毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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第三章「キャノンボール・ラン」
08-11 出撃の号砲


「先んずれば人を制す」 

 

     ――殷通、項羽に斬られた会稽郡の長官――

 

 

 

「さあ大陸横断マルガム・グランプリ、ついにそのスタートの日がやってきた!

 事もあろうに大陸横断二万キロ、ディテク王国の首都メットーからライタイム王国の首都アトラまで、真なる魔法文明の大魔術師たちが作り上げた大陸の大動脈、『ア・マルガム大街道』を通っての、空前絶後の超長距離走! 

 まさしく世界の端から端までを、たったの十日で駆け抜けようという超人たちの競演! それが今まさに始まろうとしています!」

 

 王都の中央広場及び北西・北東・南西・南東広場及び東側の草原に作られた特設会場、そして王都西側のスタート地点に、立て板に水とばかりに流れるような司会者(アナウンサー)の声が流れる。

 いずれの会場も既に観客で満員で、今か今かとスタートの号砲を待っている。

 

 いつもの魔法使いルックに呪鍛鋼の杖のヒョウエ。

 革の上下に短い剣を差した、冒険者の装いそのままのゴード。

 口元だけが見える奇妙なヘルメットと全身スーツ――SF映画のパイロットかレーサーのような、というのが近い――のマデレイラは同じくアーティファクトであろう、ガラス屋根のついた2m半ほどの棺か小舟のようなものをいじっている。

 薄い鉄板を縫い付けた革の上着にサーベルをはいたカイヤンは神馬の首を撫で。

 相変わらず修行僧のような格好のシロウは静かにたたずんでいる。

 そして体にぴったりした、恐らくは真なる魔法文明製のボディスーツとベルトに革ポーチを下げたモニカ・シルヴェストル。

 選手六人がついに出そろった。

 

 ディテクからライタイムまでの大街道沿いには中小の国々が並んでいるが、戦争と疫病を除いて大街道の通行を妨げることはいかなる場合でも禁止という不文律がある。

 更には現在協議中の貿易協定をちらつかせることによってそれらの国は全て積極的ないし消極的にレースに協力を約束していた。

 

 それらを十の区間に分け、十日に分けてレースをする。一区間は平均二千キロ。

 気でも狂ったのか?と多くのものは言うだろう。学のあるものなら尚更だ。

 優れた術師なら、瞬間転移の術を使うならあるいはと言うかも知れない。

 それだけの距離だ。

 

 司会者の言う通りまさしく世界の果てから果て。片道でも五年以上はかかる距離。

 超古代の技術で整備され、未だに劣化の兆しも見えない大街道や橋、山道、山を貫くトンネルなどがなければ恐らくその数倍。

 それを十日で、たったの十日で踏破しようというのだ。正気の沙汰ではない。

 

 だがその狂気を正気に変えうる超人たちがここには揃っている。

 メットーからトラルまで、10日の距離を半時間で踏破したヒョウエたちのことを知ってなお、各国が送り出した代表たち。

 つまり、恐らくはいずれもが最低亜音速で移動するであろう参加者たちだ。

 むしろこのくらいのレギュレーションでなければ彼らには舞台が不足。

 

 ルールは以下の通り。

 

 ひとつ、ルートは自由。ただし10の区画それぞれに設定されたスタートとゴールは必ず通らなければならない。

 ふたつ、勝敗は区画ごとのタイムの合計で競う。

 みっつ、参加者は全員現在位置を知らせるための魔法的なビーコンを身につけていなければならない。身につけていない間のゴールは無効となる。

 よっつ、瞬間移動は禁止。

 いつつ、妨害は即時失格。

 

 以上のルールを守った上で、超人たちはそのスピードとスタミナを競うことになる。

 なお秒速300mを越える超人たちが相手では同等の超人でもない限りついていく事はできない。

 そこでダー・シは参加者に持たせる魔法的なビーコンを用いて参加者一人一人に千里眼と念視を組み合わせた術を連動させた。

 クレモント家指折りの術者がそれぞれに専属でつき、レースの間は常時彼らの姿を念視で映す。

 その映像は各会場と王侯貴族達(ディテクだけではない)の席に設置された水晶玉に転送され、観客に生でレースの興奮を届けるというわけだ。

 

「ってぇわけだけど、これ寝てるときやトイレ行ってるときも映るのかねえ。やだ、人権蹂躙・・・」

 

 そう言いつつ、自分の体を抱いていやーん、とくねらせるのは『音速の騎士』ゴード。

 スタート地点で肩を並べているヒョウエが肩をすくめてそれを否定する。

 

「一応ゴールするまでの間だけで、そこから翌朝の再スタートまでは映さないはずですよ。後女性もいることですし、映像のオンオフはできるようになってます。これを首から外せば、術師の方で映像をカットしてくれるはずですよ」

 

 首から下げたビーコンの首飾りを掲げてヒョウエ。

 アンドロメダが持っていたような、ゲマイで一般的な中央に一つ、その周囲に八葉の葉を並べてそれぞれに宝石をあしらったデザインをしている。

 少し離れた場所でガラスの丸天井が着いた手押し車ほどの角の丸い箱のような――オリジナル冒険者族たるヒョウエから見ればSF映画に出てくる飛行ポッドか何かのような――ものをいじっているメガネの少女をちらりと見るが、鬼のような表情でにらみ返されて肩をすくめる。

 ゴードがケラケラ笑ってぱっと両手を開いた。

 

「まー、こんな変なお兄さんの用足しシーンを見ても興奮する人はいないから、そのところは大丈夫だろうけどねー」

「まあ多分」

 

 世の中にはそう言う趣味の人もいなくはなかろうと思いつつ適当に頷いておく。

 

「むしろ危ないのはヒョウエの方だよな。用足しをするシーンなんか放映されちゃったら、大多数の女性と一部の男性がもう悶絶ものよ? 聞いたよ、似姿が馬鹿売れしてるらしいじゃん?」

「・・・」

 

 にやにやするゴードのすねを、ヒョウエが無言で蹴った。

 

 

 

「よう」

「おや」

 

 ゴードが後ろ手に手を振って去った後、ダルク代表のカイヤンがやって来た。

 相棒たる神馬を引き連れての登場だ。

 

「やはりお前だったな」

 

 傷のある唇をめくり上げて、獰猛な笑みを浮かべる。

 それでもどこか親しみを感じさせるのは、族長の跡継ぎとしての風格だろうか。

 

「僕のことを調べられていたので?」

 

 こちらも僅かに笑みを浮かべるヒョウエに、今度は大笑いする。

 

「馬鹿を言え。お前が競う相手ならいいと思っただけだ――そうであったことを騎神(フリフット)に感謝せねばいかんな」

「それはどうも。しかしこれが神馬ですか・・・一目見てみたいと思っていました。願いが叶いましたよ」

「さもあろうな」

 

 感嘆をもって白い巨馬を見上げるヒョウエ。満足そうにカイヤンが頷く。

 

「名前はあるのですか?」

「"天翔る銀の船(シルシープ)"と呼ばれている。馬は名前という概念を持たないようなんだが、それでも自分の事だというのはわかるらしいな」

「そうなのですか? いや、馬と話せる方の話を疑いはしませんが」

「野性の馬は基本的に群れで物事を考える。"天翔る銀の船(シルシープ)"は人間よりも賢いが、それでも考え方は普通の馬に近い。我らと共に暮らす馬も、人間と馬をあわせて一つの群れと考えているのだ」

「なるほど・・・」

 

 改めてこの偉大な馬を見上げていると、いきなり"天翔る銀の船(シルシープ)"が顔を横倒しにして、べろりと舌を出した。

 

「うわっ!?」

 

 思わず一歩下がるヒョウエに、カイヤンが楽しそうに笑う。

 

「はは、許せ許せ。こいつはふざけるのが好きなのだ。特に人が見ているところで変なことをすると面白がられるのがわかっているようでな」

 

 言いつつ神馬の首筋を撫でると、いたずら好きの白馬は嬉しそうにいなないた。

 

「さて、そろそろだな。互いに全力で駆けようではないか。むろん偉大なるヘト・ターの名にかけて勝つのは俺と天翔る銀の船(シルシープ)だが」

「ええ。僕も負ける気はありません」

 

 挑発的な笑みを浮かべながら頷きあうと、カイヤンは自分の位置に戻っていった。

 ヒョウエも帽子を被り直し、杖にまたがって軽く宙に浮く。

 六人の挑戦者たちが闘争の準備を整える。

 

 ぴりっとした空気。

 典礼官が口上の後、カウントを開始する。

 

「10、9、8、7・・・」

 

 全員が真剣な顔。視線は前方に固定され、他の競技者のことすら脳裏から消える。

 

「6、5、4、3・・・」

 

 数十万人の観客が、幻像を通して息を詰めて見守る。

 

「2、1、ゼロ!」

 

 レースの号砲が鳴ると同時に巨大な爆発がスタート地点を吹き飛ばした。




キャノンボール(砲弾)ランってそういう意味じゃねーから!
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