毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「ちょ、ちょっと待っておくれよ!」
「せやで! ワシら仲間ですやんか!?」
全滅したカル・リスのエージェントたち。
周囲を包囲して武器を突きつける一同と、包囲されるミン。
存在を半ば無視されたお付きの三人は目を白黒させてうろたえている。
だが周囲を取り囲む面々は揺らがない。マデレイラやモニカに僅かに迷いが見える程度で、それ以外の面々は冷徹にミンだけを狙っている。
ふうっ、とミンが息をついた。
「参ったわね。最初から私を疑っていたの? シロウさんのことを話してくれなかったのもそのせい?」
「それは関係ないですよ。はかりごとは密なるをもって良しとす、という奴です」
「なんだいそれ! 結局ミンちゃんを信じてなかったってことじゃないかい!」
お付きのリーダー格である蓮っ葉女、ムーナが凄い剣幕でヒョウエに食ってかかる。
「いえ、そのですね・・・」
これは予想外だったのか、それとも単に年上の女性に弱いだけか、ヒョウエが押されているその背後でミンが薄く笑う。
「ミンちゃん・・・?」
「な、なんでっか・・・?」
お付きの男二人が不安そうにミンの顔を見る。
そんな二人に構うことなく、少女は口を開く。
「そう、何か私はミスをしたかしら?」
「ミ、ミンちゃん・・・?」
愕然とした顔でムーナが振り向く。
ミンは依然として薄笑い。
「どうなの、ヒョウエくん?」
それに答えたのはヒョウエではなく、レイピアを抜いたサフィアだった。
「いいや? ボクたちが調べた限り、キミはここまで一切のミスをしていない。見事なものだよ」
「そう。じゃあ何故?」
「そうだねえ・・・強いて言うなら探偵の勘かな? 君の話は細部まで作り込み、背景も全般的にうまくできていたけど、どこか嘘くさかった。そんなところだけど、最初の疑いを持つには十分だったかな」
いたずらっぽく微笑むサフィアに、苦々しげな顔でぷい、と横を向くミン。
「私探偵ってキライ!」
「そりゃどうも」
サフィアの微笑みが大きくなり、そして消える。
「さて、ここで大人しく投降して貰えるなら助かるんだけどね」
改めてレイピアの切っ先を突きつけるサフィアに、ムーナが慌てて割って入る。
「ちょ、ちょっと待っとくれよ! 別に何か証拠がある訳じゃないんだろ!
なあ、ヒョウエ殿下! あんただって確信があるのかい?」
「ええ、確信はありませんよ」
「じゃあ・・・」
ムーナ達の顔がパッと明るくなるが、ヒョウエの表情は変わらない。
「でも、その人は人間じゃない」
「!?」
愕然とした顔でムーナが振り向く。
薄笑いのままのミン。
そのミンの体から、数十本の鋭いトゲが伸びてムーナの体を貫いた。
「み、ンちゃ・・・」
「がっ!」
ムーナの唇から血がこぼれる。
そしてミンの体から伸びたトゲはムーナの影、死角にいたヒョウエの体をも貫いていた。その先端には細く長い刃。
「油断したわね? どんな強固な念動障壁でも、十分強力な解呪の術が施された武器があれば」
血しぶきが舞った。
セリフを最後まで言わせず、包囲していた面々の武器が一斉に振り下ろされる。
その肉体が切り刻まれ、貫かれ、砕かれ、焼き払われる。
「なっ・・・」
しかしそれでもミンはその場に立っていた。
頭を真っ二つに割られ、胴を両断され、心臓を貫かれ、片足をなくしても、なおそこに立っている。
傷口からは黒い瘴気のようなもの。
「・・・!」
ただならぬものを感じた面々が一斉に後ろに下がる。
にたぁ、とミンが・・・ミンだったものが笑った。
ごぼり、と口から血を吹き出してムーナがくずおれた。その体に血管が浮かび、どんどん青黒く染まっていく。
「毒・・・です! 僕が治療しますから・・・皆さんは・・・」
「ヒョウエ!」
自らもローブを朱に染め、膝をつきながらも、金属球を取り出して自分とムーナの治療を始めるヒョウエ。
一瞬逡巡はしたものの、他の面々はミンに向き直った。
シロウが鋭い視線で少女の姿をとっていた何者かを貫く。
「やはりか、イナ・イーナ・ボーイン。いや、この世にあらざる魔性よ」
「!?」
驚愕する面々をよそに「ミン」がにたりと笑う。
「く・・・くくくくく。そうか貴様金剛眼の伝承者か。
我が主が殺し尽くしたはずだが、まだ生き残りがいたか。このレースに参加したのも最初からそれが目的か?」
そう言うとぐにゃり、とその姿が歪んだ。
黒い瘴気に包まれてゆらゆらと変わったその姿は・・・
「か、会頭ぉ!?」
「イナ様!?」
思わず叫んだのはミンの取り巻きだった男二人。
他の面々も目を見張っている。そこに立っていたのはカル・リス社の会頭であり、ミンの祖母であったはずの老婆、イナ・イーナ・ボーイン。
「本性を現せ、この世ならざる魔性よ!」
シロウの両目が一瞬色を失い、
そこから放たれたまばゆい光が老婆の体を炎上させる。
「お お お お お お お お お お お お」
「破邪顕正! 冥府外道の真の姿を照らし出せ!」
老婆が立っていた場所から黒い瘴気の柱が立った。
『くかかかかかか・・・ばぁれたかぁ!』
瘴気の中から老婆の声。
それと同時に地面を広がる瘴気の沼。
周囲を囲んでいた人々が飛び下がろうとするが、負傷して毒に冒されたヒョウエとムーナ、お付き二人、体術の心得がないマデレイラはそれができない。
「ちっ!」
モニカが身を翻してマデレイラをかかえ上げようとするが、少女の足に瘴気の沼から飛び出した触手とも粘液とも付かないものがへばりつき、離脱を妨げている。
「は、離せ! 離しなさいよ!」
パニックに陥ったマデレイラがジタバタするが、黒い触手はびくともしない。
「この・・・!?」
引きずり込もうとする力がいきなり消失し、モニカは急上昇する。
周囲にはムーナを抱き上げて宙に浮いているシロウ、お付きの男二人をそれぞれ抱えて飛んでいるサフィアとモリィ。
そして、力尽きたように動かず、瘴気の沼に沈んでいくヒョウエ。
状況を理解してしまったマデレイラの声が震えている。
「嘘・・・私をかばって・・・?」
あの時、逃げ遅れた五人に等しく黒い触手は襲いかかった。
毒を受けていたヒョウエに平常時の出力は出せない。
ムーナはかろうじてシロウが拾い上げてくれたが、マデレイラを含む残りの三人を助けて自分も助けるには力が少し足りなかった。
だから選択した。ただそれだけのこと。
「この・・・この・・・ヒョウエーッ!」
泣き顔のマデレイラが初めて、絶叫と共にヒョウエの名前を呼んだ。
「くそ、馬鹿野郎が!」
モリィが苦衷の表情で吐き捨てる。
『ひゃは』
『ヒャハハハハハハハハ!』
耳障りな笑い声と共に瘴気の柱と沼がスルスルと後退し、一つにまとまっていく。
形作られるのは30mほどのおぼろげな人型。
『こやつは我が神への良い手土産となろう。残りはいらぬ。神への供物となるがよい』
形が明確になっていくにつれその表皮が質感を備え、実体を感じさせるものに変化していく。
茶色の毒々しい、キノコやある種の菌類のような色合い。
「おいシロウさんよ! あれは一体何なんだ!?」
宙に浮けないゆえに後退していたゴードが、上空のシロウに怒鳴る。
目の前の変化から目を離せないシロウ。そのこめかみに一筋の汗。
「あれは・・・悪魔だ」
全員の目の前で、瘴気が完全に実体化する。
ぬめる表皮と菌糸類のようなフォルムを持った身長30mの人型。
それが荒野のただなかに、岩山に囲まれた盆地の中央に顕現していた。