毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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08-07 ゲマイの術師

 一声を上げた後時間が止まる。

 ソファに座るミロヴァの存在に、さすがのヒョウエたちが一瞬固まって動けない。

 その間に老婆が隙のない、しかし上品な身のこなしで立ち上がり、深々と頭を下げた。

 

「ヒョウエ様、モリィ殿、リアス様、カスミ殿。先だってはご迷惑をおかけ致しました。我が主サヌバヌール様に代わりおわび申し上げまする」

「・・・」

 

 驚きはしたもののヒョウエが帽子をとり、胸に当てて一礼する。

 三人娘も少し遅れてそれにならい、ミロヴァが更に深々と頭を下げた。

 

 

 

「しかし、よくお国を出られましたね? いや、あなたがその気になれば何と言う事はないでしょうが」

 

 改めてお茶をいれ直して会話が仕切り直しになる。

 ヒョウエの質問にミロヴァが僅かに微笑んだ。

 

「ケイフェス様に命じられましてのう。お家と若様(サヌバヌール)への心象を良くするためにも断れる立場ではございませぬよ。なので、そのついでに姫様とイサミ様におわびを申し上げに来たと言うわけで。

 折を見て皆様のところにも参るつもりでしたゆえ、ここでお会いできてようございました」

 

 ヒョウエたちがうなずく。

 敵ではあったがアンドロメダたちにも礼儀正しく振るまい、サヌバヌールに忠義を尽くしたこの老術師には元より誰しもが悪意を抱いていない。

 

「しかしこのタイミングでという事は・・・まさかと思いますがミロヴァさんが今回のレースのゲマイ代表ですか?」

 

 ミロヴァが一瞬きょとんとした後、上品に笑い声を上げる。

 

「ほ、ほ、ほ・・・そうではございませぬよ。瞬間移動の術を使っては速さ比べになりますまい。

 この婆の役割はレース通過地点の各所に様々な魔道具を届けること、段取りのために人員をお連れすることです。

 他にファーレン家のフーディーニどの、ライタイムのコンチェ高司祭やヴェレットのジャケどの。顔は合わせておりませぬが、アグナムのタイ・ツォンどのも駆り出されておるとか」

「壮観ですねぇ・・・各国の人間国宝が勢揃いじゃないですか」

 

 はー、と感心するヒョウエにアンドロメダが頷く。

 

「全くです。にしても人が国の宝とはうまいことをいいますね、ヒョウエ」

「ああ、それはニホンの言い回しでね。特に優れた技能を持つ人間を国が褒賞する制度があって、それを俗に人間国宝と呼ぶのさ」

 

 夫の言葉にまたアンドロメダが頷く。

 

「なるほど。まあミロヴァがそれに値する術師であることには全く異論はありませんが」

「ほほほ・・・過分なお言葉、ありがたいことにございまする、姫」

 

 微笑む小柄な老婆の顔を、興味深げな顔でイサミが覗き込む。

 

「ところでミロヴァさん、ついでだから聞いちまいますけど今回の件、ゲマイの代表についちゃ何かご存じないですか?」

「存じておりますよ。確かイサミ様もご存じだったはず」

「え、誰です?」

「ビシク家のマデレイラ様でございますよ」

「あの子がですか?!」

 

 アンドロメダが眼鏡の奥の目を丸くする。

 「誰だっけ?」という夫の視線に気付くと、おほんと咳払いして表情を整えた。

 

「あなたと会って一年位したころだったかしら。リムジーのお偉いさんの家にお師匠様と一緒に行った時、私にやたらなついていた眼鏡の女の子を覚えてる?」

「・・・ああ!」

 

 イサミが得心した顔で膝を叩いた。

 

「姉さん、どういう子なんです?」

「・・・」

「何か?」

 

 質問に答えるでもなく、じっとヒョウエの顔を見るアンドロメダ。

 その表情が少し懐かしげである。

 

「そうですね。サヌバヌール同様リムジーの分家筋の長女です。一言で言えば魔道具の天才で、明けても暮れても魔道具のことばかり考えているような魔道具"ヲタク"です。あなたを女の子にしたらあんな感じになるかと思いますよ」

「何か今さらっと僕を馬鹿にしませんでした?」

「単なる事実ですよ」

 

 弟分のジト目を微笑みでさらりとあしらうアンドロメダ。

 三人娘とイサミは苦笑しつつ、ミロヴァは微笑ましそうにその様を眺めていた。

 

 

 

「うん? イサミ様、アンドロメダ様、お客様のようです」

「おっと。俺が出てくるよ、メディ」

「すいません、あなた。お願いするわね」

 

 それからも歓談が続く中、聴覚の鋭いカスミが表の声を捉えた。

 イサミが席を立って応接間を出て行く。

 少しして、再び応接間の扉が開いた。

 

「あら、あなた、早かった・・・」

「お・ね・え・さ・まーっ!」

「!?」

 

 開いた扉から弾丸のように飛び出してきたのは小柄な眼鏡の少女だった。

 ぴょん、と飛んでそのまま座っていたモリィ達を飛び越し、アンドロメダの首っ玉に――ヒョウエの従妹の小さいカーラがヒョウエに良くやるように――抱きつく。

 激突するのではなくふわりと接触しているところを見るに、恐らくは何らかの魔術か魔道具を使っているのだろう。

 

「マデレイラ?!」

「ああ、お姉様だお姉様だ! アンドロメダお姉様だぁ!」

 

 首っ玉に抱きついて頬ずりする眼鏡の少女。

 しばらく目を丸くした後、アンドロメダは苦笑しながらその頭を撫でてやる。

 ヒョウエや三人娘、戸口のところのイサミはそれぞれ苦笑を浮かべて、ミロヴァは微笑ましそうにそれを見守っていた。

 

 

 

「初めまして、みなさま方。ミロヴァおばあちゃんはお久しぶり。ビシク家の長女マデレイラ・ビシクです。この前の事件では父もわたくしも、皆様には大変お世話になりました。

 改めて御礼申し上げます」

 

 アンドロメダの横にちょこんと座っていた少女が立ち上がり、深々と礼をする。

 小柄な少女だ。14歳と言うことだが、12歳のカスミと比べてもほとんど体格は変わらない。

 大きな眼鏡を掛けており、ぱっちりした眼に元気そうな顔立ち、アンドロメダのそれに似た水色の髪をお下げにして背中に垂らしている。

 いいところのお嬢様とはちょっと思えない革の作業着のようなものを着ており、恐らくアンドロメダの真似なのだろうが、小袋の沢山ついたベルトをたすき掛けにしている。

 

「ああ、サヌバヌール派でないと言うことは」

「はい、父と共に軟禁されていました。自分で言うのも何ですがサヌバヌール・・・は私に結構目をかけていたみたいで、他の家の方々に比べると随分温情的な処置をされていたみたいですが」

 

 サヌバヌールに敬称をつけようとしてマデレイラが言葉を濁した。

 

「その節は申し訳ありませんでした、マデレイラ様。・・・若様はあなたさまの才を高く評価していらっしゃいましたからのう。できれば穏便に味方にしたいと思っておられました」

 

 頭を下げるミロヴァに、ぶんぶんと首を振るマデレイラ。

 

「おばあちゃんが悪いわけじゃないよ――実際あの人には随分良くして貰った覚えがあるし。誕生日にはいつも贈り物をくれたし、私にはいつも笑顔で接してくれたし・・・」

「サヌバヌールがですか!?」

 

 信じられないという顔のアンドロメダ。

 

「私などは物心ついて以来、睨まれていた記憶しかないのですが・・・」

「あー・・・多分お姉様は本家の嫡流だったからじゃないかなあ。多分分家の子とかだったら私みたいに接してたんじゃないかな? 才能って言うなら私よりお姉様の方がよっぽどなんだし」

「まあ、恐らくは」

 

 溜息をつくミロヴァ。

 

「まあ頭を握りつぶされかけて言うのもなんだが、才能に対して素直な評価をするところだけは認めてもいいと思うぜ、あいつは。アンドロメダについても才能はきっちり認めてたし」

「ですね」

 

 イサミの言葉にアンドロメダとヒョウエが頷く。

 

「しかし良くここがわかりましたね?」

「シェダル伯母様に教えて頂きました!」

「ああ・・・そう言えばあなたの母君は母上の従妹でしたね」

「はい、なので伯母様がディテクに行った後も文通をしてらっしゃいました!」

「全くもうあの人は・・・まあ教えるなとは言いませんが」

 

 溜息をつくアンドロメダの胴体に、笑顔のマデレイラが横から抱きつく。

 

「私、またお会いできて幸せです! この前の時は折角お戻りになったのにお会いできなかったので!」

「そうね、ごめんなさいマデレイラ。ええ、私も会えて嬉しいですよ」

「えへへ・・・」

 

(似てるなあ・・・)

 

 頭を撫でられて笑み崩れる少女に、妹の面影を見るヒョウエであった。

 

「ところで今あなたの事を話していたのですが」

「お姉様が!? 私のことを!」

 

 マデレイラの顔が光を放つんじゃないかと思うくらい輝く。

 苦笑しつつ言葉を続けるアンドロメダ。

 

「ほら、あなたがここに来た目的ですよ――あなたが代表と言うことは、使うのですね? 『アレ』を」

「はい」

 

 マデレイラの笑みが変化した。

 にこにこ、から、にやり、に。

 慕い尊敬する姉に対する喜びのそれから、自分の持つ何かに対しての絶対的な自信を示すそれに、だ。

 

「ほほう」

 

 興味津々の顔でヒョウエが訊く。

 

「リムジーは魔道具に力を注ぐ一族。その一族がここぞというところで出してくるなら、それは術師ではなく・・・」

「ええ。ビシク秘伝の古代遺物(アーティファクト)ですよ! 特に数年かけて私が改良したそれは――」

「ストップです、マデレイラ」

 

 あ、これヒョウエと同じでオタトークが始まる奴だ、と三人娘が身構えたところでアンドロメダの声がそれを遮った。

 

「え、お姉様?」

「このヒョウエはですね、あなたと同じレースの代表選手の一人です。それを承知でなら構いませんが、余り手の内を明かすものでもないでしょう――まあ彼の名誉のために言っておくなら、今のは単に魔道具狂いのヒョウエが好奇心を発揮しただけだと思いますが」

「・・・へええ」

 

 マデレイラの目の色がまた変わった。

 素直なそれから、少しねっとりした、めんどくさそうなオタクのそれに。

 

「つまり、あなたは魔道具オタクとして私に勝負を挑んでるんですね!」

「違います」

 

 即座に真顔で否定するヒョウエ。面白そうな顔でアンドロメダが口を挟む。

 

「そうそう、この子は私の弟弟子でもあるんですよ。魔道具のあれこれも手ほどきしていますし、時間のあるときに助手もやってもらっています」

「そんなっ!? 私もいつかお姉様に手ほどきして貰って一緒に魔道具を作りたかったのに! あなたがお姉様の初めてを奪ったのね!?」

「女の子がそう言う事言わない! 姉さんも余計な事を言わない!」

 

 ヒョウエが悲鳴を上げるが、マデレイラの目のねっとりしたものは既にナパームのように火が付いて燃えさかっている。

 

「お姉様を真に姉と呼べるのは誰か! その決着をつけるためにあなただけには絶対に負けません!

 レースの日をお待ちなさい! 我が家秘伝のアーティファクトの力、お望み通り存分に見せつけて差し上げますわ!」

「何でそうなるんですか!」

 

 ヒョウエの絶叫に、その場の全員が目をそらした。




マデレイラ・ビシクの名前はカート・ビュシークとジョー・マデュレイラのもじりです。リムジー家のネーミング元であるジム・リーがプロデュースしたアメコミのトップアーティストで、詳しい人なら多分聞き覚えはあるかと。
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