毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
ベアード支社長が連れて行ってくれた店は実際美味だった。
舌の肥えたヒョウエと貴族であるリアスが唸っているのだから相当だ。
モリィも夢中で料理を腹に詰め込んでいる。
その割に店の内装は素朴で、客層もさほど裕福そうではない平民が大半だ。
「うまいだろう。私が知る限りここにまさる料理屋はトラルにないよ」
「この味で、よくもこの値段で提供できるものですね?」
カスミが不思議そうにテーブルの上の皿を見渡す。
竜田揚げ(のようなもの)、ミートボールスパゲッティ(のようなもの)、回鍋肉(のようなもの)、シーザーサラダ(のようなもの)・・・エトセトラエトセトラ。
どれもこれも手が込んでいて、そのへんの酒場で出せるようなものではない。
「これ、ニホンの・・・正確にはニホンに伝わった色々な国の料理が元ですよ。多分冒険者族の店なんでしょうね」
「うわはははは、先祖伝来の秘伝の味と言う奴じゃな!」
ヒョウエたちの会話に混ざってきたのは女将だった。山盛りの皿を沢山乗せた盆を軽々と抱え、手際よくテーブルに置いていく。
小柄で細身の少女で、赤い服に黒いエプロン、腰まであるストレートロングのきれいな黒髪。
黙っていれば清楚な美少女に見えるし、声も十分にかわいいのだが、やたらワイルドな表情と物言いがそんな印象を完璧に打ち消している。
興味深そうにヒョウエが身を乗り出した。
「冒険者族の方ですか」
「うむ、10代前の先祖がここに店を開いてな! その後も代々ここで飯屋をやって来たんじゃよ!」
「その割には随分とニホンの血が濃いですね」
顔立ちも髪質もほぼ日本人で通る女将をヒョウエが興味深そうに見る。
「ははは、その後も三人ほどオリジナル冒険者がやって来ては婿入りしたり嫁入りしたりしてのう!
やはり人間胃袋を掴まれると弱いと見える!」
「ですね」
うんうんと極めて真剣な顔で頷くヒョウエを、今度は女将がしげしげと見た。
「なんです?」
「お主も冒険者族じゃよな? それもかなり血の濃い。ひょっとしてオリジナルかの?」
「ええまあ一応」
周囲がざわめき、視線が集中する。
冒険者族自体は決して稀な存在ではないが、オリジナルとなるとこれはもう稀少の上にも稀少の、もう一つ上に稀少がつくし、多くのオリジナル冒険者族が桁外れの力を持っているのはよく知られたところだ。
何しろその筆頭が海を割り巨大な魔獣を斬り伏せた「最初のサムライ」なのだ。
いろいろと尾ひれも付いているだろうが一般人の認識は推して知るべしである。
その様な周囲の反応を意にも介さず、女将が機嫌良く高笑いする。
「そうかそうか! それでものは相談なんじゃがの、お主うちに婿にこんか? とびきりの手料理を毎日食わせてやるぞ!」
ヒョウエと本人を除く、酒場にいた全員が吹き出した。
「ななななな、何言ってやがんだてめえ!?」
「そうですわ! その、踏むべき手順というものがあるでしょう!」
「え、あの、そのですね」
顔を赤くして食ってかかるモリィ、同じく顔を赤くしながら否定するリアス、同様に赤面しながらモゴモゴと何か言っているカスミ。
それらを見て女将が再び破顔する。
「うはははは、お主モテるんじゃのう! ますます欲しくなったわ! どうじゃ、そいつらも愛人って事でよいからまとめてうちにこんか?
わしも見ての通り、ぴっちぴちの娘盛りじゃぞ!」
「うわぁ」
流石に引いたのか、ベアードが顔をひきつらせてうめく。
どうしたものかとヒョウエが考えていると、厨房の方から声がかかった。
「女将、揚げ物スペシャル盛り合わせ上がりましたよ。遊んでないでちゃっちゃと運んじゃって下さい。
それから少年、騙されちゃいけませんよ。女将は若く見えますけどこれで三十間近ですからね。とんだ若作りババァですよ。
性格も根性のひん曲がったサディストですし、何かあると変な踊りを踊ったり、タンスをカタナで押し切ろうとする変態ですし、信じて結婚なんかしようものなら一生後悔すること請け合いですよ」
カウンターから顔を出し、ジト目で女将に冷たい視線をくれるのはハイティーンに見える少女。髪は金髪だがこちらも冒険者族に近い顔立ちをしており、あさぎ色と白のエプロンを着けている。
「貴様ぁ! 行き倒れて道ばたに転がってたへっぽこ食い詰め剣士を拾ってやったのは誰だと思ってるんじゃあ! 後縁起が悪いから最近アツモリは歌っておらんわい!」
「そっちこそ料理ができる弟さんとケンカして店が潰れる寸前だったのを、ヘルプで厨房に入って救って上げたのは誰だと思ってるんですか!」
ぎゃあぎゃあと始まるみにくい口ゲンカ。
ベアードを含めて、ヒョウエたち四人以外の店内は爆笑の渦。
誰も止めないし文句も言わないところを見るに、毎度恒例らしい。
注文したらしい客がそつなくスペシャル盛り合わせの皿を自分のテーブルに回収していく。
「・・・どうする?」
「冷めないうちに料理を頂きましょう。僕たちはご飯を食べに来たんですから」
「それが賢明だな」
笑いながらベアードが大皿から手元の皿にミートボールスパゲッティを山盛りに盛った。
結局女将と調理担当のケンカは周囲の笑いを誘いながら30分ほど続いた。
新しく店に入ってきた客もUターンせずにテーブルに座ってはやし立てるわ、手慣れた客が勝手に酒やつまみを持ち出して女将たちをサカナに酒盛りを始めるわ、やりたい放題である。
「さて」
テーブルの上の料理を全部片付けたところでベアードが切り出した。
「あ、ちょっと待って下さい。デザート持ってきますから」
「デザートって・・・肝心の料理人があれだぞ?」
モリィの指さす先の床には、女将と料理人がクロスカウンター相打ちからのダブルノックアウトで沈んでいた。
「
「場所がわかんねえだろ・・・ああ、行っちまった」
そのまますたすたと、女将たちを乗り越えて調理場に入っていってしまう。
調理場の入り口のところで調理棚に手を突く。
「"
突いた手を中心として知覚の術式が厨房中を駆け巡った。
調理道具や食材の置き場所、床下の酒の倉庫、高かったであろう魔道具の冷蔵庫の中身、洗い場の下水へ通じるパイプ・・・そんな物のビジョンがヒョウエの脳裏に次々と映し出される。
一通り厨房を探査し終え、ビジョンを脳内で整理するとヒョウエは動き出した。
ちゃっちゃと、熟練の料理人のように無駄のない動きで材料と皿を取り出し、白玉あんみつを五人分、さっと作って盛りつける。カウンターから覗き込んでいた物見高い客が思わず拍手。
「み・・・見事じゃ・・・やはりそなたこそはわしと縁を結び、この店を継ぐべきもの・・・」
「あ、復活した」
よろよろと立ち上がったのは黒髪の(見かけは)美少女女将。
後ろでは金髪の料理人の方もフラフラと身を起こしている。
「今のを見て確信したぞ! 初めて入った厨房でまるで熟練の料理人かのような動き!
そなた、わしの嫁になれい! そしてわしに毎日うまいミソスープを作ってくれ!」
「お前が作ってもらうほうかよっ!」
「いいから俺達の注文を作れっ!」
客席から飛んできた皿が後頭部に直撃し、再び女将は床に沈んだ。
「さて、じゃあデザートを頂きながらお話を伺うとしましょうか」
「う、うむ」
後頭部にたんこぶを作って床に沈んだ女将と、同じくたんこぶを作り、泣きながら鉄鍋を振る料理人にちらちらと視線を送りながらベアードが頷いた。
息をつき、気を取りなおす。
「まあ・・・君らも何となく状況はわかっているのではないかと思う。
つまるところだな、我が社とカル・リス社のいさかいが――敢えてそう言うが――事の発端なのだ」
「それで見かねたアケドクフ閣下が仲裁に入って、レースで決着をつけることにしたと」
「簡潔なまとめありがとう。今回君たちに頼んだ仕事はその前段階・・・レースが成立するかというテストだったわけだ」
「なるほどねえ」
モリィが頷き、ヒョウエとリアス、カスミもそれぞれに頷いた。
「それで、改めて本戦であるレースへの参加を依頼したいのだが・・・どうだろう?」
「そこのところ割と今更なんですけど、社員じゃない僕たちが参加してもいいんですか?」
「まあ私もそう思うが・・・はっきりとではないが許可すると言われてね」
ベアードが苦笑する。
「ですか」
生暖かい笑みを浮かべて、ヒョウエが肩をすくめた。
「で、どうかな。報酬は五十万ダコックを提示したいが」
ヒュウ、とモリィが口笛。カスミも珍しく目を丸くしている。
一方でヒョウエとリアスの二人は冷静だ。お坊ちゃまお嬢様なので金額がどれくらい凄いか余り実感が湧かないともいう。
「僕は文句はありません・・・それに、受けなかったら多分ゴードさんをガッカリさせることになりますからね」
ニヤリと笑みを浮かべてヒョウエ。
モリィが笑みを浮かべて肩をすくめ、リアスとカスミは笑みを交わしあう。
「そう言う事でしたら、私どもから申し上げることはありませんわ。今回の主体はヒョウエ様ですし。ねえ、カスミ?」
「はい、お嬢様」
「どうせお前がやる気だし、やめろって言ってもやめる気ないだろ。思いっきり飛んで来い。そしてあたしの懐を温かくしてくれ」
にひひと、少々意地の悪い激励をするモリィ。
ヒョウエは苦笑して、ベアードに頷いてみせた。
異世界居酒屋ノッブ・・・なんちて(ぉ