毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「む!?」
その瞬間、ライタイム代表モニカ・シルヴェストルは自分の目を疑った。
杖にまたがって前方を飛んでいたディテク代表の片割れ、ヒョウエという黒等級冒険者の少年がいきなりルートを外れて飛び出したのだ。
明らかにショートカットなどではない方向転換。彼の向かう先に目をやるが何も見えない。せいぜい山間に村らしき影があるくらいだ。
「おい、どこへ行く!?」
声をかけるが、既に生身の人間の声が届かないほどに距離は開いていた。
それに光の粒子に包まれたこの状態の彼女は肉体的な活動には少々不便がある。
「!?」
迷う一瞬の間に、後続の空飛ぶ箱――ゲマイ代表のアーティファクトもまたディテク代表の少年を追って方向転換した。
(何だ? 罠? 何らかのショートカット? それともディテク代表に釣られただけ?)
瞬時に様々な思考が走り――彼女はこのままのルートで飛行することを決断する。
正しかろうと、間違っていようと、決断しないよりはマシ。
山賊との戦いでも、モンスターの討伐でも、その決断の速さが何度も彼女と彼女の部下の命を救ってきた。
今度もそれが正しいことを祈りつつ、彼女は思考の残滓を振り切って一直線に飛んだ。
『ご主人様。ライタイム代表、レースを続行するようです』
「しょうがないわ、ボボ。高度な視覚強化か何かがないと、あれは気づけないでしょう」
ヒョウエの後を追って飛んでいく"ドルフィン"の中で、マデレイラはそんな会話を交わしていた。
会話の相手は10センチほどの球体。目のような二つの小さい穴が空いており、声を出すたびにそれが点滅している。
そのマデレイラは奇妙なヘルメットと全身スーツを装着し、寝そべってバイクにまたがるような姿勢で"ドルフィン"を操縦しており、目の前のパネルの右のほうに空いた穴に喋る球体――ボボがすっぽりとはまり込んでいた。
魔導ポッド"ドルフィン"はある種のレースカーか翼のない飛行機のような流線型をしており、中央に大きく透明なキャノピーが設置されている。
操縦するマデレイラの全身がキャノピーを通して外からはっきり見えており、逆にマデレイラの視界も良好に確保されている。
そのキャノピーの内部には、数十キロ先の村が山賊に襲われているのがはっきりとわかる望遠映像が映し出されていた。
「む?」
マデレイラより一分ほど――距離にすれば20キロほど――先行するヒョウエは目を疑った。
火が燃え移った家屋を、村を襲っているであろう山賊が消火しているのだ。
一瞬村人かとも思ったが、ぼろぼろの革鎧を着て剣を下げた村人というのも普通おるまい。
そして、別段彼らが救助活動をしているわけでもない。
周囲では同様の出で立ちの山賊が村人に斬りつけたり、女性や食料を奪ったりして明らかに狼藉を働いている。
疑問を抱きつつ、ヒョウエは村に突貫した。
「ぎゃっ!?」
「ぐえっ!」
戦闘自体は数秒で終了した。
高速で飛来する金属球で叩き伏せられ、十数人の山賊は一瞬にして地に伏せる。
「"
時間がないので普段は使わない「水」の金属球の力で周囲の人々を一気に治癒する。この時点になってようやく事情がつかめた村人たちから口々に感謝の声が漏れた。
「おや?」
治療が終わり、火も消したところでマデレイラのポッドが到着した。キャノピーを開けてすっくと立ち、空中に浮かぶポッドの上からヒョウエを見下ろす。
「あら。来る必要なかったかしら」
「ですね。これでももうすぐ黒等級なので。それより何で追ってきたんですか。レースの途中ですよ」
「その言葉、そっくりあなたに返すわ。ここにいるんだから同類でしょ」
「それはまあ冒険者ですので・・・いや、おっしゃるとおりですね」
言い訳になってる事に気付き、ヒョウエが言葉を止めて苦笑した。
「まあ、ちょっとは見直して上げるわ。ちょっとはね」
文字通り上から目線の評価にもう一度苦笑。
「ともかく後はこいつらを身動きできなくしておかないと・・・どうしましょうか、縄で縛ったら抜けられるかも知れないし・・・」
戦いの心得などなさそうな村人たちをちらりと見つつヒョウエ。
「全員手足折っておいたら?」
「恐ろしい事言いますねあなた!?」
「冗談よ、冗談」
顔を引きつらせて振り向くヒョウエに、傷ついたような顔で唇を尖らせるマデレイラ。まあヒョウエもそれを考えなかったとは言わないが。
「だいじょうぶ、こう言う時のために用意されたかのような機能がこの"星雲の衣"にはあるの!
「ふむ?」
首をかしげつつも、気絶したり、動けずにうめいている山賊を念動で村の広場の真ん中に集める。
それを確認するとマデレイラはポッドの上に立ったまま右の手の平を向けた。
古代に作られたスーツの右手に緑色の光が集まる。
「心の星よ、愛の炎よ、その身のうちに甦れ――コンシェンシャス・ウェーブ!」
マデレイラの右手の平から緑色の波打つ光が放たれ、横たわる山賊たちを包む。
その効果は劇的だった。
「うおおおおおおおおおお!」
「俺は、俺はなんて事をしてしまったんだぁ!」
「すまねえ、母ちゃん! すまねえ、姉ちゃん! 俺汚れちまったよ・・・!」
「俺が悪かった! 金に目がくらんで村を襲ってくれなんて変な依頼を受けるなんてしちゃいけなかったんだ!」
「まじめに・・・まじめに生きていくつもりだったんだ! それがいつの間にか!」
「殺せ! 殺してくれぇ! こんな罪深い人間、生きてちゃいけねえんだ!」
気絶していたものも含めて全ての山賊が目を覚まし、滂沱の涙を流し、絶叫しておのれの罪を悔いている。
良心の呵責に耐えきれないのかゴロゴロと転がるもの、地面に頭を打ち付けるもの、自分の頭を叩き続けるもの。
血を吐くような後悔と懺悔の叫びが村に響き渡る。
ヒョウエがぽつりと言った。
「地獄絵図ですね」
「ち、違っ・・・! ご先祖様が使ったときは悪人は後悔の涙を流して改心したって・・・!」
これは完全に想定外だったのか、口元を引きつらせ、ブンブンと手を振り回して否定するマデレイラ。"
「コンシェンシャス・ウェーブでしたか。精神系統の、
それは確かに悪行を積み重ねた人間ほど後悔の涙を流すでしょうけど・・・なんともえげつない」
「だから違うんだって!?」
ヒョウエばかりか村人たちにまで畏怖の視線を向けられ、軽くパニックに陥るマデレイラ。
これまでの人生や賊に落ちていく過程を涙と絶叫と共に告白する山賊たちに、もはや同情の視線を向ける村人たちすらいる。
「それじゃあ、レースに戻りましょうか」
「ちょっと待ってよ?! こいつらこのままに放っておく気!? いや、私が言える事じゃないんだけど!」
あたふたするマデレイラにヒョウエが苦笑する。
「効果は永続とは言わないまでもかなり長いこと続くようですし、多分放っておいても村人たちに害はないでしょう。数時間すれば軍もやってきますよ」
「だといいけど・・・」
あの肉達磨が配信している映像は、既に彼ら二人の行為と事の顛末を捉えて世界中に伝えているはずだ。
このニコロデ王国はそう大きな国ではないが、盗賊に襲われた村の存在が全世界に知れ渡ってしまった以上、国家のメンツをかけて全力でそれに対応せざるを得ない。
その辺を説明するとマデレイラも何とか納得したようでポッドに乗り込んだ。
「・・・」
山賊たちの絶叫が未だに響く中、飛び立つ二人を村人が畏怖の目で見送る。
ヒョウエは苦笑いで、マデレイラは逃げるように村を後にした。
なおヒョウエの言葉通り三時間ほど後には王国の騎兵隊が村に到着したが、彼らすらこの惨状にはどん引きしていたという。
合掌。
なんだろう、好きな特撮番組のパロディをやろうとしただけなのに何故こんな阿鼻叫喚の地獄絵図に・・・w