毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
08-19 仕切り直し
「触れもしないスピードには どんなパワーも通用しない」
――アイシールド21――
「しかしつまらんな!」
「何がだい、カイヤンの旦那!」
果てない荒野に続く一本の大街道。
地平線の彼方まで人の影とてないそこを、ゴードと神馬が駆けてゆく。
双方それなりに全力で走っているとはいえ、マルガム・グランプリは長距離走だ。
一区画を走りきるのに、彼ら超人の足をもってしても二時間か三時間はかかる。
それゆえに、ラストスパート以外でならこうした軽口を交わす余裕もあった。
「リタイアしてしまったシロウとか言う奴はしょうがないが、仮にも俺と競えるだけの敵手が四人もいるのに、俺と真っ向から勝負しようとする奴はおまえだけだ!
小賢しく策を練っている奴など、競うにも値せん!」
「なるほどね」
ゴードが笑った。
「けどそれは心配ないんじゃないの? レースも半分過ぎるし、そろそろ本気出してくるよきっと」
「ふん、そうだといいがな・・・どうした、"
二人の会話に割り込むように、短くいななく銀の馬。
「!」
表情を引き締めてカイヤンが振り向く。
遊牧民の生活で鍛えられ、冒険者として更に能力を伸ばしたその目は、10キロ先の野ネズミをたやすく見つけ、昼間に星を見る。
その超人的視力が捉えたのは地平線の彼方に光る三つの光点。
常人なら存在にも気付かないだろうそれを、カイヤンは確かにヒョウエ、マデレイラ、モニカの三人であると見てとった。
向き直ったカイヤンの顔を見て、ゴードが口笛を吹く。
「よう、どうしたい旦那。そんないい笑顔しちゃって? ・・・ははあ、やっぱり追いついて来たか」
「笑う? そうか、俺は笑っているのか」
目を見開き、歯をむき出しにしてカイヤンは笑っていた。
ただし、そこにあるのは肉食獣の、これから獲物を食いちぎり引き裂く喜び。
子供なら泣き出してしまいそうな狼の笑み。
白い馬が嫌そうにいなないた。
「そうだな、シルシープ。覚悟を決めろ。今回ばかりは死ぬまで走ってもらうぞ!」
「ブヒヒヒヒヒヒヒィン!」
「いや死ぬまでは勘弁してやれよ!?」
神馬の抗議とゴードのツッコミにも馬耳東風、狼の笑みを浮かべたカイヤンが馬の腹を蹴る。
(? 今・・・)
馬の腹を蹴った足と、蹴られたところから力の波動が弾けるのを感じるゴード。
魔法の才能がないとは言え、感覚の鋭い人間(多くの高位冒険者が該当する)や《加護》を磨いた人間はそうした魔力や《加護》の波動をある程度感じる事ができる。
「ヒヒイイイイイイイイイイイン!」
悲鳴のようないななきを上げて、シルシープが猛然と加速する。
今までの競い合いである程度相手の限界はわかっていたつもりだが、その推測をも上回るそれ。
「おっと、他人の事気にかけてる場合でもないね! ここは一つ、お兄さんも本気出しますか!」
ズレかけていたゴーグルをぴん、と弾いて位置を直す。
自分の奥底、滅多に手を伸ばさない領域に手を伸ばし、「それ」を引きずり出す。
(入った)
ゴードの視界に映る世界。それが一斉に青くなった。
海や湖に入る事になぞらえてゴードが「飛び込み」と言っているそれの正体は青方偏移。光のドップラー効果により近づくものが青く見える現象。
ゴードの《加速の加護》がもたらす、通常あり得ないそれ。
今振り向けば逆のドップラー効果により後方の世界が赤く見える(赤方偏移)だろう。
この《加護》はただ物理的に加速するわけではない。全力を出せばそれは使用者の周囲の時間そのものを加速する。
本来音速を超えたときに発生する衝撃波やソニックブームをゴードが出していないのはそれゆえだ。
死ぬ気で神馬を走らせるカイヤン。恐らくは奥の手を出して猛追してきているヒョウエたち。
「さぁ、こっからがレースだぜ!」
最高にハイな表情で叫び、ゴードは先行したカイヤンに向かって更に加速した。
「ぬぐぐぐぐぐ! 『これ』をもってしても追いつけないとは!」
光に乗って空を駆ける魔導ポッド"ドルフィン"の中でマデレイラは歯ぎしりをしていた。
"ドルフィン"を包む緑色の流れる光の正体は、ポッドの力で生み出した疑似空間。
周囲の世界の法則を一時的に書き換え、高速移動やその他のさまざまな効果を生み出す古代の大魔術。
飛行し続けるのに魔力の消費もいらない。機体にかかる負荷もゼロ。
その維持にかなりの魔力を必要とすることを除けば、全てが"ドルフィン"に都合の良い空間だ。
だが。
だというのに、あの小憎らしい女みたいな顔の術師、崇拝する姉アンドロメダから弟の如くかわいがられている生意気な少年(※マデレイラの主観)はそれでもこの古代遺物の先を行く。
スタート直後にいきなり杖から火を吐いて加速した、それに少し遅れてマデレイラがこの機能を発動させたから、スタートダッシュで出遅れた分はしょうがない。
だがその差は縮まるどころか僅かずつながら開いている。
何度も何度も計器で確かめたから間違いない。
「お・の・れぇぇぇぇ~~~~~っ!」
怨念すら籠もった絶叫がポッドの中に響き渡った。
「あはははははははははは!」
対照的にヒョウエは高笑いのまま飛行を続けている。
ヒョウエのスピードアップの理由は簡単。
念動力で飛んでいるところにロケットエンジンを追加しただけだ。
念動障壁で筒状の構造を作り、その原始的な燃焼室の中にヒョウエの金属球「
ちなみにロケット燃料の術式を刻み込んだのは《創造の加護》を持つイサミだ。自分の加護で物品を作り上げる過程のいくつかを術式に落とし込むことに成功したイサミは、それらを実験的にヒョウエの金属球に封じたのだ。
なお次なる段階として核パルス推進の実現を企んでいたようだが、ヒョウエの必死の説得とアンドロメダが叩き付けた花瓶(金属製)によって、どうにか断念させることができた経緯がある。
ともかく、念動力だけで音速を実現できる魔力と出力限界を誇るヒョウエだ。
燃料の生成と燃焼室の維持に魔力と魔力経絡を割り振る必要があり、また小型でかなり原始的なものとはいえ仮にもロケットエンジン。
地球脱出速度を叩き出す同類には遠く及ばなくても、その推進力は全力のヒョウエの念動に匹敵、もしくは凌駕する。
単純に合計して、今までの二倍以上の加速。
レースの開始以来つきまとっていた陰謀への警戒、それによって全力を出せない鬱屈から一時的にでも解放されたヒョウエは、今全身全霊で楽しんでいた。
この世界では恐らく誰も体感したことのない重力加速度でさえ、今のヒョウエが感じる高揚を打ち消すことはできない。
「かっとビングだぜ、オレ!」
前世で気に入っていたアニメの名セリフを叫び、ヒョウエは更に加速した。
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アフリカの平原などに住む人たちは、今でも視力6~8くらいを維持してるそうです。
更に極々稀には視力20なんて人がいて、そう言う人は昼間でも普通に星空が見えるとか。
坂井三郎(「大空のサムライ」ですな)は戦闘機パイロットとして視力の特訓をして、昼間でも星が数個は見えたそうです。
逆にタレントのオスマン・サンコンは視力6.0だったのが、日本で暮らし続けて視力1.2に落ちたらしいです。
「あなたは一日に13キロの山道を歩けますか?」ではないですが、人間は適応の動物なんですなー。