毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

268 / 374
08-26 人質の受け渡し場所

「で、どうすんの」

「ヒヒン」

 

 何となく車座になって作戦会議をする五人と一匹。

 当然のように首を突っ込んでる白馬に苦笑した後、ヒョウエが表情をまじめなものに戻す。

 

「当然ながら僕一人で行かなければ人質が危ない。ので、僕の仲間もこのへんの地点で待機しています」

 

 杖の先で地面に簡単な地図を描き、ポイントを指定する。

 

「透明の呪文でも使えればいいんだけど・・・」

「向こうも当然そのくらいの用意はしていますよ。透明看破の魔道具と術、両方を揃えてるみたいです。

 なので地平線に隠れて見えない10キロ、念を入れて20キロくらい離れた所で待機してもらってるわけです。魔道具で連絡は入れておきますので、みなさんには彼女たちと合流して、いざというときには駆けつけてもらいます」

 

 視力の問題は置いておいて、どれだけの距離を見渡せるかは基本的に視点の高さで決まる。

 敵が近づいたらわかるように高い見張り塔を立てたり、砲弾の着弾観測のために山に陣取ったり、戦艦の艦橋を高くしたり、果ては観測気球や飛行機を用いるのはそのためだ。

 

 そして人間、身長175cmと仮定した場合、その視点から見えるのは大体7、8kmほどまで。それより先は地平線の影に隠れてしまう。

 10キロ、20キロというのはそこを勘案して出した数字だ。

 それに加えて野外活動(レンジャー)の心得があるモリィもいるし、隠密の心得があるカスミやサフィアもいる。間違いなく簡単には見つけられないようになっているはずだ。

 

 20km離れていても時速500kmで飛行できる「銀の翼」を装備しているモリィ達なら2分半、ここにいるメンツなら一分で到着できる距離だ。

 そういう意味でも無茶な数字ではない。

 

「まあ、こうしている時点で中継幻像が途切れてますから、みなさんがこっちについてくれたことは多分ばれてるでしょうけどね」

「よほどのバカでも何かおかしいとは思うだろうな」

 

 通信用の魔道具は、もちろん一般人に手の出るようなものではないがそれでもそれなりの金を出せば普通に手に入る。

 カル・リス社のエージェントがどこに潜んでいるかわからない以上、運営スタッフなりパブリックビューイングなりから既に情報は漏れていると考えるべきだった。

 

「ええ。というわけですので、割と出たとこ勝負になりますね」

「なんだよヒョウエちゃーん。人にあれこれ言っておいて、自分だって成り行き任せなんじゃなーい?」

「はいそこうるさい。他に何か質問は?」

 

 ゴードのからみをさっと流して周囲を見渡す。

 

「・・・ブルルッ」

「・・・?」

 

 いつも人間くさい神馬が、妙に神妙な顔をしている。

 

「どうした、ヒョウエ」

「いえ、シルシープの様子がおかしいような」

「そうか? まあ武者震いだろうさ。こいつだってその程度に神経はある」

「ブルル……」

 

 人間並みの知能を持ち、人語も概ね解するシルシープだ。悪口を言われたのだから反発しそうなものだが、それでも白い神馬は妙に大人しいままだった。

 

「まあいいでしょう。ではそのように」

「おう」

「いいだろう」

「絶対やっつけてやるわ!」

「必ずミンどのを助けだそう」

 

 五人が頷き合った。

 

 

 

 ふわり、と杖が降下していく。

 指定されたポイント、荒野のただ中の岩山に囲まれた盆地。

 一見周囲には誰もいないようだが、空中や岩陰に透明化した何者かがいるのがわかる。

 

(久々に役に立ちましたね)

 

 随分前の擬態怪人ムラマサに苦労したので習得した、"透明看破(シー・インヴィジビリティ)"の呪文の恩恵である。

 そのまま周囲を警戒しつつ盆地の中央、悪趣味な髑髏の旗のところに降りると、周囲の土がもこもこと盛上がって数十人の人影が現れる。

 恐らくは地の術師の術によるものだろう。

 50人を超える、それもほとんどは手練れの戦士か術師。思わず溜息が漏れる。

 

(多い多い。どれだけ評価されてるんですか――いや、今までの戦績からするとそんなものですか)

 

 数人の手練れと30人程度の山賊が一蹴されているし、それに相手の戦い方を研究した上で特化した戦力を投入して負けているのだ。

 黒等級(昇進確実)で、数千匹のゴブリンを単身全滅させた(嘘だが)ヒョウエが相手と考えれば、これでも少ないほどだ。

 

(恐らくは念動や物理打撃、火炎攻撃に対する対策もしてあるんでしょうね)

 

 ヒョウエは人前で念動以外の術を見せた事はほぼない。山賊や強盗に襲われた怪我人を助けるために負傷治療の呪文を使ったくらいだ。

 ただレスタラ事変ではアリバイのために草原をガラス化するまで焼いたから、その点はギルドも把握しているし、かわら版や吟遊詩人の歌にも謳われるようになった最近では、そちらの方がむしろ有名かもしれない。

 

 戦士、術師たちは素早く周囲を囲み、それぞれに得物や呪文を構える。

 ほとんどの術師はヒョウエに直接かける術ではなく、術で作り出した火や石の弾丸、金属の槍や氷の弓など、物理的な弾体を作り出して敵にぶつけるタイプの術でヒョウエに狙いを定めていた。

 魔力は魔力を打ち消すという原則に従い、魔力で直接干渉するタイプの術ではヒョウエの馬鹿馬鹿しいほどの魔力に弾かれる可能性が高いので、物理的な弾体を作り出す術で間接的に攻撃しよう、ということだ。

 

(用意周到なことで・・・お)

 

 包囲の一角が割れて、男が一人現れた。

 中肉中背だが、体中に古傷の走るがっしりした肉体。

 歴戦の兵士の印象を与える男だが、狡猾そうな目つきがこれまでの人生の一端を物語っていた。

 手には大振りな金属製の手かせがふたつ。

 

(・・・封印の手かせ(シールド・シャックル)!)

 

 はめられた人間の能力を極めて制限してしまう魔法の手かせだ。

 一つはめれば金等級冒険者が赤等級並みに能力が低下すると言われ、二つ三つとはめられればヒョウエでもろくに動けなくなる。

 

「これが何かはご存じですな? はめてくださればミンお嬢様のところにお連れしましょう」

「冗談」

 

 ふん、ヒョウエが鼻を鳴らす。

 

「そもそもミンさんがまだ生きているかどうかだってわかったものじゃない。

 まずは彼女に会わせてもらってからですね」

「お嬢様は会頭のお孫さんですぞ? そう簡単に害するわけがないではありませんか」

「本当にそうなら人質の役に立たないことになりますね。帰っていいですか?」

 

 言いつつ杖にまたがり、ふわりと空中に浮く。

 周囲の術師や飛び道具持ち達が身じろぎし、古傷の男が慌てた様子でそれらを止めた。

 

「わかった! わかりました!」

 

 ヒョウエがニヤリと笑う。古傷の男は苦虫を噛み潰したような顔。

 

「おい」

 

 戦士の一人に顎をしゃくると、しばらくしてミンが連れて来られた。

 後ろ手に封印の手かせ(シールド・シャックル)をはめられているのがちらりと見える。

 ヒョウエと目が合い、力なく笑う。

 

「ごめんヒョウエくん。捕まっちゃった」

「いえ、無事で何よりですよ」

 

 笑い返すヒョウエに、厳しい目で古傷の男が近づく。

 

「馬鹿な事は考えないことですな。何かあればお嬢様のお命はありませんよ」

 

 その言葉と共に、ミンの喉にナイフが二本、突きつけられる。

 周囲を取り囲む術師や飛び道具持ちも、半分がその狙いをミンに変えた。

 

「はいはい、わかってますよ。僕一人じゃどうにもできませんしね」

「レースのお仲間が来る、と言いたいのでしょう? 残念ながらそちらも望みはありませんな。会頭はそれほど甘いお方ではありませんよ」

「ありゃ」

 

 ヒョウエがそう漏らした瞬間、遠くで爆発が起こった。恐らくはここから数キロ、モリィ達が隠れていた場所と同じ方向だ。

 

「!」

「おお、派手にやってますな。正直あの連中を止められるかどうかひやひやしてましたが、うまく罠は働いたようだ。さて、では観念してこの手かせを・・・おぉっ!?」

 

 隊長の言葉が途中で途切れる。

 手かせをはめようとしたヒョウエが、いきなり地面に引きずり込まれたのだ。

 

「きゃあっ!?」

 

 続けてミンも。

 

「おい、地術師! 何をやってる! 勝手な真似をするな!」

「わ、私では・・・!」

「何!?」

 

 流石に混乱する一団。

 

「どこだ? どこだ!」

 

 騒ぐような者は一人もいないが、それでも周囲や足元を不安げに見回すものは多い。

 

「あっ、あそこだ!」

 

 盆地の東側の縁。

 輝く朝日を背に立つ男が一人。

 その後ろにはヒョウエとミン。

 

「馬鹿な・・・その小僧にもお嬢様にも、もう動かせる手駒はいないはず! 何者だ、貴様!?」

 

 白のターバンに純白の衣、赤の帯。

 口元はやはり白布で隠されており、額には黄金の太陽。

 

「忘れてしまったとはさみしいな。それとも手にかけたものが多すぎて、いちいち覚えてはいないか」

「・・・げえっ!?」

 

 今度こそ隊長が我を忘れて吃驚する。

 口元の布を下げて出てきたのはレースのスタート地点、メットーでリタイアしたはずのアグナム代表、シロウの顔だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。