毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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07-18 戦支度

「・・・で、何だこれ?」

「決まっているでしょう、メイド服ですよ」

「いや、そりゃわかるよサナ姐さん。問題は何であたしがこんなもん着なきゃならないのかってことなんだけど」

 

 ヒョウエの実家、ジュリス宮殿。

 その一室で、ロングスカートのメイド服を身につけたモリィが何とも複雑な顔をしていた。

 リアスとカスミ、サナ、リーザ、アンドロメダも一緒にいて、ジュリス宮殿に仕える侍女の一団が彼女たちの身なりを整えている。

 ヒョウエとイサミも別室で同様の扱いを受けているはずであった。

 

 慣れている他の面々はともかく、他人に着替えさせて貰うなど(ごく幼い頃を別とすれば)とんと経験のないモリィとしては困惑しきりである。

 白いドレス姿のリアスが腰に手を当て、呆れたようにモリィを睨んだ。

 首まで覆うデザインに長手袋、ロングスカートと、ほとんど肌の見えない上品なものである。

 

「"狩人"閣下から説明があったではありませんか。私どもが歓迎パーティに出席してあれこれ探るとともに、いざというときの戦力として待機するためですわ」

「だったら控えにでも待機してりゃいいだろ? 何でこの格好だよ。なんつうかこう、長いスカートは駄目なんだ。ぞろっとしてて歩きづらくて・・・」

「モリィさんには《目の加護》で相手の反応を観察して貰う仕事がありましてよ。

 控え室にいては仕事ができないではありませんか」

「そりゃまあそうだけどさぁ・・・」

 

 天を仰いで嘆息する。いつも無造作に後ろで束ねているだけの黒髪は綺麗になでつけられ、貴族の侍女として見苦しくないようポニーテールに整えられていた。

 ウィナー伯爵の地震事件の時に、ヒョウエを利用しようとした商人の表情を読んだように、モリィの《目の加護》は相手のごく僅かな表情筋の動きからその内心を読み取ることができる。

 その精度はカレンのそれにも匹敵するもので、こうした貴族のパーティや尋問、交渉などの読み合いにおいては破格の威力を発揮する。

 

「だいたい何でアンドロメダ姐さんのお付きなんだよ。まあヒョウエにはサナとリーザがついてるからしゃーないけどさあ」

「まあまあ。お付きが一人もいないとなると無条件で舐められますので我慢して下さい」

「何でしたらわたくしの侍女という役どころでもよろしくてよ?」

「ブッ殺すぞテメエ」

 

 剣呑な目つきでリアスを睨むモリィ。

 

「おほほ、親切のつもりでしたが、お気に召さなかったらごめん遊ばせ」

 

 普段はモリィが不用意な一言でリアスを怒らせるのが常だが、今回に限っては立場が逆転している。そして更にモリィを苛立たせることが一つ。

 

「だいたい何でてめえがヒョウエの相手役なんだよ!」

「そこから説明しなくてはいけませんの? アンドロメダ様は既婚者ですし、サナさんもリーザさんも当然カスミも、王族のエスコート相手としては身分が足りませんわ。

 でしたらわたくしが務めるしかないでしょう。もちろんモリィさんでは何をどう誤魔化そうとも貴婦人には見えませんわ。美女と野獣ならぬ美少年と野獣でしてよ」

 

 おほほほほ、と扇で顔を隠してカレンのように悪役令嬢笑いをするリアス。

 ぶちり、と血管の切れる幻聴が響いた。

 

「リアス様、おたわむれはその辺に。あくまでも潜入の一巻のお芝居としてのエスコートなのですから、調子に乗られませんよう」

「そうですよ。あくまでお芝居なのですから、モリィ様もお気になさることはないかと」

 

 沸点に達したモリィが爆発する前に、素早くカスミとサナのフォローが入る。

 この辺はもう付き合いも長いし慣れたものだ。

 

「そうそう、あくまでお芝居なんだからね、お・し・ば・い。リアスさんもその辺はちゃんとわかってるって」

「あの、リーザさん? ちょっと目が怖いんですけど?」

「そう? 気にしないでいいですよ?」

 

 にっこりと、いつも通りの笑みを浮かべ、しかし目は笑ってないリーザ。

 お芝居お芝居と連呼された上に無言の威圧を受けては、ヒョウエの相手役を仰せつかって調子に乗っていたリアスもさすがに自重せざるを得なかった。

 しばらくして扉がノックされる。

 アンドロメダが返事をすると、こちらも着飾ったヒョウエとイサミ、そして侍女頭であるカニアが入って来た。

 

「おおー」

 

 声を上げるのはヒョウエ。

 

「きれいですよリアス。素晴らしい」

「ありがとうございます、ヒョウエ様」

 

 リアスが頬を染めて俯く。

 

「リーザとモリィもいい感じですよ。新鮮だ」

「そ、そうか?」

「宮殿にいた頃はずっとこんな感じだったけどねー」

 

 さんざんぶーたれていたモリィだが、褒められれば悪い気はしない。

 

「カスミは・・・まあいつも通りですね」

「ですのでお気遣いなく」

 

 童女がくすりと笑う。

 

「あー、なんだ、きれいだぞアンドロメダ」

「ありがとう。あなたも男ぶりが上がっているわよ」

 

 こちらはヒョウエに比べるとかなりぎこちないイサミだが、それでもアンドロメダは満足のようだ。

 それをよそに、侍女頭のカニアがサナに近づいて来た。

 50絡みの丸っこい、一見してエネルギッシュで人なつこい女性である。

 

「ちょっといいかい、サナ?」

「カニアさん。なんでしょう?」

 

 そこでカニアが小声になる。

 

(いや、話には聞いてたけどさ、随分ときれいどころをはべらせてらっしゃるじゃないか。どうだい、一人くらい若様のお眼鏡にかなった娘さんはいるのかい?)

(いえまったく)

 

 サナが溜息をついた。

 

(彼女たちはおおむねヒョウエ様に好意的なのですが・・・肝心のヒョウエ様がかけらほども興味をお示しになられませんで)

(相変わらず本の虫かい)

(はい)

 

 二人揃って溜息をつく。

 

(伯爵様ならお相手として申し分ないと思うんだけどねえ。そちらのほうも全然?)

(まったくもって。最近は第二王女殿下からもアプローチをかけられているようですが、そちらもなしのつぶてです)

(やれやれ・・・こうなったらサナ、あんたが多少強引にでも手ほどきしてやんな。そうしたら周りの女性にも目が行くかも知れない)

(え・・・ええ!? いえ、そんな・・・!)

(場合によってはそう言う手ほどきをして差し上げるのもお付きの役目だろ。ましてや若くて美人で若様とは小さいときからの馴染みなんだから、そう言うお役目にぴったりじゃないかい。尻だって安産型だしさあ。あんただって満更でもないんだろ?)

(そ、それはその・・・)

 

 顔を真っ赤にしてしどろもどろになるサナ。

 ヒョウエが相手であれば姉の威厳で軽くあしらえもするが、逆に少女の頃から面倒を見てもらっているカニアが相手では分が悪い。

 なおカニアは小声で話しているつもりだが、おばちゃんの習性か、いつのまにか声が大きくなっていること、部屋にいる全員が聞き耳を立てていることには気付いていない。

 

「・・・」

 

 侍女たちの視線がヒョウエに集中し、少年は盛大に顔を引きつらせた。

 

 

 

「それではレディ・ダーシャ、お手をどうぞ」

「ありがとうございます、ヒョウエ殿下」

 

 ヒョウエがリアスの手を取る。

 お芝居お芝居と強調されていてもうれしいものはうれしいのか、リアスは頬を染めていた。

 

「・・・」

「・・・」

 

 モリィとリーザの視線が突き刺さるが、今の無敵状態のリアスには何ほどの効果もなかった。浮かれポンチともいう。

 そのままヒョウエとリアス、イサミとアンドロメダが歩いて行く後ろをサナ、リーザ、カスミ、モリィがついていく。

 

「ジュリス王弟家嫡子、ヒョウエ・カレル・ジュリス・ドネ殿下! ならびにダーシャ女伯爵レディ・リアス・エヌオ・ニシカワ!

 リムジー家ご息女レディ・アンドロメダ・ハーキュリーズ・リムジー! ならびに御夫君イサミ・ハーキュリーズ閣下!」

 

 典礼官が名前を読み上げると、レセプション会場がざわめいた。

 

「ヒョウエ殿下だと?」

「何故この時期にリムジー家のご息女が・・・?」

 

 ざわめきは静まらない。

 会場の中央に進み出た四人に向かって、人の波が生まれた。

 サナ達は一礼して壁際に控える。

 周囲から迫り来る貴顕淑女を視線だけで素早く見渡して、ヒョウエが僅かに笑みを浮かべた。

 

(さて、社交という戦いの始まりだ)

 

 腹をすえ、ヒョウエは微笑みという兜をかぶり直した。

 




正直宮殿についていく侍女がメイド服(家内の作業服)ってのはどう考えてもおかしいのですが
そこはそれ、創作の嘘って事で・・・
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