毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
三日目。
ツートップでゴードとカイヤン、やや遅れてモニカ、大きく遅れてヒョウエとマデレイラという順位でスタートした第三区間であったが、順位は変わらずヒョウエとマデレイラがそれなりに差を縮めてゴールとなった。
最後にゴールした二人を、それでも群衆が大きな歓呼の声で迎える。
「キャー! ヒョウエくーん!」
「ヒョウエ様ー! 愛してるー!」
「私とワンナイトメイクラブ!」
無数の女性(一部男性)の黄色い声に、よそ行き笑顔で手を振るヒョウエ。
生まれが生まれだけにこの辺は慣れたものだ。
一方で同じ貴種で美形でオタクでも、割と引きこもり属性持ちのマデレイラはそうもいかない。
「メガネッ子最高ー!」
「俺に良心呵責光線を撃ってくれー!」
「キミになら悶え苦しめられてもイイ!」
「~~~~~~~っ!」
一応は手を振ろうとキャノピーを開けて起き上がったマデレイラだったが、心ない(?)ヤジに顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「マデレイラちゃんはメガネを外した方が可愛い。メガネは所詮デバフに過ぎないからな!!」
「何だとこの野郎」
一部で殴り合いも起きたがそんなものは目にも入らず、キャノピーを閉じたマデレイラはそのまま"ドルフィン"で宿舎の方に飛んで行ってしまった。
「ご愁傷様」
ヒョウエが盛大に溜息をついた。
用意されていた宿舎で食事をとって部屋に引き取る。
しばらくそうしていると、胸元のメダルが僅かに震動した。
「・・・」
『・・・・・・』
メダルに向かって何事かを呟き、ヒョウエは部屋を出た。
部屋の外で警護していた兵士たちが着いてくると強硬に主張するので、まあいいだろうと同行を許す。
どのみち聞かれても問題のある話ではない。
「やあヒョウエくん・・・そちらの方々は?」
ギルドの酒場で待っていたサフィアと合流。妙な顔をされたが肩をすくめると大体察したようだった。
「そちらのお二方に好きなものを。僕には香草茶で」
「はっ、ありがたくあります」
しかつめらしく返事をする兵士達だが、ここぞとばかりに高い蒸留酒を注文するあたりはちゃっかりしている。
まあトップランク冒険者のヒョウエに比べれば、ヒラ兵士の俸給など冗談抜きで百分の一にもならないのでそのへんはしょうがあるまい。
酒をおごってそれなりに仕事熱心な兵士達を黙らせると、ヒョウエはサフィアと差し向かいになる。
「それで、どうでした? それらしきものは見かけなかったのでうまくやってくれたと思いますが」
「そうだね。こことここの周辺で見つけたけど」
と、地図を指しながらサフィア。
「どちらも村から10キロほどのところで発見できたし、特に強い奴もいなかったし、全員片付けられたよ。さっき賞金を受け取ったところさ」
「勤労の対価ですね」
笑い合うヒョウエとサフィア。
冒険者ギルドには基本的に嘘発見の魔道具が設置されており、依頼外の山賊や魔物を退治したときはこれの検査を受けて宣誓すれば証拠がなくても賞金が支払われるシステムになっている。
「それで、そいつらの依頼人は?」
「ああ、やっぱりだよ。黒いローブにボコボコした変な声。キミが通る時間帯を見計らって火をつけずに村を襲え、とね。無音呪文で山賊を燃やしたところまで同じだ」
「あらま。どっちのです?」
「両方さ」
ヒョウエが溜息をつく。
「山賊って奴は・・・」
「物事を考える頭があれば山賊なんてやってやしないさ」
肩をすくめるサフィアがちらりと兵士達の方を見る。
先ほどまで滅多に口にできない高い酒を楽しんでいた二人は、「おい俺達結構ヤバい話聞いちゃったんじゃないの?」と顔を青くしていた。
「あ、あの。口を出す立場ではありませんが今のお話は・・・」
「安心したまえ。もちろん運営には伝えてあるし、恐らくは王国の上の方にも話は行ってるだろうね」
「で、ですか」
露骨にほっとする二人。
だが悪魔は心の緩んだその瞬間に牙をむく。
「でもこの事は内密にされているからね。正直聞かれてしまったのは困ったなあ。
キミ達も昼から高い酒を飲んでいるところを見られたら、痛くもない腹を探られる可能性もあるかもねえ?」
「うっ!?」
一転して兵士の顔がこわばる。
安心して酒を口に含んでいたもう一人は不意打ちを受けて、折角の高い酒を吹き出していた。
「ゲホッ! ゴホッ!」
酒を吹いた兵士が激しくむせる。
気管支に強烈なアルコールが入れば、まあたいていの人間はそうなるだろう。
吹き出した酒の方は空中にしぶきとなってピタリと静止している。
反射的に念動障壁を張ったヒョウエの仕業だ。
ぱちんと指を鳴らすと高濃度アルコールのしずくが酒臭い臭いを残して蒸発した。
「・・・」
ちらちらと、不安げに周囲を見渡す兵士その一。
彼にとっては不幸なことにサフィアもヒョウエもとびきりの美形であり、しかもヒョウエは今や時の人だ。酒場に入って来た瞬間から周囲の視線は彼らに集まっている。
数こそ少ないが、「何で兵士が私のヒョウエくんと一緒にいるんだよ、しかも昼間から高い酒飲みやがって」という嫉妬の視線もある。
「・・・」
「何、任せておきたまえ。悪いようにはしないとも。もちろんキミ達がボクのためにちょっと働いてくれたら・・・の話だが」
むろん兵士達には引きつった顔で頷く以外選択肢はなかった。
(悪い顔してるなあ)
呆れと感心半々くらいのヒョウエの視線に気付くと、この男装の麗人はいたずらっぽくウィンクをして見せた。
「うわあああああああああああ!」
広場に悲鳴と怒号が混じり合ったようなマデレイラの絶叫が響く。
四日目。
レースの順位はゴードとカイヤンが抜きつ抜かれつのデッドヒートを演じている以外は変わらず、しかし下位の三人も徐々に差を詰めてきている。
レースは前半戦、まだ慌てるような時間じゃないと言うことだろう。
それはそれとして何故マデレイラが叫んでいるのかと言うことだが、今回ゴール地点の広場がパブリックビューイングの会場を兼ねており、巨大な幻像がゴール地点からよく見えたことにある。
それだけならどうと言うこともないのだが、問題はレースが終わったことでこれまでの名シーンダイジェストが流れていたことだ。
『心の星よ、愛の炎よ、その身のうちに甦れ――コンシェンシャス・ウェーブ!』
"ドルフィン"の上に仁王立ちのマデレイラの右手の平から緑色の波打つ光が放たれ、横たわる山賊たちを包む。
響き渡る絶叫と、血を吐いてのたうち回る山賊たちの映像の地獄のマリアージュ。
「ぎゃああああああああああああああああ」
マデレイラが頭を抱えて絶叫するのも致し方あるまい。
「いいぞ嬢ちゃん!」
「山賊め、ざまあみろだ!」
純粋に彼女を褒め称えるものもいるのだが、今のマデレイラにとってはそれすらも羞恥心をえぐり出す天国と地獄の重ね拳。
泣きながら運営本部に殴り込もうとする彼女をモニカとヒョウエと運営のスタッフが必死で制止し、ゴードとカイヤンは酒瓶を片手にゲラゲラ笑ってそれを眺めていた。
合掌。
「・・・遅いですね」
例によって昼食をとり、待ち合わせ場所のギルドの酒場で待つヒョウエ。
今日も途中で村が襲われていたりする様子は見えなかったのでうまくやってくれたとは思うのだが、決して時間にルーズではないサフィアのこと、気にもなる。
(リーザの精神通話を補助してくれるペンダント、サフィアさんにも渡しておくべきでしたかねえ)
胸元のメダル、その実は通信用の魔道具にも応答がない。
やきもきしていると黒いローブの人影が二人、酒場に入って来た。
「失礼」
迷う様子もなく一直線に歩いてくるその人物は一言断ってヒョウエの前に座る。もう片方がその後ろに立った。
座った方は懐に手を入れ、警戒するヒョウエの前でゆっくりそれを抜く。
「!」
テーブルの上に置いたのは翡翠をひとかけら埋め込んだ、緑色の小さな銅板。
緑等級冒険者の認識票だ。
(まさか)
こわばる顔。
そのままゆっくりと、黒ローブが認識票を裏返す。
そこにはサフィア・ヴァーサイルの名前が刻まれていた。