毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
(・・・で、こちらはそう言うわけです。そっちはどうです?)
(うん、大盛り上がりだよ。でもリアスさんがカレン様に聞いてきた話では、アグナムの・・・シロウさんだっけ? その人が重傷で治療が時間かかるから出場辞退したって)
夕方。
第一チェックポイント、国境の街に用意された部屋に引き取り、ベッドの上に仰向けに寝転がりながらヒョウエはリーザと心で会話していた。
(ですか・・・)
(あ、命には別状はないし、時間をかければ後遺症も残らないからそのへんは安心だって。今警吏の人たちが犯人を捜してるって)
ヒョウエが少し考え込み、思念の間が空く。
(犯人はやはりカル・リス社でしょうか? その辺は聞いてません?)
脳裏に伝わってくる否定の思念。
(そのへんは教えて貰えなかったみたい。え? ああうん、可能性は否定しないみたいな事を言ってたって)
(まあ、でしょうね。あれだけの事をして、そう簡単に素性がばれるような仕掛けはしないでしょう)
リーザの思念にも間が空いたのは、恐らく近くにいるリアスが何か言ったのだろう。
ヒョウエとリーザの思念会話はほぼ直通電話なみにリアルタイムだが、三人娘とのそれは電子メールくらいのタイムラグがある。
リーザ及びサナと他の三人との付き合いの差だ。
なのでリーザを介して思念をやりとりするよりは、伝言して貰う方がよほど早い。
(そっちの方は大丈夫かって、モリィさんたちが心配してるよ。もちろん私やサナ姉もだけど・・・)
(今のところは何もありませんね。スタートのあれを受けて、僕たち選手や運営の人たちにも護衛が付いてます。おちおちトイレにも行けませんよ)
溜息をついてヒョウエ。
この部屋の表にも、槍を持った衛兵が二人立っていた。
もっともヒョウエを傷つけられるような相手なら、その辺の国境守備兵など相手にもならないだろうが・・・。
(気を付けてね)
(わかってますよ。みんなにもよろしく)
(うん)
それを最後にヒョウエはリーザとの思念の接続を切る。
「・・・」
両手を頭の後ろに回し、ヒョウエはしばらく天井を見つめていた。
翌朝九時。
この国境の町に、どこにいたのだろうと思えるほどの群衆が姿を見せていた。
それと同時に目を引くのが多くの兵士。
恐らく近くの駐屯地から大急ぎでやって来たのだろう、最低でも千人以上と思われる兵士達が周辺を厳重に警護していた。
スタート地点に臨時に設けられたパブリックビューイングから、メットーにいる実況者の声が流れる。
『さあー、史上最大、空前絶後の大陸横断レース、マルガム・グランプリ! 二日目のスタートです!
メットーからここ国境の町カンダクまで2000キロ! 普通なら二ヶ月はかかる距離をたった一日、それも数時間で踏破するなどと誰が考えたでしょう!
不幸な事故によりリタイアしたアグナム代表シロウ氏を除き、代表五人全てがそれを成し遂げたのです!
さて、いよいよスタートが近づいて参りました・・・』
大歓声の中、第一走者であるゴードが出て来た。
歓声に手を振って応えている。カイヤンがそれに続き、ヒョウエたちもその後ろに並んでいる。
マルガム・グランプリは前述の通りメットー=アトラ間を十の区間に分けてそれぞれのタイムを合計して勝敗を競うレースだ。
それぞれのゴールした時間は計測され、次の日のスタートはまずトップでゴールした選手から、そして前日のゴールしたタイムによって、時間差をつけてそれぞれにスタートすることになる。
ゴードとカイヤンの差が2秒ほど。その次のヒョウエが一分ほどおいてスタート、モニカが30秒、マデレイラが更に一分ほど遅れのスタートとなる。
最初にスタートするゴードが位置に着き、間髪置かずにスタートするカイヤンと"
カイヤンの眉が怪訝そうにひそめられた。
「? ゴード、何をしている?」
「まあちょっとね、おまじない?」
言いつつ、ゴードは抜いた短剣で石畳の隙間をガツガツと突き刺している。
しばらく続けた後、納得がいったのか短剣を二本、互い違いに石畳の隙間に突き立てた。
「?」
「???」
周囲が首をかしげる中、係員が手を上げる。
「選手の皆さん、もうすぐスタートです。準備を」
「はいよー」
屈託のない笑顔でそれに応えると、短剣を突き立てたところにゴードがかがみ込んだ。
「!」
観客や運営、幻像を通してそれを見ているほとんど全ての視聴者が首をかしげる中、ヒョウエだけが目を見開いて「それ」の意味を完全に理解した。
「あの、ゴード選手。それでよろしいのですか?」
「いいよいいよ。そのままカウント始めちゃって」
「? それではカウントします・・・10、9、8、7・・・3、2、1、スタート!」
「!?」
ヒョウエを除くほとんど全員が目を見開いた。
普通人間は――馬もだが――いきなりトップスピードで走り出すことはできない。
静止している状態から加速する必要があるからだ。
だがそれを覆す工夫がある。
人間が営々と考え、積み上げ続けた早くなるための工夫のひとつ。
水平の地面ではなく、垂直に近い斜面の金具を蹴ることによってダイレクトに横方向へのベクトルを生み出すスタート・テクニック。
どこで習い覚えたのかゴードは石畳に突き立てた短剣を足場とすることによって、それを再現して見せたのだ。
「・・・!」
「カイヤン選手、スタート!」
「っ! ちぃっ!」
驚きの余り一瞬動きの止まったカイヤンが、舌打ちして馬の腹を蹴る。
神馬は猛然と駆け出すが、それでも数秒のロスと異世界の技術を用いて初速を確保したゴードには遠く及ばない。
遥か遠くに消えた人影を追って、人馬は猛然と走り出す。
それを驚きと称賛の表情で見送りつつ、ヒョウエは自らのスタートに備えた。
杖が風を切る。
レースは肉薄した競争を演じ続け、観客の歓声は途切れることを知らない。
岩石砂漠に覆われた高地を走る、一本の石畳の街道。
古代の偉大な魔術師たちが作り上げたア・マルガム大街道でトップ争いをするのは変わらずゴードとカイヤン。
直線ではカイヤンの神馬が、山道で曲がりくねった場所では跳躍でショートカットできるゴードが前に出て、熾烈なデッドヒートを繰り広げている。
その後ろから飛んでいくのは杖にまたがったヒョウエ、光の粒子を噴出しながら飛ぶモニカ、古代のアーティファクト「ドルフィン」を操るマデレイラ。
(・・・僕以外の二人も、これは何か温存していると見るべきでしょうかね)
ちらりと後ろを振り向くヒョウエ。
初日のスタート以来、ヒョウエ以下の三人は順位が変わることなくここまで来ている。
前の二人に追いつこうとペースを上げるでもなく、また大きく引き離されるでもない。
まがりなりにも国家代表として出てくるだけの相手だ。自分がそうであるように、相手にも何か切り札がある、もしくは体力や魔力を温存していると見ていいだろう。
(さて、こう言う駆け引きは苦手なんですけどね)
そううそぶいて前に視線を戻す途中、ヒョウエの目が見開かれた。
警戒のためにイサミたちから借りてきていた感覚強化の魔道具で強化された視覚が、それをはっきりと認識する。
「・・・まさかと思いますが、こう言う手で来ましたか!?」
その視線の先、数キロほど離れた山中の村が賊に襲われているのが見えた。
クラウチングスタートをするための金具(スターティングブロック)が一般化したのは1948年のロンドンオリンピックからです。
それまではオリンピックでも足のところに穴を掘って、そこを蹴って加速していました。(ベルリンオリンピックの記録映像とかで見られます)
本編では下が石畳なので、短剣を突き刺してスターティングブロックの代わりにしました。