毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「よう、お疲れさま。大活躍だったみたいじゃないの」
「うぐっ!?」
三位のモニカから十分ほど遅れて第二チェックポイントでゴールした直後、待ち受けていたゴードから発せられたのがこの言葉だった。
ポッドから降りてきたマデレイラが、強烈なボディブローを喰らったかのように身をかがめてうずくまる。
その様子に苦笑しつつも両手を広げて、にやにやするゴードからうずくまる少女を遮ってやる。
「はいはい、いたいけな少女をいじめないよーに。大体わざわざ待ち受けて暇なんですかあなたたち」
ちらりと見渡せばゴードの他にもカイヤンと神馬、モニカ・シルヴェストルもその場にいた。
カイヤンはゴードと似たようなにやにや顔、対照的にモニカはうつむき加減で表情は優れない。
「いやいや、俺達もさっきゴールしたばかりなんでね」
「そうそう。すぐに部屋に引き取るのもなんでね。ちょっとぶらついていたのさ」
顔を見合わせてニヤニヤと笑みを交わすゴードとカイヤン。
「お二人とも随分とウマがあったようで何よりですね」
「強い奴には敬意を払う。当然のことだ」
皮肉にもまじめくさって――にやにや顔はそのままに――答えるカイヤンにヒョウエが溜息をついた。
「ん」
とことこと、うずくまるマデレイラの方に神馬"
首を下げて少女の頬に自分の鼻面をこすりつけるシルシープ。
少女が立ち上がってその顔を撫でる。
「なに、慰めてくれてるの? ・・・ありが」
ありがとう、と言おうとしたとき白馬が豹変した。
「ブヒヒヒヒヒヒ!」
目を見開き、歯ぐきをむき出しにしてべろん、と舌を出すシルシープ。
神馬などと呼ばれて崇敬されている生物とはとても思えない。
「うわあああああああああん! 馬にまで馬鹿にされたぁ!」
最早涙目で頭を抱えるマデレイラ。
それを指さしてげらげら笑う駄目な大人二名。
「割と最悪ですねこの人たち」
ジト目のヒョウエが呟いた。
「まあなんだ、レースを中断してでも村を助けにいったのはえれぇよ。ヒョウエもそうだがよくやったぜ嬢ちゃん」
「うむ、身内でもない奴を助けに行くのは馬鹿だが中々できることでもない。胸を張るがいい、小娘」
「だったら最初から素直に褒めてくれないかなあ!?」
ついにマデレイラがキレるも、その程度で駄目人間たちの面の皮は破れない。
「いやー、だってあれ凄かったしなあ」
「まさしく地獄絵図とはあのことだったな。子供に見せて『悪い事をするとこうなるんだぞ』と言い聞かせれば効果抜群だろう」
「チクショー!」
うがー、と吠える少女。
駄目な大人たちはまたしてもゲラゲラ笑い、ヒョウエが何度目かの溜息をつく。
「うん?」
今まで無言無表情で彼らを見守っていたモニカ・シルヴェストルが歩み寄ってくる。
「え」
そしてそのまま、ヒョウエとマデレイラに対して直立不動で深々と頭を下げた。
190センチはある長身のモニカの頭が、150そこそこのヒョウエの頭より下にある。
「えっ?」
男二人が馬鹿笑いをやめ、マデレイラがきょとんとした表情になった。
頭を下げたまま、モニカが口を開く。
「ヒョウエ殿。マデレイラ殿。申し訳なかった。村が襲われていたというのにあなた方だけを向かわせて、私はレースを優先してしまった。
ありえない判断ミスだ。どうか許して欲しい」
「いやいやいやいや! それはしょうがないでしょ! モニカさん、村の様子を見て取れるような《加護》も魔道具も持ってなかったんだろうし!」
「そうですよ。あの時あなたが把握できた情報からすれば、レースの続行は問題ない判断です。気に病まれることはありません。何より、村人たちにも犠牲者は出なかったんですし」
モニカが頭を上げたが、その表情は優れない。
「そう言って貰えると少しは気が楽になる。だが私がいれば手早く彼らを拘束することもでき、マデレイラ殿が、その、あの光線を放つことも・・・」
「わー! わー! それなし! もう言わないで!」
「わ、わかった。わかったが・・・その」
マデレイラの勢いに押されて言葉を切るモニカだが、その視線がちらりとあさっての方を見た。
「?」
ヒョウエとマデレイラがそれに釣られて後ろを見る。
「ありゃ」
「ぎゃああああああああ!?」
ゲマイ魔道君主クレモント家自慢の高精度伝達幻像が、自信満々に良心呵責光線を放つマデレイラとそれを喰らってのたうち回る山賊たちの様子を延々リピートしていた。
(・・・それでどうなったの?)
(かわいそうに、完全にノックアウトされて部屋に籠もっちゃいましたよ)
(まあ、私たちも見てたけど凄かったもんね・・・)
(まあねえ・・・)
昼食の後部屋に引き取ったヒョウエが、リーザと心で会話している。
リーザの心の声には同情もあったが、呆れと苦笑の気配も多分に含まれていた。
(それより、レースの順位はどうなったの? ヒョウエくんが四位になってもの凄いブーイングが起きていたけど)
(それがですね、村を助けにいった分の時間もカウントするとのことで・・・四位はそのままです)
(えーっ!?)
頭の中で大声が響き、思わずヒョウエは両耳を押さえた。何の意味もないとわかってはいるのだが。
(何それひどい! 誰かが困ってても見捨てろってことじゃない!)
(まあレースはレースっていうのも間違いではありませんからね・・・)
とは言え不満は勿論ある。人命よりもレースが重いわけがない。
少なくともヒョウエにとってはそうだ。
(問題はこれが一応は公正な審判の判断なのか、それとも何者かの思惑が関係しているのか・・・ですね)
さすがの付き合いの長さか、ヒョウエの思念に込められた微妙なニュアンスをリーザが鋭く感じ取る。
(え・・・それって、ひょっとして今回の山賊が村を襲ったのって、ヒョウエくんを足止めするための罠だったってこと!?)
(少なくとも、山賊にあの村を襲え、ただし火事を起こさないようにと依頼した奴はいると思いますよ)
(火事?)
(例の良心呵責光線。あれで山賊の一人がそんなことを口走ってたんですよ。
ここから先は推測ですが、数キロ先で煙が上がれば、何か起きているのはわかるでしょう? でも数キロ先で人を襲っているだけなら、よほどの視力がなければ何が起きているかはわかりません)
少し間があった。
(ええっと、つまり、「ヒョウエくんにだけわかるような事件」をわざと起こしたってこと?)
(ではないかと思うんですけどね。調べる時間がないのが・・・そうだ!)
(ヒョウエくん?)
(今すぐ彼女に連絡を取って下さい。連絡先がわからないようなら・・・)
最初は首をかしげていたが、説明を受けるうちにリーザも得心して勢いよく首を振る。
(わかった! 今すぐ伝えて探して貰うね!)
(よろしくお願いします)
リーザとの思念接触を切ると、ヒョウエはすこし気の晴れた顔でベッドに寝転がった。
翌朝。
朝食を終えたヒョウエは宿舎を出て、街中に向かう。
「冒険者の酒場」の看板を出している宿屋に入り、一階の酒場でワインを一杯注文してから一直線に卓に向かう。
朝食をとっていた冒険者の何人かがヒョウエに気付き、指さして小声でひそひそと会話を交わしていた。
「や、どうも」
テーブルには先客がいた。
いかにも駆け出しの冒険者らしい粗末な革鎧に古びたマント、腰にはレイピア。
ただし見るものが見れば剣の作りの良さや両手首の魔法のものらしき腕輪など、その辺の赤等級冒険者ではないことに気付くだろう。
「やあ、ヒョウエくん。あれ以来だね」
「お久しぶりです、サフィアさん」
普段とは違う地味な格好に着替えたメットー屈指の女クライムファイター、サフィア・ヴァーサイルがにこりと笑った。