間を生まれじゃなくて能力で評価すること自体は美点と言えますが・・・その言い方だとそれだけじゃなかったんですね?」

 

 イサミの確認に頷く。

 

「優秀なものを優遇する反面、そうでないものには極端に厳しく当たる傾向がありました。優秀な人間以外は生きる資格はないと考えていた節があります」

「うへえ」

 

 顔をしかめるイサミ。

 その脳裏によぎるのは、前世で見聞きした独裁者や軍閥による大量殺戮だろうか。

 頭の後ろで手を組んで、宙を仰ぐ。

 

「どーしてああ言う連中は極端に走るかねえ。そりゃ優秀な奴には価値があるが、優秀じゃない奴だって世の中回すには必要なんだぜ?

 大体本人は優秀なだけに手に負えねえ・・・やっぱり優秀だったんですよね?」

「術力と魔導に関する造詣の深さはケイフェスを大きく上回っていました。

 仮に彼が本家に生まれていたら、家を継いでいた可能性はかなり高いでしょうね」

「魔導君主並みかあ。それとも"魔導上王(キング・オブ・キングス)"狙ってるのか?」

「私も十年以上彼とは会っていません。今のサヌバヌールがその域に達していても不思議とは思いませんね」

 

 八人の魔導君主をも従える絶対的な支配者、魔導上王。

 この企みの首謀者はその域に達しているかも知れないとシェダルは言う。

 その情報はイサミとアンドロメダを憂鬱にさせるに十分であった。

 

「しかし・・・えーと、義母上」

「あら」

 

 シェダルが嬉しそうに微笑んだ。

 イサミが頭をボリボリとかく。

 

「この言葉の環(スピークリング)ですが、ネムバス殿はどうして義母上にこれを送ったのでしょう? メディが俺にあなたの事を伝えなかった事にも関係してるんですか?」

「それは」

 

 アンドロメダが口ごもる。

 シェダルが娘をちらりと見た。

 

「恐らく、遁世して静かに暮らしている私を騒がせたくないとか、下手に会いに来て私があの男に目をつけられるとか、そんな事を無駄に心配していたのでしょう、この頭でっかち娘は」

「母上、それはひどいです!」

「何がひどいものですか。あなたはなまじっか頭がいいものだから考えすぎて空回りするのです。もう少し素直にものを見なさいと何度も言ったではありませんか」

「・・・」

 

 ぴしゃりと言われてアンドロメダが沈黙した。

 

「まあともかく、私は確かにゲマイを出てメットーに隠れ住んでいるようなものですが、それでも現世と縁を切ったわけではありません。こちらのゲマイ人のまとめ役のようなことをしていますし、ネムバスともそれなりにやりとりはしていたのですよ」

「ええ・・・」

 

 アンドロメダが唖然としている。

 

(よほどのことがあったんだろうなあ。創世八家、それもナンバー2の家の正妻が国を出て外国で隠棲してるんだから)

 

 娘としては、そんな母親をそっとしておきたいだろうというのも、まあそれはわかる。

 ただこの一件に関しては完全なアンドロメダの早とちりのようであった。

 

「それで? つまりネムバスが頼るほどの何かを、母上はお持ちなのですね?」

「さて、頼られるほどかどうかはわかりませんが」

 

 鈴を鳴らして侍女を呼ぶ。

 何事かを言いつけると、侍女は下がっていった。

 

「今呼びにやりました。その間、イサミさんとのことでも話してちょうだい。もちろんイサミさんが娘のことを話して下さるのでもいいですよ」

「ほほう」

 

 イサミの目が怪しく光る。

 

「それではメディが小さな頃のあれやこれやを話して頂いても?」

「あなた!?」

「ええ、もちろん」

 

 にっこりと、聖母の笑みを浮かべるシェダル。

 

「母上!」

 

 応接間にアンドロメダの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 それからしばらくの間、アンドロメダの尊厳を生贄に捧げて笑いの絶えない朗らかな会話が続いた。

 痛めつけられた彼女の神経がそろそろ限界に達しようかという頃、扉がノックされる。

 

「ツィー?」

「はい、奥様。ルクバー様がお見えになりました」

「そう、通してちょうだい」

「はい」

「えっ?」

 

 イサミが首をかしげると共に扉が開き、小柄な中年男が一人入ってきた。

 やせぎすで頬骨の浮いた、肌の色の濃い、見るからにゲマイ人と言った風貌。

 

「やっぱり。ルクバー、こりゃどういうことだ?」

「ありゃ、イサミの旦那? そっちこそどういうことですかい?」

 

 互いに目を丸くするイサミとルクバー。

 シェダルも意外そうな顔をしている。

 

「知り合いだったの?」

「お得意さんですよ、奥様」

「ほら、昨日話した"猫女"広場のゲマイ料理の屋台の主だよ、メディ」

「ああ」

 

 取りあえずルクバーを座らせる。

 

「じゃあ改めて紹介するわね。こちらはアンドロメダ、知ってると思うけど私の娘よ。こっちはイサミさん、アンドロメダの旦那様。お二人さん、ルクバーはゲマイ人のまとめを手伝ってくれているの」

「はー。まさかイサミの旦那がシェダル様の婿がねとはねえ」

「人の縁ってどこで繋がってるかわからんもんだなあ・・・」

「まったくでさあ」

 

 しみじみ頷く男二人。

 アンドロメダの目が、眼鏡の奥ですっと細まった。

 

「それで母上。わざわざ呼ぶからには、ゲマイ人の互助会の話を聞くためでもないでしょう。ルクバーは何をしている人なのですか?」

 

 シェダルが笑みを浮かべた。ルクバーもニヤリと。

 

「ルクバーはね、ゲマイ人のまとめ役でもあるけど、彼らの話を聞いて私に伝えてくれる役でもあるの。王宮の廷臣が店でこれこれのことを話していたとか、娼館の寝物語で口を滑らせたとか、裏道でフードをかぶった貴族さまがコソコソ歩いていたとかね」

 

 イサミとメディが真顔になる。

 

「それはつまり・・・」

「そ。彼は腕のいい料理人で、同時に至極優秀なスパイマスターでもあるというわけ」

 

 イサミとメディの二人に見つめられ、人の良さそうな小男は屋台の客に向けるのと全く同じ笑顔を向けた。

 

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