毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
モリィが気がついたのは石造りの神殿の内部のような空間だった。
大広間のような場所の真ん中に、縛られもせず、椅子に座らされている。
魔法の光が周辺を照らす中で、作業台のようなものとその前に立つ幻術師が見えた。
「・・・っ!」
モリィが思わず息を呑む。男はヴェールを外していた。
右半分は美男子と言える顔立ちだが、左半分は酷い傷が額から顎までを走っており、左の目はまぶたがなかった。
狂気がべったりと顔に張り付いていて、右側の整った顔立ちも台無しにしている。
「おはよう、モリィくん。気分はどうかね?」
「最悪だよクソッタレ」
毒を吐きながら、さりげなく右腰のホルスターを探る。
雷光銃が収まっているのを確認すると、男が身を震わせた。
「ひ、ひ、ひ、抜くなら抜いてどうぞ。ただし、『君は私を傷つけられない』」
「言ったなクソ野郎が!」
素早く立ち上がり、会心の速度で銃を抜く。
だが照準を男の胸板に合わせた瞬間、モリィの指は凍りついたように動かなくなった。
「・・・!」
「言ったろう、『君は私を傷つけられない』。『私の言うことに従います』と言ったろう? それでもう君は私には逆らえなくなったんだ。そう言う術でね、ひひひ・・・。
実を言うと幻影はおまけ、こっちが私の本領なのさ」
「
モリィが睨み付けると、男はげらげらと笑い出した。
「よしてくれよ! あんな手品師みたいな連中と一緒にするのは!
私の術ははるかに高度で深遠なものさ!」
「へっ、そんなありがたい術ならもうちっとマシな使い方をしろってんだ、"
モリィが吐き捨てる。古い歌劇に出てくる、人の心を操る悪魔の名前だ。
「ははははは! 意外と教養があるじゃないか! しかしいいね! 私にぴったりだ! "
「・・・」
高笑いするローブの男・・・"マインドツイスター"にげっそりした顔になるモリィ。
「で、何であたしをさらったんだ? ヒョウエがなんでそんなに欲しいんだよ」
「ひひひ・・・そうだな、まずは後ろを見てみたまえ」
「・・・?」
いぶかしみながらもモリィが振り向く。
今まで気付かなかったが後方は広いバルコニーのようになっており、天井と同じく底もかなり深い。首をかしげつつ周囲を見渡し、モリィはぎょっとして一歩後ずさった。
向かって左手にある巨大な構造物。
巨大すぎて気付かなかったが、それは人の顔を模していた。
「あんっだ、こりゃ・・・」
畏怖に打たれてそれを見上げる。顔だけでもモリィの身の丈の十倍以上。なまじ《目の加護》が強力すぎて全体を俯瞰しなかったために気付かなかった。
良く見れば左側下方の壁と思っていたものは「それ」の胴体で、巨大な体にふさわしいサイズの手足がちゃんと生えている。
恐らく全長は100メートルを超すだろう。全身が
「術式の"具現化"によって生み出された、"真なる魔法の時代"の"
彼の人形劇でもやっていたろう? "原初の魔獣"と戦う為にいにしえの魔術師たちはこんなものまで作り上げていたんだ。
そんな魔獣とカタナ一本で戦っていたサムライとやらは、ひひひ、どれだけ強かったんだろうねえ・・・」
「・・・・・・・」
楽しそうなマインドツイスターの講釈にも、モリィはただ顔を見上げるばかり。
そのモリィを見てひひひと笑いつつ、マインドツイスターはローブの隠しから赤い宝石を取りだした。
「もちろん、魔術師たちも役目を終えたこれをそのまま放置はしなかった。
知恵と心臓を奪って動けなくしたうえでここに封印したのさ。
そしてその『知恵』に相当するのが、君たちも知っているこれだ――ああ、直接見た事はなかったかな? クリーブランド商会の猫の首輪にはまっていたやつだよ」
「!」
言われて気付く。小指の先ほどの赤い宝石は確かに聞いたとおりのそれ。
「これは記憶の宝石と言ってねえ。あの老人は裏帳簿に使ってたみたいだけど、本来の用途はそんなちゃちなもんじゃない。
この巨人の手足を動かすための全ての記憶がこれ一つに詰まっているんだ。ひひひ、何とも素晴らしいじゃないか、なあ?」
「・・・それで、なんでヒョウエが必要なんだよ?」
「これも
「オリジナル・・・冒険者族?」
モリィの言葉にマインドツイスターは「おや」と意表を突かれた顔になった。
「なんだ、知らなかったのかい? それじゃそこから説明して上げようか。
冒険者族は知ってるよね? 彼はそのオリジナル、異世界から転生してきた当人さ。
子孫である普通の冒険者族も強い《加護》を持ってることが多いけど、オリジナル冒険者族はまさに別格だね。ひひひ・・・無限の魔力なんてものを、いにしえの"
「無限って・・・そりゃいくらなんでも大げさじゃ・・・」
ひひひ、とマインドツイスターがモリィをあざけり笑う。
「ところが大げさじゃないのさ。
彼ならこの巨人を全力で稼働させることだってできるだろうね!」
「だからってどうする気だよ。あいつにはお前の精神操作は通用しねえんだろ?
魔力の強い奴には魔法は効かないって聞いたぞ」
「そうとも、だが彼の《加護》は幸い私にも扱えるんだよ!
ああ、"隠された水晶の心臓"! 七つの穴開きし無限の魔力の門よ!」
感極まったように両手を掲げ、天を仰ぐマインドツイスター。
狂気に染まった目に、思わずモリィが一歩下がる。
マインドツイスターの目が彼女を射貫いた。
「強力な魔術師の体内にね、水晶のような結晶が精製されることがある。
これを"
これはそれ自体が強力な魔力源となるし、生体と接続すれば術式処理能力を飛躍的に高めてくれる。思い出してごらん。彼は魔法を使う時に呪文を唱えていたかい?
普通はよほどの達人か、火投げ師みたいな一芸馬鹿でもなければ呪文無しの魔法発動なんてできないんだよ?」
そういえば、と思い出す。
確かにこれまでの冒険の中で、ヒョウエは一度たりとて呪文を詠唱して魔法を発動したことはなかった。例外は地竜相手に巨大な剣を生みだしたときだけ。
他の術者と組んだことなどないから、そうしたものだとばかり思っていたが・・・。
「それにあの人形の数と来たら! 一度に使える魔法の数は普通一つ、達人だってせいぜい二つだ。それを、九つの人形を同時に操る?! でたらめにも程がある!」
「・・・・・・・」
呪文を一つずつ発動して同時に沢山の術を維持することはできる。
例えばまず
(もっとも、維持にも多少の精神負荷はかかるので、並の術師であれば3つくらいが限度とされる)
しかしヒョウエのそれは明らかに違った。
9つの術を同時に発動し、同時に制御している。
いかな達人であれ、間違っても人間の到達しうる領域ではない。
そして同じ術、同じ術力、同じ熟練度でも同時に二つの同じ術を使えば単純に威力は二倍以上。
九つを、それも水晶の心臓によってブーストされた術力で使えば恐らくは数十倍から百倍以上。それが並外れたヒョウエの術力の秘密だったのだ。
「そちらも"隠された水晶の心臓"のおかげさ。伝承によれば完全な水晶の心臓には七つの穴がある。その穴一つごとに余計に魔術を扱えるんだ。
それを彼は体内に持って生まれてきた! いやはや、"チイト"とはこのことだよ!」
「"チイト"・・・・冒険者族語で『凄い力』とかそんな意味だったか?」
「そうそう。君はやっぱり博識だねえ。とても興味深い。あるいは・・・いやそれはいいか。今はヒョウエくんのことだよねえ」
まぶたのない、真円の目で全身をなめ回される。
背筋におぞ気が走った。
「偶然目にした契約書、あれには驚いたよ。まさか完全な"隠された水晶の心臓"なんてものがこの世に存在するとは! しかもそれが借金のかたに担保に取られてる? 大笑いだ! だったら私がもっと有効に活用して上げるよ!」
「借金、担保? そういう・・・待て。お前まさかその水晶の心臓とやらを・・・」
「えぐり出すよ? 当然じゃないか。精神操作が効かない以上それしかないでしょ」
「このっ・・・!」
思わずつかみかかろうとしたモリィだが、腕がぴたりと途中で止まる。
動けなくなったモリィを回り込み、マインドツイスターが肩を叩いて笑う。
「だから無駄だって。あ、先に言っておくけど自殺もできないように命令してあるからね。まあ君を人質に彼を従わせられれば良かったんだけど、彼ホント危険だからねえ。
勿体ないけど殺しちゃって心臓えぐり出すのが後腐れ無いでしょ、ひひひ・・・」
「くそっ・・・」
動かない体で歯がみする。
ひひひ、という笑い声。
マインドツイスターが呪文を唱えるとともに、モリィの意識は再び途切れた。