毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「悪魔!?」
誰かが叫んだ。
身長30mほど、毒々しい茶色の、ぬらぬらとした表皮を持つ人型は悪魔と言うよりもSF映画の侵略宇宙人のようにも見える。
頭部のキノコのカサのような造形の下に顔のようなもの。カサの部分から数本の触角、体の各部からは菌糸か粘菌のようなねっとりしたしずくが無数に糸を引いている。
さしずめ
瘴気の沼に沈んでしまったヒョウエの姿はない。
恐らくあの中に取り込まれてしまっているのだろう。
「悪魔ってあの、昔話の? 願いを叶えてくれるとかそう言う奴?」
「概ねそんなところだが、本物の悪魔はそんな生やさしいものではない。
あれはこの世界の外から来る異物だ。
人間の負の感情や欲望につけ込み、様々な誘惑や契約を持ちかけてくる。
最終的には魂を取り込まれ、その人間は悪魔に乗っ取られてしまうのだ」
シロウの言葉に一同が沈黙する。
衝撃的な事実に言葉もない中、モニカに手伝って貰って魔導ポッド(AIによる自動操縦で飛んできた)に乗り込んだマデレイラが疑問の声を上げた。
「悪魔の事は神秘学の授業で聞いたことがあるけど・・・何のためにそんなことをするの?」
「一族に伝わる話ではこの世界を侵略するために、と言うことだった。
創世の八神が生み出した世界の壁に阻まれてたやすく侵入はできないが、時折壁のほころびを見つけたり、あるいはこちらの世界からの呼び声に応えたりして壁を越えてやってくるものどもがいる。
それらの正体を暴き、滅してこの世を守るのが我ら虹の一族の使命なのだ」
頷くマデレイラ。
「金剛眼の術師、伝説の魔を討つ九曜法の伝承者ね。
二千年以上前に滅びたと思っていたけど、まさかアグナムに継承者がいたなんて」
「生き残りがいたのだ。その最後の一人、デーヴァタ大仙からゲマイの深山幽谷にて教えを受け、金剛眼と九曜の精霊魔法を会得したのが我が祖先だと聞いている」
会話を交わしながらも、シロウの目は油断なく悪魔を見据え、腕の中のムーナに解毒の治療を施し続けている。
「もうすぐ奴の実体化が終わる。攻撃に備えるんだ」
「その前に攻撃しちゃいけねぇのか?」
「人の姿をとってはいるが、今の奴は実体を持たない。霊体を攻撃できる手段がなければな。私も多少は心得があるが、今は手が放せない」
「あー、
「うむ」
かつてヒョウエと共に戦った狂った遺跡妖精を思いだし、モリィが渋い顔になる。
彼女の雷光銃も半霊体であるスプリガンには満足な効果を発揮せず、ヒョウエの杖に刻まれた術で霊体を破壊して倒した。
マデレイラの魔導ポッドやモニカのエネルギー体にもそうした効果があるかもしれないが、余り期待はできまい。
「取りあえずボク達は、彼らを安全な場所に連れて行こう。魔導ポッドで退避して貰うのがいいだろう」
「えろうすんまへん・・・」
「まさかミンちゃんが・・・」
サフィアとモリィに抱えて貰っている男二人がしょぼんとしている。
ミンの正体が悪魔だった衝撃とムーナの負傷、戦いに協力できない情けなさが二重三重に彼らを打ちのめしている。
「いいえ、黒等級と緑等級がこれだけ揃っているんですもの、むしろ戦力過多なくらいですわ。
それよりあなた方は、いざというときの脱出の足になって貰わないといけません。
すぐに離脱できるよう待機しておいて下さいな」
「・・・は、はいでっさ!」
「わかりましたでまんねん!」
リアスの励ましにパッと顔を明るくする男二人。
ムーナを含めて魔導ポッドに連れて行かれる三人の後ろ姿を見ながら、カスミが主人にささやく。
「お見事でございました」
妹のような侍女の称賛にリアスが微笑む。
「人の上に立つものとしては当然ですわ。本来ならムーナさんのお仕事ですけど、この状況なら差し出口を挟んでも許されるでしょう」
「はい、お嬢様」
微笑みながらカスミが忍者刀を抜き、リアスは改めて剣と盾を構えた。
「来るぞ!」
モニカが叫ぶと共にその体を構成する半エネルギー体の輝度が一際高くなる。
それが戦いの合図になった。
「何だっ!?」
「いかん! 引けっ!」
サーベルを肩に担ぎ、騎馬突撃しようとしていたカイヤンが馬首を翻して叫ぶ。
同じく突撃しようとしていたゴードも、訳がわからないながら転進する。
『HYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!』
奇妙な叫び、あるいは風切り音と共に巨魔の全身から煙のようなものが吹き出した。
「! 胞子だっ! 触れるな、危険だ!」
モニカが叫ぶとその全身からエネルギーの矢がほとばしった。
幅広の光線は胞子の雲を切り裂き、触れた範囲の胞子をたやすく焼き尽くす。
その横ではマデレイラが魔導ポッド「ドルフィン」の先端から雷撃を放って同様に胞子を焼いているが、空気中に広がる胞子の雲を相手に、効率的に焼却できているとは言いがたい。
現在この場にいるのはリアス、カスミ、ゴード、カイヤンとシルシープ、マデレイラ、モニカ。
シロウ、サフィア、モリィはムーナ達を魔導ポッドに連れて行っている最中で、戻ってくるのに少しかかる。シロウはムーナの解毒もしているので更に遅れるだろう。
ヒョウエがいないこの状況で、胞子を焼けるモリィとシロウが更に欠けているのは痛い。
「ちっ、あの小僧がいればな。強力な炎の術の使い手だと言うのに。あいつらも頑張ってはいるがこうも胞子が広がっては・・・」
「!」
カイヤンの漏らした言葉に、ゴードが笑みを浮かべた。
「どうした、何か思いついたか友ゴード」
「おうとも。マデレイラのお嬢ちゃん! モニカの姐さん! 力を溜めといてくれ!」
叫ぶなり、ゴードの姿が消えた。
「?!」
「マデレイラ、ぼうっとするな! 何をするかは判らないが、あいつの言った通りに力を溜めるんだ!」
「わ、わかった!」
黒等級の実戦経験のたまものと言うべきか、モニカが即座に判断を下してマデレイラを叱咤する。
わけがわからないながらも、マデレイラがそれに従って電撃砲のエネルギーをチャージし始めた。
「・・・!?」
それなりに焼かれたとは言え、"ファンガス"を中心に胞子の雲は広がり続ける。
直線状のビームや雷撃砲では、広範囲の胞子を一気に焼くわけにはいかない。
「けど、そいつを一箇所に集めたらどうだ?」
『!』
ファンガスの後ろからかかる声。
慌てて振り向くも、そこにはもう誰もいない。
その足元を影がよぎった。一瞬の間を置いてもう一度、更に一度。更に更に更に・・・
『こ、これは!?』
影の正体は周囲を駆け回るゴードだった。
彼の加護は《加速の加護》。自分と自分の触れているものの時を加速させる加護だ。
普段は自分と自分が身につけているものだけを加速しているが、その気になれば周囲のものを加速させることも不可能ではない。
今、自分の周囲の空気の流れを加速しているようにだ。
巨魔の周囲を円を描いて駆け巡るゴード。
二つ名の通りその走りは音速を超え、周囲の空気もまた音速で渦を巻く。
「?!?!」
人一人が巻き起こした極小の竜巻に胞子が巻き上げられる。
「今だ! 嬢ちゃん、姐さん、撃て!」
「! おお!」
「は、はいっ!」
先ほどまでのそれとは比較にならない極太のビームの帯と放射状の雷撃が、巻き上げられて球状に固まった胞子の半分以上を焼き尽くした。
『ちいっ』
ファンガスが右手を上げる。その手からは念動の魔力。
空中に散りかけた残りの胞子を念動力でわしづかみにし、塩をまくように投げつけようとする。
その瞬間、先ほどの二人の攻撃を更に超える太さの雷光が走った。
『GYYYYYYYYYYYYYYY!』
その余波に右手をも焼かれ、巨魔が悲鳴を上げる。
憎々しげに睨むのは、彼方からこちらに向かって飛んでくる三つの影。
「へっ、どうよ」
「お見事」
「戦いは二手三手先を読んでやるもんだ、そうだろ?」
モリィがここぞとばかりに見事なドヤ顔を披露する。
単に戻ったらすぐにチャージ攻撃をぶちかまそうと準備しただけなのだが、そのことはおくびにも出さない。
サフィアとシロウが顔を見合わせて苦笑した。