毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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07-28 霧男(ミスティ)

「来たか」

 

 呪鍛鋼(スペルスティール)の杖にまたがって急降下してくるヒョウエたちを見上げ、サヌバヌールが宙に手をかざす。

 ほとんど同時に空気を、音の壁を切り裂いて飛来する九つの金属球。

 サヌバヌールとその周辺の術師たちを狙ったそれは、しかし見えない障壁に激突して空気を震わせた。

 

「ぬうっ、さすがに・・・!」

「念動障壁!?」

「ヒョウエ様と同じ術!」

 

 サヌバヌールが顔を歪める。

 全力の念動障壁は、何とかヒョウエの金属球の激突に耐えたが、それでも術師の目には大きく歪んだ障壁の形が見えたことだろう。

 

「ちぇっ!」

 

 舌打ちしながらも金属球を手元に戻し、鋭角的に落下方向を変える。

 同時に八つの金属球が再び空を裂いて飛び、今度はアンドロメダたちの周囲を固める術師ドルヴァと魔導甲冑兵を直撃した。

 

「無駄な事を・・・むっ!?」

 

 サヌバヌールの念動障壁に弾かれるかと見えた金属球は、そのままぴたりと念動障壁にへばりつく。

 

「うわっ!?」

「うおおおおおおおおお!」

 

 次の瞬間、ドルヴァ達が悲鳴を上げて吹っ飛んだ。

 自分の周囲には大きく場を広げて張ったサヌバヌールであったが、アンドロメダたちに保護を与える必要は無いと踏んだのか、ドルヴァ達には個別に念動障壁を張る形になっており、そこがヒョウエのつけいる隙になった。

 大きな念動障壁の場を動かすのはヒョウエでも難しかったが、人ひとりサイズの念動障壁なら障壁ごと中身を持ち上げられる。

 念動で持ち上げられたドルヴァ達が激しい勢いで壁に叩き付けられた。

 障壁は外部からの攻撃を防ぐことはできても、慣性の法則から守ってはくれない。

 魔力経絡一つ分とは言え、それ自体反則的な出力を誇る勢いと衝撃をそのまま身に受けて、ドルヴァ達は気を失った。

 

「ドルヴァ・・・」

 

 アンドロメダが一瞬だけ切なそうな表情を浮かべるが、それはすぐに消えた。

 

「きゃっ!?」

「ぬ!」

 

 今度はフリーになったアンドロメダたちがサヌバヌール達から離れるように念動で持ち上げられる。

 距離を開けた両者の間に立ちはだかるように、ヒョウエたちが着陸する。

 杖を構え、金属球を浮かべたヒョウエがサヌバヌールと視線をぶつけ合う。

 互いに魔力をみなぎらせて、しかし軽々しくは動けない。

 イサミが四人の手かせを解析して外し、ここに来るまでにヒョウエの"失せもの探し(センス・ロケーション)"で見つけた彼女たちの持ち物を手渡していく。

 

「ヒョウエ! あなた! バーリー! 既に彼らの計画は発動しています! 急がねば、クリエ・オウンド中の人々が取り返しのつかない事に!」

「なんだと!?」

「なんてこった・・・」

 

 絶句するイサミとバーリー。ヒョウエは動かないが、僅かに歯ぎしりの音。

 その間にも女性陣は装備を整え直していく。

 

「お嬢様、お召し替えを」

「ありがとう、カスミ」

 

 カスミが小さく呪文を口ずさむと二人の周囲に闇の壁が立ち、視界を遮った。

 数十秒ほど経って闇の壁が解除されると、そこには黒い紐というか水着のようなアンダースーツを着たリアス。

 

纏え(ウェスティオ)!」

 

 リアスがコマンドワードを唱えると、足元に散らばっていた白甲冑のパーツが浮かび上がり、次々にリアスの体に装着される。

 剣を抜き、盾を構えて、そこにいるのは完全武装の"白のサムライ"だ。

 傍らにはメイド姿の忍びが忍者刀を抜いて控えている。

 

「へっ」

 

 モリィが一歩歩み出た。右手に雷光銃を構え、左手で封印の手かせ(シールド・シャックル)をくるくると回している。

 ヒョウエがサヌバヌールと視線をぶつけ合ったまま、それを制する。

 

「モリィ、あまり前に出ないように」

「わーってるよ。けどよ」

「けど?」

 

 がちゃり、とヒョウエの右手首に封印の手かせ(シールド・シャックル)がはまった。

 同時に両足首にもそれぞれ一つずつ。

 それを為したのは、モリィの両ふくらはぎから生えた紺色の触手。

 

「モ・・・」

「前に出なきゃさあ、これを君にはめられないだろぉ?」

 

 べろっ、と舌を出したその顔は既にモリィのものではない。

 ディテクのパーティ会場でヒョウエとコネルを挑発しに訪れた、ライタイム使節の顔をしていた霧男(ミスティ)のもの。

 ヒョウエが何かを言おうとした瞬間、サヌバヌールの発した強烈な念動力の渦がその胸板を貫く。

 封印の手かせ(シールド・シャックル)を、それも三つもはめられて体を動かすことすらできないヒョウエをそれは直撃した。

 

「っ!」

「!?」

 

 ヒョウエが吹き飛ばされるのと同時に殺気が交錯した。

 念動力の渦が発せられると共に離脱しようとした霧男(ミスティ)に、だが同時に二振りの剣が襲いかかった。

 

「チェェェェェィッ!」

「・・・!」

「ぐっ?!」

 

 霧になって逃げようとした霧男(ミスティ)の腕と足を、リアスの剣とカスミの忍者刀がそれぞれ切り飛ばす。

 切り飛ばされた手足は青い霧になって空気に溶け、雷光銃が床に転がった。

 

「ひっ・・・!」

 

 リアスの二の太刀が霧男の胴体に食い込む。刃が胴を真っ二つにする直前、その体が青い霧に変じて消えた。

 

「壁よ!」

 

 リアス達とほぼ同時に反応していたイサミが懐から金属製の印章護符(タリスマン)を取り出し、発動させる。

 その時にはもう、こちらは反応し切れていないアンドロメダを、バーリーが腰を抱いて脇に跳んでいた。

 地面から突き立った力場の壁が念動の渦を防ぎ、追撃を防ぐ。

 そこでようやく、一連の攻防が終わった。

 

「ヒョウエ!」

「ヒョウエ様!」

 

 イサミ以外の四人が振り向くと、胸板をえぐられて鮮血と共に吹き飛ばされたヒョウエがフロアの手すりの外側にぶつかり、穴の中に落ちていくところだった。

 

「くっ!」

 

 ここでようやくアンドロメダが我に返った。

 

「$%&&・・・」

 

 短く合言葉(コマンドワード)を呟くと、履いていた奇妙なデザインの靴が僅かに魔力光を放つ。

 ふわり、とアンドロメダの体が浮いた。

 

「ぬんっ・・・」

「ぐぐぐ・・・!」

 

 念動の渦を発し続けるサヌバヌール。

 護符を掲げ、それを力場の壁で防ぐイサミ。

 

「少しもたせて! 私がヒョウエを・・・」

 

 飛行靴の魔力を発動させ、宙に飛び出すアンドロメダ。

 だがイサミに向けた顔を戻した瞬間、目前の空中に忽然と、老婆が現れていた。

 

「申し訳ありませぬが、姫」

 

 ミロヴァ。

 世界全体を見ても三桁はいないだろう、瞬間移動の術の使い手。

 そして瞬間移動の術を使えるということは、ほぼイコールで大魔術師(ウィザード)と呼ばれるだけの実力者であると言うこと。

 

「このっ!」

「遅い」

「がっ!」

 

 アンドロメダが引き抜こうとした魔力の籠もった短杖(ワンド)を、ミロヴァの放った稲妻が叩き落とす。

 縦穴の中に落ちていく短杖。始まる空中戦。

 ミロヴァがゲマイ屈指の大魔術師(ウィザード)なら、アンドロメダとて天才と謳われた術師にして魔道具作成者(アイテムメイカー)だ。

 戦闘経験の差を身につけた無数の魔道具で補いつつ、何とか隙を見つけてこの老婆を出し抜こうとするが、やはり歳の功。相手が一枚も二枚も上手だ。

 

「サニヤム! ジール!」

「ぐっ!」

 

 短い呪文と印を組み合わせて放たれた魔力がアンドロメダの動きを止めた。

 空中にはりつけにされたかのように動かないアンドロメダに、印を結んだままミロヴァがジリジリと近づく。

 

「メディ!」

 

 イサミが叫んだ瞬間、印章護符(タリスマン)が限界を迎えて砕け散った。

 先ほどのヒョウエ同様に吹っ飛ばされるが、力場の壁がそれでも威力の大部分を相殺したためか、床に叩き付けられるだけで済んだ。

 障壁がなくなり、サヌバヌールの脇で待機していた術師と魔導甲冑兵がリアス達に殺到する。

 一体一体はリアスやバーリーに劣るとは言え、カスミの忍者刀では傷をつけるのは困難。

 

「幻舞陣!」

 

 カスミの秘術が発動するも、有効打を与えられないのでは幻惑にも限界がある。

 10を越える魔導甲冑兵に押し包まれ、更には術師による行動妨害も受けて、あっという間に劣勢に追い込まれる。

 

「くっくっく・・・」

 

 それを横目で見て、立ち上がろうともがくイサミの頭をサヌバヌールがわしづかみにして持ち上げる。

 

「ぐあああああああああ!」

 

 ミシミシと頭蓋骨が軋む。外そうとするが、生身の力で魔導甲冑に抗すべくもない。

 サヌバヌールが笑みを浮かべる。

 

「まあ良くやったと褒めておこう。実際お前の力は惜しい。生きるべき優秀な人材だ。

 どうだ? 我に忠誠を誓う気はないか。なれば貴様の罪を許し、相応の待遇を与えてやろう。アンドロメダもくれてやるぞ?」

 

 頭を握りつぶされそうになりながらも、イサミが笑みを浮かべる。

 

「くそくらえだ。世界が欲しいなら箱庭でも作ってろよ。うちの人気商品、魔法の箱庭基本セットを100金貨(エイビス)で売ってやるぜ」

「くくく・・・まあそれもよかろう」

「があああっ!」

 

 笑みを広げて、イサミの頭蓋骨を今度こそ握りつぶそうとするサヌバヌール。

 その手がふと止まった。

 どう反応していいかわからない、そんな表情で上を向く。

 

 サヌバヌールだけではない。

 アンドロメダ。ミロヴァ。リアス。カスミ。バーリー。シーニー。その他の術師と魔導甲冑兵たち。

 全てが動きを止めて、中空の一点を見ている。

 

 ファンファーレが鳴った。

 少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。

 

 奏でるものなどいなくとも。

 そこがたとえ荒野のただ中であっても。

 ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。

 

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