毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「えー、ダズン村のライズマン村長からの貴族の別荘に立てこもったゴブリンロードの抹殺依頼、
エーウォール駐屯部隊のゲンダー中隊長からの人質奪還依頼、
"
キッパー商会からの娼婦心中事件の調査依頼、
国境のエニウェア村のサモンジ頭領からの謎の武装集団の侵入事件調査、
以上毎日戦隊エブリンガーさんが受諾でよろしいでしょうか?」
「はい、結構です」
「ではこちらにサインをお願いしますね」
「はい」
カリカリと小気味よい音を立てて、羽根ペンで受諾書に署名する。
毎度のこととて山のような依頼。
毎日戦隊エブリンガーという吹き出してしまうような名前にも、最早慣れたものだ――何となれば、ギルドの受付嬢たちはプロ中のプロであるのだから。
そんな所で評価されたくないと、本人たちは言うかも知れないが。
書類を点検して頷くと、受付嬢がふと思い出したように言った。
「そうそう、これはあくまで噂ですけど、近々ヒョウエさんが黒等級、他の皆さんが緑等級に昇格するかも・・・ということです」
「マジか!?」
「噂ですよ。あくまで噂です」
形相を変えて食いつくモリィに、笑顔の鉄面皮で応じる受付嬢。
(それこそ噂では聞いてましたけど)
ギルドが冒険者を緑等級以上に昇級させる場合、事前に噂の形で本人に伝えることがある。
話を聞いてどう反応するかというテストでもあり、「上位冒険者に昇格するんだから身を慎めよ? お前の一挙手一投足にギルドの体面がかかる立場になるんだからな? わかってるな? フリじゃないぞ?」という暗黙のメッセージでもあるわけだ。
「まあこの前のレスタラ事変で黒等級が一人、緑等級が十人ほど戦死したり引退したりしましたからね。
ギルドとしても新しい戦力を育成するのは急務でしょう」
「あー・・・」
「・・・」
はしゃいでいたモリィの表情が暗くなる。
受付嬢も無言で俯いた。
空気を変えようとヒョウエが別の話題を振る。
「しかし僕が黒等級ですか? そこまで活躍した自覚はありませんでしたが・・・あ、ひょっとしてズールーフの森から何か?」
「いやいやいやいや」
受付嬢が思わず素に戻って、真顔で手を振る。
「レスタラ事変の際にゴブリン数千匹を撃退・・・いえ、撃滅されたじゃありませんか」
「あ」
本気で忘れていた、という顔のヒョウエ。
「あ、ってなんですか、あ、って」
「いやまあその・・・」
(実際はそんなものいませんでしたからねえ・・・ばれたら虚偽報告扱いになるよなあ、これ)
レスタラ事変の際にレスタラが利用した天空からの使者、遥か宇宙の彼方から飛来した1kmを越える巨大隕石。
まともに落着したらディテク王国の半分がクレーターになり、周辺の人間は全滅、氷河期が始まってもおかしくなかった代物の大気圏落下を防ぐため、青い鎧の力が必要になった。
レスタラの侵攻を目前にしてヒョウエが戦線離脱の言い訳として用意したのが、メットー郊外に現れた存在しない数千匹のゴブリンの大群であった。
戦闘後、アリバイ作りのために数キロ四方に渡る平原を火炎の術を込めた金属球でガラス状になるまで焼いた。
そこまですればゴブリンの死体が見つからなくても不審がられまいという目論見であり、実際ヒョウエのそれまでの実績と信用もあって報告は信じられた。
もし本当にそんなものがいてレスタラ事変に乗じてメットーを襲っていたら、史実でのトラル・シティ攻防戦より遥かにひどい被害が出ていただろう。
ギルドはそれを食い止めた()ヒョウエの功績を非常に高く評価したのだ。
(・・・うしろめたい!)
そこまで理解してヒョウエの額に冷や汗がダラダラと流れる。
傍から見れば何をどう言い訳しても虚偽の功績を稼ぐためのマッチポンプ、どころか大規模偽装である。
もっとも巨大隕石を食い止めて世界を救い、炎の魔神を撃退し、魔神の自爆を防いでメットーの半分を救ったのだから実際の功績は遥かに上回るのだが、それはあくまで「青い鎧」の功績であって、ヒョウエのそれではない。
詐欺と見るか、方便と見るかは人によるだろう。
そんなヒョウエの様子に首をかしげつつも、受付嬢が言葉を継ぐ。
「後はそれまでの実績の積み重ねですね。私も詳しくは教えて貰ってませんが、ウィナー伯爵の事件とレスタラ事変に関係して、王国の方から強い推薦があったとか。
後はお言葉通りズールーフの森の件もからんでるみたいですね・・・噂ですよ? あくまで噂です」
「はあ」
ぱちこん、とかわいいウィンクをして誤魔化す受付嬢に今更でしょうとマジレスで返すのもはばかられて、曖昧な返事を返す。
そこに割り込んでヒョウエの肩を叩いたのはモリィ。
「まっ、昇進するってんだからいいじゃねえか。前向きに考えようぜ。等級が上がりゃあ、同じ依頼でも報酬が上がるんだろ?」
「それは俗説ですね。等級が上がれば重要で信用できる人間にしか割り振れない依頼が増えますから、結果として報酬は高くなりますが」
「まあいいや、稼げるならかまわねーよ。
ここんとこの事件で随分目標額に近づいたからな。満額成就も見えてきたぜ!」
上機嫌のモリィに苦笑しつつもそれだけではない笑みを浮かべるヒョウエ。
「それを言うなら満願成就ですよ。でもおめでとうございます。ようやっと屋敷を買い戻せますね」
「まあ、そうなのですか? もうひとがんばりですわね」
「おめでとうございます、モリィ様」
リアスやカスミも含めて口々に祝われたモリィがてれてれと顔を赤くする。
「いやまあ、まだ達したわけじゃねーし、頑張って稼ごうぜ・・・稼ぐといやあ、例のレースの話はどうなったんだ。あれから全然音沙汰なしじゃねぇか」
「そう言えばそうですわね。こうやって他の依頼を受けていてもよろしいのでしょうか?」
「レース?」
首をかしげた受付嬢に、かくかくしかじかと話しても問題ない範囲の情報を伝えてやる。口を滑らせたフリをして色々教えてくれた礼だ。
「という訳なんですが、タム・リス社から依頼とか待機願いとか来てませんよね?」
「私の知る限りでは・・・上の方にも聞いてみます」
「よろしくおねがいしますね。僕たちはこれから仕事ですので」
「はい、無事のお帰りをお待ちしております」
深々と頭を下げる受付嬢に手を振って、ヒョウエたちは六虎亭を出た。
日没。
帰還したヒョウエたちが確認したところ、やはりその様な依頼は来ていなかった。
サナに頼んで豪華にして貰った夕食でモリィの前祝いをしつつ、依然少し引っかかるものを覚える。
「一応明日タム・リス社に確認してみますかねえ?」
「ですね。連絡が行き違ってる可能性もありますし」
その様なやりとりをして翌日。
依頼の前に朝一でタム・リス社に突撃したヒョウエたちが聞いたのは予想外の事実だった。
「・・・え? レースが王室預かりになった?」
「はい、連絡が遅れたのは申し訳ありません。ですが我々も事情が良くつかめませんで・・・それもどうやら五大国対抗、しかも、レース自体ディテク国内ではなく、メットーからアトラ・・・ライタイムの都までの間で競われるとか」
「はああああああああ!?」
いつの間にかディテク国内の二つの商会の競争から、全世界国家対抗大陸横断ウルトラレースになっていた事実を知り、ヒョウエたちの目がまん丸になった。
ニューヨークへ行きたいかーっ!(古)
それはそれとして今回の依頼の元ネタ。
ダズン村→ダーティ・ダズン(「汚れた12人」、映画「特攻大作戦」の原題) ライズマンは主人公の軍人。
エーウォール駐屯部隊→AWOL(二〇年ちょっと前の深夜アニメ、主人公の中の人が玄田哲章)
ツェット・ベーファオ村→カンプグルッペZbv(ツェットベーファオ)(小林源文の戦争漫画) アッシュは主人公、首無し騎士は「隊長っていつもコートの襟を立ててるよな」「首が繋がっていないのさ」という作中の軽口から。
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キッパー商会→岡本喜八 映画「独立愚連隊」の監督。娼婦との心中も作中の事件から。
エニウェア村→メックウォリアーRPGリプレイ「独立愚連隊」シリーズの舞台「惑星エニウェア(どこか)」。
と言うわけで今回は懲罰部隊(犯罪者部隊)もので統一してみました。
いや独立愚連隊はどっちも素行不良なだけで犯罪者ではないけどw