毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
バーリーの家の居間で蒸しパンやらカレージャガイモ揚げパンやら焼き菓子やらを口にしつつ、他の面子を待つヒョウエとイサミ。
夕方になってバーリーが戻ってきた。
テーブルの上の揚げ菓子を口に放り込みつつ、どっかりと腰を下ろす。
「ヨーグルトつめた揚げ玉買ってこいよ。気がきかねえ奴だな」
「あれすぐに湿気るから持ち帰りには向かねえだろ」
もしゃもしゃ咀嚼しつつ、理不尽な文句を言うバーリーにイサミが肩をすくめる。
「まあいい、姫は?」
「まだだ。そっちは何か収穫はあったか?」
「今のところ水には何も混ぜられちゃいねえな。そっちはどうだ」
「こっちも三箇所回って何も無しだ。明日は俺達もそっちに回った方がいいかもな。クリエ・オウンド中の人間に薬を盛るなら、なにがしらの大がかりな仕掛けがあるだろうし」
「なるほど、一考の余地はあるな」
軽食を食べながらごく普通に作戦会議を進める二人。普段の仲の悪さはそこには全くない。
(アンドロメダ姉さんがいなかったら普通に会話できるんだなあ)
そんな事を考えていると二人からじろりと睨まれ、ヒョウエは首をすくめた。
日が沈んでしばらく。
秋でも暑いゲマイの空気がようやく涼しくなる頃合いになっても、アンドロメダたちは帰ってこなかった。
ヒョウエが"
強力な対感知結界を抜けた先に、僅かに三人娘や姉たちの感触。
方向と距離は、魔導宮グラン・ゾントにぴったり一致する。
「これは・・・姉さんたちしくじりましたかね」
「だろうな」
腕組みをしてバーリーが唸る。
「どうする。オヤジさんの方に知らせるか?」
「姫を利用するつもりか」
「父親が娘を助けるのは当たり前だろう?」
アンドロメダの身の危険をてこにリムジー家の介入を誘うという話だ。
もっとも、あの父親が縁を切った娘と家を天秤にかけてどちらを取るかというのは予測しがたいところもある。
「そのへん、どうなんです?」
「・・・それは・・・」
「なあ・・・」
二人とも言葉を濁すあたり、ケイフェスの信用度が見て取れる。
「取りあえず伝えるだけ伝えてこっちは勝手に動くのでどうです?」
「まあそのあたりかな」
「しゃーねーな」
二人が同時に溜息をついて頷いた。
大きいのと小さいのを後ろに乗せて
リムジー家の門番(幸いイサミの顔を知っていた)に伝言と走り書きのメモを押しつけると、泡を食った門番の声を無視して再び夜空に舞い上がる。
向かう先は丘の上にそびえ立つ奇妙で巨大な宮殿だ。夜の闇の中、ライトアップされたかのように浮かび上がっているが、よく見ると建物そのものがぼんやりとした光を発している。
ヒョウエの生家であるジュリス宮殿より一回り大きいだろうか。
「正面が500mくらいでしょうか? あれこれの官僚機構が入っているにしても随分とまあ巨大な」
ヒョウエの前世の記憶でも、これだけ巨大な宮殿は記憶にない。
バッキンガム宮殿が200mほど、最大級と思われるベルサイユ宮殿でも400m、紫禁城も一つ一つの建物はせいぜい100m程度だ。
というか普通は用途ごとに別々の建物を建てる。
「建物自体は古代ゲマイ文明の時代より前、真なる魔法文明の技術で建てられたって話だ。なんで、中は結構空き部屋も多いって話だぜ」
「なるほど。確かにそれっぽいですね。それで潜入はどうします? 水道を通るか、穴を掘って地中から入り込むのがいいかと思うんですが」
透明化の魔道具はイサミが用意しているが、この魔導の国のそれも中枢に、たかが透明化程度で潜り込めるとはヒョウエもイサミも思っていない。幻影や門衛の認識を誤魔化すたぐいの術も同様だろう。
ヒョウエの言葉を聞いてバーリーが口元をへの字に歪める。
「真なる魔法文明の建築物だって言ったろ。地下までがっちりと魔法防御が施されてて、そんじょそこらの術じゃ傷一つつけられねえよ。まあおめえならわからんが・・・水道も細かいパイプを通して深い地下からくみ上げてて、地上の水路とは繋がってねえ」
「・・・そうなると出たとこ任せの強行突破か?」
「それっきゃねえんじゃねえかな」
さすがに気が重いのか、バーリーが溜息をつく。
「ヒョウエ、近づいてもう一度"
「どうでしょうねえ。元々距離は余り関係ない術ですし。1km程度近づいたところで大差はないと思いますよ。
ただ、あの大きさなら
「てめえ、話を聞いてなかったのか? あそこは魔法防御があって・・・」
「いや、そうか、それならいけるかもしれん!」
「あん、どういうこった?」
魔導宮グラン・ゾントを覆っているのはあくまで対呪文の結界である。それ故に"
一方で
いかに強力であろうとも、対呪文結界で干渉できるたぐいのものではない。
「なるほどなあ。範囲は大丈夫なのか?」
「フルパワーでやればどうにかなるでしょう。それじゃ、外壁のところにおりますよ」
「おう、どうせなら派手にやってやれ、けけけけけ」
にんまりと笑みを浮かべるバーリー。
それに呼応するようにヒョウエも悪い笑みを浮かべる。
魔導宮の城壁の外、見張りから離れたあたりに着地し、ヒョウエが杖を振り上げる。
「んー・・・せいっ!」
とん、と軽く杖が石畳を突く。
「のわっ?!」
「うおおおおおお!?」
その瞬間、クリエ・オウンド全域を震度三の地震が襲った。
遠くから悲鳴とものが壊れる音。街が騒がしくなる。魔導宮の中からも人が駆け回る気配が伝わって来た。
そして、まるでそれらが存在しないかのように、ヒョウエは瞑目して杖から伝わる気配に全神経を集中させている。
すぐにその目が開かれた。
「見つけました! 中央部地下に巨大な空間があります!」
「よしよくやった!」
言葉と共に、イサミの拳骨がヒョウエの脳天に落ちた。
一瞬星が飛んで視界がチカチカする。
「っつぅ・・・何するんですか、一体!」
「加減しろ、莫迦! メディ達の場所を探すためと言っても程度ってものがあるだろうが!」
「いやあ、派手にやれって言われましたし」
「地震起こせとは言ってねえよ!」
しれっとのたまうヒョウエに、今度は青筋を立てたバーリーが突っ込む。
「しょうがないじゃないですか。まじめな話、相手は真魔法文明時代の生きた遺跡ですからね。どれだけ力を入れれば反応が返ってくるものやらわからなかったんですよ。
それにクリエ・オウンドのこの辺は高級住宅街ですし、建物はほとんど全部石造りでしょう? この程度の地震では家が丸ごと潰れたりしませんよ」
「む」
確かに言われてみれば建物が崩れたり、火が出たりしている様子はない。
「ちっ、口ばかり達者になりやがって」
「そうでもありませんよ。サナ姉やカレン姉上やアンドロメダ姉さんには一度たりとて口で勝てたことがありませんし」
「そりゃ単にお前が女に弱いだけだ」
「・・・」
ヒョウエが口をつぐむ。ヤブヘビになりそうなので反論はしなかった。
「ひょぉぉぉぉ!」
「うおおおおおおお! 俺の嫁を返せぇぇぇぇ!」
「ヒャッハーッ!」
三人三様の雄叫びを上げつつ、杖が宮殿の直上から結界を破って侵入する。
魔法の警報が高く鳴り響くが、そんなものは気にしない。
「っ!? て、敵だ! 侵入者だっ!」
警報に気がついた守備兵が叫ぶが対応できるものはほとんどいない。
結界の天頂部分から垂直降下し、中庭の噴水の脇に狙いを定める。
「行くぞぉぉぉぉ!」
「行っけぇぇぇぇ!」
ヒョウエが念じると共に、周囲を取り囲む念動障壁の形が変化した。
先端が尖り、何層にも分かれて平行して回転する。それぞれの層には"
即ち――ドリル。
「ギガァ! ドリルッ! ブレイクゥゥゥッ!」
「むしろジェットモグラぁぁぁぁっ!」
「何言ってんだかわかんねえよ!」
二人の転生者と一人のヴァナラの叫びと共に、魔導宮グラン・ゾントの中庭が構造物ごとぽっかりと大きくえぐれて大穴が空いた。
魔動宮ではありません。
人間の顔みたいな形はしているかも(ぉ