毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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07-20 未来を信じるもの、未来を知るもの

 しばらく沈黙が続いた。

 笑いさざめく貴顕達の中、ぽっかりと沈黙のポケットが生まれる。

 ややあって、ヒョウエがおずおずと口を開く。

 

「・・・コネル兄は、母上を愛していたの?」

「ガキの感情だ。恋とも言えない、淡いものさ。けど、あの人が死んで初めて気付いたんだ。俺はあの人に生きていて欲しかったって」

 

 コネルが首を振る。

 それは未練を振り払うようでもあり、ヒョウエを拒絶するようでもあった。

 

「だから薬学に・・・?」

「それが俺にできる唯一の事だったからな。人前で喋るのは苦手、駆け引きも苦手、人使いもうまいとは言えない。人を動かして何かするのは早々に諦めた。

 幸いにして薬学は師もいたし蔵書も不自由しなかったし才能もあった。金もな。お前にも手伝って貰えた。

 ・・・けど、それじゃ足りない。足りないんだよ」

「だから、サヌバヌール一派と手を組んだと?」

 

 コネルが頷いた。

 

「連中はろくでもないことに使っているが、鬼薬(ヤクシャ)には可能性がある。

 まず精神と肉体の活性化。つまり病への抵抗力や負傷への自然治癒の強化が見込めるってことだ。活性化の副作用として魔力の増強も見込める。

 そしてある種の没入(トランス)状態への極めてスムーズな移行。連中はこれを洗脳に使っているが、心の病を癒すことにおいては極めて有用な手段になりうる。もちろん管理は厳重にする必要があるがな。

 治癒術は強力だが、使い手は極めて少ない。すでにレシピも9割方は判明している。原料の薬草をディテクで栽培できれば、鬼薬(ヤクシャ)が低いコストで量産できる。多くの人を癒す画期的な手段になり得るんだ!」

 

 熱弁を振るう従兄。その高い理想に、ヒョウエはまぶしいものと同時に危うさを感じる。

 

(確かに薬なんて使い方次第です。ですが・・・)

 

 その脳裏によぎるのは前世での薬害の数々。

 某国で依存性のある強力な鎮痛剤を安易に流通させたために起きた大災害。

 一つの薬だけで最大50万人が死亡し、年によっては最大で九万人が死んでいる。

 前世の日本の様に厳しい法律と高度な監視態勢が整っている国ならともかく、今のディテクでそうした強力だが副作用のある薬を扱いきれるとは思えなかった。

 コネルが片眉を上げた。

 

「余り賛成はしてくれてないな」

「可能性があるのはわかるけどね、リスクが大きすぎるように思えるんだよ。ことに歴史に学ぶと」

「ニホンの積み上げてきた歴史か。何度か話は聞いたが、素晴らしい世界ではあるが、ろくでもない世界でもあるようだ」

「人間なんてどこの世界でも変わらないよ。長い歴史を積み重ねてきたって事は、いいことも沢山あれば悪い事も沢山あるってことさ」

「向こうはこちらの十倍の速さで時間が流れるんだったな」

 

 ヒョウエが頷く。

 

「つまりそれは、こちらの十倍の試行錯誤を重ねて来たって事なんだ。

 だからわかるよ。コネル兄や信用のおけるごく少数の人間が扱うならともかく、広く人々を救うために量産したら、どこかで必ず穴ができる。

 そうしたらその後は、副作用で多くの人々が死ぬ。悪いけど、助かる人より死ぬ人の方が確実に多い」

「かもしれない。でも俺はやってみせる」

「・・・」

「・・・」

 

 言葉が途切れた。二人がにらみ合う。

 ヒョウエの目にも、コネルの目にも、わかり合えない悲しみと、それでも譲れない信念の光があった。

 

 ぱち、ぱち、ぱち。

 唐突に拍手の音が響いた。

 二人が同時に振り向く。

 

「いやあ、すばらしい! この短い時間にここまで鬼薬(ヤクシャ)を解明するとは!

 本当にあなたは天才だな、コネル殿下!」

 

 二人に歩み寄ってきたのは、ライタイム風の正装に身を包んだ壮年の男。

 コネルとヒョウエ、双方が不審げな顔になる。

 心の声でリーザにメッセージを送る。壁際に待機していたモリィ達がさりげなく動き始めた。

 

「コネル兄・・・も心当たりはないみたいですね」

「ああ。誰だお前は」

 

 男が柔らかい笑みを浮かべた。

 だがその表情の端々に傲慢さと邪悪な愉悦がにじみ出ている。

 

「それをあなた方に話して何か私に得があるのかな?」

「では、何をしに出て来たんですか?」

 

 視線を動かさず、視界の端に映るモリィ達を確認する。

 広い会場のこと、怪しまれないように移動するとなるともう少し時間がかかる。

 

「君たちに敬意を表してのことさ。この短期間で鬼薬(ヤクシャ)をそこまで解明したコネル殿下と、我々の企みを粉砕してくれたヒョウエ殿下に対してね。

 いや、実際大したものだよ。おかげでこちらは店じまいを余儀なくされた! まあ元からずさんな計画ではあったけどね!」

「待て、それは・・・」

 

 コネルが焦りを見せる。

 にっこりと、男が笑った。

 

「そう。ディテクでの計画はおしまい! あなたとの盟約も終わり! せめて幕引きは派手に行こう!」

「ぐっ!?」

「コネル兄!?」

 

 コネルが体を折ってうずくまる。

 咄嗟に"魔力解析(アナライズ・マジック)"と"診断(ダイアグノシス)を発動する。

 コネルの体の中で魔力と鬼薬(ヤクシャ)の成分が混合し、反応を起こしている。

 同時に会場の各所から悲鳴が上がった。

 

「自分に洗脳は効かないと思って鬼薬(ヤクシャ)を体に入れたのはミスだったね。

 あなたに言ってない、そしてあなたがまだ解明できてなかったことがある!

 鬼薬(ヤクシャ)はね、特定の魔力と反応して人間の体に著しい変異を起こすのさ!」

「・・・っ! 解毒(アンティドート)!」

 

 ヒョウエの手から解毒の魔力がほとばしる。

 

「ははは、無駄無駄! それではこれで失礼するよ! この目で見届けられないのが残念だ!」

「くそっ!」

 

 そう言うと、男は青い霧に姿を変え、文字通り雲散霧消して消えた。

 既に周囲は悲鳴と騒音、戦いの音で埋め尽くされている。

 緑色の巨人(ハルク)や巨大な爪を持ったクズリ(ウルヴァリン)のような獣人、一見普通の人間に見えるが膨大な魔力を溢れさせ、呪文も無しに周囲の物体に魔力を込めて手当たり次第に射出する破片の射手(ビット・ガンナー)

 そしてヒョウエの目の前では同じく膨大な魔力を放出しながら、コネルだったものがゆっくりと立ち上がっていた。

 全身が銀色のプレートで覆われ、礼服の背中がバリバリと裂けて同色の翼のようなものが生えてくる。

 

「・・・!」

 

 銀色のデスマスクで覆われた顔。

 今や死の大天使(アークエンジェル)となったコネルが、瞳のない目でヒョウエを見る。

 

「っ!」

 

 咄嗟に念動障壁を張るのと、コネルの姿がぶれて消えるのが同時。

 次の瞬間、強烈な衝撃がヒョウエを襲った。

 振り向くと、ホールの空中に銀色の翼を広げたコネルの姿。

 そしてまたその姿がぶれて消える。

 衝撃。

 衝撃。

 衝撃。

 

 障壁越しでもヒョウエの体を揺らすほどの高速の体当たり。

 速度が速すぎて、ヒョウエですら障壁から金縛りに術をスイッチする隙がない。

 幸いなのはコネルが自意識を失っても執着は消えていないのか、ヒョウエ以外の人間を狙っていないこと。

 もしヒョウエを放置してパーティ会場の人間を無差別に襲っていたら、念動で動きを止めるとしても、それまでに相当な数の犠牲者が出ていたことは想像に難くない。

 

(けど)

 

 衝撃を受けつづける念動障壁の中で、ヒョウエは静かに呟く。

 

「実戦経験がなかったのがあなたの敗因だよ、コネル兄」

 

 衝撃が走る。

 ヒョウエの二の腕が切り裂かれ、鮮血が舞った。

 

 

 

「・・・!? ・・・! ・・・!」

 

 コネルが床に落ちてもがいている。

 魔力を見ることができるものなら、その体に網状の魔力が絡みついているのが見えただろう。

 ヒョウエは術をスイッチするのではなく、念動の障壁を網の目状にして周囲に広げたのだ。

 そこに突っ込んだコネルは網に捉えられ、身動きできなくなったというわけだ。

 障壁をほどいて網にした分防御力が低下したが、それも致命的なものには程遠い。

 

「言ったでしょ。経験の差だよ」

 

 浅く切られた二の腕を治療しつつ、ヒョウエが呟いた。




古いアメコミファンならおわかりでしょうが、今回変異した人たちはアポカリプスのフォー・ホースメン(黙示録の四騎士)の中から有名どころをチョイスしております。それぞれハルク、ウルヴァリン、ガンビット、アークエンジェルですね。
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