毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
ファンファーレが高らかに鳴り響いた。
空よりも透き通る青。
炎よりも鮮やかに赤。
とらわれの姫をその手に抱いて、鋼鉄の正義がここに降臨する。
「ヒ・・・青い鎧! それにモリィさんも!」
「あれがか!」
恐怖を通り越して畏敬さえ含んだ言葉が老術師の口から漏れる。
ミロヴァ。シーニー。そしてその他のサヌバヌールの部下の術師たち。
なまじ優秀であるがゆえに、彼らは目の前にいる存在がどれだけ規格外なのか理解出来てしまう。
こと魔道においてはほとんど何者にも負けぬとの自負、実際にそれだけの裏付けのある自負をこっぱみじんに粉砕されるほどの、それは衝撃。
「隙ありです!」
「しまっ・・」
ミロヴァほどの大術師が、動揺で僅かに術式を緩めた。
先ほどから必死に隙をうかがっていたアンドロメダとの、そこがわずかながら勝敗を分ける差。
アンドロメダが腰に吊していた球体を、かろうじて動く右手で投げる。
それが魔法であれば、ミロヴァが常時纏う対魔法結界でほぼ無力化されただろう。
それが物理的打撃を与える武器であれば、同じくミロヴァが常時纏う念動障壁に似た魔法の「鎧」で防げただろう。
だがそれはどちらでもない。
イサミの科学知識とほぼあらゆる素材を生成できる反則ものの《加護》、アンドロメダの天才的な魔道具作成者としてのセンスを融合させた結果生まれた怪物。
ある種の特殊な金属粉とモンスターの素材を組み合わせて作られた、この世界において唯一実用の域に達した『爆弾』。
まともに作るなら単価一億ダコックは下らない、アンドロメダの切り札。
「なんだっ!?」
その瞬間朝日よりもまぶしい光が縦穴を照らした。同時に轟音。
ミロヴァのまとう魔法の「鎧」が爆風それ自体からは彼女を守ってくれた。
しかし数千度に達する非魔法の熱エネルギーを防ぐための術を、彼女は自らにかけていなかった。
彼女ほどの術師がかけた耐熱の術であれば、あるいは数千度の炎からも彼女を守ったかも知れない。
だがミロヴァは切り札の存在を知らなかった。いや、魔法によらずそんな高熱を発生させる手段があるとは思いもしなかった。
ゆえに彼女は全身を焼かれ、意識を失い、縦穴の中を落ちていく。
「さよならです、ミロヴァ」
術師が意識を失ったことによって、アンドロメダの拘束が解かれる。
ごく僅かなあいだ、アンドロメダは旧知の術師のために瞑目した。
青い鎧の登場。
その次の一瞬に起こったミロヴァの敗北。
呆然としたサヌバヌールの手勢たちにもやはり、ミロヴァに起こったのと同じ事が起きた。
「ぎゃっ!」
「ぐわっ!」
リアスを囲んでいた魔道甲冑兵が立て続けに二人、斬り倒された。
「ぬおっ!?」
何人かの魔道甲冑兵が、足を取られて倒れた。足元に絡みついているのはカスミの投げた、ボーラのような分銅と紐を繋げた武器。
そのうちの一人に、さらにリアスが剣を突き込んで無力化する。
「このっ!」
「ぬおっ!」
同時にイサミとサヌバヌールを爆炎が包んだ。
アンドロメダが投げたそれを至近距離で使っての、相打ちを恐れない自爆。
一瞬遅れて爆炎の中からイサミが転がり出す。
あちこち焦げて煙を上げているものの、常に身につけている耐火の護符がダメージを最小限に抑えている。
「こしゃくな真似を!」
それに続き、爆炎を吹き飛ばす勢いで突進してきたのはサヌバヌール。
怒りに顔を歪め、拳の一撃を放とうとするその瞬間、青い閃光が走った。
モリィを下ろして飛び込んできた青い鎧の拳が、サヌバヌールを吹っ飛ばし、壁に叩き付ける。
壁際に設置されていた装置が崩れ落ち、その姿を覆い隠した。
「ありがとよ、青い鎧。あっちのゴリラは任せたぜ」
ニヤリと親指を立てて礼を言うイサミ。
青い鎧もまた親指を立ててそれに返した。
「~♪」
こめかみから血を流したまま、イサミが鼻歌を歌いながら腰の"隠しポケット"の小袋から取り出した何かに、魔力を込めた
超大型拳銃の銃身部分にレンコン状の太い筒を装着したようなそれは、地球でならペッパーボックスピストルと呼ばれる物に酷似していた。
単発の火縄銃を銃身ごと8つ束ねたような回転拳銃だ。
レンコンに空いた8つの穴にワンドを装填し終えたところで、リアス達を包囲していた術師の一人がそれに気付いた。
「気を付けろ、こいつ――」
イサミの手の魔導ピストルが唸った。最後まで言えずに術師が吹っ飛んで、縦穴の底に落ちていく。
それに気付いた魔道甲冑兵が二人、包囲網から外れてイサミの方に向かってきた。
再びイサミの手元のペッパーボックスピストルが唸った。
イサミの魔力で回転するそれは回転ごとにワンドが自動的に魔力を吐き出す。
ワンドにはいずれも
一つ一つなら耐え切れただろう魔道甲冑兵たちも、一発一発が人間一人を吹っ飛ばせるだけの秒間八発の空気の爆発をこらえ切ることは出来ない。
手すりを越えて押し出され、術師の後を追った。
「おっしゃ、ガンガン行くぞ!」
「おう!」
下着一枚のモリィが雷光銃を構え、凶暴な笑顔でそれに応えた。
かつん、かつんと足音が響く。
床に降りた青い鎧が、ゆっくりと壁際の残骸の山、サヌバヌールが埋まった箇所に歩み寄っていく。
「!」
と、機器の残骸が動いた。
「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
咆哮。
数トンはある機器を軽々と吹き飛ばして、青紫の甲冑をまとったサヌバヌールの巨体が姿を現す。
数千度の爆炎に加えて青い鎧の拳を受けたというのに、魔道甲冑の表面が僅かにすすけただけで傷一つない。
2m近いたくましい体躯の青い鎧。それを更に上回る2m30の巨人じみた体に魔道甲冑をまとうサヌバヌール。
両者の視線がようやく正面からぶつかる。
「・・・」
「・・・」
先ほどの激突から一転、静かな視線のぶつかり合いが周囲の大気を張り詰めさせる。
「・・・・・・」
青い鎧の登場以来、腰を抜かして縦穴沿いの手すりにもたれかかっているシーニーがガチガチと歯を鳴らす。
顔は涙と鼻水とよだれと、様々なもので既にドロドロだ。
そんな息子に一瞥もくれず、サヌバヌールがふっと笑った。青い鎧を迎え入れるように両手を広げる。
「見事! そなたこそは世を導くべき優れたもの、選ばれしものだ!
どうだ、我が同志、そして後継者として共に・・・」
「断る」
短く、誤解しようのない端的な答え。
かはっ、とサヌバヌールが息を吐き出した。
「惜しい、惜しいな。アンドロメダやそこのイサミとかいう男もそうだが、そなたは特に惜しい。我とそなたはこの世にある術師の中でも最も優れたもの同士。我らが手を組めば、この世に成せぬ事などなかろうに」
「だとしても、貴公とそれがしでは向いている方向が違う。それがしの望むのは、優れたものも、そうでないものも相応に尊重され、幸せに暮らせる世界だ。
恐らく貴公とは金輪際相容れまい」
「そのようだな」
笑みを浮かべたまま、サヌバヌールが拳を握った。
「であれば全力でそなたを排除せねばならん。
ところでアンドロメダはこの魔導宮の機能についてどこまで知っておったかな?」
「何のことだ」
「恐らくは『国土中に声を届ける』という機能しか知らなかったのだろう。
そうでなければもっと焦っているはずだからな。
だが魔導宮には封印された、そして忘れられた機能がもう一つある。
この魔導宮はそもそも大がかりな魔道具を作るための工房でな」
「・・・?」
鉄仮面の下でヒョウエが眉を寄せる。
何を言おうとしているのかはわからない。だが嫌な予感はもの凄い勢いで膨れあがっていく。
「術師非術師問わず人間から直接魔力生命力を集めて、魔道具を作るためのエネルギーを確保する機能がある。
効果範囲はほぼこの都全て。もっとも、同意した人間に限るがな」
「――まさか?!」
「そう、その通りだ!」
「!」
サヌバヌールの宣言と同時に青い鎧が閃光と化して疾る。
だがそれでも一瞬遅かった。
先ほどの炸裂弾に数倍するまばゆい光がほとばしる。
洗脳されたクリエ・オウンド中の人間から集められた膨大な魔力が、ただそれだけで山をも砕く拳を止めた。
「?!」
その場の全員が目を疑った。
光の中から現れたのは、差し渡し10mはあろうかという巨大な腕。
それがサヌバヌールのそれだと気付いた時には、床に叩き付けられたそれが青い鎧を拳の下敷きにし、周囲に衝撃波を走らせている。
すかさず拳の下から脱出して空中に逃れる青い鎧だが、それでも驚愕がその体を走るのが傍から見ていてもわかった。
光が収まった後に立っていたのはサヌバヌール。姿は寸分違わないが、身の丈はゆうに20mを越えている。
「見るがよい、我サヌバヌールの真の力を! そしてその命を捧げるのだ!」
およそ十倍に巨大化した魔神の声が縦穴の空気を震わせた。