毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「疲れた・・・目がいてえ・・・しかもまるっきり無駄足とかさぁ」
「お疲れさま・・・」
三時間後。
館から出て来たモリィが溜息をついた。
ヒョウエが頭を撫でて労をねぎらう。
視界に入る全てに観察力を注ぎ続けることを数時間ぶっ続けでやっていたのだ。
モリィの《目の加護》がいくら優れていたとしても、人間には限界がある。
「本当に何もありませんでしたね」
アンドロメダも溜息。イサミが疲れた顔で言葉を続ける。
「館そのものが時間稼ぎを兼ねた罠だったんだろうな。いくらか残ってた魔道具も全部
「どうなさいますか、ヒョウエ様、アンドロメダ様? サヌバヌールが本当に何かを企んでいるなら、このままアジトをしらみつぶしに探していっても、相手の思うつぼにはまるだけですわ」
「敵の戦力を足止めして、消耗させるなりその間に目的を果たすなりというのは兵法の定番ですからねえ」
「・・・」
アンドロメダが顎に手を当てて考え込む。
「いっそアジト全部、ヒョウエ様に破壊して頂きましょうか? そうなれば潜んでいたネズミも泡を食って飛び出てくるかと思いますが」
「お嬢様ぁ・・・」
「最近ちょっと見直してたけど、お前やっぱり脳筋だなあ」
嘆くカスミと呆れるモリィにリアスがうろたえる。
「ま、間違った事は申しておりませんわ! 罠にいちいち丁寧に引っかかりに行くよりはましでしてよ! 万が一偽物の中に本物が混じっていても、丸ごと破壊すれば敵の策動は防げるではありませんか!」
「まあ一理ありますけどね」
「でしょう? でしょう!?」
ヒョウエの言葉にがぜん勢いを取り戻して胸を張る。
「とは言え、何か重要な手掛かりがぽろっと落ちてる可能性も否定はできないので難しい所ですが・・・どうします、姉さん」
「そうですね・・・」
考え込んでいたアンドロメダが顔を上げる。
「取りあえず、隊を二手に分けましょう」
「ほう?」
「そうですね、バーリーの用意も整った頃でしょうし、一度クリエ・オウンドに戻りましょう。ヒョウエ、お願いします」
「わかりました」
そのまま一行は市街地に戻った。
透明化の術は使っていない。
空飛ぶじゅうたんやら馬車やら『魔法の箒』やら飛行するあれこれはこの都では珍しくないし、透明化の術を見破れる人間もそれなりにいるのでむしろそちらの方が目立ってしまいそうだ、という判断である。
丁度昼時でもあり、近くの屋台で適当なあれこれを山のように買い込んでから一行はバーリーの家の戸をくぐった。
なお1/3ほどはイサミが一人で食べる。
「おじゃましますよ、バーリー」
「入って来てから言うんじゃねえよ。まあ姫だから許すがな」
「バーリーくーん! おっじゃましまーす!」
「うるせえ、ウドの大木が。無駄にでかいてめぇが入ってくると家が狭くなるんだ。通行の邪魔にならねえように道の脇のドブの中に転がってろい」
アンドロメダの挨拶に返ってくる親しみの籠もった返答と、イサミの挨拶にノータイムで飛んでくる罵詈雑言。
ニヤリと笑って大男が肩をすくめる。
「何だろうね、この扱いの差。アンドロメダを俺に取られたことがよほど悔しいと見える」
「馬鹿言え、タデ食う虫も好き好きって言うだろうが、このタデ野郎が。姫の男の趣味が悪いのは残念だが、俺も人のことを言えるほど趣味がいいわけじゃねえからな。
ちなみに俺の趣味は無駄に図体だけはでかい無駄飯ぐらいを意味もなく殴りつける事なんだが、どこかに殴っていい木偶の坊がいないもんかね?」
「奇遇だな。俺の趣味は口を開けば罵詈雑言しか流れ出さない性根のひん曲がった猿野郎を殴り倒して黙らせることなんだ。
どうよ、その辺に歩いてないか?」
「ククク・・・」
「はっはっは」
本気なのか冗談なのかわからない笑顔で二人がガンを飛ばし合う。
ぱんぱん、とアンドロメダが手を打った。
「はいはいそこまで。みんなおなかが空いてるんですからね。
バーリー、テーブルを片付けて皿を出して下さい。あなたはお昼ごはんを並べてちょうだい」
「「へーい」」
声を揃えて返事すると、馬鹿二人はいそいそと動き始めた。
その背中を見てヒョウエが肩をすくめ、三人娘が呆れた顔になる。
「なあ姐さん。結局あいつら仲がいいわけ? 悪いわけ?」
「もちろん仲良しですよ。見ての通りね」
くすくすとアンドロメダが笑った。
「さて、では作戦会議と行きましょうか。バーリー、頼んだものは?」
「おう、準備できてるぜ」
昼食をとった後、食休みを挟むこともなく作戦会議が始まった。
ヒョウエが指を動かすとちゃぶ台の上に散乱する大量の包み紙や竹串、皿などが宙に浮き、土間のゴミ箱と洗い場にそれぞれ飛んでいく。
カスミが立ち上がってトテトテと洗い場に向かっていった。
「おうすまねえな、嬢ちゃん」
「いえ、お邪魔しておりますのでこれくらいは」
笑顔で一礼するとカスミが洗い物を始める。
それを横目で見ながら、バーリーは居間の片隅に置いてあった古ぼけた木箱の蓋を取る。
「おお?」
「これは・・・」
中から出て来たのは数着のゲマイ風の礼服だった。素人目にもはっきりわかるほどいい生地を使っており、仕立てもいい。
もっとも育ちがよかったり、仕事上見慣れていたり、金目のものを見分ける訓練をしていたりで、その辺について完全に素人なのはこの場ではイサミくらいだが。
「どうすんだ、これ?」
「またパーティ会場に潜入するとか・・・?」
「まあ大体その様なものです。ただ、今回潜入するのはグラン・ゾントですが」
「魔導宮かよ!?」
イサミが叫んだ。
魔導宮グラン・ゾント。
他の国で言えば王宮、日本で言えば国会議事堂と首相官邸をあわせたような場所だ。
八人の魔導君主を頂点とする魔導貴族=行政官僚たちがゲマイという国を動かす行政府にして立法府。
「言われたから用意したがなんでまた?」
バーリーも首をかしげている。
「一つには、本当にサヌバヌール達の足取りがつかめないと言うことです。
リムジー家が全力で探りを入れれば、ゲマイ国内でわからないこと、探せないものなどほとんどないはずなのです。
例外は他の創世八家か、もしくは」
「魔導宮ですか」
洗い物を終えて戻ってきたカスミの言葉にアンドロメダが頷いた。
「それでまずは魔導宮に潜り込もうって腹か。しかし潜り込んだところで居場所を見つけられるのか? 地下室や隠し部屋にでも籠もられてたらおしまいだろう。あるいは魔術で顔を変えるとか」
「そのための図面と魔道具をあの男から借り出してきました。
変装についてはモリィさんに協力して貰います。ここ何日かで確信しましたが、手段を問わず変装の類なら間違いなく彼女の目で見破ることができます」
「幻影や物理的な変装はともかく、肉体変化系の術で顔や体ごと変えていたら?」
「その場合は肉付きや筋肉の動きがおかしい人を捜して貰います。
肉体変化系の場合、あくまで操作・造形するのは術師ですからね。自然に無理のない肉のつきかた、骨のつきかたにするにはよほどの熟練が要ります」
「あ、何となくわかったぜ」
ぱちん、とモリィが指を鳴らした。
「あれだろ、怪我して顔の筋肉が引きつってるとか、歩き方がおかしいとか、そう言うのを探せばいいんだな?」
「はい、正解です」
にっこりと笑うアンドロメダ。
表情を元に戻して話を続ける。
「そしてもう一つ心配なことが。創世八家の、それも限られた人間でないと知りませんが、魔導宮には古代の巨大な魔法装置があります」
「魔法装置?」
「危険なものなのですか?」
アンドロメダが首を振る。
「いいえ。まったく。効果は『国土全体に使用者の声を届ける』だけのものですから。便利なものではありますが、人を傷つけるような力はありません――普通なら」
「わからねえな。何が心配だってんだよ、姫?」
「あ・・・」
顔を青くしたのはヒョウエとイサミだった。
視線を交わした後、代表するようにヒョウエが口を開く。
「つまり、何らかの手段によって麻薬をばらまいて中毒者を大量に生み出したら・・・」
アンドロメダが頷く。
「はい。場合によっては、ゲマイの国民全てを一度に支配下に置くことも可能かも知れません」
「――!」
その場の全員が顔をこわばらせた。