毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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08-10 自分、不器用ですから

「ふぅん。目をつけられたみたいね。あのミン・ニム・ボーインと言う娘、確かに表向きは商会の仕事に関わってないみたいだけど、どうも色々と動きが怪しい・・・ちょっと、聞いてるの」

「聞いてますよ。続けて下さい」

 

 カレンが弟をじろりと睨むが、珍しくヒョウエは意にも介さない。

 

「それでは次は・・・こう!」

「うわあ、フィルじいだ!」

「こうしゃくさまだ!」

 

 ぱちぱちぱち、と拍手が鳴り響く。

 幻影で顔を「フィル爺」こと王国宰相ワイリー侯爵のそれに変えたヒョウエが軽く一礼した。

 ミンが状況を引っかき回して去ったあの後、ヒョウエは状況を説明してカレンを何とか納得させた。疑わしげなジト目のままではあったが。

 

 幻影の顔を解除したときにカーラがひどく驚いたので百面相をやって見せたら、手持ちぶさたな年少の貴族の子弟たち、更には大人たちまで集まってきてちょっとした演芸会になってしまっている。

 先ほどの会話も幻影の百面相をしながらだ。

 

 ヒョウエとしても、勝手にあっちから近寄ってきただけなのに不服そうな顔で文句を言われては文句の一つも言いたくなる。

 実際に言ったら絶対に返り討ちに会うので口にはしないかわり、わざとらしくカレンの言葉を軽視するようなポーズを取って苛立たせているというわけだ。

 他ならぬカーラが大喜びしているので、カレンも強くは出られないところまで計算しての姑息な反抗であった。

 

 なおベアード支社長の方は未だに奥方に詰め寄られてしどろもどろになっている。

 内容がいつの間にかミンのことから日頃の様々な不平不満にシフトしているが、それを指摘するものはいない。

 夫婦喧嘩は犬も食わぬのだ。

 閑話休題(それはさておき)

 

「はいっ!」

「わ、わたし!?」

「ほいっ!」

「うわ、ジミー!」

「やっ!」

「グラントだ!」

「どう?」

「マギー!?」

 

 有名人は大体網羅してしまったので、その場にいる子供達の顔をコピーし始めるヒョウエ。

 パーティ会場の一角が更に賑やかになる。

 思わせぶりな手つきで子供達の注意を引きつつ、視線は正面に向けたまま横のカレンに話しかける。

 

「ひょっとして商会の『別の仕事』でもやってるんですか。他の運送会社との接触とか」

「否定はできないわね。証拠もないけど」

 

 カーラを始めとする子供達に遠慮してぼかしてはいるが、つまりタム・リス社への妨害工作など、後ろ暗いあれこれを担当しているのではないかということだ。

 そうした会話の間も子供達を喜ばせる手は止めない。

 

「とざいとーざーい。これより始まりまするは妹の持参金のために魔法使いに弟子入りして金の作り方を習おうとする青年の物語。

 今も昔も貴族が嫁入りしようとすれば持参金、結納金、名前は何でもよろしいがとにかくお金がかかります。

 ただでさえ土地も狭く家畜もろくに持っていない貧乏領主、このままではかわいい妹が嫁に行けないと、はて青年が決意いたしましたるは・・・」

 

 流石に百面相のネタも尽きたか、今度は一人芝居が始まった。

 空回りという比喩的な意味ではなく、文字通り登場人物全員を一人で演じ分ける芸だ。

 

 本来は仮面や演技でキャラクターを演じ分けるのだが、そこはヒョウエである。

 顔を変え、声も(カスミほどではないにせよ)声色で変えることによって、主人公の青年から魔法使いの老人、村の少女まで様々に演じ分けてみせる。

 演技もまあそれなりで、観衆の没入感を損ねない程度のレベルには達していた。

 

「それで、彼女に他に何か?」

「今のところは何もないわ。けど・・・」

「『しかし息子よ、この書き付けは我が父の若かりし頃のもの。かの魔法使いがそのことを覚えているとは限らぬぞ』」

「けど、なんです?」

 

 カレンの言葉が途切れた。

 カーラの顔を見ていて隣のヒョウエに視線を向けていなかった彼女がようやく気付いたこと。

 この弟、劇のセリフと自分との会話を同時にこなしている。 

 

「・・・どうやってるの?」

「"腹話術(ヴェントリロキズム)"って知りません? 語りは自前の口で。この会話は音を出す魔法でこなしているんですよ」

「別々にやるのはそれはわかるけど・・・同時にできるものなの、そういうこと?」

「実際に今やっているじゃないですか」

 

 自分と会話をしながらも、一人芝居の口上やセリフに全くよどみはない。

 まじまじとこの色々特異な弟を見下ろして溜息。

 

「・・・」

「なんです?」

「人間関係もそこまで器用ならいいのにねえ・・・」

「全力でほっといて下さい」

 

 からかうでなく心底嘆息する姉に、幻影の下で盛大に渋い顔をしてヒョウエはくさった。

 

 

 

 瞬く間に半月の時が過ぎた。

 この頃には大陸横断レースのことも一般国民に周知されており、期待のムードも盛上がっている。

 王都の中央広場と北西・北東・南西・南東の四つの広場、及び王都東城門外の草原ではぜい肉袋、もといダー・シが言ったように見物のための空間――地球で言うところのパブリックビューイングそのもの――が設営されており、入場券は前売りだけで10万枚を越える大人気となっていた。

 商人たちもこの降って湧いた好機に飛びつき、各国の国旗・代表選手の似姿絵・人形・カップ・皿・馬のぬいぐるみなどの様々なグッズを(むろん版権元には無断で)売りさばいて大もうけした。

 あるかわら版屋などはどうやって調べたものか、それぞれの代表選手の簡単なプロフィールを掲載した特別版を売り出し、これもまた大ヒットした。

 木版が印刷に追いつかずすり切れてしまい、新しいのをわざわざ、それも何度も作り直すほどだったという。

 

「ちなみにダントツで一番売れてるのはヒョウエくんの似姿だってさ」

「まあ我が国の代表選手で黒等級冒険者、先のレスタラ事変で大活躍した英雄、しかも見目麗しい美少年と来ては人気が出ない方がおかしいでしょうね」

「知りませんよ」

 

 姉と乳兄弟にからかわれて、またしてもヒョウエがくさる。

 なおゲマイ代表のマデレイラ・ビシクとライタイム代表のモニカ・シルヴェストルは「メガネっ娘最高!」「巨女いいよね・・・」と、一部のマニアの間で人気沸騰しているらしい。

 閑話休題(それはさておき)、モリィがややまじめな顔で考え込む。

 

「どうされましたの、モリィさん?」

「いやな・・・これ、下手するとヒョウエの正体がおおっぴらにならないか?」

「あ」

「で、ございますね」

 

 それは気付かなかったという顔のリアスと、モリィ同様の表情で頷くカスミ。

 リーザも驚いた顔をしているが、逆にサナは冷静だった。

 

「ヒョウエ様のご身分はスラムの人間ならほぼ知っておりますからね。

 黒等級になった時点で一般に知れ渡るのも時間の問題だったでしょう」

「このかわら版にはあくまでスラム出身の黒等級冒険者としか書いてありませんが、それでもでしょうか?」

 

 カスミの指摘にヒョウエが溜息をつく。

 

「まあ恐らく。そもそも何で黒等級冒険者として書いてあるんでしょうね。正式にはまだ昇進してないのに」

「冒険者ギルドも一枚噛んでるって可能性もあるんじゃねえか」

「新しい黒等級をこの機にアピールしておきたいって?」

「そうそう」

「やれやれ、面倒くさいことですね」

 

 ヒョウエがもう一度溜息をついた。

 

 

 

 そんな大騒ぎの間、各国の代表選手も最終調整に余念がない。

 ダルクの神馬の乗り手カイヤンはメットー近くの草原で神馬と駆け回っており、姿を現さない他の面々もそれぞれに仕上げをしているものと思われた。

 

「なのに、何であなたは冒険依頼を受けてるんです?」

「そりゃまあ冒険者ですし」

 

 心底不思議そうにこちらを見てくるギルドの受付嬢に、こちらも不思議そうに首をかしげるヒョウエ。

 その手には例によって他の冒険者が受けたがらない残りものの依頼が多数。

 

「大きな依頼を受けてるんでしょう? そちらに集中するのが筋では?」

「僕の魔力は日々の実戦によって培われてるんですよ? つまりこれも鍛錬のうちです」

「・・・」

 

 何とも言いがたい目になった受付嬢に、流石に苦笑を浮かべる。

 

「それにまああれですよ。拘束期間中お金を払って貰えるわけでもなし、依頼料にその分上乗せされてるわけでもなし、一ヶ月何もしなかったら大損ですよ」

「まああなたはそうでしょうねえ・・・」

 

 受付嬢が溜息をついた。一日で平均三万から四万を稼ぐヒョウエたちである。

 一月となればその間の収入は恐らく百万ダコックに達する。日本円で言えば優に一億を超える額だ。

 さすがの大商会タム・リス社も、レースの報酬に加えて百万ダコックをぽんと支払えるほどに太っ腹ではなかったらしい。

 

「では行ってきます」

「ご無事のお帰りを」

 

 いつも通りのやりとりをしながら、受付嬢の顔には隠し切れない苦笑が浮かんでいた。

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