毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
レース会場で起こった大爆発。
それは明らかにスタートの合図の花火や点火と言ったようなものではなくて。
「なんだ!?」
「演出か?」
パブリックビューイングで見ていた人々がざわつく。
まさかテロか?と誰しもがその脳裏に不安をよぎらせたとき。
「あっ!」
「出たぞ!」
歓声が上がった。
爆炎の中から現れたのは四つ足で駆ける馬と自らの足で疾走する一人の男。
ダルクの神馬とそれを駆る騎手カイヤン。
自らの足で音速を超える男、ディテク最速の足を持つ音速の騎士ゴード。
彼らの姿があっという間に街道の彼方に消える。
それらに次いで爆炎を突き抜け姿を現したのは杖にまたがったヒョウエ。続いて光の粒子に包まれて空を飛ぶ女性――ライタイム代表のモニカ・シルヴェストル。
それからしばらく経って、ようやく奇妙な形の白い箱――古代文明の生み出した飛行ポッド、ゲマイ代表の少女マデレイラ・ビシクの操るそれが飛び出した。
先行するライバルたちの後を追い、これらもまたあっという間に姿が見えなくなる。
歓声。
パブリックビューイングの映像は六分割され、うち五つはヒョウエたち五人を個別に映し出している。
その脇には別の映像があり、メットー周辺の地図を西に動く色とりどりの輝点が映っている。
「・・・うん?」
「あれ?」
その中で、一つだけスタート地点から動かない赤い点。
スタートに興奮していた観客たちがざわめき始める。
爆煙が晴れたスタート地点で倒れている一人の男。
地面に横倒しに倒れてピクリとも動かない。
アグナム代表、シロウだった。
時間はスタート時点に巻き戻る。
号砲と同時に起こった爆発を、レースに集中していたヒョウエは察知できなかった。
既に周囲に纏っていた念動障壁が爆発からは守ってくれたものの、回りの出場者たちを守ることはできない。
他の五人はまともに爆炎に巻き込まれた。
それでも咄嗟に戦闘態勢を取って周囲を警戒する。
「えっ!?」
次の瞬間、ヒョウエはあっけにとられた。
爆発にもかかわらず、そして多少のやけどを負っているにもかかわらず、ゴードとカイヤンの二人が飛び出したのだ。
普通こんな事があればレースは中断、改めてスタートになるだろうが、彼らはそんな事は関係ないとばかりにレースを始めた。始めてしまった。
視界の端で同様に周囲を警戒しようとしたライタイム代表の元女軍人、モニカ・シルヴェストルが同様に唖然としているのが見えた。
飛行ポッドのキャノピーからは、中の
「!」
アグナム代表のシロウが倒れているのが見えて、反射的にそちらに飛んでいこうとする。
その杖を何故か途中で止め、ヒョウエは方向転換して先行した二人の後を追った。
モニカ・シルヴェストルは驚いた顔でそれを見ていたが、意を決したのか深呼吸すると精神集中する。その体が光の粒に包まれたかと思うと、彼女はヒョウエの後に続いて猛然と空に舞った。
「・・・ええい、もう!」
最後に残ったマデレイラはしばらく呆然としていたが、倒れたのがシロウだけで、しかも大会の係員が駆け寄っていくのを見てとると、やけになったように
ピィィ、とまさしくイルカの鳴き声のような駆動音を上げて魔導エンジンが咆哮する。
後方に魔力を噴射して、遅ればせながら"ドルフィン"が飛び出す。
「レースの順位なんてどうでもいい! あいつだけには絶対に負けません!」
その頃には爆煙も晴れており、集まった観客の声援を受けながら"ドルフィン"は街道の彼方に飛び去った。
「はははは! 派手なスタートだったな! なあ"音速"の!」
「まあそうだねぇ! うちのスポンサーの仕業じゃなきゃいいんだが!」
スタート10キロほどの地点。後ろのヒョウエたちをちらりと振り返り、カイヤンが笑う。
神馬と併走する"音速の騎士"ゴードも、走りながら器用に肩をすくめて答えた。
「お前のスポンサーだと? 何か裏があるのか?」
「あるかも知れないって話。聞いても余り面白い話じゃないと思うぜ?」
「なるほど、なら聞くまい!」
ゴードも驚くほどきっぱりとカイヤンは話を打ち切る。
「随分ときっぱり言うもんだね・・・俺が言うのも何だけど気になったりしない?」
「しないな」
やはりきっぱりと答えるカイヤン。
「俺の邪魔をしないならどうでもいい。俺の邪魔をするなら殺す。それだけだ」
腰に吊したサーベルを叩きながら笑う草原の男。
その割り切りは厳しい土地で生きてきた騎馬民族ゆえか。
ゴードがまたしても、走りながら器用に肩をすくめた。
「さて」
「うん」
カイヤンの声が変わった。
ゴードがゴーグルの奥の目を鋭くして、ちらりと併走する騎手を見る。
「そろそろまじめに走れ、"
その言葉と共に白い神馬が、人間であるゴードにもわかるほどはっきりと、嫌そうな表情を浮かべて主の方を振り向く。
「そいつ、それでまじめに走ってないの!?」
「おうとも」
笑みを浮かべてカイヤン。
「こいつはケツをひっぱたかないと本気で走らない奴なのさ。
部族対抗の競争でも、一度も本気で走ったことがない――それでも他のどんな馬より早いがな。本気で走れば、この地上に勝るものはない」
「へえ」
プライドを刺激されたか、ゴードの目が更に細まる。
牙をむき出すようなカイヤンの笑み。
「どうやらお前も本気では走っていないな。ならばついてくるがいい。駆けろ、"
「!」
白い神馬と音速の騎士が同時に加速した。
音の壁を破り、神馬の周囲に衝撃波が走る。
「なん・・・だと・・・!?」
ゴードは目を疑った。
掛け値無し全力で走っている自分を、僅かずつだが神馬は置き去りにして前に進んで行く。
ヒョウエとレースしたとき以上の全力をつぎ込んで走行するが、それでもカイヤンとの距離は開くばかりだ。
「馬鹿なっ・・・この俺がスロウリィ?!」
呆然と、ゴードは遠ざかっていく馬影を見つめた。
だが数時間後、ディテク王国の西の国境、山中の町カンダクに設置された第一チェックポイントに最初にたどり着いたのはカイヤンと神馬"
カイヤンと"
以下ヒョウエ、モニカ、マデレイラとスタートした順でゴール。
シロウはリタイヤ扱いとなった。
何故ぎりぎり逆転できたかと言えば、その理由は地形にあった。
カンダクは国境の高地にある町だ。当然周囲の道は険しく、起伏もある。
地上を走る速度では"
ダルクには丘程度の起伏はあるが、山と言えるほどの山はない。馬はそうした平原に適応した生物であるから、神馬とは言え馬である"
「・・・」
「・・・(ついっ)」
「・・・おい」
「・・・(ついっ)」
「おい、こっちを見ろ!」
「・・・(ついっ)」
なお、睨みつけるカイヤンを、"
どことなく後ろめたそうなのが何とも言いがたい。
「何とも人間くさい馬ですねえ・・・」
他の参加者がそうした様を見て呆れていた。