毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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08-31 それは愛ゆえに

 大日輪無量光。

 太陽の力を借りて破邪の光を放つ、九曜の精霊魔法最大の奥義の一つ。

 光という属性を利用しカスミの術力を上乗せして放たれたそれはまさしく太陽の輝きの如く、菌糸の悪魔(ファンガス)を焼いた。

 全身を焼きただれさせて"ファンガス"の巨体がぐらりと揺れ、地響きと共に大地に倒れ込んだ。

 

「やったっ!」

「おい、大丈夫か!? あいつの中にヒョウエがいるんだぞ!」

「わからぬ。だが手加減して勝てる相手ではとても・・・む?」

「わからぬっておまえ・・・なぬ?」

 

 倒れた巨魔の体がぐずりと崩れた。

 そのまま溶け崩れるように広がり、人の形を失って楕円形の染みが盆地に広がる。

 

「・・・ちょっと、どういうことですの? ヒョウエ様はどこに!?」

 

 水たまりのように薄く広がった"ファンガス"の体は蒸発して消えていく。その染みのどこにもヒョウエの体はなかった。

 

「モリィさん、あなたの目で探せませんの?」

「無茶言うなよ。あたしの目だって透視はできねぇぞ」

「私はできるぞ」

 

 シロウの発言に周囲が一斉に目を剥く。

 

「マジか」

「さすが金剛眼の継承者・・・なんともはや」

「ただ、さすがに今は消耗が激しい。少し休ませてくれ」

 

 そう言うシロウの顔には汗がにじみ、肩で呼吸をしている。

 彼の術に全力で力を注ぎ込んだカスミ、《加護》を使いすぎたゴードやモニカも同様だ。

 マデレイラの人型魔導ポッドもエネルギーが残り少ないのか、片膝立ちで動きを止めていた。

 

「ボクはムーナさんたちの方を見てくる。ポッドをひっくり返す必要があるかもしれないから、リアスくんもついてきてくれないか」

「・・・わかりました」

 

 巨魔の死体が作った染みをちらりと見はしたものの、ここにいても何も出来ないと理解したのか、リアスは素直にサフィアに従った。

 幸いポッドに大きな損傷はなく、中の三人も打ち身こそあったが大した負傷はない。毒で昏倒していたムーナもショックで目を覚ましていた。

 

「ふー・・・はー・・・」

 

 大型魔導ポッドに乗って五人が戻ると、盆地の中央でシロウが呼吸を整えていた。

 今から術を使うところらしい。

 他の面々もその周囲に集まっている。

 

「・・・」

 

 シロウが目を閉じて両手を合わせる。

 周囲に沈黙が広がり・・・と思った瞬間警告の叫びが響いた。

 

「逃げろ!」

 

 言うのと、騎乗したままだったカイヤンが馬首を巡らすのが同時。

 他の面々も素早く反応するが、文字通り一歩遅かった。

 円形の盆地に走る無数の光の筋。見るものが見れば、魔法陣と呼ぶであろうそれ。

 

 跳躍した"天翔る銀の船(シルシープ)"がひと飛びで盆地の縁を跳びこえるのと、魔法陣に覆い尽くされた盆地の内部全てから菌糸が吹き出すのが同時。

 地上を走っていたゴード達のみならず、飛んで逃げようとした面々も菌糸に捕まって身動きが取れなくなる。

 

「くっ!?」

「畜生!?」

『ぎは。ぎはははははははは!』

 

 響く高笑いはイナ・イーナの声。

 100m近い盆地を覆った菌糸はそのままモリィ達を取り込んで成長し、カイヤンが見上げる前で巨大な円形のドームになる。

 ドームの頂点によじれる菌糸が伸び上がり、形成するのは巨魔(ファンガス)の上半身。

 

『愚か者め。ここを選んだ時点で仕掛けをしておらぬわけがなかろうが。我が風下に立ったがウヌらの不覚よ!』

 

 恐らくは、ヒョウエと全面的に戦う事を想定していたのだろう。悪魔としての自分の力を増幅するための魔法陣、そこに蓄えたエネルギー。

 ヒョウエ抜きの面々が相手なら使うこともあるまいと温存して置いたそれを使うことになったのは誤算だが、発動させたからにはどのみち負けるわけがない。

 それだけの自信が巨魔(ファンガス)にはあった。

 ぬらり、とその目がカイヤンとシルシープを見下ろす。

 

『さあどうする? お前は逃げてもいいぞ。最早用済みだからなあ』

「・・・」

「ブルルッ」

『ぎは。ぎはははははははは!』

 

 けたたましく笑う巨魔を、険しい表情で見上げるカイヤン。

 怒りの眼差しで見上げる"天翔る銀の船(シルシープ)"。

 

「・・・?」

「フゴッ?」

『・・・なんだ? なんだ?』

 

 唐突に、一人と一匹と一体の表情が変わった。

 戸惑ったように周囲を見渡すカイヤンに、鼻を鳴らす"天翔る銀の船(シルシープ)"。

 不愉快そうに辺りを睨む"ファンガス"。

 

 荒野に鳴り響こうはずもないその音色。

 一流のオーケストラがかきならすが如きその響き。

 

 ファンファーレが鳴った。

 少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。

 

 奏でるものなどいなくとも。

 そこがたとえ荒野のただ中であっても。

 ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。

 

 

 

『HUVOA!!!?』

 

 吐息とも悲鳴とも、破裂音ともつかない音を巨魔(ファンガス)が発する。

 同時にその腹――巨大な菌糸のドームが破裂し、無数の菌糸の切れ端が荒野に飛び散る。

 その中から光る球体に包まれて出てきたのはモリィ、リアス、カスミ、サフィア。

 ゴード、マデレイラ、モニカ、シロウ。ムーナ達の乗った魔導ポッド。

 そしてヒョウエ。

 ご丁寧にカル・リス社のエージェントまで助け出している。

 ヒョウエを含めて何人かは気を失っていたが、見える限りで怪我をしているものはいない。

 

 盆地の縁、ゴード達の矢や後方にそれらが降りて光の玉が消える。

 だが降りてきた面々を含めて、そちらを見ているものは誰もいない。

 全ての視線はその上空、大空の花道に仁王立ちする人物に集中している。

 

 海よりも深い青。

 炎よりも燃える赫。

 

「・・・青い鎧っ!」

 

 顔面を歓喜と恋情に輝かせてサフィアが叫ぶ。

 盤面に打たれた逆転の布石。ヒーローは今ここに降臨した。

 

 

 

「青い鎧・・・!」

「青い鎧、あれが・・・?」

 

 同じディテクの冒険者とは言えメットー以外での活躍が多いゴードと、先日のレスタラ事変での活躍を聞いたモニカが呆然と呟く。

 だがその名を知らなくとも、いずれ劣らぬ高位の冒険者なり術師である彼らにはわかる。

 あれは、とんでもない。

 

『ふっ・・・フザケルナアッ!』

 

 ドームの胴体を半分以上吹き飛ばされ、ちぎれかけていた構造物が高速で癒着していく。

 最早人間らしさを装うつもりもないのか、人のそれから大きく外れた発声で巨魔が怒りを表現する。

 

『コノ期に・・・コノ期に及ンデ何故キサマガ出テクルッ!』

「呼ぶ声があったからだ」

『・・・ナニ?』

「たとえ刻を越えようとも、呼ぶ声があるならばやってこよう。それがしは『ヒーロー』であるのだから」

 

 ちらり、と下を見る。

 地面に横たわった「ヒョウエ」の横についていたモリィが小さく頷いた。

 無視されたことに気付いた巨魔の、更なる怒りの咆哮。

 

『コチラヲ見ロッ! コンナトコロニ来テマデ私ノ邪魔ヲ! ナゼダッ!』

「・・・」

 

 その瞬間、閃光が走った。

 鋭角的に乱反射する青いレーザービーム。

 無数の青い光線に貫かれ、先ほど以上に大量の菌糸の破片が宙に飛び散る。

 待機していたモリィ達が、気を失った者達を連れて慌てて後退した。

 盆地に盛上がったドームはほとんど形を失い、円形の菌糸の地面だけが広がっている。

 それを見下ろして、青い鎧がいつの間にか静かに空中に浮かんでいた。

 

「何故と聞いたな。だが誰かを助けるのに理由など必要ない。

 あえて言うなれば・・・愛ゆえにだ」

 

 静かな声が荒野に響いた。

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