毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

274 / 374
08-32 正義の心

 青い鎧に引きちぎられ、荒野に散らばった茸悪魔の菌糸が溶けて蒸発していく。

 

「青い鎧殿!」

「わかっている」

 

 シロウの声に頷くと、青い鎧は盆地――今は菌糸で埋め尽くされている――のほうに向き直る。

 それを待っていたかのように、削り取られた菌糸のドームが再生を始める。

 先ほどよりも更に早く菌糸のドームが形作られ、上半身もまた再生する。

 

『けひひひひ、わしは不死身よ。最後に勝つのはわしじゃ!』

 

 青い鎧が苛立たしげに舌打ちした。

 

「地脈からの魔力を得ている――が、それだけではないか。それに結局のところ悪魔の本体は霊体だ。かりそめの体を破壊しても限界がある。

 シロウ殿、策はないか?」

「なくはない――が、今の状況だときゃつの魔力が圧倒的すぎて通用するかどうか以前に魔力差で弾かれるな」

「何としても奴をあそこから引きはがさねば、というところ――む!」

 

 ぐぐっ、と巨魔(ファンガス)が全身に力を込める。

 

「全員、地面に張り付いていろ! 障壁を張るんだ!」

『げひひひひひひひ!』

 

 青い鎧が叫ぶのと、力を解放するように両手を広げた巨魔の全身から、先ほどとは比べものにならないほどの大量の胞子が吹き出した。

 周囲をあっという間に覆い尽くしたそれは、地面に降りて固まったモリィ達をも一瞬で飲み込む。

 

「わぷっ・・・あれ?」

 

 顔を覆ったゴードが困惑の声を出す。

 その周囲には光り輝く障壁。

 それが彼を周囲の胞子から守っていた。

 良く見れば魔導ポッドに乗っているマデレイラと三人組を除き、全員がそれに守られている。カル・リスのエージェントはひとまとめにして大きな結界。

 シロウが両手で印を組み、強い魔力を発していた。

 

「日輪の守りだ。しばらくはもつ」

「モリィくん、リアスくん、カスミくん、『銀の翼』の障壁を強化するんだ。そうすれば自前で胞子から防御できるはずだ」

「助かる、サフィア殿」

 

 モリィ達が障壁を強化したのを確認し、彼女たちの分の術を解除する。減った負担に息をついたのもつかの間、空中を見上げたその目が大きく見開かれた。

 

 

 

「むん」

 

 くるり。

 くるりくるり。

 くるりくるりくるりくるりくるりくるり――!

 

 全員が地上に降り、障壁を張ったのを確認して、青い鎧が高速回転する。

 最初の二、三回ほどを回った所でそれは肉眼で確認できない速度になり、あっという間に巨大な気流の流れを作り出す。

 

 竜巻。

 周囲数キロを覆い尽くした胞子をひとつ残らず吸い上げる巨大な気圧変化。

 上空に筒状に固まったそれを。

 

火の星よ(Angaraka)!」

 

 右拳を天に突き上げ、全身に炎を纏って竜の如く空を駆けのぼる。

 炎の昇り龍と化した青い鎧が、竜巻に囚われた胞子を残らず焼き尽くした。

 

『ぐくっ、おのれ!』

 

 叫ぶなり、巨魔が巨大なドームを含めた全身から無数の触手の槍を射出する。

 

「ふんっ!」

 

 青い鎧が右手を一振りすると、それらはことごとく焼き尽くされて灰になる。

 だがしかし、巨魔の口元はニヤリと歪む。

 

「!」

 

 カカカカカッ、と青い鎧の装甲に突き立ったのは黒い針のような細い短剣。

 つい先ほど、ムーナとヒョウエを貫いた解呪の術の籠もった針。

 いかに強力な魔力であれど、実体化した具現化術式であろうと、術式である以上ただでは済まない。

 だが。

 

『なっ!?』

 

 青い装甲に突き立ったと見えた解呪の針短剣が一斉に砕け散った。

 驚愕する巨魔だが、青い鎧が何かしたわけではない。

 シロウも言った圧倒的な魔力の差。それが術式同士の相性を吹き飛ばしたのだ。

 

『・・・!』

 

 一瞬の驚愕。だがそれだけで十分だった。

 巨魔が我に返ったときには、既に青い鎧の右の手刀がくるりと円を描いている。

 ふっ、と周囲が薄暗くなる。

 

「"太陽神の眼(マドゥロク'ス・ゲイズ)"!」

『GYAHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

 

 巨大な念動レンズによる、太陽光の集束。

 焦点温度6000度、毎秒二億キロジュールの莫大な熱は、一瞬にして巨魔を盆地ごと焼き尽くすのに十分だった。

 単純な熱で術式を破壊する事はできないが盆地は今や溶岩のるつぼと化しており、用意されていた魔法陣も恐らくは完全に破壊されただろう。

 

「・・・」

 

 しかし青い鎧は戦闘態勢を解かない。

 その体が青い閃光と化して消えた。

 

(ぐわぁ!)

 

 魔力の小爆発が起こり、精神的な悲鳴が上がる。

 悲鳴として聞き取れたのは青い鎧とシロウだけだが、いずれ劣らぬ術師や高位冒険者たちも、精神的な衝撃としてそれを感じ取っていた。

 

「なんだ!?」

「消えたんじゃないのか?」

「さっき言った通り、悪魔の本体は霊体だ。実体は完全に破壊し、魔法陣との繋がりも断ったが霊体そのものを滅ぼさないことには奴にとどめを刺すことはできん。

 あの鎧にも対霊体術が仕込まれているようだが、彼の魔力に対して術式の規模が小さすぎる。あの規模の霊体を滅ぼすのは難しい」

 

 解説するシロウに視線が集中する。

 

「じゃあまたあんたの術で?」

「今の私では融合(ユナイト)したとしても十分な力は生み出せない・・・だが、切り札はもう一人いる」

「・・・?」

「!」

 

 その言葉を聞いた瞬間にそれが誰だか気付いたのはモニカと、ヒョウエからの伝言を中継したモリィだけだった。

 

 

 

(ひ、ひひひひひ! ひやりとしたわい! だがその程度の対霊体術式でわしを滅ぼそうなど、貧弱! 貧弱!

 巨人並みの筋力があろうとも、武器が爪楊枝の如きではわしは倒せぬわ!)

 

 霊体となった"ファンガス"と青い鎧が空中で対峙している。

 青い鎧の騎士甲冑はヒョウエの呪鍛鋼(スペルスティール)の杖が形を変えたもの。

 そして遺跡妖精(スプリガン)を倒した対霊体術式が杖には刻まれている。

 それは当然青い鎧になったときも使用可能だが、しかしシロウやファンガスの言う通りその術式では青い鎧の魔力を全て乗せることはできない。

 

「そうだな。この拳では貴様を倒すには僅かに足りぬ」

(そう言う事じゃ。ここまで追い詰めておいて悔しかろう、口惜しかろう?

 だがわしもこの場では貴様を倒せぬ。勝負はいずれまたじゃ。力を蓄え直し、今度こそ・・・)

「いいや。お前はここで滅ぶのだ」

 

 青い鎧がきっぱりと否定する。

 

「・・・? ・・・!」

 

 ファンガスが発した怪訝の気配が、次の瞬間驚愕のそれに変わる。

 青い鎧の後方に浮上したのはビシク家の秘宝、魔導ポッド「ドルフィン」。

 キャノピーを開けてすっくと立つのはパイロットスーツを着込んだマデレイラ。

 きらめく太陽の光を受け、その仮面が赤く燃えている。

 

(し、しま・・・! その手があったか!)

 

 今までの余裕は影も形もなく、身を翻して逃げる霊体のファンガス。

 だが遅い。

 既にマデレイラの右手は真っ直ぐ伸びて霊体を狙い、青い鎧は瞬間移動したかのようにその背後から両手でその右手を包んでいる。

 

「心の星よ」

「愛の炎よ」

「「その身のうちに甦れ――コンシェンシャス・ウェーブ!」」

 

 村で発したときは比べものにならない巨大でまばゆい緑の光線。

 それは上空目がけて必死に飛ぶ"ファンガス"を正確に貫く。

 

(ぐ・・・ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!)

 

 素養を持たないものでもはっきりと聞こえるほどの、精神波の絶叫。

 悪意の塊である悪魔に、青い鎧の桁外れの魔力で撃ち込まれた良心生成術式。

 それは悪意が強ければ強いほど、犯した罪が重ければ重いほどに強く反応する。

 

 魔の塊に産まれた良心とおよそ人間が持ち得ないほどの悪意とが反応した、想像を絶する精神的苦痛。

 この世の外から来た強大な精神生命体と言えども、いや、強大であればあるほど耐えきれるものではなかった。

 

 精神波の絶叫が不意に途切れる。

 悪魔が消滅したことの証だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。