毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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08-09 蹄の跡に剣を探さず、他人の倉に鍬を置かず

 紹介が済むと同時につつつ、と近寄ってヒョウエの首に腕を絡めてくるミン。

 

「それでヒョウエくん? それともヒョウエで・ん・か?」

「!」

 

 僅かに、あるいは結構盛大に顔をこわばらせる三人娘。

 ヒョウエ本人はポーカーフェイスを維持。

 ちなみにヒゲのベアード支社長は目元をぴくりと動かしただけで無反応。

 薄々ではあるが、ヒョウエの正体には気付いていたらしい。

 

 ともかくもポーカーフェイスを維持して首に回された腕を柔らかく外す。

 幻影の顔はやや頬のこけた精悍さを感じさせるもので、目元は鋭く、眉は太め。顔のパーツの配置だけは同じだが普段のヒョウエからは似ても似つかない。

 

「さて、誰かとお間違えでは」

 

 ある意味想定通りのヒョウエの答えに、うっすらと笑みを浮かべる少女。

 

「っ」

 

 思わず息が止まる。

 16,7の小娘とは思えない蟲惑の笑み。

 女であるモリィ達ですら一瞬言葉を失う。

 ベアードに至ってはライバル会社のご令嬢ということも忘れ、ぽぉっと頬を染めていた。

 40半ばのひげ面親父がやると中々に気持ちが悪い。

 

「うふふ。間違ってはいないわよぉ。聞いていた顔とは少し違うけれども、まあ色々誤魔化す手段はあることだし?」

 

 ヒョウエの頬に手をやり、するりと撫でる。

 そっち方面には余り興味のないヒョウエですらぞくりとくるほどの、それは魅惑だった。

 

(傾国というのはこう言うのを言うんでしょうかね。どう見ても僕と同年代なのに、まるで手練れの娼婦みたいだ)

 

 やや警戒心を強めるヒョウエ。

 会うたびにじゃれついてくる知り合いの娼婦ナヴィを思い出して僅かに苦笑する。

 

(ナヴィさんにこの人の半分でも色気があれば随分と売れっ子になるでしょうに)

 

 美人だが蟲惑の欠片もない気さくなお姉さんを思い出しつつ、ひどいことを考えるヒョウエ。

 もっとも女性の好みは人それぞれであるのでそこまで単純な話でもなかろうが。

 閑話休題(それはさておき)

 

「何の事やらわかりかねますね。僕は冒険者ヒョウエです。それ以上でもそれ以下でもありません」

「うふふ。それならそういうことにしておきましょう。でも、それはそれで好都合かしら? わたくしあなたとお話ししたいんですもの。緑等級冒険者と言うことは、色々冒険を重ねてらしたんでしょう? お話沢山聞かせて頂きたいわぁ」

「さて。互いに立場というものもあるでしょうし、レースが終わるまでの間は余り賢明なこととは言えないのではないでしょうかね」

 

 またしても頬に伸びた手をさらりとかわしてヒョウエ。

 もっとも、内心では結構動揺している。

 色恋沙汰と無縁に生きてきた――と、当人は思っている――16才の少年にとって、大人の、それも傾城傾国と言えそうなレベルの色気はいささか香りが強すぎた。

 

 それに彼女はヒョウエが口にしていないのに緑等級と言うことを知っていた。

 間違いなくこちらのことをかなり調べてきている。

 それを口に出したのは迂闊ゆえか、それともこちらを惑わすための撒き餌か。

 

 更に言えばそうした理屈とは別に、理性ではない脳のどこかが警戒信号を発している。

 危ない、深入りするな。さもなければ食われるぞ・・・と。

 

「ふふふ」

 

 その様なヒョウエの内心も見抜いているのだろうか、ミンが一歩前に出た。

 吐息が顔にかかるほど顔が近づく。

 

「関係ありませんわぁ。わたくしはわたくし。お婆さまはお婆さま。

 それに商会の仕事に関わっているわけでもありませんもの。

 だったらその辺の町娘と冒険者が仲良くおしゃべりするだけではなくて?」

「蹄の跡に剣を探さず、他人の倉に鍬を置かず、とも言いますよ。

 僕たちはそう思わなくても他人は見たいように物事を見るものです」

 

 地球で言う「瓜田に靴を入れず、李下に冠を正さず」のようなことわざを引き合いに出すヒョウエ。

 そこでようやく再起動したのか、ヒゲの支社長ベアードが割り込んで来る。

 

「そ、そうですぞ! あなたがボーイン会頭のお孫さんだというのは誰もが知っていることなのですから、我が社の契約した代表選手に近づくのはご遠慮願いたい!」

 

 話している内にその顔から動揺の色が消えていく。

 変わって現れるのは、40の若さで大商会の支部を任されるだけの度量。

 

「それに、御社が色々と黒い噂を立てられているのをご存じないわけでもありますまい。繰り返しになりますが、会頭のお孫さんが対抗相手の選手に接触するのは色々と痛くもない腹を探られますぞ」

「ふぅん」

 

 やや興味をそそられたようにベアードの顔を見上げるミン。

 

「まあそういう事なら、今回はあなたの顔を立てて上げようかな。思ったよりはデキそうな殿方だし」

「ひぐっ!?」

 

 ちらりとあらぬ方を見ながらヒゲの支社長の頬を撫でる。

 顔を赤くし、体を硬直させるベアード。

 

「じゃあね、ヒョウエ様。今度またお話ししましょうね」

 

 ヒョウエにウインクして、くるりと軽やかに身を翻す。

 蠱惑的な笑みの印象を残して、色気過剰な少女はパーティの人混みの中に消えていった。

 

「・・・ふうっ」

 

 五人から同時に溜息が漏れる。

 強力なモンスターを相手にした後のような疲労感があった。

 

「なんつーか・・・とんでもねえやつだったな」

「何らかの《加護》でしょうか?」

「難しいところかと」

「少なくとも魔力のたぐいは発してなかったと思うけどな・・・」

「モリィ」

「ん」

 

 モリィが視線を向けた先には、かなり真剣な表情のヒョウエ。

 

「今の彼女・・・何か腹に一物あったような感じですか? それとも本当にただ僕と?」

 

 モリィがちょっと考えてから首を振る。

 

「少なくとも何か企んでそうな様子はなかった・・・と思う。ただあたしもちょっと雰囲気に呑まれてたから、断言はできねーな」

「ですか」

 

 考え込むヒョウエ。モリィとリアス、ベアードもそれぞれに考え込むが、一人カスミだけは更に溜息を吐いた。

 

「どうしたんですの、カスミ?」

「いえ。ミン様が狙ってやったかどうかはわかりませんが、とりあえずヒョウエ様とベアード様は目の前の困難を乗り越えるのが先ではなかろうかと」

「困難?」

 

 二人が同時に顔を上げる。

 

「「げっ」」

 

 思わず出たうめき声。視線の先に立つのはベアードと同年代の裕福な平民のご婦人。

 そして豪奢なドレスを着た二十才くらいの貴婦人と、同じくドレスを着た八才くらいの少女。

 

「あなた? 先ほどの娘さんはどこのどなたかしら?」

「ヒョウエ? カル・リス社の孫娘と何を仲良く話していたのかしら?」

「お前!?」

「姉上?!」

 

 ベアードの妻らしき女性がベアードに詰め寄る。

 ヒョウエには従姉のカレンがにこやかな笑みで。

 確かに顔を真っ赤にしていたベアードは何か疑われてもしょうがない状況だし、曰く「顔に出やすい」ヒョウエの方もカレンから見たら内心はバレバレだ。

 

「蹄の跡に剣を探さず、他人の倉に鍬を置かず、だな」

「ですわね・・・」

「あれ? お兄様? でも顔が違うし、けどニシカワ様と一緒にいるし・・・」

 

 同じく従妹のカーラが幻影で顔を変えたヒョウエに首をかしげるのをよそに、三人娘が深々と溜息をついた。

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