毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「・・・・・・・・!」
ぴりっ、と空気が緊張する。
黒ローブが取り出したサフィアの認識票。
指一本動かしはしないが、ヒョウエの全身に戦意が満ちる。
「・・・」
黒ローブはどちらも無言。だが座っている方がゆっくりと手を上げてヒョウエを制止する。
「・・・」
緊張を僅かにゆるめ、しかし何が起きても即応できるように体の力を抜く。
そのヒョウエの目の前で、黒ローブがゆっくりとフードを引き上げる。
「・・・!」
「ふふふ。驚いてくれたようねぇ? お久しぶり、ヒョウエくん」
年の頃は16、7くらいの少女。
そして年齢に見合わない蠱惑的な魅力。
カル・リス社会頭の孫娘、ミン・ニム・ボーインだった。
フードを――ヒョウエに目線が見える程度に――戻して、ワインを注文する。
「大丈夫よ。サフィアさんなら
「何があったんです?」
「昨日あなたがひっかからなかったんでおかしいと思ったお婆さまが、次の手を打ったのよ。緑等級でも一人じゃ厳しいだけの戦力を揃えて、それを"
で、私と部下がそれを助けて上げたってわけ」
「ですか。・・・それで、何故あなたがここに?」
平静を装ったつもりだが声に内心が出たのだろう、くすくすとミンが笑った。
あるいは常日頃言われているように顔に出ていたのかも知れないが。
ミンが懐から小さい三角錐のようなものを取り出して何事かを呟く。
酒場の喧騒が遠くなった。
「沈黙の結界ですか」
「大丈夫、心配しないで。私は味方だから・・・と言っても信じられないかぁ。
そうね、最初から話しましょうか。あなた、カル・リス社について調べるくらいはしたんでしょう?」
「ええまあ」
「イナ・イーナ・ボーインに息子や娘がいたって話、聞いたことがある?
あるいは夫でもいいわ」
「・・・いえ。全く不明でした」
「でしょうね」
ミンの顔から笑みが消えた。
「あの女と私はね、実のところ全く血縁関係なんてないのよ。
私はただの町娘で、ある時両親が死んで途方に暮れていたところでご親切にもあの女が引き取って私を孫にしてくれたわけ。
どういう訳かあいつは強い《加護》の持ち主を捜し出せるらしいのよ」
「ではあなたも?」
こくり、とミンが頷く。
「パーティ会場でも見たでしょう? 私の《加護》はあれよ。《魅了の加護》。魔法とかじゃなくて純粋な魅力でくらっときちゃうらしいわね。
同じような境遇の子は沢山いるけど、私を『孫』にしたのはそれだけ利用価値があったってことなんでしょうね。実際飴も色々用意されてるし」
「カル・リス社のためにあれこれ働いてきたと」
「まあそういう事ね。詳しく聞きたい?」
「やめておきましょう。どう考えても気分のいい話じゃない」
「賢明ね」
両手を上に向けて肩をすくめる。
ミンが僅かに笑ってワインで唇を湿らせた。
「それで・・・まさかとは思いますが、ひょっとしてご両親は」
「証拠はないわ。私がよそのうちにお出かけしている間に、両親が貝の中毒で死んで私だけ残った、というのはまああり得なくもないでしょう。
けど、その葬式も終わらないうちに『遠縁ですが』とひょっこり聞いたこともない親戚が出てくるのはどう考えてもあやしいわよね」
「・・・」
ヒョウエが腕を組んで天井を睨む。
反対にミンが身を乗り出した。
「そういうわけよ。私はあの女の商会をどうにかしてぶっ潰したい。
あれを死刑台に送れれば最高だけど、少なくともあいつの野望をくじいてやることくらいはしたいわ。手を貸してくれないかしら」
「その言い方だと、会頭の犯罪の決定的証拠は見つけていないようですね?」
顔を向けてくるヒョウエに、悔しそうな顔で頷くミン。
「ええ。奴は海千山千の怪物よ。こっそり動いてたのもあるけど、ほとんど情報は集められていない。なくはないけどどれも尻尾切りされたらおしまいってレベル。
奴はあちこちから集めてきた、強い《加護》を持つ子飼いの使い手を集めて強力な集団を組織してるわ。
戦闘に長けた人間、魔導に長けた人間、諜報活動や経済活動に長けた人間もいる。
どいつもこいつも一筋縄じゃ行かない連中ばかりよ――何人かはたらしこんだけど、本格的にあの婆と敵対することになった場合、どれだけ私のために動いてくれるかはわからないわ」
後ろに控える黒ローブを見上げて、ふうと溜息をつく。
そのミンを静かに見据えるヒョウエ。
「ですが何か考えがあるんでしょう? 僕に話を持ちかけてくるからには」
「ええ。まあ単純な話だけど・・・レースに勝って。少なくとも一位を争って」
「会頭を刺激するわけですか」
「そうよ。そして妨害に出て来たらそれらを全てあなたと私で撃破する。
どうもあいつ、随分と今回のレースにご執心らしいの。うまく行けば焦って隙を見せるかもしれないし、何らかの証拠をつかめるかもしれない」
「しれない、ですか」
「言ったでしょ、奴は怪物よ。正直こうしてあなたと会っていることだって露見しているかも。それでも私はもう、あいつの靴を舐めるのは嫌なのよ」
うつむくミン。机に置いた両拳が硬く握られ、震える。
しばらくそれを見た後、ヒョウエが頷いた。
「いいでしょう。それで、手はずは?」
「サフィアさんとも話しあう必要があるけどまずは・・・」
五日目の朝。
今日もまたマルガム・グランプリの幕が上がる。
例によってほぼ同時にスタートするゴードとカイヤン。
一分半ほどしてからモニカ。
その後五分ほど空けてヒョウエとマデレイラだ。
「こいつにだけは負けない」という執念、最早怨念めいたものを込めてヒョウエを睨みつけるマデレイラ。
どこ吹く風と、杖をいじっているヒョウエ。
それらを横目に見ながらモニカはスタートを切った。
光の粒子を纏わせて飛行しながらモニカは考える。
(そろそろレースも五日目。ここまではトップでも下位でもないうまい位置を維持できたがそろそろ仕掛けるべきか)
モニカの体を包む粒子は、モニカの《
モニカは肉体を半ば謎のエネルギー(どういうエネルギーなのかはモニカにも、ライタイムの学者たちにもわからない)に変換することによって飛行やエネルギーの光線を発射する能力を得る。
変換度合いを強めれば強めるほど出力は上がるが、制御は難しくなるし生物としての身体機能にも不自由をきたすようになる。暴走すれば元の人間に戻れなくなる可能性もあると学者たちからは忠告されていた。
(だがこのままでは埒があかん。後ろの二人が隠し球を持っていないとは限らないのだ。
リスクをとってでも前に、祖国の名誉のために、最下位になることだけは避けねばならん)
自分が見逃した山賊を見逃さず、レース途中だというのに助けにいった二人。
それゆえに自分が現在得ている三位というリードに良心が痛む。
その呵責を押さえつけてエネルギーの変換度を上げようとしたその一瞬、モニカは何もかもをも忘れて後ろを振り返った。
「ヒャッホォォォォォォ!」
恐ろしい勢いでカッ飛んでくる鋼色の杖と、青いローブの少年術師。
呪鍛鋼の杖の後ろの端からは輝く炎がプラズマとなって噴出し、文字通りほうき星のように尾を引いている。
そのまま一瞬のウィンクを残して、ヒョウエがあっさりモニカを抜き去った。
呆然とするモニカがまた振り向いた。後方からの声。
「ま・ち・な・さぁぁぁぁぁい! あなたにだけは絶対負けないんだから!」
その後を追ってくるのはマデレイラの魔導ポッド"ドルフィン"。
その周囲には無数の緑色の光る筋が走り、まるで光のトンネルを走っているようだ。
こちらはモニカには目もくれず、しかし同様に彼女を抜き去っていく。
どんどん距離を離していく二人に一瞬呆然としたモニカだったが。
「・・・ハッ」
男前な笑みが自然と浮かぶ。
「やらせんぞ! そう簡単に私の前を飛べると思うなよ!」
その体がまばゆく光り輝いた。
エネルギー変換度を一気に限界近くまで上げ、モニカもまた大幅に速度を上げる。
その顔には、一瞬前までの鬱屈とした表情はかけらも残っていなかった。