毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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プロローグ「音速の騎士」その2

 高度500m。

 空の壁を切り裂き、異音を響かせてヒョウエたちが飛ぶ。

 魔力視覚を持つものが見れば、念動障壁が鋭角な刃の切っ先のような形に変形しているのが見て取れたろう。

 その強固で鋭い先端が空気を裂き、衝撃波(ショックウェーブ)と雷のような轟音、いわゆるソニックブームを引き起こしているのだ。

 ヒョウエたちが通り過ぎた後の地上では、旅人たちがメットーの方角を見上げて首をかしげている。

 

 音の壁を破ることによる轟音(ソニックブーム)はほとんど減衰せずにヒョウエたちの前方の地上に届く。

 しかし地上に届く頃には音の発生源、つまりヒョウエたちは超音速で上空を通過してしまっているので、音の聞こえた方に顔を向けても何もいないのだ。

 コンコルドなどの超音速機華やかなりし頃、洋上の船がしばしば謎の轟音を聞いたのもそれが理由である。

 

 それほどまでに早いヒョウエたち。

 真の龍でもなければ、恐らくはこの速度で飛ぶことはできないだろう。

 だが、だがしかし。

 

 そのヒョウエと競うものがいた。地上を音速を超えて走るゴーグルの男。

 いっときはヒョウエたちを突き放しかけたものの、今はその差がジリジリと縮まっている。

 

「しかし地上を超音速で移動すれば間違いなく衝撃波が発生するはずなんですけど普通に他の人たちとすれ違ってますね。何かからくりがあるんでしょうか」

 

 魔法か? それとも《加護》か? と独りごちるヒョウエに、後ろから応えるものがあった。

 頭を振り振り、意識をはっきりさせようとしているリアスだ。

 ちなみにカスミはまだ意識がもうろうとしており、モリィに至っては白目をむいて気絶している。

 

 一説によれば女性は男性より重力加速度に強いと言うが、それでも慣れてない人間にはきつかったらしい。

 カスミは小さいながら忍者の修行の過程で鍛えた肉体が、リアスはこの中で一番高い耐久力に加えて"白の甲冑"の肉体強化と保護の機能が守ってくれたのだろう。

 

「ヒョウエ様、しょうげきは?とはなんでしょう? スピードを上げたときのあれですか?」

「いえ、それとは違います。前にゲマイで『空気を切り裂く』という話をしたのを覚えてますか?」

「あー・・・ええとその」

「わからないならわからないでいいですよ。つまりあの時説明した事が今まさに起きているわけですが・・・そうですね、刀を振れば音がするでしょう」

「はい」

「達人がいい振りをしたときと、素人が無様な振りをしたときは、音が違うでしょう? 達人でも軽く振ったときと本気で振ったときでは、やはり音が違うでしょう」

「はい」

 

 リアスの声に僅かながら理解の色が混じった。

 

「今の僕たちは白の甲冑を着たリアスの最高の振りよりも更に早く空を飛んでいます。

 すると物凄い太刀風(たちかぜ)が起こるわけですよ」

「なるほどなるほど」

 

 太刀風、つまり剣を振ったときに起きる風である。

 いかな達人であれ、音速を超える太刀の振りは不可能だ。

 一説によれば達人の刀の振りが秒速18メートル、時速で64キロ。

 現在のヒョウエたちの速度はその二十倍を優に超える。

 およそ人間の届き得ない領域であろう・・・と言いたいところだが、この世界であればひょっとしたらいる、あるいはいたかも知れないとちょっと思う。

 

「魔法も奇跡も《加護》もありますからねえ」

「"始まりのサムライ"などはそれ位できてもおかしいとは思いませんわね」

「ですねー」

 

 何しろ巨竜を斬り、海を割ったと言われる伝説の男だ。

 単なる健康の力をほとんど不死身の領域にまで引き上げた『星の騎士』などもいるし、最初から戦闘用の強力な《加護》を鍛えに鍛え抜いたらそれ位できそうだと思わないでもない。

 

「まあともかく、その太刀風が衝撃波(ショックウェーブ)です。僕たちも周囲にばらまいてますけど、これは誰もいない空だからであって、鳥か何かが下手に近づいて来たら、暴れ牛にはねられる子犬みたいに吹っ飛ばされるはずですよ」

「でも、あの方はそうなっていませんわね」

「ええ。だからあれは単純に肉体を強化するんじゃなくて、何か速度自体を概念的に強化する術か《加護》なのではないかと」

「なるほど」

 

 何気なくリアスが前方を見た。白の甲冑の視覚強化機能が自動的に起動し、リアスが「あ」と声を漏らす。

 

「・・・ヒョウエ様、このままですと」

「ですね」

 

 僅かに残念そうにヒョウエが頷いた。

 その視線の先、数十キロほどのところにあるのは山。

 一番高いところで今のヒョウエたちのいるのと同じ、標高500m程度だがそれでもいくつかの山の連なりが十数キロにわたって続いている。ヒョウエたちはその上を飛んでいけるが地上を走る男は山道を走るか、大きく迂回するかしないといけない。

 そうなると速度はほぼ互角であるから、この「勝負」は自動的にヒョウエの勝ちと言うことになるだろう。

 

「まあしょうがありませんか。向こうは歩きでこっちは飛んでるんですし」

 

 自分を納得させるように呟いて、ヒョウエが少し高度を上げた。

 名残惜しそうに下を見る。

 

 数キロ先で大きく街道が曲がり、迂回して山あいを通る。

 後数秒でこの楽しいかけっこも終わり。

 

「・・・うん?」

 

 ゴーグルの男が減速しない。

 このままでは山肌に激突する。あるいは・・・。

 

「まさか、山を駆けのぼるつもりですの? 森を突っ切って?!」

「いや、これは・・・!」

 

 ヒョウエの声と同時に、男が飛んだ。

 いや、飛行ではない。跳躍だ。

 だがそれでもヒョウエたちと並行しつつ、ぐんぐんと恐ろしい勢いで高度を上げる。

 山の頂上の更に上、高度600m。

 30mほどの距離を隔てて男とヒョウエたちが並んだ。

 

 にやり、と男が笑う。

 にやり、とヒョウエが笑い返す。

 そこからゆっくりと男が高度を落としていく。

 

 もちろんほとんど同じ速度で併走しているからの錯覚であって、実際には超音速からの高さ600mに達する超絶の跳躍。

 低いとは言え山をひとっ飛びで跳びこえたそれの跳躍距離は、恐らく数キロに達しているのではなかろうか。

 何事も無く、男は街道から外れた草原に着地した。そしてすぐに街道に戻る。

 その間ほとんどスピードは落ちていない。

 

 かけっこが再開された。

 

 

 

 「ゴール」であるトラル・シティの城門が見えてきた。

 門前には入市審査待ちの人々の列。

 このころにはモリィやカスミも目を覚まして、レースの行方を注視している。

 門まで後十数キロ。

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

 ヒョウエが吼える。

 全身を駆け巡る魔力をありったけ念動の術に回し、術式を駆動させる。

 膨大な魔力をくべられた術式が周囲の魔素(マナ)を喰らい、主と共に常人には聞こえない魔力の排気音を轟かせる。

 

 下を見ればゴーグルの男も歯を食いしばり、全力を最後の十キロに叩き込んでいる。

 流れる汗。必死の表情。両手は風車のように回り、足の先端は最早影すら見えない。

 ただ街道を蹴立てる土ぼこりだけがその存在を主張していた。

 

 最後のデッドヒート。

 決着は、ゴールするその瞬間までわからない。

 

 トラル城門前。

 その最後尾に並んでいた、行商人とおぼしき男がふと振り返る。

 遠くに誰かいる。そう思った瞬間、目の前に一人の男と、おとぎ話に出てくるような、ほうきにまたがった魔女が現れた。

 同時に突風がぶわっと吹き付け、行商人は思わず腰を抜かしてしまった。

 

「ああ、すいません。大丈夫ですか」

「おう、悪いなおっちゃん。大丈夫か?」

 

 杖を降りた魔女(よく見ればほうきではなかった)と旅人らしいゴーグルをつけた男が同時に心配そうな言葉をかけてくる。

 行商人はコクコク頷いて、ゴーグルの男に引っ張って貰い立ち上がる。

 結局ヒョウエが男であることに彼は気付かなかった(後ろに美少女三人が並んでいるのには気付いた)。

 

 転んだ行商人が立ち上がって向こうを向いたのを機に、ヒョウエとゴーグルの男は二人揃って大きく息をつく。

 

「引き分けかな」

「ですね」

 

 彼らは数百メートル前まで全力で飛んで(走って)、最後尾の行商人の丁度1m手前でぴたりと止まって見せた。

 毛先一本、鼻半分くらいの差はついていたかもしれないが、だとしても二人ともそれで勝利を宣言する気にはなれなかった。

 ただただ、競い合ったこと自体がすがすがしかった。

 

「いやあ、俺と競争できる奴なんて初めてお目にかかったぜ」

「僕もですよ」

 

 手を握り合い、健闘をたたえ合う。

 

「友は喜びを二倍に、悲しみを半分にしてくれるというが、してみると俺達は既に友だな!」

「ですね!」

 

 はっはっはと笑い合う男とヒョウエ。モリィ達が苦笑しながら肩をすくめていた。

 

「あ、お先にどうぞ。こっちは四人で時間がかかりますので」

「悪いね」

 

 男がゴーグルを首に下ろして、にへら、と笑った。

 短く刈り込んだ髪に鋭い顔立ち、愛嬌のある目つき。こうして顔を崩すと中々茶目っ気がある。長身で、ひょろりとしているが体は引き締まっていた。

 

「俺はゴード。音速騎士のゴード・ソニックって知らないかい?」

「ああ、トラルの緑等級ですね。僕はヒョウエです」

「そっちは"六虎亭の大魔術師(ウィザード)"か。知っててくれたとは光栄だね」

 

 にこやかに話す野郎二人。"大魔術師(ウィザード)"は人によっては揶揄のニュアンスがある言葉だが、この男は普通にほめ言葉として使っているらしい。

 やがて入市審査も滞りなく終わり、ゴードとは城門の前で別れた。

 再び空を飛んでタム・リス社の支店に向かう途中、モリィが溜息をついた。

 

「変な奴だったなあ・・・腕は立ちそうだけどよ」

「ですわね。フラフラしているように見えて隙はありませんでしたわ」

 

 リアスが同調する。

 

「聞いての通りの緑等級ですが、運び屋みたいな事もやってるのでちょっと有名ですよ。目の玉の飛び出るような額を要求するそうですが」

「らしいな・・・なあヒョウエ」

「運び屋は却下です」

「ちぇーっ」

 

 ふてくされるモリィに三人とも苦笑。

 

「でも、気持ちの良い方でしたね」

「ですね。まあまたどこかで会うこともあるでしょう」

 

 ヒョウエがそう言ったその数分後。

 

「あれ?」

「おや?」

 

 領主の城の門前で、ヒョウエとゴードは盛り上がりもへったくれもなく、あっさりと再会した。

 




この人、アメコミその他でよくある「もの凄いスピードで走れるキャラ」モチーフではあるのですが、直接の元ネタはトーグというTRPGで筆者が使ってたスーパーヒーローPCです。

超高速走行と超跳躍能力持ちの音速の騎士「ソニックナイト」というキャラ。
名前はちょっと前に映画をやってた光速ランナーヒーロー・フラッシュ→フラッシュ・ゴードン(フラッシュだけかぶってるけど基本関係ない別人)→音速なので格下げしてソニック・ゴードンという流れ。
本人は音速の騎士だけど師匠の「フラッシュナイト」は光速で走れる、たぶん(ぉ

昔TRPGのサイトで同コンセプトのキャラ見た事があるので、多分日本で十人くらいは似たようなキャラ作ってるw
まあ戦闘力は普通の剣士より強いという程度でしたけどw
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