毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
その後も次々と、各国から代表選手がメットーに集まってきた。
アグナムからはまだ若い男。黒目黒髪のまじめそうな、もっと言えば堅物そうな眉の太い顔立ち。大柄ではないが鉄片を打ち付けたような鍛え上げた体つきで、額には太陽をかたどった金の環、簡素な白衣に身を包んでいる。
名前はシロウ。姓はない。一種の修行僧であるらしい。
モリィ曰く、「山で暮らしてる人間の歩き方だな」とのこと。
最後にやってきたのはライタイムの代表だった。浅黒い肌で190センチほどの長身、ベリーショートのくすんだ金髪にすらりとした筋肉質の女性である。ヒョウエやイサミに言わせれば「女性陸上選手のような」体つきだ。
よそ行きらしいそれなりの服に身を包んでいるが、袖口や襟元から恐らくは真なる魔法文明の時代に作られたのであろう、奇妙な質感のスーツが見えている。
「何だろうな、あれ?」
「彼女はモニカ・シルヴェストル。ライタイムの黒等級冒険者ですよ。元軍人で攻防一体の強力な《加護》を持っていると聞いています。スーツは・・・調べてみないとわかりませんけど、リアスのアンダーみたいな強化具現化術式かもしれません」
「なるほど。しかし"
「さて、風ですめばいいですけどね」
黒に稲妻のマント。黒馬にまたがり都大路を進む彼女と一行を見てその様な会話を交わしていたヒョウエたちであったが、更にその後出くわした「それ」には流石に仰天することになる。
「アラッ! アンドロメダちゃんと一緒にいた子たちジャナイッ!? お元気だったカシラッ!?」
「ファーッ!?」
「クレモント閣下!?」
ヴェールを下ろした大きな屋根付きの輿。
レースを見物に来たどこかの貴族だろうと思っていたのだが、中にいたのは体重一トンはありそうなぜい肉の塊。
「ゲマイの死なない王様」こと、ゲマイの魔導八君主の一人、クレモント家当主ダー・シ・シャディー・クレモントであった。
「これはこれは、お目もじ恐悦に存じます・・・しかし何故こちらへ? レースの御見物ですか?」
パーティを代表してのヒョウエの挨拶に、カバのような笑い声を上げるダー・シ。
「マア見物と言えば見物ネ! ただヒョウエくんだったカシラ? クレモント家の得意とする魔導はご存ジ?」
「ええと確か伝達と遠見・・・ということはひょっとして?」
「ソッ! レースの様子を逐一観客と運営に伝えてそれを記録するノ。
ニホンの言葉で"ハイシン"と言うんだったカシラ?
場所を確保して一人銅貨数枚くらいで入場料を取れバ大もうけヨ、大もうけ!」
「おおう・・・」
キャハハハハ、と今度は甲高い笑い声を上げる肉の塊を、驚愕と尊敬の目で見つめるヒョウエ。
一方でリアスは首をかしげる。
「ですがクレモント様。庶民から銅貨数枚ずつを取るよりも、貴族を相手に売り込んだほうが利益になるのでは?」
ダー・シが甲高い笑い声を止めて、ちっちっちっ、と指を振る。
「甘い、甘いワネ、お嬢さん。モチロン王侯貴族にも売り込んで、お酒や料理、ふかふかのクッションや冷暖房完備の特等席で観覧して貰うワ。
ケド、金貨を何十枚も支払ってそんなところで観戦できるようなお金持ちは、メットーでもそう何百人もいるものじゃナイ。一方でメットーに住んでる庶民ハ50万人。
貴族100人が金貨50枚、つまり5000ダコックを支払うとして、メットーの庶民の4割、20万人クライが銅貨5枚を支払ってくれるとしたらいくらくらいになるカシラ?」
「え、ええと・・・?」
「!」
リアスは戸惑っているが、素早く暗算したカスミが驚きに目を見開いた。
「貴族100人の払うお金が50万ダコック、庶民20万人の払うお金が・・・100万ダコックです」
「えっ?!」
リアスが目を丸くし、モリィが口笛を吹く。
ダー・シが再びカバのような笑い声を上げた。
「アラ、賢いお嬢ちゃんネッ! その通り、商売っていうのはネ、沢山の人間を相手にした方が儲かるノヨッ! マア冒険者なら余り関係ないかも知れないケド、貴族のお嬢様なら覚えておいて損はないワっ!」
「・・・」
呆然と目の前の肉塊を見るリアス。
「一人から金貨一枚を盗むより、千人から銅貨一枚を盗め、とどこかの商人が言っていましたね」
笑みを浮かべて肩をすくめるヒョウエ。
またしてもカバの笑い声。
「マアそう言う事ネッ! 貴族や商人なんてドロボウみたいなものダシ!
ソレに別にメットーだけで商売しなきゃいけないわけじゃないワッ!
ディテク各地の大都市に、ライタイムに、ゲマイに、通り道の各国! いくらでもお客様はイルのヨッ!
ソウソウ、今回の記録映像は再生機とセットで売り出すつもりダカラ、良かったらお友達ヤご親戚に宣伝しといてネッ!」
馬鹿笑いを上げる不格好な肉の塊を感嘆の目で見つめるヒョウエ。
この世界の商業レベルは中世に毛が生えた程度のものだ。
たとえ日本の知識が多少あるとしても、その中で商業に対してこれだけ先進的な理解ができる人間が世界中に何人いるか。
魔導や政治力を別としても、この1トンデブは間違いなく大した人物であった。
(まあ見かけが果てしなくあれですが)
流石に口にはしないが、それを言っても笑い飛ばしそうな気は少しする。
そんな事を考えていると、ダー・シが片手を上げる。
地面に降りていた輿がふわりと浮かび、担ぎ手たちが長柄を肩に担いだ。
「ソレジャ、色々用もあるから今日はこれでネッ! マア、ヒョウエくん――ヒョウエ殿下にはまたすぐ会えるでしょうケドッ!」
「えっ」
程度は違えど、驚きを見せる三人娘。
ヒョウエは帽子を脱いで胸に当て、不敵な笑顔で一礼した。
「それではここに、ディテク、ライタイム、アグナム、ゲマイ、ダルクの五ヶ国の名において大陸横断大レース『マルガム・ラリー』の開催を宣言致します!」
歓声が上がった。
メットー王城の大広間。壇上に立つディテク王と各国の大使達が手を上げてそれに応える。
一月ほど前に変異した怪物が暴れた痕跡は既にぬぐい去られ、着飾った貴顕淑女達がひしめいていた。
各国の代表たちの姿――当然片隅にヒョウエたちの姿もある。
正体がばれるのを嫌ったのか、ヒョウエはアケドクフ公爵の城で見せた幻影の顔。
三人娘はリアスの実家で整えた正装で参加している。
珍しい事に、カスミも子供用のドレス(リアスのお下がり)で正装していた。
「あ、あの・・・やはりこれは恥ずかしいと言いますか、大変場違いなのでは・・・」
顔を赤らめてもじもじするカスミ。
その様子がむしろリアスのハートにクリティカルしたらしい。
「そんな事はありませんわ! ああ、昔のドレスを取っておいて良かったですわ! だってこんなに愛らしいんですもの!」
「そうそう。似合ってるぜ。たまにはこう言うのも悪くないだろ」
「うぅ・・・」
満面の笑みを浮かべてリアス。
満更でもないようにモリィ。馬子にも衣装とは言うが、彼女もそれなりには似合っている。
そんな二人に囲まれて、カスミのモジモジは更に度合いを増すのだった。
「しかし、大ごとになってしまったものだなあ」
四人の傍にいた礼装のヒゲの中年――タム・リス社のトラル支社長、ベアードが溜息をついた。事は彼の手を離れているようなものだが、これまでの経緯もあるので彼がヒョウエたちの担当のようになっている。
「そうですねえ」
ヒョウエとしては苦笑するしかない。
本来二つの商会のいざこざをレースで解決するという話であったものが、何故か国の威信をかけた大陸横断レースになってしまっている。
ベアードならずとも溜息の一つもつきたくなろうというものだ。
ちらりと壇上を見る。
そこにはタム・リス社の社長である老爺とカル・リス社の会頭である老婆が上がっており、アケドクフ公爵が両社の因縁を面白おかしく出席者に語っていた。
軽妙な語り口に時折笑いが上がる。
「アケドクフ公爵の意外な才能ですね。あれなら芸人で食べていけますよ――おっと、今のは秘密でよろしく」
「ははは、ではそうしよう。とは言え社交的で有名な方だから、あれくらいはたしなみのうちだろう」
「ですね」
「でも正直知っている話を聞くのも退屈なものですわァ。どうです、わたくしとおしゃべりをして頂けません?」
「?」
後ろからかかった、鼻にかかった甘ったるい声に一同が振り向く。
そこにいたのは16,7の、その若さにして蠱惑的な魅力をたたえた少女。
グラマーでバランスの取れた肢体を、
「っ・・・!」
ぎょっとした顔。
ベアードが表情を引きつらせつつ、何とか笑顔を維持していた。
「ベアードさん、この方は?」
「あらぁ。わたくしのこと、ご存じなら紹介して欲しいわぁ」
「・・・喜んで。ヒョウエくん、モリィくん、リアスくん、カスミくん。こちらミン・ニム・ボーインさん。
今壇上にいるカル・リス社会頭イナ・イーナ・ボーインのお孫さんだ」
「!」
四人が揃って目を剥く。
「よろしくねぇ」
カル・リスのご令嬢である少女はそれを見やって楽しそうに微笑んだ。
シロウ 無限の剣製とかやる人ではありません。元ネタはサンファイアという日本人ミュータント。まあ色々ツッコミ所満載の人ですw
モニカ・ランボー(キャプテンマーベルに出て来た黒人少女。後にマーベル襲名) → モニカ・シルヴェスター → モニカ・シルヴェストル
風の精霊 → 本来「シルヴェスター」というのは「森に囲まれた(Silvanと同語源)」という意味らしいですが、こちらは「ベルゼブルの竜」という古いゲームブックに出て来たお気に入りのキャラからです。