毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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エピローグ さらば魔導の国

エピローグ「さらば魔導の国」

 

「適者生存」

 

     ――アポカリプス――

 

 

 

「ぐ・・・ぐ・・・」

 

 サヌバヌールが意識を取り戻した。

 体は既に元のサイズに戻っている。身にまとっていた魔導甲冑は粉々の破片以上の何かではなくなっており、魔導甲冑を介して受け取っていたクリエ・オウンド市民の魔力も今はない。

 動かない体を必死に動かし、視線だけで敵を探す。

 青い鎧は床の端に落ちた死体に対して何か術を施しているようだった。

 

「"水の星よ(Budha)"」

 

 今のサヌバヌールにもわかる、強力無比な治癒の魔力が死体を覆っていく。

 折れた首、砕けた骨、破裂した内臓や筋肉、そうしたものが元の姿を取り戻していく。

 

「・・・蘇生させたのか? 死者を?」

 

 それでサヌバヌールが意識を取り戻した事に気付いたのだろう、青い鎧が立ち上がってこちらを振り向いた。

 

「蘇生ではない。単に傷を治し、肉体を修復しただけだ。

 取り返しの付かない傷を負っても、魂が肉体から離れるまでにはしばしの間がある。

 普通なら致命傷でも、それまでの間にそれがしなら治せる傷がある。本当の一般人であれば助からなかっただろうが、鍛え抜いた体と魔力の守り、魔導甲冑がギリギリのところで命を繋いだ」

「・・・全員、生きておるのか」

「然り。ミロヴァ(おう)もな」

「そうか」

 

 短く答えて、無理矢理動かしていた首から力を抜く。

 見上げる光景は無限に続くかと思われる巨大な縦穴。

 サヌバヌールの人並み外れて鋭敏な視覚は、リムジーの姫の一党が下を覗き込んで手を振っている姿を捉えた。

 

「ともあれそなたの勝利だ。我が首を取れ。そして世界をそなたの思い通りに形作ってゆくがよい」

 

 首を振る気配。

 

「・・・?」

「それがしはその様なものを望まぬ。あるべき未来を夢見はしても、それはそれがしが強要するものであってはならない。万人の幸せを望むとしても、それは一朝一夕に叶えてはならない。

 そうしようとすれば必ず歪みを生み、それは新たな不幸を生むからだ。

 それがしは世界の支配者としてではなく、あくまで一人の民として世を動かす」

「それは責任からの逃避だな」

 

 思わず言葉が出た。それは相手を理解出来ないことに対するいらだちだったかも知れないし、自分が認めた男が自分の価値観から外れた行いをすることに対する失望だったかも知れない。

 青い鎧の頷く気配。

 

「やもしれぬ。だがそれがしは、絶対的な支配者に盲目的に従う奴隷よりも、一人一人が賢明な王であらんとする世を望む」

「・・・」

「・・・」

 

 しばらくの沈黙の後、サヌバヌールが大きく息をついた。

 

「!? 今何をした!」

 

 サヌバヌールが飛ばした念を感知し、青い鎧が戦闘態勢に入る。

 忘れていたこと。この男は魔導宮のシステムを支配下に置いていた。

 魔導甲冑がなくなって魔力を受け取ることはできなくとも、システムに指示を出すことは――

 

「暗示を解いた」

「・・・何?」

「暗示が暴走したときのために、あらかじめ仕込んでおいた暗示を解除する暗示だ。

 我と同じような事をするものがおらねば、都の民は何事も無く一生を終えるであろうよ」

「――!」

 

 兜の下でヒョウエが目を見開いた。

 

「何ゆえ・・・?」

 

 探るような物言いに、サヌバヌールが笑みを浮かべる。

 先ほどまでのそれと同じ、歯ぐきをむき出しにした獰猛な笑み。

 

「そなたが我より優れているからだ。この我に勝る選ばれし者であるからだ。

 敗者は勝者に従うべきである。そうでなくばこの世は成り立たぬ」

「そうか」

 

 サヌバヌールに気取られぬよう、視線をミロヴァたちに飛ばす。

 しかしそれ以上のことは何も言わなかった。

 

 

 

 その後は大騒動になるかと思いきや、大した混乱は起きずに事件は終息した。

 夜であり、かなりの数の人間に酒が入っていたこと、サヌバヌールが洗脳した人間に魔力の供出以外はやらせていなかったこと、加えてここぞとばかりに一致団結した魔導君主たちの力の賜物である。

 

「サヌバヌールという反乱者を出したリムジー家の責任も追求されるところでしたが、あの男(ケイフェス)の政治力と他の魔導君主の協力もあって、致命的な損失にはならなかったらしいですね」

 

 港の魔導門。

 ケイフェスがひどい目にあわなくて残念、と、リムジー家の人間がひどい目にあわなくてほっとした、の中間くらいの口調でアンドロメダが溜息をついた。

 複雑なところだろうなと察しつつ、ヒョウエが杖にまたがる。

 

「それじゃそろそろおいとましましょうか」

「そうですね。バーリー、それではまた」

「おう、そのウドの大木をブッ殺して欲しい時はいつでもいいな。どこであっても駆けつけるぜ」

「おうよ、いつでも返り討ちにしてやるから自分用の傷薬を忘れるなよ」

 

 にやっと笑って拳を打ち合わせる巨漢と小兵の猿人。

 最早お馴染みの光景にアンドロメダがクスクス笑い、ヒョウエと三人娘が肩をすくめる。

 

「さて、それでは・・・」

「アラ、ちょっと待ってくれないカシラ? 少し話がしたいのヨ」

「!?」

 

 三人娘と共にヒョウエの杖にまたがろうとしていたアンドロメダが勢いよく振り向いた。

 その顔には驚愕の色。イサミ、バーリー、ヒョウエの顔にも同じ表情。一方で三人娘の顔には、驚愕は驚愕でも自分の常識から外れた存在に対する僅かな拒否感と不可解さへの疑問――要するにちょっと引いた表情が浮かんでいる。

 

「お久しぶりね、アンドロメダ嬢! アラアラまあまあ! 随分とお綺麗になったジャナイッ?

 そちらはワタシの事を知らないみたいネッ! よければ紹介して頂けないかしラ?」

 

 耳障りな甲高い声。

 そこにいたのは、一言で言えば恐ろしく太った人間だった。

 身長は(おそらく)座った状態で1m50、体重は600キロは優に超えているだろう。

 肉の塊というのがぴったりの外見で、薄衣のようなものを羽織ってはいるがほぼ全裸に近い。

 到底歩けないような体型ではあるが、宙に浮かぶ円い輿のようなものに座って移動しているようだ。

 周囲には一見して手練れとわかる護衛の兵と術師、そして数人の侍従と侍女がいた。

 

「・・・喜んで。皆さん、こちらはダー・シ・シャディー・クレモント様。

 クレモント家の当主で、八人の魔導君主の一人でいらっしゃいます」

「・・・!」

 

 やはり、という感じでヒョウエが目を見開いた。

 ダー・シ・シャディー・クレモント。800年前に分裂していたゲマイを統一し建国されたゲマイ魔導共和国の最初の魔導君主たち、いわゆる「創世の八人」の中で、未だに魔導君主の座にある唯一の人物。

 『星の騎士』と並び、《百神》の《使徒》以外で不老不死を達成した唯一の人物と言われている。

 

(まあその代償として、半ば人間であることをやめているようではありますが)

 

 時折モゾモゾと不気味にうごめく肉塊を眺め、ヒョウエが独りごちる。

 肉体の維持に魔力をつぎ込んでいるのか、サヌバヌールのような並外れた魔力も感じない。

 モリィがあっ、という顔になる。

 

「思いだした! 『ゲマイの死なない王様』か!」

「あら、ディテクだとそんな風に呼ばれているノ? まあ悪くはないわネ!」

 

 ぐふふふふ、と不気味に笑うダー・シ。

 慌ててモリィが頭を下げた。彼女はこう見えて基本的な礼儀作法は身につけている。

 

「あ、いえ、ご無礼を」

「イヤイヤ、気にしないでいいわヨ! 時間があればディテクでどんな風に言われているのかもっと聞きたいところだけどネ!」

 

 カバの鳴くような笑い声を上げるダー・シ。

 その一方でアンドロメダはようやく冷静さを取り戻していた。

 

「ぶしつけな質問ではありますが、ダー・シ様。あの男(ケイフェス)に力を貸したのは・・・」

「アタシ、という事になるかしらネ? ケイフェスちゃんも随分と苦虫を噛みつぶしたような顔をしていたケド」

 

 クレモント家は規模だけで言えば創世八家の中でもっとも小さな家の一つだ。

 しかし当主のダー・シが培ってきたコネクション、老獪な手腕と政治力、世界最高の術師の一人であるという評判と重ねて来た年齢そのものが、彼に並々ならぬ力と格を与えていた。

 実際今回のことで、リムジー家はこの男に巨大な借りを作ったことになる。

 

「まああんまり引き留めても悪いシ、それジャアネ! 御母様にヨロシク!」

「はい、母にもよろしくお伝えします」

 

 一礼してからヒョウエたちは杖にまたがり(イサミだけは例によって障壁の中に転がされているが)、飛び立った。

 ダー・シとバーリーの姿がどんどん小さくなり、クリエ・オウンドも豆粒より小さな点になったところでモリィが息をついた。

 

「あー、びっくりした。何だったんだあの百貫デブは」

「百貫(約375kg)どころではなさそうでしたけどね。まあ、端的に言えばモリィが言った『ゲマイの死なない王様』そのものですよ」

「アタシが聞いた昔話じゃ銀の孔雀の羽から不老不死の薬を作って千年生きてるって話だったけど、まさかあんな肉の塊だったたぁな・・・」

 

 少女の頃の夢を壊されたような顔でモリィがげんなりした顔になる。

 アンドロメダが苦笑。

 

「まあ数百年生きているのは事実ですけどね。話によれば、ゲマイが建国した当時既にあの姿だったそうですし、千年生きていてもおかしいとは思いません」

「・・・何しに来たんだろうな」

 

 腕組みをしたイサミがぼそりと呟いた。

 結局ダー・シはアンドロメダから各人を紹介されただけで、それ以上は何も話そうとしなかったのだ。

 アンドロメダが首を振る。

 

「わかりません。単に物珍しかったのかも知れませんし、あの男(ケイフェス)への牽制かも知れません。それ以外に何かディテクで暗躍しようとしているのかも知れませんし・・・もしくは」

「・・・」

 

 視線を無言でヒョウエに向ける。

 

「僕、ですか」

「ええ。あくまで可能性ですけれども」

「・・・」

 

 何かを言おうとしたヒョウエに、口調をがらっと変えて声をかぶせる。

 

「まあそんな事より重要なこともありますけどね」

「なんです、姉さん?」

「あなたの借金ですよ。今回のあなたの取り分は全部こちらによこして貰いますからね。今回の件と合わせて、それで腕輪の件はチャラにして上げます」

「そんな殺生な?!」

 

 ヒョウエの悲鳴が上がる。

 ただでさえここのところあれこれで忙しくて仕事ができていないのだ。

 レスタラの一件やその前のズールーフの森からの謝礼はあるが、あちこち借金や税金だらけでピーピーしているヒョウエの懐にはかなりの致命的打撃(クリティカルヒット)である。

 

「何が殺生なものですか! 売り先が決まっているものを無理矢理借り出して壊してきて! 突貫作業で代わりを作るのに凄く苦労したんですよ! 文句があるなら体を売ってでもお金を作りなさい!」

「そんなあ!」

 

 右側に身を乗り出してヒョウエを叱責するアンドロメダ。

 杖の上が一転して騒がしくなる。

 イサミが肩をすくめ、三人娘が溜息をついた。

 

 毎日戦隊は毎日が毎日日和。

 雨の日も風の日も、それはそれで毎日日和。

 かたつむり枝に這い、神空にしろしめす。

 全て世はこともなし。

 




クレモント→クリス・クレアモント(X-MENその他のライターでイメージ創立者の一人)
ダー・シ・シャディー→ヒンズー語で「嫁き遅れ」→喪女→モジョー

ダー・シさんのモチーフはもちろんD&D映画にも出て来たサーイの国の赤いリッチさんですが、ついでと言うことでモジョジョジョ(違)さんも混ぜてみましたw

後今更ですがサヌバヌール→エン・サバー・ヌール(アポカリプスの本名)のもじりですね。
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