毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
牢獄が揺れた。
まるでSF映画の宇宙船内部のような、白く光沢のある素材で壁も床も天井も一面覆われた無機質で殺風景な部屋。部屋の隅に便器がある以外は本当に何もない。
イサミが見たら「映画で観た、精神病患者を閉じ込めておく部屋みたいだな」とでも言ったかもしれない。
そこにアンドロメダと三人娘が横たわっていた。目だった怪我はないが武器や魔道具は取り上げられており、アンドロメダもトレードマークの眼鏡を失っていた。全員が大振りな金属製の手かせをはめられている。
リアスがのろのろと身を起こした。彼女は甲冑とアンダーを剥ぎ取られ、白いローブのようなものを着せられている。
「揺れましたね・・・地震でしょうか」
「ゲマイでは地震は多いのですか、アンドロメダ様・・・?」
「それなりには・・・ありますね。ただ今のはひょっとしたら・・・ああ、駄目です。頭にもやがかかって・・・」
「くそっ・・・何だよこの手かせは・・・こいつをつけられてから全然力も出ないし頭もまわらねえ」
「恐らくは"
"
つけられたものの肉体的能力や魔力はおろか、知力や判断力、身につけた魔道具の効果すら著しく減衰させてしまう
「全然力が出ませんわ・・・ええい口惜しい・・・」
「しょうがないでしょう・・・これを付けられると、金等級冒険者でも赤等級なみに力が落ちるとか・・・」
「なるほど、それはどうにもなりませんわね・・・」
身を起こしたリアスがそれすらおっくうになってごろんと転がった瞬間、先ほどのより小さな、それでも間違いない衝撃が部屋を揺らした。
「・・・!」
全員が、少なくない努力を払って身を起こす。
低血糖状態の、あるいは高山病患者のようなだるさ、めまい、思考力の低下。
意志の力でそれらをはねのけ、何とか上半身を起こす。
「今のは・・・」
「間違いないでしょう、ヒョウエ様達です」
「・・・なるほど、最初のはヒョウエの
「大工のトンカチか。どれだけ強くブッ叩いたんだか・・・」
「モリィさんも、いい加減覚えてさしあげたらどうですか・・・」
そんな会話を交わしつつ、四人が立ち上がる。
両手に枷をはめられていると言うこともあるが、ただ立つだけということに全精力を費やさねばならない状態。
それでも四人は立った。
「それでどうすんだ、姐さん」
「今は何もしません。いざというときに備えて下さい。恐らく状況の方が先に動くでしょうが」
「それは・・・」
何なのか、とリアスが質問しようとしたところで、空気の圧搾音を立てて扉が開いた。
魔導甲冑を着込んだ私兵数人を引き連れて、アンドロメダとも顔見知りの術師――サヌバヌールの腹心の一人がずかずかと中に入ってくる。
「おまえら、ついてこい! 馬鹿な真似はするなよ!」
アンドロメダが僅かに口をゆがめ、三人娘が顔を見合わせた。
遠くから悲鳴や何かが壊れる音、重いものが床や壁に叩き付けられる音がかすかに聞こえてくる。
サヌバヌールの腹心は顔をこわばらせて早足にそちらの方に歩いて行く。
本人も高位の術師であり周囲を魔導甲冑兵に囲まれていながら、その顔にはぬぐいきれない恐怖の色があった。
「どうしました、調子が悪いようですが、ドルヴァ」
「・・・!」
歩くのも辛い状態でありながら、なお笑みを含んだアンドロメダの声に、術師ドルヴァがきっと振り向く。
「うるさい! 今のお前はリムジーの姫じゃない! 俺達の人質なんだ! 身の程をわきまえろ!」
「はいはい」
その声が震えている。アンドロメダの笑みが大きくなった。
「・・・」
しばらく無言で全員が歩き続ける。笑みを消したアンドロメダが、再びドルヴァに語りかけた。
「あなたほどの術師なら、他に身の振り方もあるでしょう。父もあなたの事は評価していました。このままサヌバヌールに付き従う必要はないのではありませんか?」
「・・・」
再びドルヴァが振り向いた。先ほどとは違う、静かで決意を固めた表情。
「できない。それだけはできないよ、姫様」
「・・・なぜ?」
ドルヴァが宙を見上げ、溜息をつく。
「俺はサヌバヌール様に見いだされてあの人にお仕えすることになった。
創世八家のナンバー2のお方が平民の、それも極貧の出である俺を家臣の列に加えて下さったんだ」
「術師の素質があれば、サヌバヌールの下でなくてもそれなりの暮らしはできたでしょう?」
「だとしても、よほど桁外れの素質がなければ下っ端官僚として町役場で職を得るのがせいぜいさ。
いや、そもそも素質を見出されることなく、泥をすすって生きていたかもしれない。
代々平民のやつが魔術の才能を見出されるなんて、本当に奇跡的な幸運がなきゃあり得ないことだからな」
「・・・」
淡々と言葉を続けるドルヴァの横顔には、迷いも気負いもない。
「けどあの方は違った。俺の素質を見抜いて高度な教育を授けて下さった。
貧民出の俺を他の家臣と同列に扱って下さった。
あの方から頂いた
俺は十一人兄弟の四番目だ。餓えと病で俺の生まれる前に兄が一人、俺が生まれてから姉が一人と妹が一人死んだ。けど七才で俺がサヌバヌール様に見出されてから、病気や餓えで死んだ兄弟はいない」
「・・・」
いつの間にか足が止まっていた。
その場の全員が無言でドルヴァの言葉を聞いている。
ドルヴァが周囲を囲む魔導甲冑兵を見渡す。
「こいつらだって似たようなもんさ。代々あの方にお仕えする家柄の奴もいるが、大半は武術の才能を見込んで拾われた平民だ。貧民出身も多い。
サヌバヌール様のおかげで人がましい生活ができた、家族を死なせずに済んだってやつも多いんだ。
そしてそう言う連中でもサヌバヌール様は能力以外で差別はしない。代々の家臣と同等に扱って下さる。それがどれだけ嬉しいことか、あんたにはわからないだろう」
周囲の魔導甲冑兵たちが無言で頷いた。
「だからサヌバヌールの悪事に手を貸すのですか。それが多くの人を不幸にするとしても?」
反論するアンドロメダ。だが言葉に力がない。
その顔を、ドルヴァが正面から見据える。
「ああ、そうだ。たとえ悪事だとしても俺達はあの方についていく。
・・・なあ、姫様。俺は何もあんたを責めてるわけじゃないし、正直あんたの事は嫌いじゃない。けど、だとしてもあんたにはわからない世界がある。
あの方が何をするにしても、もう俺達はあの方についていくしかないんだ。それだけのものを先払いで貰っちまってるんだよ」
「・・・」
言葉の出ないアンドロメダの顔を静かに見つめた後、ドルヴァが振り向いて歩き出した。
魔導甲冑兵たちにうながされ、アンドロメダたちも再び歩き出す。
その顔には怒りでも悲しみでも蔑みでもない、しいて言うならやるせなさが色濃く浮かんでいた。
眼鏡ッ娘から眼鏡を奪うなんて、なんてひどい奴なんだサヌバヌール許せねえ!
精神病患者を閉じ込める真っ白い部屋というのは一時期のテンプレですが、今はやってないそうです。
そりゃあんなところにいたら正常でもおかしくなるわw
ドルヴァはヒンズー語で北極星(ポラリス)のこと。
アメコミ好きなら多分わかるあの人のことでもありますね。
あの人アポカリプスの求める12ミュータントの一人なので。