毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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08-21 青い弾丸

『すっごぉーい! 少しずつ、しかし確実に距離を詰めるヒョウエ選手!

 トップの二人、ゴード選手とカイヤン選手も更にスピードアップしている!

 にもかかわらず、それでもなおジリジリと差を削っていく!

 さながら達人は動いていないような僅かな足運びで少しずつ移動するという、ニホン武術の奥義を思わせる!』

 

 幻像から響く実況者の声。

 その声をかき消すほどの大声援が各地のパブリックビューイングから響く。

 どこにこれだけの人がいたのか、レースの意味を理解して応援しているのか、そんなことはどうでもよかった。

 人々はただ魂を削るような熱いデッドヒートにつかの間酔いしれていたのだ。

 

 

 

「マジかよ、これでも追いついてくんの!?」

 

 カイヤンほどの超人的な感覚は持っていないはずだが、それでも野性の勘と言うべき何かでゴードはヒョウエの猛追を捉えた。

 切り札を切りながら、それでも追いつかれつつあることに軽くはないショックを受ける。

 だが。

 

「楽しませてくれんじゃないの、ヒョウエ! それでこそ俺の友! 好敵手!

 おまえも、カイヤンも、お嬢ちゃんたちも、俺の前は走らせねえ!」

 

 それすら楽しめる精神性こそゴード・ソニック。

 不利であればあるほど、追い詰められれば追い詰められるほど燃え上がる。

 

「負けねえぞおらぁぁぁぁぁっ! 取りあえずカイヤン! シルシープ! 俺に道を譲れぇっ!」

 

 叫びながら、ゴードは猛然と突進した。

 むろんカイヤンも譲れと言われて譲るタマではない。

 一層激しく神馬の腹を蹴り、もっと走れと急かす。

 

 魔力の流れを見ることのできるものなら馬の横腹を蹴る足、手綱を握る手から馬の口元、尻から鞍を通して馬の背中へ、それぞれ不可思議な魔力が流れ込んでいるのが見えただろう。

 それこそはカイヤンの《騎手の加護》。

 時に馬神とも呼ばれる騎神(フリフット)の与えるそれは文字通り人馬一体の境地へと使い手と乗騎を導いてくれる。

 

 馬の横腹と足、手綱や鞍を通して繋がる魔力は二つの生き物を一つに繋げるライン。

 それは意志を疎通する神経であり、魔力を流れ込ませる血管であり、人と馬という異物を直接繋げて連動させるための腱ですらある。

 

「この期に及んで出し惜しみは無しだぞ"天翔る銀の船(シルシープ)"!

 このまま手を抜いて負けてみろ、貴様ひき肉(ミンチ)にして刻みニンニクとタマネギで()えて食ってやるからそう思え!」

「ブヒヒヒンッ!?」

「おいおいおい」

 

 驚愕と恐怖と抗議のない混ざった神馬のいななき。

 斜め後ろまで追いついて来たゴードが、ハイテンションを一瞬真顔に戻して突っ込んだほどの暴言。

 もしダルク人が聞いていたら、暴動か戦争が起きていただろう。

 ダー・シ配下の術師たちが音ではなく映像だけを念視し、投影していたのは幸いなことであった。

 

 

 

「待て待て待て待て! 私を抜き去って、そのままで済むと思うな! ミスタ・ヒョウエもそうだがまずはあなたからだ、レディ・マデレイラ!」

「モニカさんか! 正直あいつ以外の相手なんてどうでもいいけど・・・それでも抜かれるのはいい気はしないわね!」

 

 一方で後方でも熾烈なデッドヒートが展開されている。

 かたやマジン空間を展開、光に乗って空中を走る魔導ポッド「ドルフィン」。

 かたや自らの体を半ば光の粒子に変えて流星の如く天翔る風の精霊(シルヴェストル)、モニカ。

 

 どうでもいいと言いつつ、マデレイラもやはり抜かれるのも最下位になるのも面白くないと思う。

 モニカもそれは同じだ。違う事と言えば、先ほどまでは祖国の名誉のためであったのが、そうではなくなったことくらい。

 

(ともかくもこのお嬢さんには――)

(このお姉さんには――)

 

((負けない!))

 

 期せずして心の声を同調させる二人。

 恐らく面と向かって聞かれれば言下に否定するだろうが、今や彼女たちもまた存分にレースを「楽しんで」いた。

 

 

 

『走る! 走る! 走る! 跳ぶ! 跳ぶ! 跳ぶ!

 これまでの激走をも更に上回るデッドヒートを見せるディテク代表"音速の騎士(ソニックナイト)"ゴード・ソニック! ダルク代表アル・グ氏族のカイヤン!

 そして呪鍛鋼(スペルスティール)の杖から竜の吐息の如く火を吐き出し、猛烈な勢いで差を詰めてくるもう一人のディテク代表、第二次レスタラ戦役の英雄ヒョウエ!

 弱冠十六歳ながら数千のゴブリンに単騎挑み、炎の呪文でことごとく焼き尽くした大魔術師(ウィザード)

 若くして黒等級、将来は金等級確実と言われる逸材、炎のアルペンローゼがこのレースでもついにその本領を発揮するのかーっ!』

「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」

 

 ヒョウエが聞いていたら恐らく盛大に顔を引きつらせていたであろう実況に、パブリックビューイングの大観衆達が最早人の声とは思えない咆哮を上げて熱狂する。

 走る人と馬、後を追う空飛ぶ杖。

 その差は確実に縮まっていくも、第五区間のゴールはもうすぐだ。

 

『追う! 追う! だが届かないか! 届かないか! 差は縮まっていくも、この区間で逆転は無理そう! だが良くやった! がんばった! 山賊に襲われた村を助け、それが理由で圧倒的な差を開けられてもめげなかった不屈の少年!

 運営をののしることもなく、あくまでも正々堂々とレースに臨むその姿に我々全てが勇気をもらいました!

 この第五区間では届きませんでしたが、第六区間では・・・な、なんとぉっ!?』

 

 一瞬、さすがの海千山千の実況担当者が絶句した。

 杖の後方から火を吐いて飛行していたヒョウエの、後方の炎が爆発した。

 いや、それは錯覚。文字通り爆発的に巨大化した噴射炎がそう見えただけ。

 

 噴射炎の直径は今や三倍、いや五倍。

 むろんそれ相応の推力もセットだ。

 

 爆発的に巨大化した噴射炎の、爆発的に増大した推力。

 おそらく五の自乗、従前の二十五倍。

 

「なっ!」

「なにいっ!?」

「ヒンッ!?」

 

 驚愕に顔を歪める二人と一頭を置き去りにし、圧倒的な速度でゴールを通過。

 大歓声が巻き起こった。

 

「え」

「あっ!?」

 

 その大歓声が一転して悲鳴に変わる。

 後方から噴射していた炎が消失すると同時に杖がコントロールを失い錐もみする。

 そのままルートを逸れ、領主の館とおぼしき城館の城壁に激突、そのまま壁を崩壊させてヒョウエの姿は瓦礫と土煙の中に消えた。

 

「ヒョウエくんっ!?」

「ヒョウエ様!」

 

 顔を青くして立ち上がるリーザとサナ。

 一方頭を抱えるイサミと手で顔を覆うアンドロメダの夫婦。

 

「あの馬鹿、制御そっちのけでエンジンの本数増やしやがったな!」

「本当にあの子はもう、無茶を・・・!」

 

 次の瞬間、世界中で安堵のため息が漏れた。

 何事も無かったかのように瓦礫をかき分けて歩み出てくるヒョウエ。

 土ぼこりまみれではあるが無傷。少年が自らの勝利を誇示するように拳を突き上げる。

 再び、全世界のパブリックビューイングは熱狂に包まれた。

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