毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
プロローグ「音速の騎士」
「本当の壁は空にはなかった」
――チャック・イェーガー、人類で初めて音の壁を越えた男――
「荷物運びですか」
「はい、トラル・シティまで大至急・・・実は他の方を捕まえるはずだったのですが、契約を結ぶ直前でライバル商会に取られてしまいまして」
六虎亭の依頼用別室。
今日も今日とて壁の依頼を総ざらいしようとしていたヒョウエたち毎日戦隊エブリンガーを、受付嬢が引っ張って来た先がここであった。
そこで待っていたのはどこぞの商会の人間と思われる中年の商人らしき男。
服装もきちんとしていてそれなりにできる男の雰囲気を漂わせているが、今は神経質そうに眼をきょろきょろさせて、うっすらと汗をかいていた。
「タム・リス社と言えば運送業の大御所じゃないですか。早馬なり何なりいくらでも用意できるでしょう。
高速移動できる
タム・リス社。オリジナル冒険者族が創立した、郵便から商品を運ぶ荷馬車隊、人間を運ぶ寄り合い馬車まで、物流という概念をこちらの世界に打ち立てた巨大商会だ。
街道を整備して交通網を作り、国内の商業を盛んにしようとしていた当時のディテク当局ともうまく話を噛み合わせ、都市間を結ぶ定期馬車のみならず、都市部とその周辺の農村地帯との定期便、農作物を定期的に輸送する商隊、手紙や荷物の郵送などを総合的に引き受けるなど、実質的な
「よくご存じで・・・ですが現状ではそれが使えませんで・・・」
「最近きな臭いとは聞いてたけどよ、カル・リス社か?」
横から口を挟んだモリィに、男が額の汗をふきながら頷く。
近年、タム・リス社から独立した幹部が新たに設立した輸送会社で、タム・リス社で培ったノウハウを活かして急成長している。
最近では本家筋であるタム・リス社との争いが激しく、タム・リス社のシェアを狙って強引な手法を多用し、たびたびトラブルを起こしているとのことであった。
「ヒョウエたちはいつもあらかた取り尽くされた後の依頼書しか見てないから知らないだろうけどな、気を付けてると時々それがらみじゃねえか、って依頼が見つかるんだよな。この三ヶ月くらいで結構増えたと思うぜ」
「なるほど・・・」
面倒くさそうな依頼の割にヒョウエたちが見たことがないというのは先に取られてしまうから。つまり、金払いがいいからだ。
カル・リス社のさまざまな妨害任務、タム・リス社の護衛任務。いずれもそれだけの金が動くし、また守秘義務がきついから噂にもならない。
だから、意外に顔が広くて情報通のモリィであってもこの程度が限界であった。
実のところギルドでは遠回しに断るようにほのめかしていたりもするのだが、それでも依頼を受ける人間は後を断たなかった。
「ここのところカル・リス社の妨害が激しく、現状普通の手段では安全にお届けできない可能性が大きいのです。
ので、空を飛び回れて腕も立つと評判のみなさま方にこうしてお願いに上がったしだいでありまして・・・」
格好からすれば大商会でそれなりの地位にありそうな男が、フリーランサーの冒険者であるヒョウエたちに対してあくまで低姿勢。
ヒョウエたちが緑等級の実力者であり、飛行という特殊技能者であるのもあるが、それだけ切羽詰まっているというのもあるのだろう。
(後は、あちこちでばらまいてきた宣伝工作がようやく実を結びましたかね)
モリィと出会った直後に山賊から助けた商隊、礼金の代わりにパーティ名を吹聴する事を頼んだ商隊長の人の良さそうな顔を思い出しながらヒョウエが頷いた。
あれ以外にもヒョウエはちょこちょこ無償の人助けをしては、その代わりに自分やエブリンガーの事を他人に話すようにしていたのである。
「それで運ぶものは? むろん、仕事を引き受けない場合でも他言はしないことを誓いますよ」
冒険者ギルドの鉄則の一つだ。
これを軽んずるような人間は、どれだけ実力があっても青等級から上には行けない。
場合によってはギルドからの懲戒・除名処分が下り、更にはなはだしき場合は「掃除屋」が送り込まれて秘密裏に処分されると、まことしやかに囁かれている。
(まあ眉唾でしょうけどね)
一部からはその掃除屋ではないかと噂されてる少年は肩をすくめた。ひょっとしたら本当にいるのかも知れないが、少なくともヒョウエでないのは確実だ。
「むろんそれは承知しております。ましてや緑等級の方ともなれば。
運んで頂くのはこの文箱です。明後日の正午までに、トラルの支店に。
その後、宛先であるトラル公爵閣下の城まで護衛もお願いしたい。
報酬は成功報酬がエイビス金貨で800枚、八万ダコック。明後日正午より早く商会支店に届けてくだされば、一時間ごとに二千ダコックを追加でお支払い致します」
「む・・・」
「何か?」
「いえ、何でも」
ヒョウエは王族であるから、当然身分の高い人々には結構顔を知られている。
まあ多分公爵本人が出てくることはないだろう、恐らくきっと多分メイビー。
「それでは今すぐ出立しようと思います。みなさん、いいですか?」
三人娘が頷いたのを確認して、男に頷いてみせる。
これまで無言でやりとりを見守っていた初老のギルド職員が、依頼受諾書とペンを差し出した。
既にこれまでの条件と報酬、仕事内容などが書き込まれている。
一瞥して頷くと、ヒョウエは仲間達にそれを差し出した。
三人が再び頷いたのを確認して、ヒョウエは依頼受諾書にサインした。
「うっひょぉぉぉぉ!」
空気を切り裂いてヒョウエの杖が飛ぶ。
その上にはヒョウエ、モリィ、リアス、カスミのいつものメンバー。
叫んでいるのはモリィだ。
「一時間早く着けば二千ダコック! 二時間早く着けば四千ダコック! 十時間なら二万ダコック、二日なら四万八千ダコック!
このペースなら追加五万ダコックは固いぜ!」
我が世の春が来た、と言わんばかりに満面笑みを浮かべるモリィ。
リアスは苦笑し、カスミは微笑ましそうにそれを見守っている。
「まあ、僕向きの仕事ではありますね。早く飛べば飛ぶほど報酬が増えるのがいい」
こちらは楽しそうにヒョウエ。元より金銭感覚が良くも悪くも壊れているというか、頭で理解はしていても実感の薄い少年である。
報酬が入るという事もあるが、それ以上に力を使って役に立つのが楽しいのだろう。
まあ、借金の額が実感できないレベルで巨大すぎるのもあるだろうが・・・
「ふんふんふーん・・・ん? おい、ヒョウエ」
上機嫌で歌っていたモリィの鼻歌が途切れる。
「・・・!?」
モリィが指さした先、地上の街道を見てヒョウエが目を見開いた。
「・・・え?」
「はい?」
僅かに遅れて地上を見たリアスとカスミも絶句する。
王国を東西に繋げる大街道。東のメットーから西のトラルに向けて伸びるそれの上を、徒歩や騎乗、馬車で移動する旅人たちに紛れて一人の男が走っていた。
それだけならどうということはない。徒歩で走る飛脚か何かだろう。
尋常でないのはそのスピードだ。
ヒョウエたちの足下では景色が流れるように後方へ通り過ぎていく。
しかしその男とヒョウエたちとの位置関係はほとんど変わっていない。
亜音速で飛ぶヒョウエと同じ速度で地上を走っているのだ、その男は。
秒速300メートル。
時折すれ違い、あるいは追い抜かれる旅人たちも、ほとんどはその男の存在自体に気がついていない。
すれ違った少し後に「うん?」と首をかしげるものがたまにいるくらいだ。
「くそ、もっとスピード出せヒョウエ! 走ってる奴に抜かれんじゃねえ!」
「と、言っても別に競争してるわけじゃないですしねえ・・・」
そう言って再び下を見下ろした瞬間、目が合った。
男――遠いしゴーグルをつけているので顔立ちはよくわからないが、恐らくはまだ若い。ヒョウエたちの方を見上げて鷹のような鋭い顔立ちにニヤリ、と愛嬌のある笑みを浮かべる。
指を二本立ててシュッ、と振ると、男は一段階スピードを上げた。
「え・・・」
「うそだろ、おい?」
男が、少しずつではあるが距離を離し始めた。
呆然とそれを眺めるリアス達。
「おいヒョウエ・・・あ」
リアスが見たのはヒョウエの少女のような顔に浮かぶ獰猛な野獣のような、それでいてひどく楽しそうな笑み。
(あかん、火が付いたなこれ)
一瞬で諦めモードに入るモリィ。煽ったのをちょっと後悔するがもう遅い。
「みなさん、ちょっと腹に力を込めてて下さいね。飛ばしますよ」
「ヒョウエ様?!」
「ちょ、ちょっと待ってくださ」
い、と言おうとした瞬間、周囲の念動障壁が恐ろしく強化されたのがカスミにもわかった。
そして次の瞬間、ずん、と加速の衝撃が全身を貫く。
「 」
「ごっ・・・」
「っ」
悲鳴すら上げることもできず、三人娘はヒョウエと共に音を置き去りにした。