毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
モリィが再び気がつくと山の中腹らしき森の中だった。木々の向こう、荒野の彼方に遠く王都が見える。マインドツイスターがにやっと笑いかけてきて、思わず顔をそむけた。
「君の王子様が来たよ、ひひひ・・・」
「そんなんじゃねえよ!」
モリィが頬を染めて声を荒げる。マインドツイスターが少し意外そうな顔になった。
「ああそうか、それも知らなかったんだね。
ヒョウエ・カレル・ジュリス・ドネは王弟アクティコ大公ジョエリー・シーシャス・ジュリス・ドネの嫡男、つまり現国王の甥っ子さ。れっきとした王族だよ、彼は」
「・・・!」
「それが自分のはらわたを売りに出してまでスラムを丸ごと買い取って、貧しき人々を救う? いやはやご立派! 涙が出てくるね!
宮殿の奥でふんぞり返っていれば私なんかにはとても手を出せなかったし、そもそも"隠された水晶の心臓"の事を知ることすらできなかっただろう!
いやあ、情けが仇になるとはまさにこのことだ、ひひひひ!」
もぞり、とモリィの腹の底で熱いものが動いた。
「・・・れ」
「うん? なにかな?」
「黙れと言ったんだクソ野郎」
「っ・・・!」
マインドツイスターが気圧された。
モリィの言葉と双眸から、本人にも理解出来ないほどの怒りがほとばしっている。
「あいつを馬鹿にするな! あいつは・・・あいつは凄い頑張ってる奴なんだよ! 自分じゃない他人のために命を張って、みんなから好かれて、必要とされてるんだ!
あたしやお前が馬鹿にしていいような奴じゃねえんだよ!」
「・・・・・・・」
モリィが荒く息をつく。
しばらく唖然としていたマインドツイスターがひひ、と笑みを漏らして拍手した。
「いやいや熱弁お疲れさま。何だかんだ君も彼と同じ種類の人間だねえ」
「はっ、一緒にするんじゃねえよ。あたしゃあいつみたいな馬鹿じゃねえ」
マインドツイスターがひひひ、と笑う。
「まあそのへんはどうでもいいさ。それよりも見なよ。君の目なら見えるだろう?」
マインドツイスターが指さす先の方に目をこらす。
「ヒョウエ・・・!」
5、6キロほど先。杖にまたがったヒョウエが荒野のただ中にゆっくりと降りてくるところだった。
目印のつもりなのか、粗末な白い旗がはためいている。
「はい、動かないでね」
マインドツイスターの言葉と共に、モリィの体が動かなくなった。
声を出す以外、まったく何も出来ない。
「ごめんね、雷光銃で居場所を教えられたりすると困るからさ。
まあこれから起こることを特等席で見ていられるから勘弁してよ」
「・・・・」
殺意を込めてマインドツイスターを睨むが、涼しい顔でひひひと笑うだけだ。
「さて・・・ショータイム!」
パチン、とマインドツイスターが指を鳴らす。
モリィたちから見て左側の山の崖がはじけ飛んだ。モリィたちとヒョウエとで丁度正三角形を描くような位置。
バラバラと岩や破片が落ち、ヒョウエが素早く杖にまたがって空に舞い上がる。
それと同時に土煙の中から巨大な何かが飛び出した。
「なっ!?」
一瞬だったが、土煙からちらりと見えたその姿をモリィの目は見逃さなかった。
鋼色の
あの神殿の中に封印されていた呪鍛鋼の巨兵、真なる魔法の時代の
「なっ・・・なんでだ!? ヒョウエがいないと動かないはずだろ!」
「おや、そんな事言ったかな? 言ってなかったかも知れないね。
メインの心臓は取り外されてるんだが、予備の小さい心臓は生きていて一週間くらいなら動かせるのさ。
まあ往時の出力には及ばないが・・・ヒョウエくんがいくら無限の魔力を持つと言っても、所詮は人間の魔術師だ。
当世の"
ぱん、と音がして土煙から
4秒。
たったそれだけで5kmの距離が詰められた。
人間大なら100m五秒を切るほどの疾走。100m超の巨体であれば時速2000km、マッハ2を越える。
先ほどのは空気の壁を越えた音。地上で発生するヴェイパーコーン。
その速度のまま、完璧なフォームでの右パンチ。
更に高速、音速の三倍で飛んできた拳が空中のヒョウエをまともに捉えた。
「ヒョウエッ!」
思わず悲鳴が洩れる。
はじき飛ばされたヒョウエが空中で体勢を立て直してホッとした瞬間、第二撃がまたしても直撃した。
三撃。急降下して拳の有効攻撃範囲から外れたヒョウエがかわす。
「!」
地竜を屠った巨剣を生み出そうとしたのか、金属球を取り出そうとしてヒョウエが血を吐いた。杖の軌道がふらつき、
だが蹴りは拳ほど素早く攻撃を重ねられない。
もう一度血を吐きながらも距離をとり、金属球を取り出す。
唇が「
大地のルーンを刻んだ金属球が巨大化し、再び巨剣が顕現する。
しかし、
人間のサイズで言えば30センチほど、大振りのナイフくらいのサイズ。
それでも二発目の蹴りをかわし、気合いと共に射出する。
「!」
「おおっ!?」
左の肩口に巨剣がつき刺さる。
巨人がよろめいた。
「ひひひ! すごいじゃないか! あれは原初の魔獣を打ち倒すために作られた兵器だよ? 巨大な魔獣や竜の爪に耐える装甲を切り裂くなんて!
水晶の心臓があるとは言えヒョウエくんはやっぱりすごいな!」
マインドツイスターが手を叩く。モリィは視線を外せず、ただ見続けている。
ヒョウエは剣を球に戻し、今度は別の球を取りだして20m程ある巨大な炎の球を、続けて雷を、いずれも左肩の傷口を狙って放った。目に見えて巨人の左腕の動きが鈍くなる。
だがヒョウエも無傷ではない。
その間に都合三度
「・・・・・・・・・・」
顔や袖口から見える腕にも、見てわかるほどに青あざが増えつつある。
念動障壁による防御でも防ぎきれない、衝撃によるダメージが蓄積しているのだ。
なまじっか優れた《目の加護》を持っているがゆえに見えてしまう。
もう長くは持たないと言うことが。
「・・・いいっ! もういい! 逃げろ! 逃げてくれヒョウエ!」
「ひひひ、麗しき友情・・・いや愛情かな? でも残念、無駄でした! 彼には聞こえないからね! おっと、それに
「なっ・・・!?」
足元をチョロチョロ逃げるヒョウエに向かって、
そのとたん、高速で移動していたヒョウエが空中に静止する。
「・・・うそだろ、おい・・・」
「別におかしくも何ともないだろう? 念動の術くらい、真なる魔法の時代の魔術師なら誰でも使えたって聞くよ? 便利さを考えればそりゃあ一つや二つ仕込んでおくさ」
ヒョウエは必死にもがくが、
にたにたと笑みを浮かべていたマインドツイスターが目をしばたたかせた。
「ひひひ・・・え、ちょっと待って。だめだ、それはやりすぎ・・・」
緊急停止させようとしたのだろう、マインドツイスターが呪文を唱え始める。
だがその瞬間、
ヒョウエを一瞬に飲み込んだ青白い光は一直線に突き進み、大気を帯電させる。
雲が消失し、空に巨大な穴が空いた。
「・・・・ヒョウエッ!」
「え、何? あれで生きてたの!?」
先ほどまで浮かんでいた場所にヒョウエのシルエットを見つけ、モリィが叫ぶ。
心底驚愕した表情のマインドツイスター。
その二人の視線の先、巨人の伸ばした右手の先にヒョウエが浮いていた。
ヒョウエの前の空間、巨人と彼を遮るように3mほどの黒い球体が浮いている。それが魔力光を防ぐなり吸収するなりしてヒョウエを守ったのだろう。
少年に目立ったダメージはなかった。
ヒョウエが黒い球体を弾けさせる。
同時に巨人の念動の魔力も断ち切ったのか、ヒョウエが飛行して距離をとった。
"大地の剣"が顕現する。
それと同時に巨人が踏み込んだ。
剣が飛ぶ。
拳が飛ぶ。
巨剣が巨人の左の肩口、炎と雷で灼かれた先ほどの傷痕に正確に命中して貫通する。
爆発。火花を散らして巨人の左肩が吹き飛んだ。胸も大きくえぐれて内部機構が露出している。
全く同時に巨人の拳がヒョウエを捉えていた。
今までヒョウエを守っていた念力の盾がひしゃげ、ついに拳がヒョウエを直撃する。
「ヒョウエッ!」
愕然としてモリィが叫ぶ。
それでも完全に直撃ではなかったのか、ヒョウエが動いて体勢を立て直そうとするが、その体を巨人の拳が握りこんだ。
巨人の胸が展開する。
モリィが雷光銃をチャージするように、青白い光が宝珠を中心にして球形にわだかまる。
自らの手と引き替えにしてでもとどめを刺すつもりなのか、そのままチャージを続ける巨人。
ヒョウエに動きはない。
光の玉が弾けた。先ほどに数倍勝る規模の圧倒的な青白い光が空を引き裂き、またしても天に風穴を開ける。
その光の中に巨人は自らの手を突っ込み、内部のヒョウエを灼く。
「!」
その背後で"大地の剣"が浮かび上がった。
全力照射で動けない巨人目がけて巨剣が飛び、左胸の欠損部分に深くつき刺さる。
刃の付け根どころか柄の先端までもが巨人の体内に深く埋め込まれる。
次の瞬間、