毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
08-01 企業は闘争を求める
「仕事はスピードが命」
――詠み人知らず――
「む・・・」
「ぬ!」
トラル・シティの領主、トラル公爵アケドクフの城の門前。
にらみ合っているのはヒョウエたちではない。
ヒョウエたちと同行してきたタム・リス社のヒゲの支店長と、ゴードと同行している切れ目のハンサムな若い男である。
「あ~~~」
ゴードが戸惑いの表情でヒョウエたちを指さす。
トンボに目を回させるときのように、くるくると回る人差し指。
「ひょっとしてあれか、タム・リス社の?」
「そう言うそちらはカル・リスの」
「「あちゃあ」」
ゴードとヒョウエがそろって顔を手で覆った。
「ええ・・・」
声を上げたのはリアス。
言うべき言葉が見つからないらしい。
「あ、もしかしたらですけど、タム・リス社が捕まえ損ねた人材ってゴードさんのことですか?」
「そうかもしれねえなあ。タム・リスから依頼は来たけどカル・リスの方が早かったんでね。世の中何よりもスピードが大事さ。特にビジネスはな」
わはは、と笑うゴード。
ヒョウエとしては肩をすくめるしかない。
「タム・リス社支店長ベアード! カル・リス社支店長ハイド! 入られませい!」
「おっと」
門番が二人の名前を呼び、ヒョウエたちは前に向き直った。
「む」
「ぬ」
同時に中に入ろうとして、両者の支社長がにらみ合った。
まずタム・リスのヒゲの支社長が足早に前に出た。カル・リスの切れ目の支店長が足を速めてそれを追い越す。
更にヒゲ支社長が前に出て、切れ目支社長がまた更に追い越す。
互いにほとんど走っているのに近い早足になるのに、そう時間はかからなかった。
「・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・」
その様をヒョウエたちとゴード、そして門の衛兵たちが呆れた顔で見ている。
「仕事にスピードが必要ってこう言う事ですかね?」
「多分違うんじゃねえかな・・・」
ヒョウエとゴードは顔を見合わせて溜息をつくと、足早にその後を追う。
同じく溜息をつきつつ、三人娘もそれに続いた。
走っていないだけで全力で歩く、期せずして競歩のような状況になっている二人の支社長。
互いに必死で相手より速く歩こうとしているが、若いハイドのほうが有利に見えてベアードも鍛えているのか年の割に足が速い。
大廊下を足早に歩いてデッドヒートを演じる二人を家臣や使用人たちがいぶかしげに、あるいは目を丸くして見ていた。
一方でその後ろを歩く五人は涼しい顔でそれについていっている。身長140センチほどのカスミもだ。
モンスターと戦い、その生命力=魔力を浴びて常人とは隔絶した能力を持つ冒険者ならではだろう。
両支店長のレースは大廊下の突き当たり、謁見の間に通じる大扉で終わった。
大扉の手前3mほどで立ち止まり、肩で息をしている二人。
その間にも相手を睨み付けることは忘れない。
扉を守る衛兵たちが「何をやってるんだこいつら」という、露骨に呆れた顔で二人を見ていた。
「さて」
「!?」
支社長二人がようやく息を整え、表向きは冷静に用向きを告げる。
その後ろでヒョウエが帽子をとり胸に当てると、三人娘とゴードが目を丸くした。
「・・・」
ヒョウエが片目をつぶり、口元に指を当てる。
その顔立ちが別人のものになっていた。
髪は変わっていないし輪郭もほぼ同じだが、受ける印象はまるで違う。
少女のような優しげな顔は僅かに頬のこけた精悍な顔になり、眉や目つきもその様な印象を与えるものになっている。
遠目に見ればそれほどは変わらないが、ヒョウエをよく知っている人間ほど別人のように見えるに違いない。
「あー」
モリィがぽん、と手を叩き、お面をつけるようなジェスチャーをする。
「正解」
ヒョウエが再び片目をつぶった。
今ヒョウエが使ったのは幻影の術である。
顔全体を覆うくらいの幻影を作り、そこに偽の顔を生み出したのだ。
強力な《目の加護》を持つモリィ以外には全く見破れないあたりは、ヒョウエの桁外れに高い術力と技量の賜物であろう。
どうやらアケドクフ公爵本人に「お目通り」することになるようなのでその予防措置だ。
(まあ城に入る前にやっておけばよかったとは思いますけど)
公爵のことばかり考えていたが、考えてみれば使用人や家臣の中にもヒョウエの顔を見知っているものは少なくないはずなのだ。
王族というのもあるが何せヒョウエは目立つ。母譲りの美貌に普通の子供とは明らかに違う物腰。前世の記憶を持つ転生者故の落ち着いた雰囲気が幼少からその美貌を際だたせていた。本人に自覚はなかったが、周囲の人間にしょっちゅう言われていれば流石に気付く。
ともかく一番最近でも四、五年前のことではあるはずだが、今のヒョウエを見て当時の彼を思い出すものは少なくないだろう。
念には念を入れておくに越したことはない。
興味深げに見下ろしてくるゴードの視線を受け流しつつ、ヒョウエは扉が開くのを注視した。
アケドクフ公爵の謁見の間。
縦横10mほど。メットー王城のそれに準じた作りで、豪華さは近い物があるが流石に規模は大分小さい。
奥の椅子に公爵が座り、その横に家令。左右にずらりと衛兵が並んでいる。
家令の顔にも見覚えはあったが変装が効果を発揮しているのか、二人ともヒョウエに気付いた様子はなかった。
「タム・リス社トラル支社長、ベアード! カル・リス社トラル支社長ハイド! まかりこしてございます!」
典礼官の名前を読み上げる声が響く中、支社長二人が絨毯の上に進み出る。扉前までの醜態はどこへやら、公爵の前ではさすがに大商会の幹部にふさわしい立ち居振る舞いだ。
その後に続くヒョウエたち四人とゴード。
だがヒョウエとリアス、カスミの顔には僅かな疑問が浮かんでいる。
(本来こう言う場面で中に入れるのは支社長お二人だけで、その従者に相当する僕たちは扉の外で待つのが普通なんですけどね)
リアスとカスミも僅かに頷く。
預かった文箱をヒゲの支社長に渡してそのまま外で待つのかと思いきや、文箱を持ったままついてこいと言われた時には首をかしげたが、雇い主の命令であり周囲の衛兵や典礼官も止める様子がないのでそのまま付き従った。
(条件からして何かあるかもとは思いましたけど)
とは言え、タム・リス社がカル・リス社からの激しい妨害工作を受けているのが事の発端である。公城までの護衛ならまだありえるかなとは思っていたのだが・・・
「両名、文箱をこれに」
公爵の脇に控える家令が声をかける。
「「はっ」」
ベアードとハイドがヒョウエとゴードにそれぞれ視線を送る。
それぞれ頷いてかばんから文箱を出し、貴人に対する礼に従って捧げ持ち、前に出る。
意外なことにゴードの作法も堂に入ったものであった。
(元貴族かな。それとも高位冒険者だから必要に迫られて身につけたか)
その様な事を考えている内に公爵の脇に控えていた家令が二人から文箱を受け取り、中身をあらためてから主人に差し出す。
受け取ったそれを見て公爵が満足そうに頷く。
「うむ、両社共に間違いない。まさかこれほど早く届けてくるとは思わなかったが。
ベアード、ハイド。双方褒めて取らすぞ」
「ははっ! 恐悦至極に存じます」
「勿体ないお言葉にて」
支社長二人が卒なく一礼する。
恐らく二人とも平民出身だろうが、お辞儀をする姿はその辺の貴族よりよほど堂に入っていた。
ベアードが顔を上げ、公爵の顔を見る。
「それでは・・・?」
「うむ」
笑みを浮かべて頷くアケドクフ公。
「かねてからの約束通り、レースの勝敗をもって決着をつけようではないか!」
「「ははぁっ!」」
再び、支社長二人が頭を下げる。
「「レース?」」
ヒョウエとゴード、二人の声がハモる。
礼儀正しく顔を伏せたまま、何とはなしに二人は互いの顔を見合わせた。
書いてて気付いたけど末尾に「ド」の付く名前多いなw