毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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第二章「スピード・レーサー」
08-05 通信インフラの話


「光より速く進むものはない。ただし悪い噂だけは例外で、こいつばかりは特別な物理法則が適用されるらしい」 

 

     ――ダグラス・アダムズ――

 

 

 

「あなたも意外と目立つのが好きねえ」

 

 例によって情報収集に向かったカレン・カーラ姉妹のところで、開口一番姉に言われたのがそのセリフだった。

 同じく例によってカーラを膝に乗せながら、肩に肘を載せてくるこの姉に嫌そうな顔で口を尖らせる。

 

「別に好きで目立ってるわけじゃありませんよ」

「そうね、あなたは自分が目立とうが目立つまいが頓着しない子だったものね、昔から」

 

 猫のような笑みでカレン。

 カーラがクスクスと笑う。

 

「しょうがないわ、カレン姉様。ヒョウエ兄様は何もしてなくても目立つもの」

「まあ否定はしませんよ」

 

 カレンのみならず周囲に控える侍女たちからも笑みがこぼれるのを見て、ヒョウエが天井を仰いで大きく肩をすくめた。

 

「それで? タム・リス社とカル・リス社の因縁をレースで決着させるというのが、何で大陸横断チキチキウルトラレースになってるんです? しかも国別対抗って」

「ウルトラレースとかチキチキというのはわからないけど、まあ多少は知ってるわ」

 

 カレンが肩をすくめる。

 

「それがね、アケドクフ公爵が街道を使用するので話を通すついでに、お父様にそれを面白おかしく話したらしいのよ。

 しかも話したのがパーティ会場でだったものでゲマイの魔導君主様が話を聞いていて、どうせなら各国の友好を深めるために国別対抗にしたらどうかって話になって。

 アグナムの全権大使も乗り気になって、速さを競うなら負けてはおれないとダルクの族長も割り込んできて、そうなるとまあ、ライタイムも自分だけ参加しませんと言うことにはならないわよね」

 

 国力および国土の広さでは五大国の中でもディテクとライタイムが双璧ではあるが、ゲマイは魔導において大陸一と評される国であるし、ダルクは草原の国だけあって馬と速度に対する誇りは並々ならぬものがある。

 アグナムは東海に浮かぶ島国で、広さだけで言えばその他の群小国家とさほど差はないのだが強力な《加護》持ちがしばしば生まれること、高い頻度でオリジナル冒険者族が降臨することが知られていて、質で言えば大陸最高ではないかとも言われている。

 

「あれ、ファーレン家の御当主は先日の騒ぎで変異させられていたでしょう。もう起き上がっていいんですか?」

「地元からとびきりの治癒術師を呼んで治療したそうよ。その方の協力で、コネルたち他の面々も後は安静にしていれば治るって」

「それはよかった」

 

 ヒョウエが安堵したように息をついた。

 

「さすがにゲマイというところですか。しかしみなさんノリよすぎじゃないですか? いずれも国家元首かそれに次ぐクラスの方々が」

「メンツがかかるとそんなものよ」

 

 苦笑するカレンに、こちらは満面の笑みのカーラが言葉をかぶせる。

 

「でもみんなで一生懸命走るんでしょ? それで仲良くなれるのはとてもいいことだと思うの!」

「・・・」

「・・・」

「え、なに? お兄様もお姉様も・・・?」

 

 兄と姉をキョロキョロと見比べる幼女。

 ヒョウエもカレンも、周囲の侍女達も微笑ましさ満載の笑みを浮かべている。

 特にカレンは笑み崩れるというのがぴったりの表情で、我慢できなかったのか、ヒョウエの膝の上のカーラに抱きつく。

 

「わぷっ!?」

「ああもうあなたって素敵よ、カーラ!」

「? ? ?」

 

 目を白黒させてはいるもののカレンが喜んでいるのはわかったのか、カーラが曖昧な笑みを浮かべる。

 その頭をヒョウエが優しく撫でてやった。

 

「それにしてもあなた、私に聞きたいことがあるときだけこっちに来るわね。つまりもっと色々無理難題を押しつければもっと私とカーラに会いに来てくれるのかしら?」

「恐ろしいことを言わないで下さい」

 

 真顔でヒョウエが返す。

 カーラが同じくらいの真顔で兄と姉を見上げた。

 

「・・・そうなの?」

「ええそうよ。だから大変なことが起きるとしょっちゅう会いに来るようになったでしょう?」

「・・・」

 

 今までの人生でこの愛らしい顔にこれ以上真剣な表情を浮かべたことがあるのだろうか、というくらい真剣な顔でカーラが考え込む。

 

「姉上! カーラに変なことを吹き込まないで下さい!」

 

 ヒョウエの悲鳴が居間に響く。

 カレンがにっこりと邪悪な笑みを浮かべ、侍女たちが一斉に溜息をついた。

 

 

 

 それからの数週間、大陸中を魔導通信と転移術師が駆け巡った。

 この世界、ゲマイの飛空瓶(フライング・ボトル)のような小数の例外はあるが、基本的に伝令や早馬などによらない高速通信は王家と一部の大貴族、心術を得意とする交流神(コア・ヒム)と千里眼や魔力感知などの術を得意とする占術神(ファルタル)の神殿の独占物である。

 "遠距離精神感応(テレパシー)"や"遠視(ファーシー)"の術を使える術師かその術を再現した魔道具かという違いはあるが、それらを各都市に配備してネットワークを構築、伝言ゲームで伝えていくのが基本となる。

 

 もちろん、例えばディテク王国のメットーからゲマイ魔導共和国のクリエ・オウンドまでメッセージを送ろうなどとしようものならば、庶民が一生働いても手の届かないくらいの金額が必要となる。

 庶民が遠くにメッセージを運ぼうとするなら、商隊などと個人的に契約して手紙を託すのが普通だ。

 

 ちなみに"真なる魔術師(トゥルー・ウィザード)"として心による交感、複数の人間の精神による相互作用を研究していたのが交流神(コア・ヒム)であり、心の働き自体を研究していたのが心の神(ウィージャ)である。

 現代では前者がある種の通信ネットワークインフラとして、公的組織や商家における生きた嘘発見器として、また家庭裁判所的なもめ事の仲裁所として扱われており、後者は心の病(この世界では既に20世紀レベルの「精神疾患」という概念がある)に対処する医者、ないしカウンセラーとしての性格が強かった。

 

 一方でそれより更に貴重なのが転移術師(テレポーター)だ。

 転移(テレポート)の術や《加護》を持つものだけでも大陸全土で100人いないと言われているが、大陸の端から端まで駆け回れるほどの術師となればまず十人いるかどうか、と言われている。

 

 有名どころではライタイムにある瞬足神(マリーチ)大神殿の高司祭コンチェ。

 ライタイム周辺の小国ヴェレットの大魔術師(ウィザード)ジャケ。

 ゲマイの魔導君主ファーレン家に仕える大魔術師(ウィザード)フーディーニ。

 同じく魔導君主リムジー家の分家に仕える大魔術師(ウィザード)ミロヴァ。

 

 加えてゲマイ以外の五大国もそれぞれ一人はそうした術師を抱えていると言われている。実際今回の外交交渉でもそれらの国の代表は何年もかかる旅をすることなく、直接メットーに現れていた。

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

「それで、レースがメットーからアトラまでってのは確定なのか?」

「姉に聞いた限りではそうみたいですよ」

「わざわざディテクの首都からライタイムの首都まで・・・いえ、走者がヒョウエ様とゴードさんでは無理からぬ事ですわね」

「そらぁな。トラルまで普通に行きゃあ十日のところを三十分で行っちまうんだ、ディテクの端から端までだって一日あれば行き来できるだろうさ」

 

 例によって例のごとく山のような依頼を受けて、依頼から依頼へ飛行中。

 エブリンガーの面々はその様な会話を交わしていた。

 

「大体レースってどうやるんだ? メットーからヨーイドンで始めてアトラまで走りっぱなしか?」

「さすがにメットーからアトラまでだと、僕でも丸一日かそれ以上かかりますねえ。

 途中でチェックポイント・・・関所みたいなものを作って、一つの関所から次の関所まででレースは一区切り、後は次の日に。そう言う流れとかがありそうですが」

「なるほど・・・」

「いやするっと流してるけど、一日でアトラまでいけるってのは、果てしなく頭おかしいからな?」

 

 この世界の人間の感覚的には世界の果てから果てまで位である。

 ヒョウエの知識からしても、恐らくこの惑星の裏側くらい。

 (これまでにも何度か言っているがこの世界は球体の惑星である)

 

「まあこの世界の常識からするとそうでしょうね。もっとも僕の数倍で飛行する機械・・・異界遺物(ディファレント・アーティファクト)が普通にあった元の地球を考えると、巡航速度ではマッハ1がせいぜいの僕はそれほど大したものじゃないんじゃないでしょうか」

「マジかよ」

「想像もできませんわね・・・」

「恐るべき世界ですね」

 

 戦慄する三人娘。

 とはいえ超音速を維持したまま世界を半周できるような航空機は、21世紀の地球でも(少なくとも商用ベースでは)いまだに実用化されてはいない。

 コストを度外視すればあるいは可能であったかも知れないが、令和の地球の基準でもその程度にはヒョウエは常識外であった。

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